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【ヨミ】アサーション

アサーション

アサーション(Assertion)とは、相手を尊重しつつ自分の意見を伝えるコミュニケーション方法の一つです。

 

アサーティブネス(assertiveness)は直訳すると「自己主張」となり、アサーションについて長年にわたり研究してきた臨床心理士である平木典子氏は「アサーションとは自分も相手も大切にする自己表現」であり、「自分の考え、欲求、気持ちなどを率直に、正直に、その場の状況にあった適切な方法で述べること」としています。

 

近年アサーションが注目を集める背景には、職場でのストレス増加があります。ハラスメントの発生件数が増えたことと、テレワークの普及でコミュニケーションでの課題が多くなったことが原因です。ストレスが大きい環境の中で、「対等な立場で話せる」「言いたいことを言える」「相手に不快感をあたえずにNOをいえる」メリットを持つアサーションは、有用なコミュニケーションスキルとして脚光を浴びています。

1.アサーションの概要

相手に配慮しつつも、自分の意志や意見についてきちんと伝えるアサーティブなコミュニケーションを心がけることで、立場の違いを超えて、言いにくいことも相手に理解してもらいやすくなります。さらには、対等なコミュニケーションを行う文化が醸成され、不要な摩擦を生まないことでチームの生産性にもよい影響を与えます。

相手の気分を害することなく、自分の要求をきちんと伝えることは、ビジネスにおける基本的なスキルですが、それができているかどうか、立ち止まって確認する機会はなかなかありません。

伝えたいことが伝えられないままでは、職場での負担やストレスが高くなり、離職やパフォーマンスの低下などにもつながりやすくなってしまいます。アサーションを身に付けることで、今の職場をより働きやすい環境にできます。

発祥は1950年代アメリカ

アサーションの発祥は1950年代のアメリカで、人種差別撤廃運動や、婦人解放運動の中で生まれて浸透したといわれています。1980年代に日本に伝わり、今では学校教育やビジネス研修まで、幅広く応用されるようになりました。

企業で働いていると、上司や部下、取引先などさまざまなステークホルダーとのコミュニケーションが生じます。思った通りに言いたいことが伝えられず、それがストレスになって仕事に悪影響を及ぼすことは少なくありません。

アサーティブなコミュニケーション方法を身に付けることで、職場のコミュニケーションが円滑になり、チームメンバーはより気持ちよく業務に取り組めるようになるでしょう。

2.アサーションが必要とされる背景

●ストレスが多い日本の職場環境

近年、日本の職場環境において、ストレスが増加しているといわれています。どのような原因があるのか、具体的に見ていきましょう。

1)増加する職場内でのパワハラと、ハラスメントリスクへの関心の高まり

厚生労働省が開設しているハラスメントに関する総合サイト「あかるい職場応援団」によると、都道府県労働局への「いじめ・嫌がらせ」に関する相談件数は増加傾向にあります。平成19年度に28,335件だった件数は、令和元年度には87,570件と大幅に増加しており、職場におけるハラスメントは、年を追うごとに大きな社会問題になっています。

また、同省が平成28年度に行った職場のパワーハラスメントに関する実態調査によると、「パワーハラスメントを受けたことがある」という割合は32.5%で、平成24年度の25.3%より増加しています。

企業側でも対策を行っており、パワハラ予防・解決に向けた取り組みを行う企業は52.2%と半数を超えました。企業規模や経営陣の考え方によって取り組み状況は異なりますが、全体として取り組む企業は増加傾向にあるといえるでしょう。

企業がハラスメント対策を行う理由は明確です。職場におけるコミュニケーションの問題が、従業員やその家族、ひいては企業活動そのものに対して大きな影響を及ぼしてしまうからです。

訴訟などに発展した場合、損害賠償やイメージダウンによる不買運動などにつながる恐れもあります。こうした背景から、コミュニケーション改善の方法の一つとして、アサーティブなコミュニケーションがより注目を集めているのです。

2)職場うつ、メンタルヘルスの現状

厚生労働省が発表している令和元年度の精神障がいの労災補償状況を見ると、請求件数は平成27年度の1,515件から、令和元年度には2,060件と大きく増加し、支給決定件数も平成27年度の472件から令和元年度は509件と増加傾向にあります。

