【ヨミ】パワハラ パワハラ
パワハラとは、「パワーハラスメント」の略称であり、職場での優越的な立場を利用した嫌がらせのことです。2020年6月1日、企業にパワハラ防止を義務付ける「改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)」が施行されたことで、近年さらに注目を集めています。閉じた環境の中で起こりやすい「いじめ」や「嫌がらせ」は、職場でも注意すべき問題の一つです。
1.パワハラの定義

パワハラとは
職場におけるパワハラについて定めた法律が「改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)」です。労働施策総合推進法第30条の2第1項で、パワハラおよび企業が講ずべき措置について下記のように定義しています。
事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
- 【引用】
- 労働施策総合推進法|e-Gov法令検索
厚生労働省では上記法令に基づき、下記の三つの要素を満たす言動を、職場におけるパワハラだと定義しています。
- 職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性(優越的な関係)を背景
- 業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える
- 労働者の職場環境を悪化させる行為
- 【引用参考】
- みんなでなくそう!職場のパワーハラスメント|厚生労働省
では、三つの要素は、それぞれどのような意味を持つのでしょうか。
職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性(優越的な関係)を背景
「優越的な関係」とは、肩書や職位における上下関係だけでなく、専門性や経験、学歴などさまざまな要素における関係が該当します。その中でも、職場におけるパワハラと特に関係が深い要素が「地位の優位性」です。職場では、上司から部下など、力関係を背景としたパワハラが多くあります。
また、一般的に「パワハラ」は上司が目下の者に圧力をかける行為だと思われがちですが、部下が上司にパワハラ行為に及ぶケースもあります。例えば、「上司の昇進に響くことをしてやろう」と、わざと上司から嫌がらせを受けているように振る舞う行為もパワハラの一種です。パワハラは、「自分の地位を利用した行為」が広く該当する可能性があると考えるとわかりやすくなります。
業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える
社会通念上、業務の範囲を超えて明らかに限度を超した言動により、被害者が精神的・身体的な苦痛を受けた場合もパワハラに該当します。「社会通念上ふさわしくない言動かどうか」は、さまざまな要素を総合的に見て、客観的に判断する必要があります。判断材料の例は、下記のとおりです。
- 言動の目的
- 言動を受けた労働者の問題行動の有無
- 言動の内容・程度
- 言動が行われた経緯・状況
- 言動の態様・頻度・継続性 など
「業務の適正な範囲かどうか」は、事案ごとに上記の要素を見て判断する必要があり、見極めが難しいと感じる人は多いでしょう。そこで、職場における言動が業務の適切な範囲であるかどうかが争点となった判例を、パワハラに認定されたケース、認定されなかったケースに分けて紹介します。
【パワハラ認定されたケース】・海上自衛官(21歳)
・上官
●事件の内容
上官は、部下である21歳の海上自衛官に対して「お前は三曹だろ。三曹らしい仕事をしろよ」「お前は覚えが悪いな」などの発言を、約2ヵ月間にわたって繰り返していた。
海上自衛官はうつ病を発症し、後日、護衛艦の中で首を吊って自殺。判決にあたっては、「上官からの指導が、業務の適切な範囲内であるか」が、争点の一つとなった。
●判決
2ヵ月間にもわたる上司が部下を誹謗する発言は、精神的な負担を過度に蓄積させる行為だとして、指導として相当ではないと判断された。結果として、「業務の適切な範囲を超えている」として、自殺と上官の行為に因果関係があると認められている。
海上自衛隊の判例では、言動の内容や2ヵ月間にわたった継続性や頻度から、「業務の適正な範囲を超えている」と認められました。なお、同判例では、被害者本人の心理的耐性ではなく、一般的な心理的耐性を基準に判断されています。仮に、暴言を受けた人物の心理的耐性が強かったとしても、一般的に見て相手が過度なストレスを受けるものであればパワハラと認められる可能性は高いでしょう。
【パワハラ認定されなかったケース】・建設施工業務に従事していた男性所長
・所長の上司
●事件の内容
部下である男性所長の営業所に、上司が監査に訪れると、架空出来高の計上をはじめとした不正経理が発覚した。しかし、不正経理を是正するように再三にわたり指導しても、男性所長は約1年間是正しようとしなかった。その後、上司は日報報告の際に𠮟責し、業績検討会では「会社を辞めれば済むと思っているのかもしれないが、辞めても楽にならない」などと発言した。
