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「健康で長く働ける社会」は、日本が世界に発信できる新たな価値~経済産業省が目指す健康経営の将来像とは~

経済産業省 ヘルスケア産業課長

西川 和見さん

経済産業省 ヘルスケア産業課長 西川 和見さん

従業員が健康を維持することで、生産性や組織力、ひいては外部評価の向上につながる――。「健康経営」を推進することは、業種や規模を問わず多くの企業に共通する課題となっています。経済産業省では2014年度に「健康経営銘柄」の選定、2016年度に「健康経営優良法人」の認定を開始するなど、企業の健康経営を支援してきました。その最前線で企画立案に携わっているのが、ヘルスケア産業課長の西川和見さん。なぜ日本企業は健康経営に取り組むべきなのか、何を目指して進むべきなのか。政府および経済産業省が目指す将来像を交えて、語っていただきました。

プロフィール
西川 和見さん(にしかわ・かずみ)

1996年に通商産業省(現経済産業省)入省。通商機構部(WTOドーハラウンド交渉)、中小企業庁金融課(リーマンショック後の中小企業の資金繰り対策)、経済産業大臣官房政策企画委員(総合調整)、独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)シンガポール産業調査員、通商政策局通商戦略室長などを経て2017年7月より現職。日本経済の成長に向けて、企業の健康経営施策を支援する。

「健康でいきいき働く」ことが、今後の日本経済を支える

「健康経営」は今や企業人事における大きなトピックスとなっていますが、そもそも「健康」という観点において、現在の日本にはどのような課題があるとお考えですか。

ご承知の通り、日本は世界でも例を見ない超高齢社会を迎えようとしています。平均寿命は世界一。でも、どうせなら寝たきりの状態で長生きするより、健康でいきいき過ごせる方がいいですよね。そこで、近年では単に寿命を延ばすのではなく、健康を維持したまま年を重ねていく「健康寿命」を延ばす必要性が叫ばれています。

内閣府の『平成27年版高齢社会白書』によると、女性の平均寿命が86.61歳であるのに対して健康寿命は74.21歳、男性の場合は平均寿命が80.21歳であるのに対して健康寿命は71.19歳。男女ともに10年前後の「不健康寿命」があるわけです。日本では、高い医療技術によって長生きできる人が増えていますが、今後はさらに健康寿命を伸ばし、平均寿命との差を縮めていくことが大きな課題と言えます。

健康でいきいき働ける人が増えれば、高齢化による労働人口の減少が進んでも、日本経済の生産性低下を抑えることができるかもしれません。

人口の変動をすぐに変えることはできませんが、日本社会全体の健康度を高めるための取り組みはすぐにでも始めることができます。これが、将来的な日本経済全体の生産性を維持していくことにつながると考えています。

同じ人数でも、健康な人の割合が増えれば生産性は上がります。高齢者も健康を維持することで、積極的に社会参加を続けられるはずです。また、高齢者が健康であれば、家族や親類に面倒を見てもらう必要がなくなる。介護離職が減少することも、生産性維持につながっていくでしょう。そうした意味では、「健康に投資して生産性を維持する、高める」ことの重要性は国全体でも企業でも同じだと言えます。

世界に目を向ければ、ASEAN諸国などの新興国には若い人がたくさんいます。しかしそうした国々も、いずれは高齢化の局面を迎える。日本が「長く健康に活躍できる人」を増やす取り組みに成功すれば、そのノウハウを海外へ新しい価値として発信することもできるのではないでしょうか。かつて日本は、高度な技術や品質の高い製品などによって、価値を提供してきました。これからは「働き方」も価値として示していけると考えています。

健康経営によってもたらされる「四つの好影響」

健康経営を推進することで、企業にはどのような効果が期待できるのでしょうか。

四つの好影響があると考えています。一つ目は、組織の生産性向上。従業員のアブセンティーイズム(Absenteeism:欠勤や遅刻早退、休業を余儀なくされ、業務に就けない状態)やプレゼンティーイズム(Presenteeism:出勤していても、心身の健康上の問題に依って十分なパフォーマンスを発揮できない状態)を改善することにより、組織全体の生産性を向上させることができます。

二つ目は組織力の向上です。健康経営に取り組むためには職場の風通しを良くすることが必要なので、必然的にコミュニケーションも活性化します。会社が苦しい局面に陥った際に立ち直る力も向上するのではないでしょうか。

