健康経営 powered by「日本の人事部」 人生100年時代の働き方を考える

健康経営とは最終更新日:2023/02/08

健康経営とは

健康経営とは従業員の健康を経営的視点から考え、戦略的に実施すること。近年、健康経営がクローズアップされるようになった背景をはじめ、国や省庁、経済界、自治体、企業、健保、各種団体などの取り組み施策や事例を紹介する。また、健康経営が企業にもたらす効果やメリット、今後の課題についても案内する。
※「健康経営®」は特定非営利法人健康経営研究会の登録商標です

1.人生100年時代の働き方のカギとなる健康経営とは

近年、社会や経済構造、そして働く環境が変化してきたことが、働く人の「心と身体」に大きな影響を及ぼすようになってきた。また、労働人口が低下する中、将来に向けた労働力の確保や従業員の定着、活躍の重要性が求められている。そうした中、多くの企業では従業員の健康増進を重要な経営課題と位置づけ、積極的に対応を進める動きが広がっている。その際のキーワードが「健康経営」である。

[1]健康経営とは

従業員の健康に配慮が、企業の持続的な成長につながる

健康経営の考え方は、アメリカの臨床心理学者・ロバート・ローゼン博士が提唱した概念「ヘルシーカンパニー」に基づいている。ヘルシーカンパニーとは、従来分断されていた「経営管理」と「健康管理」を統合的に捉え、個人の健康増進を行うことで、企業の業績向上へとつなげるというもの。

こうした概念を受け、従業員の健康を経営的視点から考え、戦略的に実施する「経営手法」として生まれたのが、健康経営だ。企業は従業員の健康を増進することで、医療費を削減できるだけでなく、生産性の低下の防止や企業の収益性向上など、さまざまな効果が期待できる。企業の利益追求と働く人の心身の健康維持を両立することが、従業員個人の生活の質の向上のみならず、企業活力を高めることにつながるのだ。その結果、経営者と従業員がお互いに“Win-Win”の関係を実現することができる。

「守り」の健康管理から、「攻め」の健康経営へ

従来の職場における健康管理では、労働者の安全と衛生についての基準を定めた「労働安全衛生法」のもと、「職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を推進すること」を目的に実施されてきた。従業員にけがや病気がなく、企業活動を継続するための“守り”の健康管理と言うことができる。

それに対して、近年進められている健康経営は、これまでの健康管理の延長線上にあるものとは違う、“攻め”の取り組みである。健康経営の根本には、従業員を企業が成長する上での貴重な資源と捉え、従業員の健康増進を人的資本に対する投資として捉える考え方がある。従業員の健康に対する投資を戦略的に行うことによって、プラスの収益を実現しようとする積極的な経営手法なのである。

[2]健康経営がクローズアップされる背景

(1)拡大する国民医療費と介護保険給付

社会保障費削減への対応が急務

近年、健康経営がクローズアップされている背景には、さまざまな要因がある。まず、拡大する国民医療費と介護保険給付への対応が挙げられる。社会の高齢化率が急速に高まる中、社会保障費の拡大が財政を圧迫する大きな要因となっている。そして今後、労働力人口が急激に減少することに伴い、経済活動の停滞が懸念されている。このことは否応なく、国民医療費と介護保険給付に大きな影響を与える。事実、社会保障給付費は年々増加しており、2017年度には120兆円を上回った(予算ベース)。

【出典】社会保障給付費の推移(厚生労働省)

具体的に見ていくと、2015年度時点で国民医療費は40兆円を超え、2025年度には約60兆円に達する見込みである。特に、高齢化が一段と進む今後、さらなる増加が予測されている。それは、介護保険給付費も同様で、2015年度の10兆円から、2025年度には約21兆円に達すると見込まれている(厚生労働省資料より経済産業省作成)。

また、医科診療費の傷病別内訳を見てみると、実に3分の1以上(34.5%)が生活習慣病で占められている。次いで、「老化に伴う疾患」(15.6%)、「器官系の疾患」(13.1%)、「精神・神経の疾患」(10.9%)となっており、生活習慣病関連のほか、老化に伴う疾患、精神・神経の疾患の多いことが分かる。

【出典】平成27年度 国民医療費の概況 統計表(厚生労働省)

このように拡大する国民医療費と介護保険給付により、企業の負担はますます増えていくことが予想され、将来的に経営が覚束なくなる事態が起きかねない。国民医療費、介護保険料給付など社会保障費を削減していくためにも、健康経営の推進は待ったなしの状況だ。

(2)企業のリスクマネジメント

労災やメンタルヘルス対応は、企業の社会的責任

次に、企業のリスクマネジメント上の問題が見逃せない。例えば、労働災害発生状況の推移をみると、死亡者数は2015年に初めて1000人を下回って以降、900人台で推移している。一方、休業4日以上(労災における休業補償給付の待機期間)の死傷者数は、増加傾向が見られる(陸上貨物運送事業7.6%増加、小売業7.7%増加、社会福祉施設9.2%増加、飲食店6.2%増加など)。労働力不足の中、人材の確保・定着に悩む多くの企業にとって、労働災害への対応は今後とも避けて通れない問題となっている(厚生労働省「平成30年労働災害発生状況」)。

さらに近年では、長時間労働や職場ストレスなどによる労働負荷が増してきたことにより、ストレスチェックへの対応が急務となっている。2014年6月25日に公布された「労働安全衛生法」の一部を改正する法律によって、「ストレスチェック」「面接指導」の実施などを義務付ける「ストレスチェック制度」が創設された(ストレスチェック義務化法案)。翌2015年12月1日から、「ストレスチェック制度」が従業員数50人以上の企業(事業場)に対して実施されることになった。

「ストレスチェック制度」の目的は、定期的に労働者のストレスの状況について検査を行い、本人にその結果を通知して、自らのストレス状況についての気づきを促し、個人のメンタルヘルス不調のリスクを低減させることにある。加えて、検査結果を集団ごとに集計・分析を行い、職場におけるストレス要因を評価することで職場環境の改善につなげられると、ストレスの要因そのものを低減させることもできる。このようなメンタルヘルス対策は、企業の社会的責任となっている。

ストレスチェック等の職場におけるメンタルヘルス対策・過重労働対策等

(3)企業の生産性向上に対する志向

「プレゼンティーズム(疾病就業)」によるパフォーマンス低下を防止する必要性

そして、企業の生産性向上という側面も、健康経営に取り組む大きな要因となっている。ここでは、「プレゼンティーズム(Presenteeism)」が重要なカギを握る。プレゼンティーズムとは、「疾病就業」と訳され、従業員が出勤しているにもかかわらず、心身の何らかの不調が理由で完全に能力・スキルを出し切れていない状況を指す。例えば、花粉症やちょっとした頭痛、あるいは悩み事などによって、出社していても頭や体が思うように働かず、本来発揮されるべきパフォーマンス(職務遂行能力)が低下しているような状態だ。似た意味を持つ言葉に「アブセンティーズム(Absenteeism)」があるが、これは習慣的に欠勤状況にあることや、それによる生産性の低下を指すもの。両者とも、従業員の健康と生産性を考える上で重要なキーワードと言える。

プレゼンティーズムに関して、注目される調査結果がある。アメリカの金融サービス会社による調査によれば、従業員の健康に関する総コストのうち、医療・薬剤費の占める割合はわずか24%にすぎず、「プレゼンティーズム」や「アブセンティーズム」による生産性損失のコストが4分の3近くにのぼるというのだ。特に、「プレゼンティーズム」の占める割合は、調査によって幅があるものの、最も大きいと考えられている(東京大学政策ビジョン研究センター『「健康経営」の枠組みに基づいた健康課題の可視化及び全体最適化に関する研究』より)。