男性所長は、業績検討会の3日後に「怒られることに疲れた」などの内容が記載された遺書を残して自殺。男性所長の遺族が、会社に対して民事損害賠償を請求した。
●判決
1年以上が経過しても架空出来高の是正がされておらず、工事日報も作成されていなかった。この経緯から、上司の激しい𠮟責は正当な業務の範囲内であると認められた。
パワハラだと認められなかったこの判例では、何度指導しても問題行為が是正されなかった過程が重視されました。指導を尽くしても改善が見られない場合は、厳しい指導となっても正当と認められる可能性が高いといえます。
労働者の職場環境を悪化させる行為
精神的・身体的苦痛を与えるような言動により、労働者の職場環境が不快なものとなり、能力の発揮に悪影響を及ぼす場合が該当します。急に大声で怒鳴ったり、失敗を必要以上に強く責めたりする行為が一例です。このような言動があると、行為を受けた本人だけでなく、周囲の人間も圧力を感じ、仕事に影響が出ます。言動を起こした本人に悪意がないとしても、周りが不快に感じるとパワハラに当たる可能性があります。
なお、この場合の「労働者」は、雇用形態を問いません。正社員だけでなく、パート・アルバイトなどのあらゆる雇用形態が対象となります。
6類型に基づく、パワハラに該当する例、該当しない例
厚生労働省では、職場のパワハラを下記の6種類に分類しています。
- 身体的な攻撃
- 精神的な攻撃
- 人間関係からの切り離し
- 過大な要求
- 過小な要求
- 個の侵害
ここからは、上記の6種類に基づき、パワハラに該当する例・該当しない例を交えて解説します。なお、上記はあくまでパワハラの一般的な言動を六つに分類したものです。これらに当てはまらないものはパワハラではない、ということではありません。
(1)身体的な攻撃
身体的な攻撃とは、暴行や傷害など身体的接触を伴う行為です。相手がけがをした場合や心身の不調を発症した場合は、傷害罪に該当する可能性もあります。ただし、故意ではなく相手に傷を負わせてしまった場合や、優越的な背景がないトラブルは、パワハラに当たらない場合があります。
【パワハラに該当する例】- ミスをした部下を殴る
- 部下の椅子を蹴とばす
- 相手に物を投げる
- 誤ってぶつかり、相手が傷を負った
- 手が滑って物をぶつけてしまった
- 同僚同士でけんかをした
(2)精神的な攻撃
精神的な攻撃とは、脅迫や名誉棄損、侮辱、暴言など、接触を伴わない攻撃のことです。何度注意しても従業員が問題のある言動を改善しない場合に、強い口調で注意するケースはパワハラに該当しない可能性があります。
また、特定の相手に対して発したものではないとしても、客観的に判断して特定の相手を傷つけている言動であれば、パワハラと認められます。特に、性的指向や性自認に関する発言は、知らぬ間に相手を傷つけているケースもあります。
【パワハラに該当する例】- ほかの従業員がいる中で人格否定する
- 日常的に大声で怒鳴りつける
- クビや解雇をにおわせる発言をする
- 別の部屋に呼び、理由を交えながら論理的に指導する
- 何度注意しても問題行動が改善されないため、強めの口調で注意する
- 重大な問題行動を起こした従業員に、一定の度合いで強めに注意する
(3)人間関係からの切り離し
人間関係からの切り離しとは、本人の意に沿わない形で、同僚や上司との接点を意図的に切り離す行為です。例として、隔離や仲間外れ、無視などの行為が挙げられます。本人自体が他人と積極的に関わりたくないと思っていても、一方的な都合で人間関係を切り離せばパワハラと見なされることがあります。
【パワハラに該当する例】- 特定の社員だけ故意にミーティングに呼ばない
- 挨拶されても無視をする
- 気に入らないという理由でプロジェクトから外す
- 研修のために別室で課題を与える
- 懲戒処分を受けた従業員に対し、復帰にあたっての研修を受けさせる
- 感染症対策のため各従業員のデスクを離す
(4)過大な要求
過大な要求には、業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害などが該当します。
【パワハラに該当する例】- 不要な深夜残業を強いる
- 適切な指導がなく業務を丸投げする
- 自分の家の掃除をさせる
- キャリアアップや育成のためにレベルの高い課題・業務を課す
- 繁忙期など、時期的な理由で一時的に業務量を増やす
- 無理のない範囲で未経験の仕事を割り振る
(5)過小な要求
過小な要求とは、業務上の合理性なく、当人が持つ能力や経験に見合わないような程度の低い仕事を命じることです。また、わざと仕事を与えない行為も、過小な要求に該当します。
【パワハラに該当する例】- 特定の社員にだけ理由なく仕事を与えない
- 専門職の従業員に誰でもできる仕事ばかりを課す
- 能力が低いからと掃除のみをさせる
- 労働時間を踏まえて業務を調整する