三つ目は外部評価が高まること。この場合の外部評価とは、「資本市場からの評価」と「労働市場からの評価」の二つに分けられます。資本市場からの評価とは、健康経営に取り組むことで銀行や証券取引所などから将来性が高いと認識してもらえること。長期的に発展していく企業だと評価されれば、資金調達力や信用力、営業力も高まっていくでしょう。一方、労働市場からの評価は、従業員の健康と向き合い、教育や訓練に長期的な投資を行っている企業だと認識されることで、採用への好影響が期待できることを指します。

四つ目の好影響は、企業から社会の活性化ができることです。従業員は、その地域の構成員であり消費者でもある。健康経営に取り組む企業が多ければ多いほど、地域全体が健康になり、活力が高まるでしょう。消費が活発になれば、企業の売り上げ向上も期待できます。

▼健康経営によって期待できる四つの好影響
(1)組織の生産性向上 従業員のアブセンティーイズムやプレゼンティーイズムを改善することで、組織全体の生産性を向上させることができる
(2)組織力の向上 職場の風通しがよくなり、コミュニケーションが活性化することで、組織力向上につながる
(3)外部評価の向上 「資本市場からの評価」と「労働市場からの評価」の向上が期待できる
(4)社会の活性化 健康経営に取り組む企業が増えることで、地域全体の健康増進や活性化が期待できる

これらの好影響を、企業は十分に認識していると思いますか。

難しいところですね。率直に言うと、今の日本では三つ目の外部評価、特に労働市場からの評価に注目している企業が多いのではないでしょうか。有効求人倍率が改善し、人材確保がますます難しくなっていく中で、健康経営の促進によるイメージアップが、有効な手段であることは事実ですから。

そこで、今後は他の価値にも注目してもらえるよう、働きかけていきたいと思っています。労働市場からの評価を理由に健康経営に着手することは、取り組みとして本質的ではありません。特に訴えていきたいのは、一つ目の好影響です。従業員が健康になることでアブセンティーイズムやプレゼンティーイズムが改善され、生産性が高まっていく。それによって企業の生産性が上がり、業績向上につながる、ということを伝えたいと思っています。

健康経営が不可欠であるという「ロジックとエビデンス」を示していく

労働市場からの評価だけでなく、その他の好影響もあることを企業に伝えるために、経済産業省としてはどのような方法を取っていくのでしょうか。

企業が健康経営に取り組むうえで気になるのは、「健康に投資をすることで本当に生産性が上がるのか」だと思います。それを検証していくのは我々の役割です。現在、先ほどの四つの項目を中心に、「健康経営がいかに企業業績につながるか」というテーマで専門家を交えた調査を行っています。統計学や医学、公衆衛生などの専門家に加え、産業医、会計士、投資家、中小企業経営者など関係者はさまざまです。

ある程度整理できたら、経済産業省で精査したロジックと、広く全国の企業から集めた情報を合わせて、経営者が見たときに、「これは会社の利益につながるな」と感じられるようなエビデンスを提供していきたいと考えています。

経営者や人事担当者には、そういった情報へ積極的にアクセスして活用していくことが求められますね。

経済産業省 ヘルスケア産業課長 西川 和見さん

ぜひ、そうして欲しいですね。職場での健康増進に向けた取り組みは、これまで健康保険組合や全国健康保険協会など、健康管理を担当している保険事業者や部局の方々が主体となって取り組まれてきました。

人事の方々の業務は、人材の採用や教育などが中心で、従業員の健康管理を人事部の優先課題として据えていた企業は、少なかったのではないでしょうか。先ほど述べたように、従業員の健康はこれからの企業の将来性を大きく左右します。今後は採用や教育と並んで、業務の中心に据えるほうが良いと思っています。

経済産業省では健康経営の普及・啓発に向けてさまざまな顕彰制度を設けています。取り組みの詳細や現状についてお聞かせください。

大企業向けの制度としては「健康経営銘柄」があります。これは上場企業約3600社の中から、33業種につき1社ずつ選定するというものです。さらに「健康経営優良法人(大規模法人部門)」、通称ホワイト500として、500法人以上を目指して健康経営に取り組む優良な法人を認定する制度も立ち上げており、現在は235法人が選ばれています。

中小企業では、全国健康保険協会等が実施する「健康宣言」事業に参加する企業が増えています。2017年度は、8月現在で約1万2000社が参加しました。

1万2000社とは、インパクトのある数字ですね。

全国には400万社近い中小企業や小規模事業者が存在しているので、これを多いと見るか少ないと見るかは、意見が分かれるところだと思います。ただ、1万2000社あれば、各地域・各業種の中で健康経営に取り組んでいる企業が少なくとも何社かはある、という状態だと言えるでしょう。今後は、そうした企業を起点に、健康経営に取り組む企業をさらに増やして行きたいと考えています。

