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【ヨミ】アンゼンエイセイ 安全衛生

職場における安全衛生管理は、企業における重要な責務です。安全衛生管理体制を確立し、快適な職場作りを推進していかなければなりません。法的な側面から、企業に求められる安全衛生への対応について解説します。

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1.安全衛生とは

安全衛生の目的

企業を経営していく上で、人は非常に重要な資産です。そのため企業は、職場で働く従業員の安全や健康の維持に努めていかなければなりません。安全に働くことができる職場環境を整備することは、従業員の定着率やモチベーションの向上につながり、生産性や業績の向上に結び付くことにもなります。

法的対応の面では、「労働安全衛生法」の定めにおいて、労働者の安全・健康を確保することが事業者の重要な責務とされています。企業にとって、労働安全衛生法で定められている事項を遵守し、安全で健康に働くことのできる職場環境を整備することは不可欠です。

安全衛生の考え方

安全衛生のための設備投資や教育訓練を非生産的なものと捉える経営者もいますが、それは大きな間違いです。労働災害が多発すると、従業員はいつどこで事故や災害が再発するのか分からないという不安感に捉われ、仕事に対する姿勢が前向きでなくなります。しかし、安全衛生管理体制が整備され、安全性・快適性が確保されれば、従業員は不安に捉われずに仕事に積極的に取り組むことができます。

甚大な労働災害が発生すると、長期間にわたって生産活動が停止し、売上に大きな影響を及ぼすことになります。その結果、会社のイメージが低下する可能性もあるでしょう。中長期的に見ると、安全衛生にコストや労力をかけることは、職場のモラール維持、生産性や売上の向上に資することを忘れてはいけません。

また従業員は、通常の状態で仕事をしていれば、生命や健康が脅かされることはないと考えています。生命の危機や傷病のリスクがあると分かっていながら、就職先や仕事を選ぶ人はいません。災害のない安全な職場環境を作り上げていくには、まず経営者が従業員の安全確保が自らの責務であることを強く認識する必要があります。その責任を果たすためには、労働安全衛生法で定める安全衛生管理体制をしっかりと確立することが重要です。そうすることで、安全衛生に対する基準を遵守し、作業環境の快適化を推進していくことが可能になります。

近年の安全衛生の動向

労働災害は、長期的には減少傾向にありますが、現在でも年間で10万人を超える「休業4日以上の死傷者」が発生し、死亡者も1000人前後で推移しています(労働災害発生状況:厚生労働省)。厳しい経営環境の下、売上や収益に結び付く業務を優先した結果、企業の安全衛生管理への意識が相対的に低下したことが理由として挙げられます。

作業手順が明確に定められていない、定められていても十分な安全衛生教育が行われていない、あるいは教育を行っていても教えた内容が従業員に十分に伝わっていない、という状況にある企業は多いのではないでしょうか。現場では「これくらいは大丈夫だろう」「自分が事故を起こすはずがない」などと、慣れや過信から取るべき行動を逸脱する作業が行われています。その結果、労働災害が多発しているのです。

また近年では、「過労死」「メンタルヘルス不全」が増加傾向にあり、それらへの対応が安全衛生管理上、大きな問題となっています。

2.安全衛生への対策

安全衛生

代表的な労働法の一つである「労働安全衛生法」では、安全衛生管理者(完全管理者、衛生管理者、統括安全衛生管理者、産業医)の選任など、安全衛生管理体制を確立し、責任体制を明確にすることを企業に義務付けています。なお、各管理者の選定資格や職務内容、選任人数などは事業場の業種、規模などに応じて異なります。

そして、労使一体となって労働災害を防止することを目的として、一定の基準に該当する事業場では、委員会(安全委員会、衛生委員会、または安全衛生委員会)の設置が義務付けられています。この委員会は労使が協力して安全衛生問題に対処するという性格を持つものですから、委員会の構成メンバーは労使半数ずつとされています。