- 労働者の能力に応じて業務内容や業務量を一時的に減らす
- 体調不良の従業員に対し業務量を減らす
(6)個の侵害
個の侵害は、プライベートな内容に対して過度に立ち入ることです。親交があっても、社内の人間に話したくないことは多くあります。ただし、業務上必要な情報を聞く行為はパワハラには当たらず、線引きが重要です。
【パワハラに該当する例】- 飲み会や行事への参加を強制する
- 退勤後の予定を提出させたり、無理やり聞き出したりする
- 有給休暇を取得する理由を細かく聞く
- キャリア計画のために業務上必要な内容をヒアリングする
- 公的保険の加入手続きに必要な情報を聞く
- 入社にあたって健康上問題ないかを聞く
適切な指導であればパワハラに該当しない
パワハラに該当するか否かを判断するために重要な要素が「適切な指導かどうか」です。適切な指導が行われている場合は、パワハラとは認められません。適切な指導とは、「業務の適切な範囲内であること」「精神的・身体的苦痛がないこと」の2点から判断します。
「業務の適切な範囲」とは、業務上必要な指導や教育の範囲を指します。業務の適正な範囲内であれば、上司や先輩の注意の仕方に不快感や怒りを抱いたとしても、パワハラには該当しません。例えば、部下が問題行動を是正しなかったので、強めの口調で指導をしたとします。この場合、部下が不快感を抱いたとしても、客観的に見て業務の適切な範囲内であればパワハラには当たらないことになります。
「この言動もパワハラに該当するのではないか」と意識し過ぎると、業務上必要な指導や教育ができない状況になりかねません。パワハラ防止法は、職場から不快感を取り除き、全ての社員が気持ち良く、効率良く働くためのものです。精神的・身体的苦痛にならないよう、言動に十分注意しながら、必要な教育・指導を進める必要があります。
パワハラに該当する言葉とは
業務上必要な注意や指導でも、人格を否定するような言葉や過激な言葉は、精神的・身体的苦痛を与えるパワハラに該当する可能性があります。特に、近い関係性の人に注意するときほど、思わず人格を否定するような言葉が出てしまうので注意が必要です。パワハラに該当しうる発言の具体例を、6類型に合わせて例示します。
パワハラに該当しうる発言の具体例
1.身体的な攻撃- 「ふざけるな」と頭をたたく
- 「こんな簡単なミスをするな」と書類を投げつける
- 「こんなこともできないなんて、使えないやつ」
- 「小学校からやり直しなさい」
- 「あいつは気に入らないから無視しよう」
- 「君はこれからミーティングに参加しなくていいよ」
- 「この仕事、全部自分で調べながら終わらせてね」
- 「今日中に残業して仕事終わらせて」(急ぎではない仕事に対して)
- 「あなたに任せる仕事はないよ」
- 「今日は1日掃除だけやっておいて」
- 「有給休暇を取ってどんな予定があるの?」
- 「彼氏とは結婚の予定あるの?付き合ってどのくらい?」
2.パワハラ防止法における企業義務

パワハラ防止法は、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」の通称です。2019年5月29日に日本で初めてパワハラ防止に関する規定が盛り込まれました。同法には、企業に対するパワハラ防止義務やハラスメント相談体制の設置義務、パワハラに関する労使紛争を速やかに解決する体制を整える義務などが盛り込まれています。
パワハラ防止法が成立した背景には、職場でのいじめや嫌がらせが年々増加していたことが影響しています。厚生労働省の委託で実施した「職場のハラスメントに関する実態調査」によると、パワハラ防止法制定前の2016(平成28)年度の調査で「過去3年間にパワーハラスメントを受けたことがある」と回答した従業員の割合は32.5%でした。2012(平成24)年度調査では25.3%であり、増加したことがわかります。2020(令和2)年度は31.4%と横ばいでした。
最新版である2020年度の調査では、過去3年間でパワハラの相談があった48.2%の企業のうち、相談件数が増加した企業は9.2%、減少した企業は9.9%で、パワハラ防止に向けた取り組みが大きな成果を上げているとはいえない状況と考えられます。
なお、パワハラ防止法は大企業ではすでに2020年6月1日から適用され、パワハラ防止策を講じることが義務化されていますが、2021年11月現在、中小企業では努力義務とされ、2022年4月1日から義務化されます。
- 【参照】
- 平成24年度 職場のハラスメントに関する実態調査(概要版)p.5|厚生労働省
- 平成28年度 職場のハラスメントに関する実態調査(概要版)p.20|厚生労働省
- 令和2年度 職場のハラスメントに関する実態調査(概要版)p.9|厚生労働省
パワハラ防止法によって生じる企業義務とは
パワハラ防止法では、パワハラ防止にあたって企業が講ずべき措置を義務として定めています。
企業が講ずべき措置とは、下記の四つです。
- 事業主の方針の明確化およびその周知・啓発