精神障がいのきっかけとなった具体的な出来事について見ると、「上司とのトラブル」や「嫌がらせ、いじめ、または暴行を受けた」、「同僚とのトラブル」などが多くなっています。

3)テレワーク時のストレス

パーソル総合研究所は、企業規模10名以上の企業で働く正社員2,700名に対しテレワークに関する調査を行いました。

調査によるとテレワークに対して何かしらの不安を持っているテレワーカーは64.3%と多くを占めました。テレワークに関する不安は、コロナ禍において大きく変化したライフスタイルにおける、新しいタイプのストレス要因といえるでしょう。

具体的には「非対面のやりとりは、相手の気持ちが察しにくく不安」「上司や同僚から仕事をさぼっていると思われていないか不安」などが、上位にランクインしています。

テレワーク環境下では、対面でのやり取りが減ってしまい、同僚との気軽な雑談などのコミュニケーションの機会が少なくなりがちです。

テレワーカーのうち、28.8%が「孤立しているように思う」と回答していることからも、人とのコミュニケーション機会が失われがちなテレワークにおいて、不安や孤独感が増すとわかります。ニューノーマルな働き方が浸透する中で、深刻化している問題の一つといえるでしょう。

3.アサーションを身に付けるメリット

アサーションを身に付けるメリットには、どのようなものがあるのでしょうか。

1)取引先に対して、対等な立場で話せるようになる

アサーションを身に付けることで、取引先に対しても関係が一方通行になってしまうことなく、対等な立場でやりとりできるようになります。

シーン:提案に対して、クライアントが通常考えられないほどの大幅な値引きや、料金に含まれていない過剰なサービスを要求してきた場合

  • 提案している内容が対価に対して適切であり、ほかの顧客でも問題なく成果を出せていると説明する
  • 大幅な値引きや過剰なサービスの提供は難しいと伝える
  • 提案内容を実施して成果を出すことでクライアントもきっと満足するであろうことを伝える

このようにあくまで対等に対話することで、無理難題や過剰な要求によって、後々トラブルになったり、ストレスを感じたりすることも減らせます。適切な条件で契約を行うことは、ビジネスを継続する上で重要です。相手方の企業にとっても成果が出せることはメリットになります。

2)上司や部下に伝えたいことをきちんと伝えられる

アサーティブなコミュニケーションができるようになれば、指示すべきことなどをきちんと伝えられます。

採用して間もない若手社員に辞められたくないから、あるいは上司や同僚に嫌われたくないからといった理由で、言うべきことを言わずにいると、個人にとってもチームにとってもよくありません。

シーン:客先から部下の言動についてクレームが来ていることを本人に伝える

  • いつも積極性をもって業務に取り組んでくれていることに感謝していることをまず伝える
  • 言いづらいが、取引先から連絡が来ており、改善してほしいことがあると伝える
  • これからも一緒にチームを盛り上げてほしいと期待を伝える

業務における貢献に対する感謝も伝えた上で、改善してほしい点もあるので気を付けてほしいと伝えています。普段から相手に感謝していると前置きをすることで、相手も自分に対する指摘を受け入れやすくなっています。

このように改善点をしっかりと指摘することで目標や課題がより明確になれば、個人やチームの生産性も高まるでしょう。

3)相手に不快感をあたえずに「NO」をいえる

NOと相手に伝えられないことは、不満やストレスにつながります。一方、攻撃的に批判すると、相手との関係が悪くなってしまいます。

シーン:荷が重いと感じている大口クライアントの担当にならないか打診されている

  • 前向きに取り組みたい気持ちはある、と表明
  • 自分の能力だと荷が重いと感じておりという不安も同時に伝える
  • 例として、まずは上司と二人で担当し、慣れたら独り立ちすることをプロセスを提案

シーン:急な休日出勤を依頼された

  • 業務に貢献したい気持ちと対応の難しさを同時に伝える
  • 自分から何人かに依頼する代案を挙げる

代案も出しつつ、アサーティブにNOというためのスキルを身に付けられれば、自分を守りながら、職場や取引先との関係性を良好に保てます。働きやすさもよりよくなるはずです。

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企画・編集:『日本の人事部』編集部