その他、規定されている代表的な活動として、以下のようなものがあります。

  • 安全衛生教育
    雇入れ時の教育、作業内容を変更する時の教育、危険有害業務へ就かせるときの特別教育、職長などへの教育 など
  • 就業制限
  • 健康診断(一般健康診断、特殊健康診断、歯科医師による健康診断など)
  • 作業環境測定
  • 健康の保持増進のための措置(努力規定)
  • 快適な職場環境の形成のための措置(努力規定)
  • 事故報告・労働者死傷病報告

職場の安全衛生に関する制度・施策は、単に体制を整備することだけにとどまりません。運用を通して労働者の安全と健康を確保するとともに、より快適な職場環境づくりを推進するという、労働安全衛生法の制定目的の実現が、何よりも求められています。各業界の労働安全団体では、働く人の安全と健康の確保を目指し、労働災害のない安全で快適な職場作りを呼びかけるために「安全衛生標語」を毎年募集し、公表しています。

労働災害

【労災時の補償】

「労働災害」とは、業務上の事由、または通勤途中の負傷、疾病、傷害、死亡災害のことをいい、下記の二つに大別されます。両者とも、「労災保険(労働災害保険)」(正式には、労働者災害補償保険)が適用されます。

  • 業務災害:労働者の業務上の負傷、疾病、傷害、死亡
  • 通勤災害:労働者の通勤途上の負傷、疾病、傷害、死亡

通勤災害は、直接には使用者に補償責任はありませんが、勤務との関連性が強いとの判断の下、法改正により、労災保険の適用が認められました。ここでは、業務災害を中心に説明します。

業務災害の「判断基準」は、被災当時に労働者が使用者の支配下にあったかどうか(業務遂行性)と、その傷病が業務との間に因果関係にあるかどうか(業務起因性)の2点です。業務遂行性は、仕事中の傷病であれば認められ、外回りの時間や出張時間なども含まれます。一方、業務起因性は、負傷や疾病が業務に起因して生じたものであることをいいます。例えば、労働者が疾病を発症する前に長時間の残業をしていた場合や、日勤と夜勤の交代制といった不規則な勤務形態であった場合などは、業務との一定の関連性があると推測されます。また、休憩中のケガがよく問題となりますが、休憩期間中は労働から解放されているために業務起因性が否定され、基本的には労災の対象外となります。ただし、そのケガの原因が事業場の設備にある場合には、労災の対象となります。

業務災害であるかどうかの判断では、原則として労働者の「過失」は問題とされません。ただし、労働者が飲酒運転をしていたなど明らかに法律に違反し、その程度が重い場合は、保険給付の全部、または一部の給付が受けられないことがあります。さらに、故意による被災も労災の給付対象外となりますが、遺族給付や葬祭料については満額が支給されます。

【労災指定病院であれば治療費は無料】

労災保険の給付には、労災指定病院において無料で治療を受けられる「療養の給付」と、労災の指定外病院で治療を受けて一旦治療費を支払い、後から支給を受ける「療養の費用の支給」があります。この場合、労災保険を適用できる病院のことを労災指定病院と呼び、現在では多くの病院が指定を受けています。労災指定病院では、受診者が直接治療費を労働基準監督署へ請求するので、被災者は治療費を負担することなく、無料で治療を受けられます。しかし、労災保険の指定を受けていない病院もあります。労災保険が適用される業務災害の治療には健康保険が適用されないので、治療費を全額支払うことになります。この場合、いったん治療費の全額を支払い、後日、労働基準監督署へ負担した治療費の請求する手続きを行います。

【労働基準監督署への報告義務】

労働災害が起こった場合、会社には労働基準監督署に報告する義務があります。これを「私傷病報告」といいます。その際、休業4日以上と3日以下では届け出る用紙が異なります。提出期限は、休業4日以上の場合は事故後速やかに、休業3日以内の場合は4半期(1~3月、4~6月、7~9月、10~12月)ごとに、それぞれの期間の翌月末日までに労働基準監督署に提出します。なお、通勤災害の場合には、「私傷病報告」の届け出の必要はありません。

メンタルヘルス(心の問題への対応)

