減給の懲戒処分の上限
一人の社員について、一賃金支払期に複数の懲戒事案が発生し、減給の制裁の合計金額が賃金総額の10分の1を超えてしまいました。具体的には1か月の賃金総額が30万円のところ、減給の制裁の合計額が10万円となってしまいました。この場合減給の制裁を4回に分け、3か月目までは毎月3万円の減給、4か月目には1万円の減給というふうに、分割での減給処分はできるのでしょうか?もし、できないとしたら、どのような対応が可能でしょうか?
投稿日:2025/10/08 12:57 ID:QA-0159321
- ミカちゃんさん
- 長野県/コンサルタント・シンクタンク(企業規模 1~5人)
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プロフェッショナルからの回答
回答いたします
ご質問について、回答いたします。
複数の懲戒事案の発生・対応状況によって、判断が異なります。
非常に繊細なケースですので、正確なご対応を求められる場合は、
顧問社労士、弁護士へのご相談をお勧めいたします。
一度に複数の減給処分を決定し、その執行を翌月・翌々月に分けて実施すること
は、形式的に上限を逃れる行為(実質的な分割減給)とみなされるため、法令に
抵触するリスクが高いものと言えます。
一方、各懲戒事案が発生時期も異なり、調査・弁明・懲戒決定の時期もそれぞれが
独立し、かつ、処分決定日も異なるのであれば、別々の懲戒処分事案として、異な
る賃金支払期に行うことが可能と言えます。
この場合、各処分がそれぞれの「賃金支払期」における減給として適用されるた
め、各期ごとの減給総額が賃金の10分の1を超えないようにすればOKです。
投稿日:2025/10/08 14:09 ID:QA-0159329
相談者より
早速のご返答ありがとうございます。大変参考になりました。
投稿日:2025/10/09 07:12 ID:QA-0159345大変参考になった
プロフェッショナルからの回答
以上です。よろしくお願いいたします
ご質問いただきまして、ありがとうございます。
次の通り、ご回答申し上げます。
1.減給制裁の法的上限(労働基準法第91条)
労働基準法第91条は、減給の制裁について以下の二重の上限を定めています。
第91条(制裁の制限)
使用者が労働者に対して制裁として減給を行う場合においては、
その減給の額は一回の額が平均賃金の一日分の半額を超えてはならず、
かつ、一賃金支払期における減給の総額がその賃金総額の10分の1を超えてはならない。
つまり、
「1回あたり」→ 平均賃金の1日分の半額まで
「1賃金支払期の合計」→ 賃金総額の10分の1まで
が、それぞれの限度です。
2.10分の1を超える減給は「分割」しても不可
減給制裁の目的は「懲戒処分」であり、懲戒処分は処分時に確定した行為に対して行うものです。
したがって、1回の懲戒処分(または一連の懲戒事案)を複数月に分割して減給を実行することは、法的には『1つの制裁を分割して執行している』ことになり、労基法第91条の制限を潜脱するものとして違法とされるおそれが極めて高いです。
×「減給処分を3万円×3か月+1万円に分割」
→ 実質的に「1回の懲戒制裁が10万円」=30万円の10分の1(3万円)を超えるため、第91条違反にあたります。
行政解釈や判例上も、「分割して支払期をまたいで実行することにより上限を超過させること」は認められていません。
3.実務上の対応策(合法的に行う方法)
(1)懲戒処分を複数回に分ける場合
複数の「独立した」懲戒事案であれば、事案ごとに処分日を変えることで、各支払期に10分の1までの減給が可能です。
ただし、そのためには次の要件を満たす必要があります。
各事案が独立した非行行為であること(例:別の日、別の内容)
懲戒委員会・就業規則上の手続をそれぞれ別個に経ていること
各処分について、懲戒処分書・通知書を個別に発行していること
→ こうした体裁を整えることで、「1回の制裁を分割したもの」ではなく、「複数回の独立した制裁」として認められる余地があります。
(2)減給以外の懲戒を組み合わせる
10分の1を超える懲戒が必要なほどの重大事案の場合は、
けん責+減給(10分の1以内)
出勤停止+減給
降格処分+減給
といった懲戒種別の併用で対応することが考えられます。
就業規則上に明記されていれば、社会的にも妥当性を欠かず、実務上よく用いられる対応です。
(3)自主的弁済(会社への損害賠償等)との区別