問題は、プレゼンティーズムが生産性損失の大きな割合を占めているにもかかわらず、非常に見えづらいものであること。つまり、「隠れたコスト」であることだ。プレゼンティーズムでは、従業員は欠勤するほどの大きな身体的症状を感じていないことが多く、場合によっては本人すら、自分の生産性の低下に気が付いていないことがあるのだ。

プレゼンティーズムについては、直接的な医療費やアブセンティーズムの場合のように、レセプトや勤務状況データといった客観的なデータが容易に入手できるわけではない。プレゼンティーズムの程度を測定するためには、従業員に対する追加的な調査が必要となる。そのため、極めて大きなコスト要因であるにもかかわらず、問題への早期対応が難しいのだ。今後は、健康診断やストレスチェックの結果の活用に加えて、プレゼンティーズムのような目に見えない健康状態をどのように改善していくかが、健康経営推進の大きなカギとなるのではないだろうか。

2.健康経営への国や省庁、経済界、自治体の取り組み

ここでは、健康経営の実現に向けて、国や関係省庁、経済界、自治体などが行っている取り組みを紹介する。

[1]2013年6月閣議決定した「日本再興戦略」

「国民の健康寿命の延伸」のもと、健康経営がスタート

健康経営推進の口火を切ったのは、2013年6月、政府が閣議決定した「日本再興戦略(JAPAN is BACK)」の中の、「戦略市場創造プラン」だった。その中の「テーマ1」が、「国民の健康寿命の延伸」である。ここで「2030年のあるべき姿」と「個別の社会像と実現に向けた取り組み」が提示され、これらに基づき「健康経営」が本格的にスタートした。以下が、その概要である。

2030年のあるべき姿(概要)
  • 1)効果的な予防サービスや健康管理の充実により、健やかに生活し、老いることができる社会
  • 2)医療関連産業の活性化により、必要な世界最先端の医療などが受けられる社会
  • 3)病気やけがをしても、良質な医療・介護へのアクセスにより、早く社会に復帰できる社会

これによって、国民自身が疾病予防や健康維持に努めるとともに、必要な予防サービスを多様な選択肢の中で購入でき、必要な場合には、世界最先端の医療やリハビリが受けられ、適正なケアサイクルが確立された社会が実現することになる。

「日本再興戦略」改訂2014

2014年に改定された「日本再興戦略」では、健康経営の普及に向けて、健康経営に取り組む経営者などに対して下記のインセンティブの枠組みを構築することを掲げている。

  • 健康増進の取り組みが企業間で比較できるよう評価指標を構築するとともに、評価指標が今後、保険者が策定・実施するデータヘルス計画の取り組みに活用されるよう、具体策を検討

  • 東京証券取引所において、新たなテーマ銘柄(健康経営銘柄)を設定

  • 「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」やCSR報告書などに「従業員などの健康管理や疾病予防等に関する取り組み」を記載

  • 企業の従業員の健康増進に向けた優良取り組み事例の選定・表彰 など

新たな成長戦略 ~「日本再興戦略-JAPAN is BACK-」~ 戦略市場創造プラン(成長戦略2013)(首相官邸)

[2]次世代ヘルスケア産業協議会

官民一体となって、健康寿命延伸分野の市場創出及び産業育成を図る

「日本再興戦略」では、健康寿命の延伸に関して、大きく二つの問題点を挙げている。「従業員への健康投資に対する経営者の意識の低さ」と「保険者の健康増進方策の不十分さ」である。特に前者については、「企業にとっても本来、従業員の健康を維持することは、人材の有効活用や保険料の抑制を通じ、会社の収益にも資するものであるが、こうした問題意識が経営者に浸透しているとは言い難い」ことが指摘された。

そこで政府では2013年4月、健康寿命延伸分野の市場創出および産業育成を図ることを目的に、官民一体となって検討する「次世代ヘルスケア産業協議会」を健康・医療戦略推進本部の下に設置した。そして、三つのワーキンググループによって(現在は「新たな健康関連サービス・製品の市場創出のための事業環境の整備」「企業、個人などの健康投資を促進するための方策」の二つに統合)、健康投資の促進に向けた方策について、具体策を進めることになった。なお、同協議会は経済産業省が事務職を務め、関連施策を推進している。

取り組みと主な成果

(1)健康経営に関する「顕彰制度」の実施(健康経営銘柄、健康経営優良法人認定制度)
健康経営に積極的に取り組む企業を株式市場で評価する仕組みを構築するため、2014年度から東京証券取引所と共同で「健康経営銘柄」を選定する取り組みを開始した。2019年2月には「健康経営銘柄 2019」として35社を選定。選定に用いる健康経営度調査には、1800社からの回答があり、企業の健康経営への関心の高まりが見られた(※次項で詳細を記す)。さらに、健康経営を「企業文化」として定着させるため、中小企業などにおける取り組みを顕彰する「健康経営優良法人認定制度」を運営している。

(2)健康・医療情報の活用による「行動変容」の実現
健康・医療情報を活用し、医療やヘルスケアサービスの質の向上を図るためには、データの生成・提供元における負担の軽減や、負担を上回る具体的なメリットの提示が重要である。まず2016年度は、八つのコンソーシアム(事業体)の下で、実証事業を実施。糖尿病軽症者など1000人超から、ウェアラブル端末などで日々の健康情報を取得した。得られたデータを医師などの専門職とも共有し、個人の状態に応じて介入を実施。その結果、糖尿病の診断指標(HbA1c)や体重・BMIなどに、一定の改善傾向が見られた。2017年度からは、医療研究開発事業として事業の規模・期間を拡充し、健康情報を活用した行動変容サービスに関わる科学的根拠(エビデンス)の構築を目指す。

(3)「地域版次世代ヘルスケア産業協議会」の設置
地域での活動を進めることを目的に、地域関係者(自治体、医療・介護機関、大学、民間事業者など)が集まり、自立的に地域課題やそれらを解決するビジネスを創出する拠点として、「地域版次世代ヘルスケア産業協議会」の設置を進めている。2019年8月末時点で、45の地域版協議会が設置されている。

(4)「グレーゾーン解消制度」の創設
事業者が健康製品・サービスを提供する際の、関連法の規制適用範囲を明確化することを目的に、産業競争力強化法案において個別案件の事業計画に即し、あらかじめ規制の適用の有無を確認できる「グレーゾーン解消制度」を創設。特に、公的領域である医療・介護分野との関係が深く、事業者のニーズが大きい分野については、経済産業省と厚生労働省が連名でガイドラインを策定し、24件の事案を解消した(2017年3月末時点)。

[3]「健康経営銘柄/健康経営優良法人ホワイト500・ブライト500」の選定

「健康経営銘柄」とは

前項の「次世代ヘルスケア産業協議会」で紹介した「健康経営銘柄」は、日本再興戦略に位置付けられた「国民の健康寿命の延伸」に対する取り組みの一つである。2015年度から、東京証券取引所の上場会社の中から健康経営に優れた企業を選定し、長期的な視点からの企業価値を重視する投資家にとって魅力ある企業として紹介することを通じ、企業による健康経営の取り組み推進を目指すものである。選定にあたっては、経営から現場まで、各視点から健康への取り組みができているかを評価するため、下記の観点などから評価を行っている。

  • 健康経営が経営理念/方針に位置づけられているか
  • 健康経営に取り組むための組織体制が構築されているか
  • 健康経営に取り組むための制度があり、施策が実行されているか
  • 健康経営の取り組みを評価し、改善に取り組んでいるか
  • 法令を遵守しているか

全ての上場会社に対して、健康経営の取り組み状況の把握と個々の企業の優良な取り組み事例の収集・分析を目的として、従業員の健康に関する取り組みについての調査を行い、その分析・評価結果を銘柄選定の際の基礎資料として利用するというものである。