【メンタルヘルスと過重労働】

メンタルヘルス」とは心の健康のことであり、特別な精神疾患を患う人の問題だけに限定されるものではありません。心の病気にかかっていなければ健康である、とは言い切れないからです。特に、組織で働く労働者の場合がそうです。心が健康であるということは、前向きな気持ちを安定的に保ち、意欲的な姿勢で環境(職場)に適応することができ、いきいきとした生活を送れる状態のことです。しかし近年は、職場の複雑な人間関係や長時間労働などによる心身のストレスで、メンタルヘルスに不調をきたす人が増えています。そのため、企業はストレスを最小にできるよう、従業員が抱える問題に焦点を当て、解決支援に取り組むことが求められています。

メンタルヘルス不調者が出ると、業務に支障が出るだけではありません。長時間労働などが原因で、従業員が精神疾患に罹患した場合、会社の過失が認められると損害賠償責任を問われることになります。リスク管理の点からも、非常に大きな問題と言えます。長時間労働などによる過重労働がメンタルヘルス不調の発症原因(促進要因)となっていることは、以前から指摘されてきた事実です。労災の新しい認定基準において、長時間労働を心理的負荷と捉え、うつ病発症の原因と考えるようにもなったため、注意が必要です。例えば、発症直前の1ヵ月間に160時間を超えるような時間外労働があった場合などには、労災と認定されると考えられます。

【企業で行われているメンタルヘルス対策】

メンタルヘルスを個人的な問題として放置しておくと、仕事の能率の低下、ミスやトラブル、職場の人間関係への悪影響、職場規律の低下など、さまざまな障害につながる可能性があります。そのため、メンタルヘルス対策に取り組む企業も増えていますが、実際に企業で行われているメンタルヘルス対策には、以下のような事例があります。

  • カウンセリング
    社内にカウンセリングルームを設置するなどして、専門のカウンセラーが従業員の心の悩みや病の相談に応じます。
  • 問診の充実
    労働安全衛生法に基づいて実施される定期健康診断の際、問診の内容を充実させます。
  • 専門医の紹介
    従業員の心の悩みや相談に応じるために、外部の専門家を紹介します。
  • 集合研修
    マネジメント層や一般の従業員を対象とする研修(講習会)を開き、カウンセラーや産業医がメンタルヘルスについてのレクチャーを行います。

厚生労働省では、2000年に「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針」を発表しました。この指針では、労働者自身による「セルフケア」、管理監督者による「ラインケア」、事業場内の健康管理担当者による「事業場内産業保健スタッフなどによるケア(内部EAP)」、そして事業場外の専門家による「事業場外資源によるケア(外部EAP)」という、四つのメンタルヘルスケアの推進の重要性が示されています。

健康経営の推進

【健康経営が求められる背景】

企業が従業員の安全と健康に害を及ぼす環境や要因を把握していながら、その状態を放置したら、企業活動の継続に障害を引き起すだけでなく、従業員やその家族、関係者にも影響を及ぼすことになりかねません。しかし、企業の利益追求と従業員の健康維持を両立することができれば、企業と従業員がお互いにWin-Winの関係を築くことができます。そのカギとなるのが「健康経営」です。

これまでの職場における健康管理は労働安全衛生法の下、労働者の安全と健康の確保や、快適な職場環境の形成の推進を目的に実施されてきました。従業員がケガや病気にならないよう、企業活動の継続を第一と考える「守り」の健康管理です。それに対して健康経営は、従業員を企業が成長する上での貴重な資源と捉え、従業員の健康増進を人的資本に対する投資として捉える「攻め」の健康管理ということができます。

なお健康経営については、NPO法人健康経営研究会が商標登録をしており、「『企業が従業員の健康に配慮することによって、経営面においても大きな成果が期待できる』との基盤に立って、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践すること」と定義しています。

【健康経営の進め方】

健康経営に向けた取り組みを進めていく一例として、下記のような例があります。

第1ステップ:経営トップによる「健康経営宣言」
経営トップが率先して健康経営の実践をアピールすることは、健康経営推進に向けて大きなドライブとなります。そのため、健康経営を経営理念・経営方針に明記することが重要です。その上で、社内で健康経営を実践する担当者を決定します。場合によっては、外部人材の活用も検討します。