減給処分ではなく、従業員が自ら損害賠償を同意して弁済する場合には、労基法91条の制限は及びません。
ただし、任意の同意が前提であり、同意書を残すなど慎重な手続が必要です(強制や圧力があれば違法)。
4.実務対応まとめ
対応案→可否→留意点
10万円の減給を4回に分けて実施→×実質的に1回の制裁の分割執行=違法
4つの独立事案として各月に懲戒処分(各3万円、3万円、3万円、1万円)→〇(条件付き)→各事案の独立性と別個の処分手続が必要
減給10分の1以内+けん責や出勤停止の併用→〇総合的な懲戒として社会的相当性を確保
本人同意による損害賠償の弁済→〇(慎重に)→同意書を必ず取得すること
5.参考文献・法令出典
労働基準法 第91条(制裁の制限)
厚生労働省「労働基準法のあらまし」第91条解説
東京地裁昭和59年2月16日判決(中越運送事件)
→ 減給処分を分割して執行することは第91条の趣旨に反すると判示
行政解釈(昭和23年4月17日基発669号)
→ 「減給の総額は、一賃金支払期ごとにその10分の1を超えてはならない」
以上です。よろしくお願いいたします。
投稿日:2025/10/08 14:14 ID:QA-0159330
相談者より
早速のご返答ありがとうございます。大変参考になりました。
投稿日:2025/10/09 07:12 ID:QA-0159346大変参考になった
プロフェッショナルからの回答
ご質問の件
ご認識のとおりの分割で問題ありません。
投稿日:2025/10/08 16:47 ID:QA-0159341
相談者より
早速のご返答ありがとうございます。大変参考になりました。
投稿日:2025/10/09 07:13 ID:QA-0159347大変参考になった
プロフェッショナルからの回答
対応
減給を分割することは可能です。
ただ金額など非常に微妙な判断が必要ですので、掲示板ではなく、直接弁護士などに詳細な状況の開示とともにご相談をお勧めします。
投稿日:2025/10/08 16:54 ID:QA-0159342
相談者より
早速のご返答ありがとうございます。大変参考になりました。
投稿日:2025/10/09 07:13 ID:QA-0159348大変参考になった
プロフェッショナルからの回答
法律の解釈
以下、回答いたします。
(1)制裁規定の制限については、労働基準法で次のように定められています。
(制裁規定の制限)
第九十一条 就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。
(2)そして、上記の「総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。」については、次のように解されています。
「一賃金支払期に発生した数事案に対する減給の総額が、当該賃金支払期における賃金の総額の十分の一以内でなければならないという意味である。もし、これを超えて減給の制裁を行う必要が生じた場合には、その部分の減給は、次期の賃金支払期に延ばさなければならないものと考えられる。」(令和3年版 労働基準法 下)(厚生労働省労働基準局編)
(3)ここでは、「一賃金支払期に発生した数事案に対する減給の総額」に関し、「次期の賃金支払期に延ばすこと」については法の射程に入っていると認識されます。但し、「次々期以降」については言及がありません。
大変恐縮ですが、管轄の労働基準監督署に照会していただくことが有益であると考えられます。
投稿日:2025/10/09 07:14 ID:QA-0159349
相談者より
早速のご返答ありがとうございます。大変参考になりました。
投稿日:2025/10/10 13:38 ID:QA-0159383大変参考になった
プロフェッショナルからの回答
お答えいたします
ご利用頂き有難うございます。
ご相談の件ですが、法令で禁止されているのは、ご存知の通り一賃金支払期に合計金額が賃金総額の10分の1を超える措置になります。
従いまして、上記に反しない限り、他の賃金支払期間に分けて減給を行う事は可能とされます。
投稿日:2025/10/10 12:38 ID:QA-0159378
相談者より
早速のご返答ありがとうございます。
大変参考になりました。
投稿日:2025/10/12 05:36 ID:QA-0159397大変参考になった
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