人生100年時代の働き方を考える

健康経営 powered by「日本の人事部」

病気を予防するだけでなく、従業員のやりがい・働きがいを追及
日本初のCHO(Chief Health Officer)が語る、
ロート製薬の「健康経営」とは 

ロート製薬株式会社 取締役副社長 海外事業・技術担当 兼 チーフヘルスオフィサー
エムジーファーマ株式会社 代表取締役社長

ジュネジャ・レカ・ラジュ氏

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ロート製薬株式会社 取締役副社長 ジュネジャ・レカ・ラジュ氏

「健康経営」における先進企業として知られるロート製薬。「健康経営」という言葉が世に広まる前から取り組みを進め、従業員の健康増進にコミットし続けてきました。そんな同社でCHO(Chief Health Officer)を務めるのが取締役副社長のジュネジャ・レカ・ラジュ氏。“日本初のCHO”であるジュネジャ氏は、「健康こそがロート製薬のDNA」と語ります。同社はなぜ従業員の健康増進に取り組み続けるのでしょうか。社内だけでなく、日本社会全体に対しても、重要なメッセージを送り続けるジュネジャ氏に、「健康経営」に関する思いや実際の取り組みについてうかがいました。

プロフィール
ジュネジャ・レカ・ラジュ氏( Dr. Lekh Raj Juneja )

ロート製薬株式会社 取締役副社長 海外事業・技術担当 兼 チーフヘルスオフィサー。インド・米国・ドイツ・中国の太陽化学グループ企業の代表取締役などを歴任し、2014年より現職。機能性成分やナノ多孔質材の研究によりさまざまな機能性食品を開発し、国際的に高く評価されている。

経営層がコミットし、従業員は楽しみながら健康意識を高める

昨今は健康経営が世の中全体で注目されていますが、貴社は1980年代から全社運動会を実施し、2002年からは体力測定に取り組むなど、先進企業として知られています。なぜロート製薬はここまで従業員の健康増進に注力しているのでしょうか。

「健康」は、ロート製薬のDNAとも言えます。企業の精神として、もともと組み込まれているのです。日本を代表する製薬会社として、利益を投資家だけに還元するのではなく、従業員や消費者にも還元していかなければならない。その中で、健康は私たちが最も大切にすべきものの一つであると考えてきました。

私は2014年に技術・開発分野の責任者担当副社長として入社しましたが、山田(代表取締役会長兼CEO 山田邦雄氏)からは「CHO」の役割も与えられました。ずっと続けてきた従業員の健康のための取り組みを、さらに拡充させていくという経営の意思を示したわけです。

ジュネジャさんが「健康はロート製薬のDNAだ」と感じた理由は何ですか。

まず感じたのは、経営側が本気で従業員の健康増進を考えていること。会社として健康増進に向けた雰囲気を作っていくには、経営側のコミットメントが欠かせません。山田自身も、自転車やボートなど、さまざまなスポーツに打ち込み、従業員にその姿を示しています。早朝に自転車で10数十キロメートル走った後に、平然と仕事をしている姿を目の当たりにしたこともあります。健康づくりに取り組むことが、当たり前になっているんですね。

従業員も、健康を強く意識しています。社内にそういう風土があるからです。ロート製薬のイベントには健康を意識したものが多く、例えば社員旅行では、ただ食べて盛り上がって寝るのではなく、スポーツなど健康に役立つアクティビティを行います。楽しみながら、従業員に健康を意識してもらうようにしているのです。

そうした経営陣のコミットメントや、健康を大切にする風土の中で、日本初のCHOに就任されたのですね。CHOとしては、社内にどんなメッセージを発信されているのですか。

セルフケア、つまり「自律」が重要であると強く訴えています。そもそも、健康の定義とは何でしょう。病気にならなければ健康と言えるのでしょうか。何となく調子が悪いときや、ぼんやりして仕事に手がつかないときは、本当に健康だとは言えませんよね。そうならないためにまず必要なのは、一人ひとりが自分の健康を意識し、セルフケアを行うことです。朝食をしっかり取ること、夜はしっかり眠ること、そして健康診断をちゃんと受けることが大切ですね。

まずは自身の健康状態を意識することが重要であると。

はい。ロート製薬の従業員にも、課題はあります。当社は従業員の60パーセント以上が女性ですが、女性は一般的に男性よりも健康管理が難しい。貧血などの症状もあるし、最近では若いうちに乳がんになるケースも増えています。しかし、若い人たちはどうしても健康への関心が薄い。そのため、「まずは自分の体のことを理解してください」というメッセージを発信しています。

現状を理解したら、次は自分の体をケアするための「実践」が必要です。調べてみると、当社には朝食を食べていない従業員がたくさんいたんです。朝食の大切さを伝えなければいけないと感じましたね。朝食を食べれば肌の状態もよくなるし、便通も改善して仕事に向かうコンディションが整います。貧血の問題が改善される可能性も高まります。そういう知識を社員が持ち、セルフケアできるように呼びかけています。