第2ステップ:自社の「健康課題」の把握
企業の「健康課題」として把握すべき項目は、「定期健康診断受診率」「従業員の心の健康状態」「残業時間・有休の取得状況など労働環境」「40歳以上の定期健康診断結果の協会けんぽへの提供と自社従業員の健康状態」などですが、その中でも特に重視すべきなのは、定期健康診断受診率の確認です。経済産業省が認定する「健康経営優良法人認定制度」でも、従業員の健康診断受診率100%が基準となっています。ちなみに、経済産業省は2020年までに「健康経営優良法人」の大規模部門で、500社を認定するという「ホワイト500」を公表しています。また、東京証券取引所と共同で、従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組む上場企業を、原則1業種1社「健康経営銘柄」として選定しています。

第3ステップ:健康経営に向けての計画策定
「取り組む健康課題の優先順位を決める」→「課題解決の方法を検討し、計画を立案する」→「数値目標を検討する」という流れです。

第4ステップ:策定計画の効果検証と改善策の検討
ここでの進め方は、「従業員の健康づくりへ活動への参加・実施状況を把握する」→「従業員の健康状態の推移を検証し、改善策を検討する」→「課題解決の効果を検証し、新たな改善策を検討する」となります。

健康経営を進めていくステップの中で、重要なカギを握るのは第4ステップ「健康づくりの効果検証・改善」がきちんとできるかどうかです。そのためには、各ステップで行う事項をチェック・確認できる形に落とし込んでおく必要があります。

【キーパーソンは現場の管理職】

管理職は、実際の現場で健康経営を実践する役割を担います。現場での指揮命令権を持つ管理職は、仕事の質と量の両面から、部下の心身の健康に及ぼす影響を考慮する立場にあるからです。管理職には、職場における「安全配慮義務」についての理解を深め、職場の健康づくり推進の風土を醸成すること、すなわち働く職場の「快適化」を強く意識することが求められます。具体的には、「部下のメンタルヘルスや健康度の向上(生活習慣病を有する部下の減少、就業制限が必要な部下の減少、求職者の減少、健康診断有所見率の減少など)」を意識して心がけ、「職場の生産性向上(作業効率の向上、欠勤率の低下、モラールの向上など)」と両立させていくことが重要です。

3.安全衛生に関する法律

安全衛生関連法律(目的・内容・ポイント)

企業には、従業員を安全で衛生的に働かせる義務があります。「労働安全衛生法」では、従業員が安全に働けるよう必要な措置を講じるため、事業所の規模に応じて、社内の衛生や安全を管理する者の設置を求めています。

具体的にいうと、常時50人以上の労働者を雇用する事業所には、職場の衛生に関する事項を管理するため、「衛生管理者」の選任が義務付けられています。衛生管理者は、「労働者の健康障害を防止するための措置」「労働者の衛生のための教育」「健康診断の実施など健康の保持増進のための措置」「労災の原因調査、再発防止措置」などを行うことを職務としています。

また、一定の危険な作業を行う常時50人以上の労働者を雇用する事業所には、安全に関する技術的な管理を行うため、「安全管理者」の選任が義務付けられています。安全管理者は、「労働者の危険防止のための措置」「労働者の安全教育の実施」「労働災害の原因調査、再発防止措置」などを行うことを職務としています。

そして、従業員規模が100人を超えると、業種により「統括安全衛生管理者」の選任が必要となります。統括安全衛生管理者は安全管理者や衛生管理者を指揮し、職場の安全と衛生に関する管理を行います。統括安全衛生管理者になれるのは、工場長などその事業所において、事業の実施を実質的に統括管理する権限・責任を持つ者です。

なお、建設工事現場などでは、請負契約関係にある事業者が同一の場所で仕事を行うことが多くなっています。それぞれの事業者に雇用される労働者が、混在した作業を行うことによって生じる労働災害を防止するには、その現場全体を統括管理する体制が必要です。それには、元方事業者より選任される統括安全衛生管理者だけでなく、関係請負人により選出させる安全衛生責任者が、現場で適切に職務を管理監督することが求められます。

