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労働災害(労災)

業務中や通勤時に負ったけがや病気は、「労働災害(労災)」の対象となります。近年、日本では仕事のストレスに起因する精神疾患を訴える労働者も増えており、企業・労働者ともに労災について学ぶ必要性が増しています。ここでは、負傷・疾病などによる労災の認定基準、労働者災害補償保険(労災保険)の概要や補償内容に加え、特に企業側の手続きが多く発生する休業(補償)給付について詳しく解説します。(2010/5/24掲載)

1. 労災認定の基準~二種類の労災を軸に

労災とは、労働者が業務・通勤が原因で傷病を負ったり、障害や死亡に至ったりすることです。労災の種類は次の二つに分けられます。

  • 業務災害:業務が原因で負った傷病
  • 通勤災害:通勤時に負った傷病

労災が認定されるにはそれぞれ、どのような要件を満たす必要があるのかを見ていきます。

業務災害における労災認定の基準

業務災害には、「業務上の負傷」と「業務上の疾病」があります。それぞれの労災認定基準を解説します。

業務遂行性と業務起因性

業務災害の認定では、前提として次の二つの要件を満たす必要があります。

  • 業務遂行性:労働者が労働契約に基づいて事業主の支配下にある状態
  • 業務と負った疾病との間に因果関係がある状態

業務災害が認められた事例を見てみましょう。

事例)
土中にハチの巣が埋まっていた工事現場で土砂を削っている最中に、労働者がハチに刺されてショック死した事例が業務災害とみなされた。

一見、ハチに刺されることと業務との関連は薄いように思えます。しかし、当日は現場周辺をハチが飛び回っており、近くにハチの巣があって刺される危険性がありました。これは、業務に内在するリスクが具体化した事例であり、業務遂行性と業務起因性が認められました。

出典:昭和25年10月27日基収2693号

業務上の負傷

負傷を負った場合、それが「業務上の負傷」に該当するかどうかは、「事業主の支配・管理下にあるか」「業務との因果関係があるのか」という二つの視点から検討する必要があります。以下の三つを例に説明していきます。

●事業主の支配・管理下で業務を行っている場合
→業務災害とみなされる

●事業主の支配・管理下にあるが業務を行っていない場合
→休憩や就業前後に、私的な行為のため災害が発生した場合、業務災害とは認められない。ただし、職場の設備などが原因の場合は業務災害とみなされる

●事業主の支配下にあるが、管理下にはない状態で業務を行っている場合
→業務災害とみなされる

一例として、トラックの整備を行う労働者が職場で休憩時間にタバコを吸おうとしたところ、ガソリンが染み込んでいた作業着に火が燃え移り、火傷を負った事例があります。

休憩時間にタバコを吸うのは私的行為のため、業務上の負傷に該当しないように思えるかもしれません。しかし、火傷の原因となった作業着へのガソリンの染み込みが業務に起因した結果であることは明らかなため、この事例は業務上の負傷として認定されました。

出典:昭和30年5月12日基発298号

業務上の疾病

業務上の疾病とは、特定の業務に従事していると罹患率が上がる病気の総称です。「職業病」とも呼ばれることもありますが、スラング的な意味で使われる「職業病」とは意味合いが異なります。その範囲は、労働基準法ならびに労働基準法施行規則によって定められています。

具体的には、紫外線にさらされる業務、暑熱あるいは寒冷な場所での業務といった物理的因子による疾病。また、身体に過度の負荷がかかる作業による疾病、粉じんが飛散する場所での業務による疾病など、九つの項目が定められています。

項目の中には、「その他厚生労働大臣の指定する疾病」「その他業務に起因することの明らかな疾病」という二つの項目が設けられています。これによって、疾病の追加や見直しがしやすくなっています。疾病の詳細は以下から確認できます。

厚生労働省「業務上疾病発生状況等調査(平成30年)」によれば、1年間に発生した業務上疾病の全8,684件中、57.8%(5,016件)と高い割合を占めているのが災害性腰痛です。割合は低いものの、脳血管・心臓疾患では76件中32件が死亡、精神障害は48件中7件が死亡と重い事態になっています。