健康経営銘柄(経済産業省)

2021年「健康経営銘柄」に選定された企業は、以下の通りである。

2021年*48銘柄 日本水産株式会社(水産・農林業)、国際石油開発帝石株式会社(鉱業)、日本国土開発株式会社(建設業)、アサヒグループホールディングス株式会社(食料品)、味の素株式会社(同)、株式会社ニチレイ(同)、株式会社ワコールホールディングス(繊維製品)、ニッポン高度紙工業株式会社(パルプ・紙)、積水化学工業株式会社(化学)、花王株式会社(同)、第一工業製薬株式会社(同)、富士フイルムホールディングス株式会社(同)、大日本住友製薬株式会社(医薬品)、バンドー化学株式会社(ゴム製品)、TOTO株式会社(ガラス・土石製品)、大同特殊鋼株式会社(鉄鋼)、日東精工株式会社(金属製品)、株式会社ニッセイ(機械)、コニカミノルタ株式会社(電気機器)、ブラザー工業株式会社(同)、株式会社明電舎(同)、オムロン株式会社(同)、富士通株式会社(同)、キヤノン株式会社(同)、トヨタ自動車株式会社(輸送用機器)、テルモ株式会社(精密機器)、株式会社島津製作所(同)、凸版印刷株式会社(その他製品)、中部電力株式会社(電気・ガス業)、東急株式会社(陸運業)、株式会社商船三井(海運業)、日通システム株式会社(情報・通信業)、Zホールディングス株式会社(同)、日本電信電話株式会社(同)、株式会社KSK(同)、SCSK株式会社(同)、双日株式会社(卸売業)、豊田通商株式会社(同)、株式会社ローソン(小売業)、株式会社丸井グループ(同)、株式会社みずほフィナンシャルグループ(銀行業)、株式会社大和証券グループ本社(証券、商品先物取引業)、SOMPOホールディングス株式会社(保険業)、東京海上ホールディングス株式会社(同)、リコーリース株式会社(その他金融業)、東急不動産ホールディングス株式会社(不動産業)、株式会社ベネフィット・ワン(サービス業)、株式会社バリューHR(同)  
「健康経営優良法人ホワイト500」とは

健康経営を推進している非上場企業や中小企業にも焦点を当てるため、「健康経営優良法人ホワイト500」が創設された。地域の健康課題に即した取り組みや日本健康会議が進める健康増進の取り組みをもとに、特に優良な健康経営を実践している大企業や中小企業などの法人を顕彰する制度である。特徴は、中小規模の企業や医療法人を対象とした「中小規模法人部門」と、規模の大きい企業や医療法人を対象とした「大規模法人部門」の二つの部門に分け、それぞれの部門で「健康経営優良法人」を認定していること。2020年からは、大規模法人部門のうち、上位500法人のみを通称「ホワイト500」として認定するという。

運営主体の日本健康会議では、健康経営に取り組む優良な法人を「見える化」することによって、従業員や求職者、関係企業や金融機関などから「従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる法人」として社会的に評価を受けることができる環境を整備することを目標としている。なお、評価項目・評価基準については、「健康経営銘柄」で用いている評価のフレームワークを設定している。

本制度における「中小規模法人部門」と「大規模法人部門」の定義は以下の通り。

中小規模法人部門 (1)製造業その他:300人以下(2)卸売業:100人以下(3)小売業:50人以下(4)医療法人・サービス業:100人以下の法人
大規模法人部門 (1)製造業その他:301人以上(2)卸売業:101人以上(3)小売業:51人以上(4)医療法人・サービス業:101人以上の法人

今後、経済産業省では「健康経営優良法人ホワイト500」と認定された企業に対し、金融機関による低金利融資や人材関連企業から人材確保支援を受けられる制度を導入するなど、インセンティブの充実を図っていく方針である。

「健康経営優良法人ブライト500」とは

「健康経営優良法人ブライト500」は、健康経営優良法人認定制度の一つとして2021年に新設された。健康経営の普及を中小規模法人にも拡大させようと、「ホワイト500」制度を設ける大規模法人との差別化を図るべく設けられた背景がある。

2021年には、大規模法人部門の上位法人を「ホワイト500」、中小規模法人の上位を「ブライト500」とした。健康経営優良法人の中でも優れていて、かつ「地域において、健康経営の発信を行っている企業」を認定することを目指している。

ブライト500は「健康経営の評価項目における適合項目数」と、新設された「健康経営の取り組みに関する地域への発信状況」をもとに判断・評価して選定する。なお、健康経営優良法人の中でも上位であることを評価するため、選定項目15項目のうち12項目以上に適合していることが条件。これは大規模法人における条件と同じレベルとされる。

選定項目の「15項目」とは下記のとおりである。

出典:健康経営優良法人の申請について|経済産業省

さらに以下のウエートで配点し、上位500法人を選定する。

分類 ウェイト
健康経営の評価項目における適合項目数※12項目以上に対し1項目ごとに加点 3
健康経営の取り組みに関する自社からの発信状況(自社HPへの掲載等) 2
健康経営の取り組みに関する外部からの発信依頼を受けての発信状況(取材、講演会の対応等) 2

出典:健康経営優良法人の申請について|経済産業省

健康経営優良法人2021の場合、選定項目15項目のうち6項目以上を満たす必要があるが、ブライト500は12項目以上を満たすことが条件となる点に注意が必要である。また、健康経営優良法人2022(中小規模法人部門)に向けた検討課題として、以下の3点を挙げている。

  • ・新たな評価項目として「従業員の喫煙対策」(制度・施策実行)を追加すること
  • ・(1)~(3)における最低選択項目数の見直し(1→2)
  • ・選択項目であった(15)の必須化

詳細な認定要件については、健康経営優良法人2021(中小規模法人部門)認定要件|経済産業省で解説している。

[4]日本健康会議

民間組織や自治体が連携し、職場、地域で具体的な対応策を実現

「健康経営優良法人ホワイト500」の運営を行っている「日本健康会議」は、少子高齢化が急速に進展する日本において、国民一人ひとりの健康寿命延伸と適正な医療について、民間組織が連携し行政の全面的な支援のもと実効的な活動を行うために組織された活動体。経済団体、医療団体、保険者などの民間組織や自治体が連携し、職場、地域で具体的な対応策を実現していくことを目的に、2015年に発足した。関係各所が連携し課題解決に向けた具体的な活動を行い、その成果を継続的に可視化させることによって、勤労世代の健康増進および高齢者の就労・社会参加を促進し、経済の活性化につなげることを目指している。

日本健康会議が目的としているのは、下記の4項目である。

  • 保険者とかかりつけ医などの連携による生活習慣病の重症化予防
  • 事業主と保険者などの連携による健康経営の普及推進
  • 健康増進活動を支援する事業者の支援・育成
  • 健康寿命延伸および医療費適正化に資する取り組みの推進

また、2015年7月に発表した「健康なまち・職場づくり宣言2020」では、以下の8項目について、2020年までの実現を目指している。

宣言1:予防・健康づくりについて、一般住民を対象としたインセンティブを推進する自治体を800市町村以上とする。
宣言2:かかりつけ医などと連携して生活習慣病の重症化予防に取り組む自治体を800市町村、広域連合を24団体以上とする。その際、糖尿病対策推進会議などの活用を図る。
宣言3:予防・健康づくりに向けて47都道府県の保険者協議会すべてが、地域と職域が連携した予防に関する活動を実施する。
宣言4:健保組合など保険者と連携して健康経営に取り組む企業を500社以上とする。
宣言5:協会けんぽなど保険者のサポートを得て健康宣言などに取り組む企業を1万社以上とする。
宣言6:加入者自身の健康・医療情報を本人に分かりやすく提供する保険者を原則100%とする。その際、情報通信技術(ICT)などの活用を図る。
宣言7:認証・評価の仕組みの構築も視野に、保険者からの推薦など一定の基準を満たすヘルスケア事業者を100社以上とする。
宣言8:品質確保・安定供給を国に求めつつ、すべての保険者が後発医薬品の利用勧奨など、使用割合を高める取り組みを行う。