【安全衛生推進者・衛生推進者の選任】

50人未満の小規模事業所では、衛生管理者や安全管理者を選任する義務はありません。ただし、10人以上の労働者を雇用する事業所は、その代わりに安全衛生に関する実務担当者として、安全管理者を必要とする業種は「安全衛生推進者」、必要としない業種には「衛生推進者」を選任しなくてはなりません。安全衛生推進者・衛生推進者の行う業務は、「施設、設備の点検や災害防止措置」「作業環境の点検措置」「健康診断・健康の保持促進のための措置」「安全衛生教育に関する事項」「応急措置に関する事項」「労災の原因調査、再発防止措置」「安全衛生情報の収集・統計の作成」「関係行政機関への報告義務」などがあります。

【産業医の選任】

常時50人以上の労働者が働く事業所では、「産業医」を選任しなければなりません。産業医は、「健康診断の実施、その結果に基づく指導・勧告」「作業環境の測定・評価・事後措置」「有害業務の作業管理」「労働者の健康管理に関する事項」「健康教育・健康相談に関する事項、衛生教育に関する事項」「労働者の健康障害の原因調査・再発防止措置」などを行うことを職務とし、問題があれば事業主に報告します。

産業医になれる者は医師であることに加え、「厚生労働大臣の定める研修の修了者」「労働衛生コンサルタント試験に合格した者で、試験区分が保健衛生である者」「大学において労働衛生に関する科目を担当する教授、准教授、常任講師の経験のある者」「産業医の養成等を行うことを目的とする正規の課程を設置している産業医科大学等が定める実習を履修した者」などの要件のうち、いずれかを備えた者となります。

【安全委員会・衛生委員会の開催】

安全管理者や衛生管理者を選任したからといって、その人に全てを任せきりにするのは組織管理のあり方として、望ましくありません。そのため、一定の業種や規模の事業所には、安全委員会や衛生委員会、双方を兼ねる安全衛生委員会を毎月1回以上開催しなくてはなりません。そこでは、労使共同で危険防止対策、労働災害の原因・再発防止対策、安全・衛生規定の作成、業務に起因する危険性・有害性などを調査し、労働者の危険または健康障害を防止する必要な措置について審議し、事業者に意見を述べることが求められています。

【健康診断の受診】

事業所が労働者を雇い入れる際には、医師による「健康診断」を労働者に受診させなければなりません。さらに採用後も、1年以内ごとに1回(深夜業の場合は6ヵ月に1回)、医師による健康診断を行う必要があります。また、常時就業する労働者が50人以上の事業所は、定期健康診断・特殊健康診断を行った場合、遅滞なく「健診結果報告書」を労働基準監督署に提出しなければなりません。

さらに、定期健康診断等で血圧測定、血中脂質検査、血糖検査、肥満度の測定など、厚生労働省で定める検査の全てに異常が見られる場合は、労働者の請求により2次健康診断が行われます(2次健康診断等給付)。そして、労働者が2次健康診断を受けた日から3ヵ月以内に、健康診断の結果を示す書面を受け取った場合、医師などの意見を聞いて労働者の就業上の措置(配置転換など)を講じる必要があります。

4.安全衛生の見通し・課題

安全衛生管理体制の構築

事業所に適切な安全衛生管理体制を構築することは、労働災害を防止するために必須の要件です。しかし、どのような安全衛生管理体制を作っても、その体制を生かせるかどうかは、経営者の「姿勢」に大きく左右されます。そのため、経営者は安全衛生に対する「経営としての方針(ポリシー)」を定め、安全衛生に関する責任と権限を明確にしておかなければなりません。その上で適切な安全衛生管理計画を作成し、計画的に実施することが重要です。そして定期的にモニタリングを行い、日常的な安全衛生活動を推進することに留意する必要があります。

労働災害は企業の責任

以前は業務災害や通勤事故といったイメージの強かった労働災害ですが、近年では、業務上の高ストレスを原因とする過労死や過労自殺、うつ病などの精神疾患による労災認定が増加傾向にあります。そのため厚生労働省では、労働災害の認定基準の随時改正や見直しが検討されています。