厚生労働省「平成30年度過労死等の労災補償状況」を見ると、脳・心臓疾患における労災請求件数は877件(うち支給決定は238件)、精神障害における労災請求件数は1,820件(うち支給決定は465件)。過去と比較して、高い数値で推移しています。

業務上の疾病として認められるかどうかは、一般的には次の三つの条件が満たされているかで判断されます。

  • 職場に有害因子がある
  • 疾病になるレベルで有害因子にさらされた
  • 発症の経過などが医学的に妥当

業務上疾病の中でも、脳血管・心臓疾患や精神障害など、認定判断に専門性が必要な疾病には個別のガイドラインが設けられています。

脳血管・心臓疾患

脳内出血などの脳血管疾患と、心筋梗塞などの虚血性心疾患などが対象です。業務上の疾病と認定されるには、業務が原因となる明白な過重負荷によって発症した疾病である必要があります。業務が原因となっているかを判断するには、次の観点がポイントとなります。

  • 精神的・身体的負荷や作業環境の変化といった異常な出来事の発生
  • 短期間の過重業務
  • 長時間の過重業務

精神障害

業務に関連して発症した精神障害が業務上の疾病として認められるには、次の条件を満たす必要があります。

  • 労災認定の対象となる精神障害を発症している
  • 対象となる精神障害の発症前6ヵ月間に、業務を理由とする強い心理的負担が認められる
  • 業務以外の要因で発症したと認められない
熱中症
熱中症は、労働基準法が業務上の疾病として定めた九項目の一つ「物理的因子による疾病」の中に、「暑熱な場所における業務による熱中症」として定義されています。

厚生労働省の「業務上疾病発生状況等調査」を見ると、平成30年度内だけでも熱中症は1,178件(業務上の疾病の13.6%を占める)発生しており、うち28件が死亡に至っています。

厚生労働省の「職場における熱中症予防」では、熱中症対策を行う際には、まず「WBGT値(暑さ指数)」を基に熱中症の発症リスクを把握することが重要だとしています。日本産業衛生学会は、男性が連続で1時間、あるいは断続しながら2時間の作業を行う許容基準を作業の強度別にWBGT値で表しています。例えば、身体的負荷が高い作業では、作業場を26.5度以下に設定するよう勧告を行っています。

職場で熱中症が発生した場合、労災認定だけではなく、使用者が安全配慮義務を問われる可能性もあります。予防に関する正しい知識を持つとともに、職場における熱中症対策は万全に行う必要があります。

通勤災害における労災認定の基準

次に「通勤災害」について見ていきます。通勤とは、業務を行うための移動を合理的な経路や方法で行うものです。通勤災害として認定されるには、「労働者災害補償保険法(労災保険法)」における、次の要件を満たす必要があります。

  • 住まいと就業する場所との往復
  • 就業する場所から他の就業する場所への移動
  • 単身赴任先の住まいから帰省先の住まいとの間の移動

経路を中断・逸脱した場合は、その間とその後の移動は通勤とみなされません。ただし、日用品の買い物など、普段の生活において必要で厚生労働省令によって定められている行為について最小限度の範囲で行った場合は、中断後の移動も通勤とみなされます。

2. 労災保険の概要

「労働者災害補償保険(労災保険)」は、労災に対して保険金を給付する制度です。概要と補償内容について解説します。

労災保険とは

業務災害や通勤災害といった労災に対して、保険金が給付される労働保険の制度です。労働者を一人でも雇用していれば、強制的に適用されます(強制適用事業)。ただし、5人未満の個人経営農業など、適用されない例外もあります。

労災保険はパートやアルバイト、外国人など雇用形態や国籍を問わず、労働者であれば全員に適用されます。ただし、労働基準法が定める「労働者」に該当しない、法人の代表取締役などは対象外です。中小企業の事業主、大工などの一人親方、特定の作業に従事する人、海外派遣者は特別加入制度に加入できます。

労災保険の補償内容

労災保険の補償内容は、労災による負傷などの治癒前・治癒後・死亡時によって分かれています。業務災害と通勤災害、それぞれに対する補償内容はほぼ同じですが、例えば業務災害では「休業補償給付」と呼ぶのに対して、通勤災害では「休業給付」と呼び方が異なっている点は注意が必要です。