ほぼ100パーセントの従業員が産後復帰する会社だからこそ、
女性の健康と真正面から向き合っている

ジュネジャさんがセルフケアの重要性を考えるようになったきっかけを教えてください。

太っていると健康に良くない、とよく言われますね。もちろん太りすぎは良くないのですが、私はそれ以上に「痩せすぎ」が問題だと考えています。特に気をつけるべきなのは女性。日本にはBMI18以下の、痩せすぎている女性が多いんです。痩せることが健康につながると考えているのかもしれませんが、実際のデータを見れば、栄養状態が良くないことが分かります。「なぜか分からないけど疲れやすい」という人は、気をつけるべきでしょう。

母親になる女性の栄養状態が良くないと、子どもが2500グラム以下で生まれる可能性が高まります。一昔前の日本では「小さく生んで大きく育てる」ことが推奨されたと聞いていますが、それは間違いです。母親の栄養状態が偏っていたら、生まれてくる子どもの栄養状態も偏ってしまう。将来的に生活習慣病にかかってしまうリスクが高まるのです。

わ たしは以前、卵がひよこになるまでの21日間を観察して本を書いたことがあります。はじめは黄身と白身の状態ですが、その中にはたんぱく質や脂質などの栄養が含まれています。それが、21日かけて生命に変わっていくわけです。人間はお腹の中で育つので、この過程が見えません。しかし、母親が摂った栄養素が生命になっていくのは同じです。ダイエットのために避けられがちな炭水化物や糖質も、子どもが大きくなるためには必要な栄養素なんですよ。

「太りたくない」という理由だけで、単純に抜いてはいけない栄養素なのですね。

その通りです。「食」という字は、人を良くすると書きます。食そのものには何も悪い要素はない。もちろん偏った栄養を取りすぎてはダメですが、取らないことによって生じる問題にも目を向けなければいけません。これだけ発展した先進国で、「太れば不健康、痩せれば健康」と単純にとらえられている傾向があることは問題だと思います。

従業員の健康について真正面から考えることが、会社にとっての利益につながります。従業員が健康であれば、「健康を世の中に伝えたい」と自然に考えるようになります。そこから、良い商品が生まれることもあるのです。実際にロート製薬では、朝食を食べない従業員が多いという問題から、オーガニック豆を使用した「ダルーラ」というおいしいスープを開発しました。忙しい朝でもスープを食べることで健康につなげてほしい、という思いが結実したのです。

女性の健康を真摯に考えていることが伝わってきます。最近の日本では出産自体がデリケートな問題となっていて、なかなか話題にできない会社も多いように感じますが。

手前味噌となってしまいますが、ロート製薬の環境は素晴らしい。私は全世界世界各国の色々な会社を見てきましたが、ここまで女性に優しい会社はない少ないと思っています。女性従業員が結婚すればとても喜び、子どもが産まれれば、大いに祝福する。これも一つの風土ですね。妊娠中には子どもを産むために必要な栄養のことやセルフケアについてしっかり伝えますし、産休中も本当に手厚く支援するので、出産後はほぼ100パーセントの従業員が職場に戻ってきます。こんな会社は世界を見渡しても、少ないのではないでしょうか。

「ウェルチャレ」では、2ヵ月で11.5キログラム減・体脂肪7.7パーセント減という成果も

健康経営を実行するための体制は、どのようにつくっていったのでしょうか。

ロート製薬には「ARK」という制度があります。「明日の・ロートを・考える」の略称でARK。手を挙げた従業員に、経営課題の解決に向けてプロジェクトチームを組んでもらう取り組みです。大きなプロジェクトはだいたいここから始まります。

私がCHOに就任した後、ARKで全従業員に「健康経営のプロジェクトチームを作りたい」と公募をかけました。応募してくれたのは、約30人。そのメンバーでさまざまなイベントを考え、山田からもアドバイスをもらいながら、社内の健康サポート活動を進めていったのです。人事部に健康サポートの部署を正式に立ち上げたときも、このメンバーが配属されました。

有志のプロジェクトが、正式な異動につながったということですか。

ロート製薬株式会社 取締役副社長 ジュネジャ・レカ・ラジュ氏

そうです。私の下で責任者を務めるメンバーも、ARKで手を挙げた一人です。健康経営に取り組むことで、キャリアアップにもつながったのです。

何事も、やると決めたら全力でやる。これもロート製薬の風土です。たとえば、運動会にダラダラ参加してはダメ。軽く考えてはいけません。私自身もそうです。以前は車で通勤していましたが、家から会社まで歩くようになりました(笑)。もちろん食生活にも気を使っています。