[5]健康経営会議

健康経営に取り組むためのノウハウ、支援策を解説するセミナーを全国で開催

健康経営推進に関する経済界の取り組みとして挙げられるのが、経団連が中心となって発足した「健康経営会議」。2014年の同会議発足によって、経済界での健康経営促進の活動が本格化することが期待されている。具体的な活動としては、健康経営会議を経団連会館で開催し、国が進める健康経営の解説や、第一線で活躍している識者の講演、パネルディスカッションを行っている。加えて、全国の優良事例とされている企業の実践事例や「健康経営優良法人認定制度」の制度の紹介など、健康経営に取り組むためのノウハウ、支援策などを解説するセミナーを全国で開催している。この他にも、健康経営に取り組むために有用と思われるさまざまな勉強会、取り組み事例の情報発信など、経済界を挙げて健康経営を推進していくための旗振り役としての存在が非常に大きい。

[6]一般社団法人 社会的健康戦略研究所

社会的健康度アップの方法を研究・社会実装することで、持続的な共生社会の実現を

「社会的健康戦略研究所」は、健康という視点から新しい社会への適合に向けて研究を進めた結果、生み出された方法を国内外に共有して社会実装し、社会貢献を果たすことを目的に設立された。代表理事は、株式会社フジクラ健康社会研究所の取締役である浅野健一郎氏が務める。浅野氏は、株式会社フジクラにおいて、健康経営施策を推進しているキーパーソンである。

2019年9月の設立後、10月にはまず職域部会が発足。経営者・担当者・事業者、各現場を知るメンバー約30人が集まり、キックオフイベントが開かれた(参照:「社会的健康戦略研究所」キックオフミーティング)。その後、国際標準化部会・学域部会がそれぞれ発足し、各種ウェビナー・研究会が開催されている。

社会的健康戦略研究所では、コアポリシー(ブラさない戦略軸)として、以下の五つを掲げている。

  • 1.人、集団の健康(WHOの定義:健康=幸せ)をより良くすることを基軸とする
  • 2.持続的な社会の実現をゴールとする(先義後利)
  • 3.経済発展と社会課題解決を両立する手法論を追求する(三方よし)
  • 4.常に外部性(波及性)について十二分に考慮・考察する
  • 5.民間主導型の市場創造アプローチを基本とする

(引用:一般社団法人 社会的健康戦略研究所

[7]自治体の取り組み

健康寿命の延伸は、自治体にとっても重要な課題の一つだ。企業の健康経営を推進することで、地域住民の健康増進や経済効果が期待できるとして、地域ぐるみで健康経営を推進する自治体も増えている。ここでは、その一部を紹介する。

北海道岩見沢市、神奈川県横浜市、愛知県大府市に見る健康経営の推進

(1)岩見沢市の「健康経営都市宣言」

北海道岩見沢市は、企業が従業員の健康に配慮することで、経営面でも大きな成果が期待できる「健康経営」をまちづくりのテーマに掲げた。住民の健康を「守る」だけでなく「いきいき活動する」市民づくりを実践するとともに、地場企業の健康経営の取り込みを支援していくことによって、まち全体のポテンシャルを引き出す「自立した自治体づくり」を目指そうと考えたのだ。そのために、以下のような「健康経営都市宣言」を発信した。

  1. 健康経営都市にふさわしい、幅広い健康施策に積極的に取り組むことで、市民の心身の健康を保持・増進します。
  2. 健康診断受診および、その結果に基づく健康づくりを実施することにより、市民の疾病を予防します。
  3. 特定非営利活動法人健康経営研究会と連携して、健康の保持・増進に取り組み、健康でいきいき活躍できる社会環境づくりを推進します。

(健康経営研究会WEBサイトより引用)

岩見沢市では、人口減少と地域経済縮小という課題を抱えていた。その課題を克服し、地方創生に向けて、岩見沢市の将来展望を提示する「人口ビジョン」と具体的施策を盛り込む実行計画として、「総合戦略」を2016年1月に策定した。

その中の重点施策の一つとして掲げたのが、「市民ひとり一人が健康で生きがいを持って暮らせる健康経営を実践するまち」の実現だ。これは、市民の健康管理を経営的視点に立ち、戦略的に実践する「健康経営」を推進することで、地域の生産性・創造性向上、地域イメージの向上、リスクマネジメント、医療費削減などを目指していくものだ。これらの取り組みによって、2016年6月に、「健康経営」を商標登録している健康経営研究会から、健康経営都市としての「宣言認定証」が授与された。

(2)神奈川県横浜市の「横浜健康経営認証」

横浜市では、従業員への健康保持・増進への取り組みが将来的に企業の収益性などを高める投資であると捉え、「横浜健康経営認証」を2017年度から取り組んでいる。従業員の健康づくりを経営的な視点から考え、戦略的に実践する健康経営の概念を幅広く普及させるため、健康経営に取り組む事業所を横浜健康経営認証事業所として認証するものである。横浜市には約12万の事業所があるが、うち99%が中小企業。中小企業の最大の資産である従業員への健康経営の実践が注目される中、健康経営に取り組む事業所を認証することにした。

「認証区分」については、事業所内における健康経営の取り組みのPDCAサイクル状況を、「経営者の理解と関与」「健康経営の推進」「取り組みの評価」の視点から評価し、以下の三つの区分で認証を行う。

クラスA 経営者が健康経営の概念を理解し、健康経営宣言などで明文化しているもの
クラスAA クラスAの要件を満たし、さらに健康経営の推進体制の整備、従業員の健康課題の把握及び健康課題に即した取り組みを行っているもの
クラスAAA クラスAAの要件を満たし、さらに健康課題に即した取り組みの結果を評価し、次の取り組みにつなげているもの

認証されることメリットとしては、以下のような事項がある

  • 横浜健康経営認証マークを使用できる
  • 横浜市のホームページなどでPRされる
  • 横浜市中小企業融資制度で金利優遇・保証料助成を受けられる(一定の条件あり)
  • 保健士、栄養士、中小企業診断士、社会保険労務士、産業カウンセラーなどによる訪問相談などが利用できる
  • 体組成計などの健康測定機器の貸し出しを利用できる

(横浜市WEBサイトより引用)

(3)愛知県大府市の「大府市企業チャレンジ」

地域での高齢化が急速に進む中、従業員の健康管理が事業所にとって大きな課題となっている。愛知県大府市では、よりいっそうの健康づくりを推進するため、2017年度より健康経営・健康づくりに取り組む事業所を募集し、取り組みが優秀な事業所を「大府市企業チャレンジ」として表彰・公表することにした。健康経営に取り組むことにより、業務効率の向上や欠勤率の低下、生産性の向上やリクルート効果、医療費負担などの軽減、企業の社内的、対外的イメージの向上などが期待されている。

応募については、「健診を全従業員受診」「法令を遵守」を必須項目として、「大府市企業チャレンジ」取り組み項目の中から、自社で取り組む内容を3項目以上選び、「企業チャレンジ宣言書」を提出する。具体的な取り組み例を見ると、

  • 喫煙所の灰皿を撤去し、賞与に「非喫煙者待遇」を設定
  • 週1回のノー残業デーを設定して消灯、通常日は22時消灯
  • 安全衛生委員会で市の出前講座を活用(心の健康、たばこ関係)
  • 毎朝のラジオ体操の継続

