【ヨミ】モチベーション モチベーション
組織の活性化や目標達成に向けた原動力となるのが、社員一人ひとりのモチベーションです。人事担当および経営層は、モチベーションに影響する要素を理解し、これを事業運営に生かしていくことが求められます。ここでは、モチベーションを構成する要素や低下する要因、向上させるための具体的な方法、事例を説明します。
1.モチベーションとは
モチベーション(motivation)は、日本語に訳すと「動機」という意味を持つ言葉です。動機は、行動するきっかけとなる理由、あるいは行動を決める直接的な原因という意味合いを持っています。
本来、モチベーションという言葉は、欲求から行動へと変わるプロセスを指しますが、日本のビジネスシーンでは意欲ややる気そのものを指して使われることが一般的になっています。たとえば、「失敗が重なってモチベーションが上がらない」「モチベーションを維持しながらスキルを高めていきたい」などの表現で使われます。
モチベーションは、人がどのように行動を開始し維持していくのか、その過程でどういった感情を持つのかを説明するために生まれた概念です。
モチベーションにおける二つの要素
モチベーションを構成する要素は、外発的なもの・内発的なものの二つに分けられます。
(1)外発的動機付け
外発的動機付けとは、外的な要素を用いて動機を誘引することです。たとえば、業績に応じて報酬をアップする、昇給・昇格といったインセンティブや評価制度が代表的なものです。これとは逆に、報酬ダウンやペナルティを設けることで動機付けを行うケースも見られます。
外発的動機付けは高い効果をもたらしますが、一時的な効力であることが多く、長期的にはモチベーションを維持できない点が指摘されています。また、外発的な動機付けだけでは、社員の自発性や柔軟な発想につながりにくく、長期的な施策には適していないと考えられています。
(2)内発的動機付け
内発的動機付けとは、自分自身の興味・関心が行動を起こす原因となっていることをいいます。自身の感情・意欲がベースにあり、行動によって満足感を得ることが目的となります。
内発的動機付けでは、仕事そのものに意欲を感じモチベーションを維持していくため、長期的な効果が見込めます。また、内発的な意欲が行動につながっているため、自発的により良い行動を模索するようになり、長期的な好循環を生み出すことが期待できます。

モチベーションと混同しやすい言葉
インセンティブ
インセンティブは、広辞苑で以下のように定義されています。
引用元:岩波書店(2008,2009)「広辞苑 第六版」
インセンティブは、モチベーションの中でも特に「外発的動機付け」のことを指します。インセンティブはモチベーションの中に含まれていると考えるとわかりやすいでしょう。
- 【参考】
- インセンティブとは|日本の人事部
エンゲージメント
エンゲージメントは、広辞苑第六版によれば「婚約」というのが本来の意味です。会社でいうエンゲージメントは、従業員が会社に対して持つ愛着心を指すものです。
エンゲージメントとモチベーションの違いは、以下の通りです。
- エンゲージメント=組織と従業員が互いに貢献し合うこと
- モチベーション=従業員個人の行動のきっかけ
エンゲージメントは、組織と従業員の間で生じるもの。一方、モチベーションは従業員個人が行動を起こすための動機という意味合いで用いられます。
- 【参考】
- エンゲージメントとは|日本の人事部
モラール
モラールは、広辞苑で以下のように定義されています。
引用元:岩波書店(2008,2009)「広辞苑 第六版」
よく「モラル(道徳)」と混同しやすいモラールは、モチベーションと近い意味があります。どちらもやる気にかかわるものですが、モラールは組織内の意欲・やる気などを高める意味合いがあります。モチベーションは個人の中での動機であるため、使い分けに注意しましょう。
2.代表的なモチベーション理論
従業員のモチベーションを高めていくためには、モチベーションについて科学的・体系的に学ぶ必要があります。ここでは心理学をベースとした、代表的なモチベーション理論を紹介します。理論の中には非常に古いものも含まれていますが、現在企業が取り組んでいるさまざまなモチベーション施策は、これらの理論をベースとしていることは事実です。
マズローの欲求5段階説
アメリカの心理学者アブラハム・マズローが提唱したのが「マズローの欲求5段階説」です。「人間は自己実現のために絶えず成長する」と仮定し、人間の欲求を5段階で体系化しています。低次の欲求が満たされると、次に高次の欲求を満たすための行動をとるようになるという考えを基本とした理論です。
第1段階「生理的欲求」
人が生きるための基本的な欲求で、これを満たさないと生命維持に関わるものが第1段階とされています。食欲・睡眠・性欲などがこれに該当します。