天災や不測の事故などによる労働災害など、企業側の努力だけでは対処が難しいケースもあります。しかし、近年問題となっている過労やメンタルヘルス不全などは、日ごろから上司と部下、同僚間でコミュニケーションが取れていれば、早期に発見することが可能です。そのためにも、労働災害は会社の責任であるとの自覚を強く持ち、人事部が主導となってコミュニケーションを取りやすい環境を整えることが重要です。

仕事上から精神的問題を生じた社員へのケア

メンタルヘルス不調者の増加を受けて、相談窓口などを設置する企業が増えています。しかし、それだけで安全配慮義務を果たしているとは言えません。過去の判例でも、従業員の長時間労働や健康悪化を知りながら、具体的な業務軽減措置を取らなかったことで、企業の安全配慮義務違反を認めたケースがあります。仕事を通じて精神的問題を生じた社員へのケアを行っていても、実効性が伴っていなければ、会社はその責任を問われることになるのです。

実際に企業が安全配慮義務を問われるのは、従業員の健康悪化や自殺という結果を予見できた、あるいは予見し得たにもかかわらず、それを放置して重大な結果を招いたときです。企業は「結果回避義務」を果たさなかったものとして、安全配慮義務に問われることになります。

では、日頃のマネジメントにおいて、どのような対応を心がけるべきなのでしょうか。大切なのは「ラインケア」と言えます。上司が「いつもと違う部下」にいち早く気づき、適切な対応を講じるのです。日常的に部下の勤怠状況、職務遂行状況、言動の変化などに注意を向けていれば、「精神的に疲れているのではないか」「体調に変化があるのではないか」などと気づくはずです。

部下からメンタルや体調不良の訴えがあるまで待つのではなく、積極的に心身の状態を気遣い、相談に乗ること。また、その原因が職務によるものであれば、本人の希望を聞きながら職務の内容、作業量、残業など労働時間を調整することが、管理者には求められます。既に症状が出ている場合は、産業保健スタッフへの相談や、専門医の受診を勧めることも必要です。部下の精神面の不調・問題に関しては、早期発見・早期対処が大変重要です。

ストレスチェックへの対応

2015年12月から従業員数50人以上の事業所では、「ストレスチェック」「面接指導」の実施などを義務化した「ストレスチェック制度」が実施されることになりました。制度の目的は、定期的に従業員のストレスの状況に関する検査を行い、本人にその結果を通知してストレス状況についての気づきを促し、メンタルヘルス不調のリスクを低減させることにあります。

ストレスチェックは、管理職を含む全ての労働者がペーパー(アンケート用紙)かパソコンの画面などを通して、57項目を標準とする職場のストレスに関する質問(ストレスチェックシート)に回答します。測定されるストレスの具体的な内容は、以下の3点です。

  • 職場と仕事の状況
    仕事の負担(量・質)、身体的な負担、仕事での裁量、スキルの活用度、職場での対人関係、職場環境、仕事への適性度、働きがい
  • 心身のコンディション(ストレス反応)
    活気、イライラ感、疲労感、不安感、抑うつ感、身体の症状
  • 周囲のサポート・満足度
    上司/職場の同僚/配偶者、家族、友人等のサポート、仕事・家庭生活の満足度

ストレスチェックの結果は、検査を実施した医師・保健師などから直接本人に通知され、本人の同意なく事業者に提供することは禁止されています。なお、一定の要件に該当する労働者から申し出があった場合、医師による面談指導を実施することを事業者に求めています。また、事業者は面接指導の結果に基づき、労働者の健康を保持するために必要な措置について、省令の定めにより、医師の意見を聴かなくてはなりません。

その際、事業者は医師の意見を勘案し、必要があると認めるときは労働者の実情を十分に考慮し、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少などの措置を講ずることが求められています。さらに医師の意見を衛生委員会もしくは安全衛生委員会、労働時間等設定改善委員会へ報告するなど、適切な措置を講じなくてはなりません。