などが挙がっている。また、企業からは下記のような声も寄せられており、今後の展開が期待される。

  • 申請書の項目を見て、もっとやれることがあると気付いたので、少しずつ取り組みたい
  • 全職員が気軽に参加できる事業を選んで実施したことで、健康づくりは特別なことではないとの意識付けになった
  • 分煙はできているので、今後は禁煙者の支援を進めたい
  • 思ったより自社が色々取り組んでいることに気付けた

(大府市WEBサイトより引用)

3.健康経営への団体・企業・健保の取り組み

ここでは、健康経営推進に向けて、一部の健康経営関連団体、民間企業・健康保険組合に関係した取り組みを紹介する。

[1]健康経営研究会

「健康経営」という考えを提唱し、国や省庁、経済界、自治体、企業、健保などに普及し続ける

「健康経営研究会」は、「健康経営」を企業マネジメントの新たな手法として、企業と従業員の双方に利点を見出せるより良い関係の構築を目指して、2006年に設立された。
「健康経営」とは企業が従業員の健康に配慮することによって、経営面においても大きな成果が期待できる、との基盤に立ち、健康管理を経営的視点からとらえ、戦略的に実践することと定義している。主な活動内容は以下の通りである。

  1. 企業や健康保健組合に対して「健康経営」の普及啓発につながるセミナーなどの情報発信
  2. 企業や健康保険組合が行う健康づくりのアセスメント及びコンサルティング
  3. 企業や健康保険組合が行う健康づくり事業のアウトソーシング支援
  4. 企業や健康保険組合の健康づくりに関わるスタッフに対しての教育
  5. 企業や健康保健組合の健康づくりに関する調査・研究
  6. その他健康経営の普及・啓発に関わる活動

[2]KENKO企業会

経営トップが主導、社員と家族65万人のバーチャル健康コミュニティ

「KENKO企業会」は2015年、テルモや第一生命保険などの社員の健康増進に取り組む企業14社によって発足した。2017年12月現在59社が加盟し、社員とその家族を合わせて100万人を超える規模になっている。

同会の特徴は、経営トップのリーダーシップの下、社員だけでなく、その家族も含めた健康増進を目指すコミュニティであること。会員各企業がボランティアベースで集い、それぞれの健康管理プログラム・ノウハウの共有や、新しいアイデアを出し合うことで、各社の取り組みの向上に繋げていること。

具体的には、「ウォーキング」、「食事」、「禁煙」、「メンタルヘルス」をテーマに企業合同で取り組みがされており、さらに2017年からは、「睡眠」、「データヘルス推進」、「健康経営優良法人(ホワイト500)の認定を目指す」、「肥満・高血圧・糖尿病等の疾患対策」も新たなテーマに加えて議論している。将来的には企業会での取り組み結果を集約、検証し、より効果的な手法の開発や施策の改良改善を行い、広く社会にも共有することで、企業の枠を超え、健康経営推進への貢献を目指している。

[3]ウェルネス経営協議会

「ウェルネス経営」で得られたデータを共有し、さらなる健康増進を目指す

「ウェルネス経営協議会」は、従業員の健康増進に全社的に取り組む「ウェルネス経営」に賛同したFiNCなどの20社が発起人となって2015年に立ち上げた団体。ウェルネス経営とは、企業が従業員の心と体の健康を重要な経営資源として捉え、その増進に全社的に取り組んでいく新しい経営手法。設立の目的としては、以下の四つを掲げている。

  1. 健康寿命の延伸
  2. ビッグデータや人工知能などを駆使した21世紀型の健康経営の導入
  3. 医療費負担の削減及び健康保険組合の財務内容改善
  4. 人財に対して積極的に健康投資を行うことによる生産性の向上

同協議会では、ウェルネス経営とCWO(Chief Wellness Officer)の考え方を大企業・中小企業を問わず、全産業対象に啓蒙するために、以下に記した活動を行う。

  • 従業員の健康と生産性や企業業績の関係についての研究
  • 生活習慣データの一元的管理・蓄積による予防分野の研究
  • 健診受診率向上のための諸活動
  • 食育、運動習慣づくりのための必要性を啓蒙する諸活動
  • 前述の項目の会員相互の情報の交換と共有
  • その他、協議会の目的達成に必要な事業

また同協議会は、各企業間で健康増進に関する取り組みやデータを共有し、従業員のさらなる健康増進を目指すと同時に、ウェルネス経営が社会全体にもたらす効果を検証し、活動を通じて得られたデータを社内だけではなく国内外に発信することで、その活動の輪の拡大を目指している。

[4]健康と経営を考える会

会社と健康保険組合が一体となって健康経営に向けた活動を行う

「健康と経営を考える会」は2013年、ミナケアやローソンなど、予防医療や産業保健に携わる発起人が、これからの産業保健や保健事業について、医師や行政などの専門家も交え、既存の枠を超えて前進させる方法はないかと検討し、設立した団体。
設立の趣意は、以下の4点である。

  1. 会社と健康保険組合が一体となり「社員および家族の健康作り」について「推進する仕組み」を、検討し、追及していく。
  2. 会社と健康保険組合が、同じテーブルについて課題を検討すると同時に「医師や行政などの専門家を交えた人的交流」を図ると共に、それぞれの視点における検討課題や、解決策について検討を深めていく。
  3. 「会の活動で得られた情報、研究成果」についてシンポジウム開催などを通じ、会員以外にも広く発信し、会の情報受発信力を高める。
  4. 「社員、家族の健康を維持増進する為の共通課題」(重症化予防など)に対しては、「モデル事業を推進」すると共に「成功事例の共有」を図る。

この理念に賛同した「健康保険組合・企業・行政・大学・医師」等が加盟した団体として運営を行い、「企業の生産性や収支に多大な影響を及ぼす社員の健康を維持・増進するために、会社と健保組合が一体となり、いかに効果的、かつ効率良くその仕組みを構築し、推進していくか-健康経営の構築」について、検討、議論を重ねている。

年間1回のシンポジウムと3回の定例会を開催している。主なテーマは以下の通り。

  • 健康経営の構築
    モデル事業の推進と成功事例の共有
  • データヘルス計画の推進
    レセプト・健診情報などのデータ分析に基づき、保健事業をPDCAサイクルで効果的・効率的に実施するための事業計画
  • コラボへルス
    健康保険組合と会社が協力して、労働者の健康の増進に向けた取り組みを効果的に行うもの
  • 医療コスト抑制のための予防型医療
  • 健康診断分析と保健事業・医療コスト抑制のための予防型医療

[5]企業の健康経営の取り組み事例

民間企業が健康経営に取り組んでいくためには、どのような考え方の下、どのような対応(ステップ)を踏んで行っていけばいいのか。ここでは、健康経営銘柄や健康経営優良法人ホワイト500の「認定要件」をベースに、以下、具体的な企業の取り組みを紹介していく。

1)経営理念(経営者の自覚)

まず経営者が、社内外に「健康経営」を発信することが必須である。そのために、健康保持・増進に対する全社方針を明文化し、情報を開示することが重要だ。

【経営者による「健康経営宣言」の例】
小売 健康は本人だけでなく、家族を含めた望みであり、会社の発展にとっても欠かせない要素です。家庭生活が充実してこそ、仕事で最高のパフォーマンスを発揮できます。また、健康寿命延伸は、労働力の確保、医療費削減など、日本における社会の要請でもあります。経営として、グループ社員の健康の維持向上に努めることを宣言します。
電気機器 社員の健康管理を重視し、「健康経営」の実現に向けた取り組みを推進します。「健康経営宣言」に基づく、健康増進活動に取り組む社員への積極的な支援と、組織的な健康増進施策の推進により、社員の健康意識(ヘルスリテラシー)を高め、「社会から高く評価され、信頼されるとともに、社員が健康で活き活きと活躍できる」企業グループを目指します。