第2段階「安全欲求」
生理的欲求が満たされると、次に生活の安定や健康維持、危険から身を守るなど安全に対する欲求が生まれます。
第3段階「社会的欲求」
友人や家族など、自分の周りの人間から受け入れられている、社会のなかで必要とされていることを求めるようになります。集団への帰属・愛情を求める欲求ともいわれます。この欲求が満たされないと孤独を感じ、不安定な精神状態になりやすいと考えられています。
第4段階「承認欲求(尊厳欲求)」
承認欲求(尊厳欲求)は、他者から評価を得て自尊心を満たそうとする欲求です。周りの人間から尊敬されたい、注目されたい、価値があると認められたいなどの欲求を指します。承認欲求が満たされない場合、劣等感や無力感を抱きやすいとされています。
第5段階「自己実現欲求」
自分が描く理想的な自己に向かって能力を発揮し、実現しようとする欲求です。自身の潜在的な能力の開花に努める、創造的な活動を求めるなどがここに含まれます。
マズローは晩年に、この5段階説の上にもう一段階高次の「自己超越欲求」があるとしました。目的や使命に強くコミットしている状態で、自我を超えたところにある至高体験への欲求を示しています。
ハーズバーグの二要因理論(動機付け・衛生理論)
アメリカの臨床心理学者フレデリック・ハーズバーグによって提唱されたモチベーション理論です。この理論では、仕事に「満足」を感じる要因と、「不満足」と感じる要因はまったく別のものであることを明らかにしています。
ハーズバーグの調査によると、満足を感じる人は仕事への動機付けがあり、不満足と感じる人は環境への意識が働いているとされます。前者を「動機付け要因」、後者を「衛生要因」に分け、二要因理論として展開しています。
(1)動機付け要因
仕事に対し満足と感じる要因には、仕事そのものへの関心、達成感、責任感、昇進などのインセンティブがあり、これらが満たされることで満足感を得られるとしています。マズローの欲求5段階説でいうと、自己実現欲求や承欲欲求、社会的欲求といった高次欲求の一部を満たすものということができます。
(2)衛生要因
仕事が不満足と感じる要因には、対人関係、給与、経営方針や管理方法などが挙げられ、これらが不足すると、社員は不満足感を持つとしています。マズローの欲求5段階説のうち、生理的欲求や安全欲求、社会的欲求の一部にあたると見ることができます。
ハーズバーグは、衛生要因の欲求を満たすことで不満足な状態は解消できるものの、満足感を得る要素にはならない点を指摘しています。
マクレガーのX理論Y理論
アメリカの心理・経営学者ダグラス・マクレガーによって提唱された理論で、マズローの欲求5段階説がベースとなっています。人が働く理由を主となる動機によってモデル化し、X理論Y理論の2つに分けて説明しています。
(1)X理論
X理論は、マズローの欲求5段階説における低次欲求を比較的多く持つ行動モデルを指しています。本来、人間には怠慢な性質があり、強制や命令によって管理しないと仕事をしないことを挙げています。また、責任を回避し、自身の安全を優先する傾向があるとしています。
X理論では、強制力を持った管理・統制が必要となり、低次欲求を満たす報酬を与えながらモチベーションを維持していくマネジメントが必要と考えられています。
(2)Y理論
Y理論は、マズローの欲求5段階説の高次欲求を多く持つ行動モデルです。人は進んで目標を達成するために自己を高めようとし、適切な条件のもとでは自ら責任を果たそうとするとしています。
Y理論では、目標と責任を与え、社員の自発的な行動を促すマネジメントが有効とされています。社員の欲求と企業が目指す目標が合致すれば、継続的に好循環を生み出すことが期待できます。
現代のモチベーションマネジメントではY理論を理想とする傾向がありますが、低次欲求が満たされていないままY理論の管理方法を採用しても、十分な効果は期待できない点に注意する必要があります。
マクレランドの欲求理論
アメリカの心理学者マクレランドが提唱したモチベーション理論。作業場における従業員には、達成動機(欲求)、権力動機(欲求)、親和動機(欲求)の三つの主要な動機・欲求が存在するという考え方で、1976年に発表されました。
ロックの目標設定理論
「目標」という要因に着目し、モチベーションに及ぼす効果を探ることを目指した理論。1968年にアメリカの心理学者ロックが提唱したもので、モチベーションの違いは目標設定の違いによってもたらされるとしています。本人が納得している目標については、曖昧な目標よりは明確な目標のほうが、また難易度の低い目標よりは難易度の高い目標のほうが結果としての業績は高い、ということが確認されています。
ブルームの期待理論