【治癒前の補償】
- 療養(補償)給付:労災病院で無料の治療ができる「療養の給付」や、療養費用の支給
- 休業(補償)給付:負傷などで仕事を休んでいる期間の給与を補償
- 傷病(補償)年金:負傷などを負ってから1年6ヵ月経っても治らず、傷病等級の1級から3級にあたる場合に年金を支給
- 介護(補償)給付:介護が必要な場合に支給

【治癒後の補償】
- 障害(補償)給付:障害等級の1級から7級にあたる場合は「障害(補償)年金」、8級から14級にあたる場合は「障害(補償)一時金」を支給

【死亡時の補償】
- 遺族(補償)給付:遺族に「遺族(補償)年金」を支給、年金を受ける対象がいない場合は「遺族(補償)一時金」を支給
- 葬祭料(葬祭給付):葬儀などを実施する者に支給

3. 休業(補償)給付の概要

労災保険による補償内容の中で、企業側が申請することが多い「休業(補償)給付」の概要について解説します。

休業(補償)給付とは

休業(補償)給付は、業務災害や通勤災害による傷病のために働けず、給与がもらえない状態になった第四日目から支給されます。金額は次の通りです。

  • 休業(補償)給付:給付基礎日額×60%×日数
  • 休業特別支給金:給付基礎日額×20%×日数

※給付基礎日額……原則として、災害が発生した日以前3ヵ月間に被災した労働者に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で割った額のこと

休業(補償)給付における「特別支給金」は、保険金給付の上積み分としての位置づけで支給されるものです。ほかの傷病(補償)給付などにある年金や一時金の支給はありません。

休業(補償)給付が支給される条件

休業(補償)給付は、次の条件を満たした場合に支給されます。

  • 療養している状態
  • 業務を行えない状態
  • 賃金をもらっていない状態(補償金は可)

受任者払制度とは

労働者が休業(補償)給付を受ける場合、申請書提出から口座振込まで約1ヵ月を要するため、その間、労働者は収入がない状態になってしまいます。

このような事態に対応するために存在するのが「受任者払制度」です。受任者払制度は、企業が労働者に対して給付額の立替払いを行い、代わりに労災保険からの休業(補償)給付が企業の口座に振り込まれる制度です。従業員の生活を守るという意味でも、ぜひ活用したい仕組みです。

待機期間中は、会社から補償金を支給するのが望ましい

労災が発生してから三日間は「待機期間」となり、通勤災害は労働基準法76条が適用されないため、業務上の負傷や疾病の場合には、企業が労働者に対して平均給与の6割を支給しなければなりません。多くの会社では、6割にとどまらず平均給与の全額を補償しています。

待機期間中の無給状態を補うために従業員が有給休暇(有休)の申請をした場合、所得税を支払う必要が生じ、従業員にとっては負担となります。また、有休の日数が減少すると、必要なときに自由に使えなくなってしまいます。従業員のためには、待機期間中に関して会社から平均給与の全額を補償するか、特別休暇として有休とは別に有給の休暇を与えるのが望ましいといえます。

休業(補償)給付申請における企業側の手続き

休業(補償)給付は、労働基準監督署に次の書類を提出・申請します。

  • 業務災害:休業(補償)給付支給請求書 様式第8号
  • 通勤災害:休業給付支給請求書 様式第16号の6

※平均賃金算定内訳など別紙や添付書類もきちんと確認する必要があります。

調査の結果、支給が決定すれば労働者が受給できます。書類には、事業主と医師の証明が必要です。なお、休業特別支給金の申請書類も兼ねているため、同時に申請できます。

上記を提出する際には、次の書類を添付します。

  • 労災被災者本人の委任状
  • (受任者払いを行う場合)受任者払いに関する届出書

4. 正しい知識と事前の対策でトラブルを防ぐ

労災の発生を減らすには、労災の分類や認定基準について理解を深め、対策を検討する必要があります。例えば、業務上の過度なストレスに起因する脳血管・心臓疾患や精神障害などは労災請求件数が年々増加しており、ストレスチェック体制の整備といった対策が求められます。

労災が発生しにくい職場環境の整備はもちろん、発生してしまった場合の補償、受任者払制度などの対応についても事前に検討しておくことが望ましいでしょう。従業員とのトラブルに発展しないよう、正しい知識と理解を持って臨まなければなりません。