2)組織体制

「健康経営」を組織として進めていく場合、実効性を高めていくためには、その責任者(CHO:チーフヘルスオフィサー、最高健康責任者)が経営トップ、または担当役員であることが不可欠である。

【「組織体制」の構築に取り組んだ企業例】
化学 社員、お客様、社会全体の健康に貢献することが会社の存在価値であると考え、それに対する事業展開をさらに強化するために、「チーフヘルスオフィサー:最高健康責任者」を設置した。チーフヘルスオフィサーには副社長が就任。健康を上位概念に置いた経営方針をより明確にし、社員だけでなく社会全体の健康を支える組織体制を整えた。
IT 健康経営の実現に向けて、社員の健康を専門で考える部署を作り、本気で取り組む必要があると考え、CHO室を立ち上げた。CHO室で重視しているのが、社員の食事、運動、睡眠、メンタル。社員へのアンケートを実施した上で、問題点の多い順に研修を実施した。今後、社員のヘルスリテラシーが自発的に上がっていく環境作りを目指している。

3)制度・施策の実行

ⅰ)従業員の健康課題の把握と必要な対策の検討

健康経営の推進は、法律で定められた定期健康診断を実施し、自社の従業員の現状と課題をしっかりと把握することからスタートする。その結果を踏まえた上で、必要な施策を検討し、実践に移していくことが肝心だ。

特定健診・特定保健指導の実施

最初に、企業の定期健康診断の受診率の現状を見ると、2017年度時点の特定健康診査(特定健診)の受診者は約2858万人で、年々増加。実施率は全保険者平均で約53%となり、目標の70%には及ばないものの、保険者、医療機関、健診実施期間、専門職などの取り組みによって、着実に実施されている。一方、特定保健指導の全保険者平均の実施率は19.5%にとどまる。目標の45%を上回る優良な保険者も一部あるものの、健保組合・共済組合の3割は実施率が10%未満であるなど、保険者間の格差が大きい。さらなる実施率の向上を達成するには、制度の運用の見直しだけでなく、ICT(情報通信技術)の活用など、現場での効率化の工夫や運用の改善が欠かせない(厚生労働省「2017年度特定健康診査・特定保健指導の実施状況(概要)」)。

このような現状の中、企業では受診率を高めるためにさまざまな工夫を凝らしている。

【受診率向上に取り組んだ企業例】
小売 健診を受けなかった社員に数回、受診を勧める通知を出した。それでも受診しなかった場合、本人の賞与を15%、直属の上司の賞与も10%減額するという厳しい措置を行った。その結果、受診率100%を達成。経営トップ直下、人事部内に設置した「社員健康チーム」や健康保健組合、労働組合とも連携し、常に社員へメッセージを発信し、コミュニケーションを図ったことが大きい。
繊維 従業員の多数を占める女性社員への施策として、外部医療機関で乳がん・子宮がん検診を、定期検診時にセットで受診できる環境整備や事業所内でのバス検診を実施した。その結果、乳がんの受診率は81.0%、子宮がんの受診率は65.1%と、一般企業の受診率に比較して非常に高い水準となった。また、有所有者の二次検診受診率も、乳がん87.3%、子宮がん84.4%と向上している。
2015年12月から義務化された「ストレスチェック」への対応

第1章(2)健康経営がクローズアップされる背景でも記載した通り、「労働安全衛生法」が改正され、労働者が50人以上いる事業所では、2015年12月から毎年1回、全ての労働者に対して実施することが義務付けられた。

導入前の準備として、会社として「メンタルヘルス不調の未然防止のためにストレスチェックを実施する」旨の方針を示すこと。次に事業所の衛生委員会で、実施方法などを話し合う。そして、話し合って決まったことを社内規程として明文化し、全ての労働者にその内容を周知させ、実施体制・役割分担を決めていくことである。何よりストレスチェック制度は、労働者の個人情報が適切に保護され、不正な目的で利用されないようにすることで、労働者も安心して受け、適切な対応や改善につなげられる仕組みである。このことを十分念頭に置き、情報の取り扱いに留意するとともに、不利益な取り扱いを防止しなければならない。

ⅱ)健康経営の実践に向けた、基礎的な土台づくりとワークエンゲージメントの事例

従業員の健康課題の把握と必要な対策が検討された後、次に取り組むことは健康経営の実践に向けた、基礎的な土台づくりとワークエンゲージメント(仕事に対する充実感・意欲)である。ここでは、「従業員の教育機会」「ワークライフバランス(就業時間、残業時間削減、育児休業(関連)、介護休業・休暇(関連)、短時間勤務、その他休暇、リモートワーク)」に関する取り組みについて、紹介する。

●従業員の教育機会の事例

食品 新入社員、中堅社員、管理職など、それぞれの立場によって健康管理の観点は違う。そこで、対象に応じた産業医による「階層別研修」を実施している。特に、新任管理職や中堅社員には、自らの健康管理だけではなく、部下や同僚に心身の不調を感じ取ることの大切さなどを、啓発している。