さまざまな施策に取り組まれている中で、特に印象に残っているものはありますか。

Wellness Challenge、通称「ウェルチャレ」という施策をご紹介しましょう。「最も健康的な支部・リーダーを決める」と銘打って開始された取り組みで、営業部門の全従業員に歩数計を配り、2ヵ月をかけて全国各支部のリーダーがどれだけ健康になるかを競いました。チーム全体で、どうすればリーダーを健康にできるかを考え、メンバーも一緒に健康づくりに取り組む、というものです。参加する全従業員のデータを開示することで、誰がよく歩いていて、誰が歩いていないのかが明確にわかるようにしました。チーム間の競争意識を高めたわけです。

2016年に参加した東北地方のあるリーダーは、痩せすぎではなく太りすぎが課題でした。彼はウェルチャレをきっかけに食生活の見直しや運動に取り組み、2ヵ月で11.5キログラム減量、体脂肪は7.7パーセント減少という成果を残しました。健康づくりに取り組む中で、体の調子が良くなったことを実感したそうで、その後も体型をキープしています。

支部のメンバーも彼を応援しながら、一緒に健康づくりに取り組みました。支部から大阪本社までのすごろくをつくってメンバー全員の歩いた歩数を見える化してモチベーションアップにつなげたり、支部のおやつを健康にいいナッツに変えたり。組織全体で健康を意識する雰囲気ができたようです。

そして2017年には、ウェルチャレを営業部門だけでなく全社に広げました。リアルタイムで結果が出るので、「今日はこれくらい走ったんだよ」とか、「このジムはいいよ」といった会話が生まれ、社員の自発性が引き出されています。

一人の取り組みが同僚や家族へ広がり、正のスパイラルが生まれていく

健康経営先進企業として、現在の課題をどのようにとらえていますか?

ロート製薬も、まだまだパーフェクトではありません。タバコを吸っている従業員はゼロではないし、ストレスを抱えている社員がいないわけでもない。私たちがコントロールできる問題だけでなく、家庭内や恋人との関係性といった、プライベートに起因するストレスにどこまで立ち入るのかという課題もあります。個人の問題を会社がすべて解決しようとしても無理がある。健康経営にはどこかで限界が出てきます。そのため「できることからやりましょう」と言っています。

現在、平均寿命と健康寿命には差があります。病気を抱え、寝たきりの状態で老後を過ごす人も多いですよね。このままでは日本は破綻してしまう。その差を縮めるのは結局、一人ひとりの意識なのではないでしょうか。一人が始めれば、周りの同僚へ啓発するでしょうし、家に帰れば家族にも啓発するでしょう。そうやってつながっていけば、社会全体にも広がっていくと信じています。

日本は少子化がどんどん進み、現在の人口はインドの約10分の1という状況です。こうした中で、企業が健康経営に取り組むことはどんな意義があるとお考えですか。

インドやアフリカ諸国では子どもがたくさん生まれ、若い社会が形成されています。そして平均寿命も伸び続けている。一方で日本は子どもが減り、高齢者が増えるという未来を避けられません。人生100年時代をどう生きるのか。誰もが真剣に考えなければなりません。年を取って病気になっても、手厚い社会保障の中で守ってもらえると考えてはいけない。いかにセルフケアを進めるか、どうやって自分の健康を自分で守るのかを考えなければいけないと思います。そのためにはまず、企業がコミットメントして健康の重要性を発信するべきです。先ほどもお話したように、一人の取り組みが同僚や家族へと広がっていくはずですから。

忙しいから健康に気を使えない。忙しいから運動できない。忙しいから朝食を取れない。これではどんどん負のスパイラルに陥っていきます。大変かもしれませんが、何か一つでも取り組むことで、正のスパイラルに変えていけると思うのです。きっかけを作るのは、企業の重要な役割でしょう。

最後に、ロート製薬が描く「これからの健康経営」の展望についてお聞かせください。

私たちは、「この会社に入ってよかった」「この会社を卒業してよかった」と本当に思ってもらえる企業になりたいと思っています。本当の意味での健康とは、社員がやりがい・働きがいを持って、いきいき働いてくれる状態であると考えているからです。

昨年、社外での副業を認める「社外チャレンジワーク」と、社内の複数の部門・部署を担当できる「社内ダブルジョブ」の制度を導入しました。ニュースに取り上げられるなど、社外からも大きな反響をいただいていますが、これらも社員のやりがいや働きがいを高めるための施策の一つです。世の中では働き方改革が大きなトピックスになっていますが、ロート製薬にとっての働き方は目的が明確です。「すべては従業員の健康のため」。これからもその目的意識を見失うことなく、さまざまな改革を進めていきたいと考えています。

ロート製薬株式会社 取締役副社長 ジュネジャ・レカ・ラジュ氏

取材は2018年2月7日 東京都・港区のロート製薬東京支社にて

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