「若いうちからの健康管理」を支援する技術開発も

改めて、企業の健康経営の取り組みにはどのようなことを期待していますか。

戦後間もない頃は50歳代だった日本人の平均寿命は、今や80歳代にまで伸びています。冒頭でもお話したように、ここから先は健康寿命をしっかり伸ばさなければいけない、と考えています。

そのためには、若いうちから健康管理にしっかりと取り組むことが必要です。仕事で健康を害して引退するのではなく、バリバリ仕事ができる状態で引退し、第2の人生を迎える。そのためには、若いころに多くの時間を過ごす企業が、従業員の健康に気を配ることが大切なのです。

健康経営を進めていく上で、「若い従業員に自分ごととして考えてもらう」ことの難しさを感じている企業も多いのではないでしょうか。

経済産業省 ヘルスケア産業課長 西川 和見さん

なかなか、若いころから健康に気を配れている人は少ないですよね。でも、案外身近なところから取り組めるんです。例えば私が今日つけているフィットネスリストバンド。これはアメリカ製の健康管理システムですが、専用アプリと連携して歩数や心拍数、移動距離、睡眠時間、食事内容などを管理しています。

こうしたシステムは、端末さえあれば気軽に取り入れることができるのですが、まだまだ日本人の中では使っている人は少ないのが実状です。健康経営に取り組む企業で、積極的に取り入れてみるのも良いのではないでしょうか。

現在、ウェアラブルデバイスの開発ではアメリカが世界の最先端を走っていますが、日本人の多くが使うようになることで、日本企業からも意欲的な製品が発表されるのではないかと期待しています。

経済産業省としての今後の方針や、実施したい取り組みなどについてお聞かせください。

ご紹介したような健康管理機器やアプリについては、専門医が治療の延長として使えるような、より精度の高いシステムの開発を支援していきたいと考えています。

例えば糖尿病の予備軍と診断されている人は、食生活や日常生活においてさまざまなことに気をつけなければいけません。とはいえ医師が24時間ずっと見ているわけにはいかないし、本人も運動した内容や食事内容を記録し続けるのは大変です。こうした作業を自動でやってくれるアプリや端末があれば、医師も患者の普段の生活がよく見えるようになり、有効なアドバイスができるようになるはずです。

そこで経済産業省では、「AMED(国立研究開発法人 日本医療開発研究機構)」という組織を中心に、日本糖尿病学会の協力を得てアプリケーションシステムの効果を検証する実証実験を3ヵ年計画で進めています。実際の糖尿病軽症者に協力してもらい、医師の監修のもとでモニタリングなどを行っています。

テクノロジーが健康寿命を伸ばす助けになるということですね。

はい。専門医の使用に耐える高い精度のIoT機器を作り、活用していく必要があると考えています。もちろん糖尿病で悩んでいるのは日本人だけではありません。この取り組みで得た知見やノウハウは、世界中に発信していけるはずです。

もう一つ大切な視点としては、「女性の健康経営」があります。健康問題は生活習慣病だけではありません。妊娠や出産はもちろん、立ち仕事をしている女性の体調不良やメンタルの課題など、男性とは異なる特有の課題に対しての取り組みや配慮が必要です。こうした研究や提言も強化していきます。

こうした取り組みは、経済産業省だけでできることではありません。厚生労働省をはじめとするその他省庁とも深く連携し、私たちが持つネットワークを活用して進めていきたい、と考えています。病院や介護事業所の中で完結する取り組みでは、経済産業省が役に立てる領域はそんなに多くはありません。しかし職場やコミュニティーと協力し、デジタル技術によって新しいソリューションを作っていくという点では、私たちが経済界や産業界とのネットワークを活用して、二人三脚で厚生労働省とともに取り組んでいくことが大切だと思っています。

健康経営の普及は、安倍政権における重要な成長戦略の一つとして位置づけられています。政府としての大きな目標である「日本の生産性向上」につながっていくものだからです。内閣官房に「健康医療戦略本部」を作り、本部長である安倍総理のもとで私たちや厚生労働省、国土交通省、農林水産省、スポーツ庁、観光庁などさまざまな省庁が連携して取り組みを進めているところです。健康経営を推進している企業、あるいはこれから推進していきたいと考えている企業のみなさんとともに、海外にも発信できる新たなモデルを、積極的に生み出していきたいと考えています。

経済産業省 ヘルスケア産業課長 西川 和見さん

(取材は2017年11月27日東京都・千代田区の経済産業省にて)



2018/01/18

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