●ワークライフバランスの事例

・就業時間
総合商社 経営トップの意向の下、「朝型勤務」を導入した。20:00~22:00の勤務は「原則禁止」、深夜勤務(22:00~翌5:00)は「禁止」とし、仕事が残っている場合は「翌日朝勤務」へシフトする。その際、翌日朝勤務(5:00〜8:00)に対するインセンティブとして、深夜勤務と同様の割増賃金の支給や、軽食の無料配布を実施している。このような朝型勤務による成果は、時間外勤務時間の削減を中心に大きく出ており、社員の健康に影響を与える長時間労働の是正に繋がっている。
食品 「良いインプットが無ければ、良いアウトプットは生まれない」という考え方の下、「仕事が終わったらすぐに帰る。退社後の時間は、自己の成長のため、家族のため、趣味のために使う。一日を二度楽しむこと」を勧めている。具体的な取り組みとしては、「フレックスタイム制度」のほか、「在宅勤務制度」、さらには毎週水曜日を「早く帰るDay」として、残業時間の短縮を推進している。
・残業時間削減の事例
製造 限られた時間の中、社員一人ひとりが成果を発揮できる強い組織を作るため、残業時間の削減を進めている。具体的な取り組みとしては、毎週水曜日および年に1回の全社ノー残業デーを実施しているほか、長時間の残業をする社員と上司への人事部面談の実施や、人事部内に労務管理プロジェクトを立ち上げて職場における労務管理ルール徹底(休日出社の規制、19:00以降のパソコン使用の事前申告など)と、定期的な指導を行っている。
精密機器 効率的な働き方により個々人の仕事と生活の双方の充実を可能にする「ワークライフ・マネジメント推進」を目指し、長時間労働の削減に取り組んでいる。残業時間や年休取得を踏まえた年間総実労働時間の目標値の設定と毎月の実績確認のほか、ノー残業デーや会議ルールの設定、TV会議システムの活用やサテライトオフィス利用による事業所間移動の削減、フレックスタイム制を活用したメリハリのある働き方の促進(定時退社推進と20時超の残業原則禁止)などに取り組んでいる。
・育児休業(関連)の事例
通信 育児休職中も職場とのつながりを支援するために、出産休暇取得前、復職後に、本人、直属上長、ダイバーシティ推進室による三者面談を実施。育児休職期間中には、社内情報共有と上司との連絡のため、モバイル端末の貸与、社内コミュニティ(SNS)の活用やフォーラムなどにより、職場とのつながりをサポートしている。
電機機器 育児や介護の多様なニーズに合わせ、休業・勤務制度を拡充した。具体的には、子どもが小学校に入学する4月末までの間で希望する時期に730日までを休業可能とし、子どもが小学校卒業まで勤務時間を短縮、時間外労働の免除・制限が適用可能とした。また社宅敷地内に「事業所内保育施設」を設置したほか、夫婦共に就業している場合には一定の条件のもとで託児サービス費用の半額を会社が補助する制度を導入するなどの取り組みを行った。
・介護休業・休暇(関連)の事例
機械 具体的な取り組みとして、「介護休業(無給):被介護者一人につき通算で最大3年間、介護のための休業が可能。分割取得も可能で分割回数に制限なし。介護休業期間中も一時金の一部支給あり」「介護休暇(無給):被介護者の人数にかかわらず年10日まで取得可能(半日単位での取得も可能)」など介護休業・休暇制度のほか、「消滅年休の復活特例措置(有給):未使用のため消滅した過去の年次休暇について、介護のために休業する場合に最大60日まで復活使用可能(半日単位での使用も可能)」「短時間勤務・フレックスタイム制度:申し出により、短時間勤務制度、フレックスタイム制度、所定外労働の免除のいずれかの利用が可能」などを実施した。
化学 仕事と介護の両立支援を図るため、介護専門の相談窓口を持つ社外の企業・団体との提携、社内の人事勤労担当者向けの相談対応、マニュアルの作成などを通じて、介護相談体制を整備した。また、仕事と介護の両立に向けた心構えや基本知識をまとめた「介護ハンドブック」を発行したほか、全国各地の事業場で介護セミナー、座談会、相談会を開催した。
・短時間勤務の事例
運輸 本社部門に関して、短時間勤務を導入した。具体的には、小学校3年生までの子を養育、または従業員の配偶者・子・父母の看護(対象者一人につき上限3年)に関して、本人の申し出により1時間または2時間の勤務時間短縮の選択ができるというもの。
金融 勤続1年以上の従業員で、子が小学校就学の始期に達する期間まで取得が可能な「短時間勤務」を導入した。「子が満1歳に達するまでは、1日当たり1時間30分を限度として短縮が可能、また子が満1歳から小学校就学の始期に達するまでは、1日の所定労働時間を6時間にすることが可能となっている。
・リモートワークの事例
自動車 従業員のワークとライフの質の向上を目的に「在宅勤務」の利用上限を、月40時間利用できるよう拡充した。制度を拡充したことで、一人ひとりの働く時間の選択肢がより拡がり、効率化や生産性の向上を実現することが可能となった。在宅勤務の推進に際しては、専用のサイトを立ち上げて活用方法の好事例を共有し、働き方の改革やチームの生産性向上につながるような活動を継続して行っている。
化学 生産性とワークライフバランス向上のため、働く場所・時間を社員が自由に選べる制度を導入した。上司に申請すれば、理由を問わず会社以外の場所(自宅、カフェ、図書館など)でも勤務できるというもの。平日の6時~21時の間で、自由に勤務時間や休憩時間を決められる。全社員が対象で、期間や日数の制限はない。

ⅲ)従業員の心と身体の健康づくりに向けた具体的対策

土台作りができたら、次は従業員の心と身体の健康づくりに向けた具体的な対策へと取り組む必要がある。ここでは、「食生活」「運動増進」「受動喫煙対策」「過重労働対策」「感染症予防」などに関する企業事例・対応を紹介する。

・食生活
IT 社員食堂では、栄養バランスの整ったメニューや低カロリーメニューを用意し、食事を通して従業員の健康を支援している。また、食育セミナー、塩分対策セミナー、脂肪肝と健康セミナーなど、「食」に関するさまざまなテーマのセミナーを、社内で定期的に開催している。
食品 「グラノーラ」が、パン、米に次ぐ「第三の朝食」として、存在感を高めている。1食分のカロリーとしてはかなり控えめで、ミネラルが豊富で栄養価も高いことから、健康意識の高まりとともに人気が出てきた。そんなグラノーラを、オフィスで社員に無料提供するという取り組みを支援している。
・運動増進の事例
化学 本社、開発、生産、営業拠点の社員が参加し、ICTツールを活用したウォーキングを促進している。健康意識の高まりから、参加者は前年度比で2倍に増えた。
サービス 身体への負担が少ない有酸素運動であるウォーキングの習慣化により、健康的な毎日を過ごすことを目的に、月間の1日平均歩数が1万歩を超えた社員に対して、月間健康報奨金を支給している。
・受動喫煙対策の事例
化学 社員の禁煙を支援するため、禁煙外来の費用補助、産業医による社内禁煙外来、禁煙セミナー、喫煙所閉鎖、敷地内全面禁煙などを実施している。
保険 毎週水曜日を禁煙デーと定め、本社ビルのほか、全国営業拠点を含む占有スペースを終日禁煙とした。また、社員の禁煙を全社を挙げてサポートするため、禁煙治療費の一部負担、禁煙支援に向けた社内イベント・セミナーを開催している。
・過重労働対策の事例
石油・石炭 過重労働対策として、「20時ルール」「日曜日は出社禁止」「ノー残業デー」「時間外労働命令フローの徹底」「管理職は率先して休む」などの施策を展開している。また、年休を取得しやすい環境を設定するため、会社として年休取得奨励日を設定し、周知している。
・感染症予防(インフルエンザ予防接種)の事例
感染症予防の中でも、毎年10月からインフルエンザの予防接種をするよう、各地で啓蒙活動が行われている。毎年冬に流行する季節性インフルエンザは11月~3月がピーク。ワクチン接種後、2週間ほどで抗体ができるとされているので、流行が始まる10月~12月中旬までに予防接種をすませるのが望ましい。ただ、予防接種をするかどうかは任意のため、会社としては職場の消毒や清掃、インフルエンザの衛生管理の啓発など、地道なインフルエンザ対策を行うことで、感染者を最小限に抑えることが求められる。

4)評価・改善

各種取り組みに対する「評価・改善」を実施する。取り組みの効果検証については、以下のような観点から検証を行う。

  • 健康診断結果や生活習慣の改善状況を把握
  • 健康診断結果や生活習慣の改善と施策との相関を分析
  • 休職率や欠勤率などの改善状況を把握
  • 休職率や欠勤率などの改善と施策との相関を分析
  • 医療費など、費用対効果を分析・算出

また、効果検証を行っている場合、効果検証を踏まえて次年度の取り組みを改善しているかどうかも合わせて確認しておく。

さらに、保険者との連携を確認する必要がある。従業員の健康保持・増進の取り組みを推進するために健保等保険者と協議している内容を確認すると同時に、健保等保険者と取り組みについて連携するために会議を開催しているかどうかを確認しておく。その際、開催頻度も合わせて確認することが重要だ。

5)法令順守、リスクマネジメント

最後に、法令順守、リスクマネジメントの観点から、従業員の健康管理に関する法令について、違反をしていないかどうかを確認する。

4.今後の課題~真に求められる健康経営とは

[1]平均寿命と健康寿命という考え方

「平均寿命」とは、「0歳の者が、あと平均何年生きられるかを示した年数」で、厚生労働省が作成している「生命表」から得ることができる。一方、「健康寿命」とはWHO(世界保健機関)が提唱した指標で、「平均寿命のうち、健康で活動的に暮らせる期間」のこと。平均寿命から、衰弱・病気・地方などによる介護期間を差し引いて、算出される。

着目すべきは、平均寿命と健康寿命との「差」が、日常生活に制限のある「不健康な期間」を意味するということ。具体的に、平均寿命と健康寿命の差を見ると、下図にあるように2016年時点で男性8.84年、女性12.35年と縮小傾向にある。疾病予防と健康増進、介護予防などによってその差をさらに短縮することができれば、個人の生活の質の低下を防ぐとともに、社会保障負担の軽減も期待できる。

【平均寿命と健康寿命の差(2016年)】
  男性 女性
平均寿命(年) 80.98 87.14
健康寿命(年) 72.14 74.79
差(年) ▲8.84 ▲12.35

*出典:内閣府「平成30年版高齢社会白書」

高齢化が進む今後、平均寿命の延伸とともに、健康な期間だけではなく不健康な期間も延びることが十分予想される。国民の健康づくりのいっそうの推進を図り、平均寿命の延び以上に健康寿命を延ばすことは、個人の生活の質の低下を防ぐ観点からも、社会的負担を軽減する観点からも非常に重要である。

[2]健康経営が企業にもたらす恩恵とは?