EAPの利用

EAP」とは、「Employee Assistance Program:従業員支援プログラム」の略称で、メンタルヘルス対策として相談室を設けたり、カウンセラーを配置したりして、従業員を支援するプログラムのこと。職場のストレス、上司や部下との人間関係、セクハラ・パワハラ、キャリアに関する問題、プライベートな悩みなど、働く人の仕事の生産性に影響を与える課題の原因と向き合い、解決の糸口を探し、健康な状態で安定して働く状態をサポートするものです。EAPは、アルコール依存症が大きな社会問題となった1940年代のアメリカにおいて、依存症となった社員の早期発見・早期治療を目的として始まったものであり、その後、メンタルヘルス全般へと広く応用されるようになりました。

EAPには、内部と外部で行う二つのケースがあります。

  • 内部EAP
    自社内の産業保健スタッフなどが職場環境やストレスの状況について評価し、管理者と協力してその改善を図ることを目的としています。自社内に心の健康相談に応じる相談機能を設置すると同時に、専門的な治療を要する労働者に対しては、適切な外部EAPを紹介します。
  • 外部EAP
    社外の専門機関で、心の健康問題を有する労働者の職場の適応や復帰を指導したり、支援したりすることを目的としています。近年は外部EAPを利用する企業が増えていますが、その大きな理由は、低コストとプライバシー遵守です。社外にあるためプライバシーが厳格に守られ、利用する従業員にとってはハードルが低くなり、結果的に疾患に至る前での早期対応が可能となります。

その結果、EAPに対する認知度が上がり、新たにEAPを扱うプロバイダーも数多く出てくるなど、利用者にとっては比較検討しやすい状況となっています。さらに、EAPがアルコール依存症やうつ病などの疾病への対処だけではなく、心身の問題の予防やカウンセリング、そして家族やプライベートな問題、あるいはキャリアや将来的な問題にまで広くカバーするようになってきたことも、利用率を上げる一因となっています。

ポジティブ・メンタルヘルス対応

メンタルヘルス対策とは、不調になった人をケアして治すことだけに限りません。むしろメンタル不調者は組織の中ではごく一部の存在であり、多くの人はさまざまな問題やトラブルを抱えながら、仕事に従事しています。近年では、そうした大多数の人たちがメンタルヘルス不調を起こさないようにサポートしていくことが重要であると考えられるようになってきました。治すという「守り」に重点を置いたメンタルヘルス対策だけではなく、「攻め」の姿勢が不可欠であるという視点から、メンタルヘルス対策を考えるのが「ポジティブ・メンタルヘルス」です。

ポジティブ・メンタルヘルスが注目されるようになったのは、近年「ポジティブ心理学」が発達してきたからです。ポジティブ心理学は、うつ病と異常心理学の世界的権威であるセリグマンが1998年に提唱した新しい学問。これまでの心理学は「人間の弱いところに着目し、それをどう無くしていくか」という発想の下で研究が進んでいましたが、ポジティブ心理学は「人は誰でも強みを持っている。そこに注目し、さらに強化し、伸ばしていくことが人の幸せにつながっていく」という考え方に立ちます。

今までのメンタルヘルス対策は、ネガティブな要因を拾い出し、それを無くしていこうとする対処が中心でした。しかし、それが本当に良いことなのかどうか、疑問も生まれています。そのように対応しても、メンタルヘルス不調を訴える人が減少しないからです。最近では、「病気にならないためにどうするのか」「病気になった人にどう対処するのか」を考える従来の「病理モデル」から、働く人の心の健康増進、心の成長モデルを大切にしていくことによって、一人ひとりのモチベーションやパフォーマンスを向上させ、キャリア開発へとつなげていく「ポジティブ・メンタルヘルス対応」へと、メンタルヘルス対策の流れが変わってきています。病気にならないこと、再発しないことを目的とした予防的な対応ではなく、その前の段階として、従業員と職場環境をメンタルヘルスに陥らない状況にすることが重要であるとの考え方は今後、さらに広まっていくと思われます。

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