1964年にブルームによって提唱されたモチベーション理論。人間がどのように動機付けられるのかという動機付けの「過程」に注目しており、人間の行動は、「どこまでやればよいかの限界値が明確で、どうすればよいのかの戦略が必要であり、達成した目標の成果が魅力的であれば、その目標に向かって動機付けされる」という考えに立っています。
3.モチベーションが下がる主な原因
モチベーションが下がる原因にはどのようなことがあるのか、具体的に見ていきます。
目標設定が不明瞭・不適切
目標が明確になっていない、あるいは目指す方向がわからない状況では、人は能力を十分に発揮できません。企業が掲げている目標と個人が果たすべき目標との関係が不明瞭になっていると、努力や成果がどのように会社に貢献しているのか見えにくくなるため、モチベーションの低下を招きます。
また、実務・能力に見合わない目標を設定することも、モチベーションを下げる要因です。実現できそうにない目標設定や、逆にすぐに達成できてしまう目標とならないように注意する必要があります。
不公正な人事評価
人事評価が公正ではないと感じた場合、従業員満足度は著しく低下します。努力しても評価されないこと、周囲からあまり評価されていない社員が高い評価を得ていることなどが不満要因として挙げられます。人事評価においては、明確かつ誰の目にも公正であることがわかる基準を示す必要があります。
仕事の適性
持っている能力・スキルを十分に生かすことができないと感じた場合、モチベーションが下がることがあります。また、社員自身が思い描いているキャリアの方向性と違う部署に配属された場合にも無力感を抱くことがあります。人材配置においては、社員のモチベーションにも配慮し、適材適所となる配属を検討する必要があるでしょう。
職場環境・人間関係
職場内の人間関係が良好でなかったり、覇気がなかったり、気持ちよく働くための環境が整っていない場合、社員のモチベーションを低下させます。人間関係や環境への不満は蓄積されていくため、時間が経過すると心身へのストレスが増大します。職場環境が悪化する原因の一つには、長時間労働を始めとする働き方自体に問題がある可能性があります。

4.モチベーションを高める具体的方法・施策
社員のモチベーションアップにつながる具体的な施策にはどのようなものがあるのか見ていきましょう。
人事評価制度の整備・見直し
人事評価は社員のモチベーションへの影響が大きく、業績を左右します。評価制度がモチベーションにうまく作用していない場合は、見直しが必要といえるでしょう。
社員にとって適切かつ信頼をおける人事評価制度をつくるには、成果や貢献度を数値化し、納得感を醸成する必要があります。また、近年では業績だけでなく、プロセス評価を重視する傾向があります。行動と結果を公正に評価されることで、モチベーションの維持・向上につながります。
目標設定を工夫
目標設定には、成果目標のほか、個人の成長を目指す行動目標を定めるという方法があります。業績に対する達成感だけではなく、行動目標を一つずつクリアしていくことで成長実感を得られるというメリットがあります。自己実現へのステップが明確になるため、モチベーションの向上につながります。
ビジョンを社員と共有
社員が「この会社で働きたい」「この仕事をしたい」と感じるきっかけとなるのが、企業が掲げるビジョンへのコミットです。企業理念・ビジョンを理解することで、働く意義や果たすべき役割が明確になります。
社会への貢献度や将来的に目指す姿をしっかり共有できれば、同じ方向に進んでいきたいというモチベーションが生まれます。
キャリアビジョンの明確化
仕事に慣れるに従って、社員はモチベーションを維持するのが難しくなっていくものです。長期的なモチベーションに必要となるのが、キャリアビジョンへの欲求です。「何をしたいのか」「これからどのようなキャリアを目指したいのか」など、将来を考える機会を設けることもモチベーションを生み出すことにつながります。
また、現在やっている仕事が将来のキャリアにどのように影響するのか理解することで、日々の業務においても明確な目的意識を持つことができるようになります。

5.組織全体のパフォーマンスを上げる施策が重要
社員のモチベーションアップはどの企業にも共通する重要テーマであり、生産性や業績に大きく影響するものと認識されています。しかし、モチベーションはその時々の環境や置かれた状況により変動するものです。企業はこれを踏まえたうえで、つねに社員のモチベーションを注視し、制度改革や環境の見直しを検討しながら、より効果的な施策を打ち出していく必要があります。
現在では、個の力を引き出すだけでなく、組織全体のパフォーマンスにつながる相乗効果を得るための施策が注目を集めています。人材不足や多様な働き方への対応が急がれるなか、モチベーションアップの取り組みは、今後さらに重要な意味を持つといえるでしょう。
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