「健康投資」という考え方

近年、企業・健康保険組合を取り巻く状況は変化し、「従業員およびその家族の健康」という要素が、企業経営に大きな影響を与えている。増加し続ける国民医療費は、健康保険組合などの財政悪化を招き、結果として健康保険料の上昇という形で企業負担の増加につながっている。また、生産年齢人口が減少し、労働力確保のために従業員の雇用延長を図らなければならない状況では、従業員の健康状態の悪化は企業の生産性を低下させることになる。企業負担の増加や生産性の低下を防ぐためには、健康保険組合や従業員に、個人やその家族の健康保持・増進の取り組みを委ねるだけでなく、企業が自ら従業員の健康保持・増進に積極的に関与する必要がある。

つまり、社会環境の変化に伴い、企業は健康保険組合などと連携し、従業員の健康保持・増進に主体的に関与することが必要となっているのだ。企業にとって従業員の健康維保持・増進を行うことは、医療費の適正化や生産性や企業イメージの向上につながることであり、そうした取り組みに必要な経費は単なる「コスト」ではなく、将来に向けた「投資」であると捉えることができる。これが「健康投資」の基本的な考え方である。

「健康投資」がもたらすメリット

健康経営に取り組むことは、従業員の健康保持・増進、生産性や企業イメージの向上につながるものであり、ひいては組織の活性化、企業業績の向上にも寄与するものと考えられる。事実、経済産業省ヘルスケア産業課「企業の健康投資ガイドブック(2014年)」によると、いくつかの先行事例では健康投資による効果が定量的に示されている。また、健康投資と企業業績との相関を示すデータも存在する。例えば、厚生労働省が行う健康寿命を延ばそうアワードの受賞企業や株式会社日本政策投資銀行の「健康経営格付」を取得した企業について、TOPIXとの比較において株価が優位に推移しており、市場から高く評価されていることが分かる。また、アメリカでは職場における健康と安全性に対する取り組みが高く評価された企業群は、市場においても高く評価されている。まさに、従業員の健康と安全に注力することが、市場における競争力の優位性を保つことになっているのだ。

こうした「健康投資」の観点からも、企業は従業員の健康に対して積極的に投資することが重要である。特に、未受診者をターゲットにした予防対策。2017年時点で、特定健康診査の未受診者数は約2529万人。ここでは未受診者をターゲットにして、1次予防の網を掛けていくことが重大なポイントとなる。

[3]「ウェルビーイング経営」へ

健康経営が発展した形としての「ウェルビーイング経営」とは?

いま、働く環境を考える時に「ウェルビーイング経営」(well-being)という言葉が注目を集めている。武蔵大学経済学部経営学科准教授・森永雄太氏が提唱したもので、従業員のメンタルヘルスややる気、組織への愛着なども含め、職場の活性化へとつながる企業経営の考え方である。

一般的に「健康」と聞くと、「病気でない状態」と考える方は多い。しかし、WHOの定義によると、「健康」とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、満たされた状態にあることを指すという。ウェルビーイング経営とは、こうした「良好な状態」を目指す経営の在り方だ。

これまで、日本企業では健康管理という考え方が浸透しており、会社が社員の身体的健康に配慮して健康診断や予防接種を実施するケースが一般的だった。それに対して、ウェルビーイング経営は体の健康だけでなく、幅広く良好な状態を目指すのが特徴であり、アメリカをはじめ欧米の成長企業がウェルビーイングな職場づくりに取り組んでいる。

ウェルビーイング経営が求めるもの

社員にとって自社の職場が快適でどこよりも一番生産的だと感じられ、来るとワクワクする気持ちよいオフィス空間にすることが、ウェルビーイング経営における職場づくりの重要なテーマである。企業としても、積極的に健康経営に取り組むことによって、企業価値を高めることにつながる。

そもそも、健康経営が日本で注目されるようになったのは、医療費の増大という切実な問題があったからだ。もちろんこれは喫緊の課題であり、早急に手を打たなければならないのは確かである。しかしこれを解決するだけでは、昨今の若い人たちを巻き込んでいくことは難しい。

多くの企業が「社員の健康管理」を重視しているが、それは高度成長期、工場で大量生産を行っていた時代から受け継がれてきたもの。工場で働く人たちが、労働安全衛生の観点から、健康を害さないよう、労働が働く人にとって悪とならないように管理するものだった。しかし、今や働く人を取り巻く環境は大きく変化し、人によって価値観もさまざま。まさに今、企業には新たな健康に対する取り組みが求められているのである。

丸の内WELL-BEING宣言

丸の内地域の企業経営者層による健康経営の勉強会「丸の内健康経営倶楽部」は、有識者を交え健康経営に関する議論を重ね、2017年4月に「丸の内WELL-BEING宣言」を発表。従業員の健康増進は経営の重要なテーマであり、従来主流だった不健康要因の除去にとどまらない「積極的健康」の増進に取り組むことを宣言した。

また、従業員が身体的、精神的、社会的に良好(WELL-BEING=幸福)な状態を基盤に、「高いやりがい」「働きがい(ワークエンゲージメント)」を感じられる状態を醸成することが企業の持続的成長に不可欠であるとの考えを共有し、「丸の内健康経営倶楽部」に参加する各社が以下の活動に取り組むことを掲げている。

丸の内WELL-BEING宣言

  1. 個社の取り組み(1)=「健康な会社」づくり
    従業員の高いやりがい、働き甲斐を生む企業の理念、ビジョン、ミッションを、実業を通じて社会に提示できているかを常に確認し、「社会から高い評価と信頼を得て、従業員が誇りに思える企業(=健康な会社)」づくりを進める。
  2. 個社の取り組み(2)=自律支援
    昨今の働き方改革を好機と捉え、企業の掲げる目標を共有することで働き甲斐を醸成しながら、従業員が自己選択的にキャリア形成と心身の健康を両立できる人材になるよう、従業員の自律を支援する。
  3. 企業同士の取り組み=知見の共有、連携及び発信
    参加企業による「連絡会」を設置し、各社の取り組み、知見、経験を共有するとともに、トップランナー方式により、先進的な取り組みを倶楽部参加企業間で合同で実施するなど、倶楽部だからこそ可能となる協同活動を展開する。
    また、これらの活動で得られた知見を、広く社会に発信し、産業界全体の活性化、日本全体の成長に繋げる。

丸の内WELL-BEING宣言

企画・編集:『日本の人事部』編集部


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「生活習慣病」「がん」「メンタルヘルス」「女性の健康」「たばこ」五つの柱で進める健康経営~「JAL Wellness」の目指すもの~:日本航空株式会社人財本部 健康管理部 兼 運航本部 運航乗員健康管理部 今村 厳一さん

「全社員の物心両面の幸福の追求」を企業理念に掲げる日本航空(JAL)グループ。その実現には社員の「心身の健康」が不可欠という考えのもと、健康推進プロジェクト「JAL Wellness」を発足。「生活習...

2018/01/18 関連キーワード:健康経営 企業事例 生活習慣病 メンタルヘルス がん たばこ 女性の健康