- 相談対応に必要な体制整備
- 職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
- 相談者のプライバシー保護、不利益取り扱いの禁止
(1)事業主の方針の明確化およびその周知・啓発
企業にはパワハラを防止する方針を定め、組織内に周知する義務があります。「パワーハラスメントに該当する言動」や「パワーハラスメントを禁止する旨の文言」を具体的かつ明確にしなければなりません。また、パワハラを行った場合の処分内容も就業規則などに記載し、全労働者に周知する必要があります。
(2)相談対応に必要な体制整備
パワハラを受けた、または受けた疑いがある労働者がすぐに問題解決を図ることができるよう、相談窓口を設置して周知する義務があります。周知にあたっては、自分が受けている言動がパワハラに該当するかわからない場合でも、気軽に相談できるよう伝えることがポイントです。
なお、パワハラについて相談した従業員に対して、企業の不都合を隠すために解雇などの不利益な処分をすることは「パワハラ防止法」によって禁止されています。労働者からの相談は、どんなささいなことでも企業全体の問題として真摯に受け止めなければなりません。
(3)職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
パワーハラスメントの相談を受けた場合、企業は迅速かつ正確に状況を確認しなければなりません。パワハラの事実を確認できたら、速やかに被害者を守るための措置と、加害者に対する適正な措置を講じます。措置の後に、再発防止に向けた取り組みを実施する義務もあります。
(4)相談者のプライバシー保護、不利益取り扱いの禁止
相談者や加害者とされた人などの個人情報が組織内に広まり、不利益な状況にならないよう、プライバシーを保護する義務があります。また、企業側としても、パワハラの相談と、それに関する一連の行為を理由に不利益な取り扱いをしてはなりません。
「プライバシーを保護すること」「不利益な取り扱いをしないこと」は、事前に全労働者に周知する必要があります。
パワハラ加害者への対応はどうするべきか?
パワハラ加害者を適切に処分するため、就業規則に「パワハラが懲戒の対象であること」を明記し、懲戒の種類や事由を明示します。社内でパワハラがあった場合は「懲戒対象」として、事前に定めた処分内容に沿って対応します。定められた以上の処分を行うのは難しいでしょう。
就業規則に定めるパワハラの定義としては、厚生労働省の定義に基づき、下記の記載事項を盛り込むのが一般的です。
- 職場内の優位性を背景とした行為であるか
- 言動が業務の適正な範囲を超えているか
- 被害者に精神的・身体的苦痛などのダメージを与えたか
就業規則に定めた定義に該当することを確認できたら、下記の点を総合的に判断した上で懲戒内容を決定します。
【パワハラに対する懲戒内容を判断する際の主な基準】- 内容・程度
- 回数
- 被害者人数
- 経緯・理由
- 反省度合い など
パワハラ防止法の罰則規定
パワハラ防止法では企業が義務を守らなかった場合の罰則を規定していません。しかし、厚生労働大臣が必要だと認めれば、事業主に「助言、指導または勧告」できるとされており、勧告に従わない企業はパワハラの事実を公表される可能性があります。
また、パワハラ発生時に企業が対応を怠れば、「職場環境配慮義務違反」と認められる可能性もあります。パワハラ防止法に罰則規定がなくても、ほかに関連する罰則が適用される可能性があることを理解しておきましょう。
3. パワハラが起こりやすい職場環境とは
パワハラが起こる職場の特徴
厚生労働省が東京海上日動リスクコンサルティングに委託して実施した「職場のハラスメントに関する実態調査」やエン・ジャパン株式会社が実施した調査など、複数の調査からパワハラが起こりやすい職場の特徴が明らかになっています。
パワハラが起きている職場に共通している特徴は、「上司と部下のコミュニケーションや交流が少ない/ない」ことです。他にも「残業が多いこと」「失敗が許されないこと」「従業員の年代に偏りがあること」などもパワハラが起きている職場に共通しています。
なお、パワハラを受けた際の心身への影響について、下表のとおり「職場でのコミュニケーションが減った」と回答している人が36.8%に上りました(2020年度)。回答者の割合は、2016年度に行われた調査の結果と比べても上昇傾向にあります。

東京海上日動リスクコンサルティング株式会社の調査 p. 85
パワハラを受けた従業員が職場でのコミュニケーションを避けると、職場全体のコミュニケーションの機会が減少し、パワハラが発生しやすい空気がまん延する悪循環に陥ります。
独立行政法人労働政策研究・研修機構の「職場のパワーハラスメントに関するヒアリング調査」では、社内でのパワハラを解消するために、多くの企業がコミュニケーションの円滑化を進めていることも明らかになっています。
さらに、東京海上日動の調査における「パワハラを受けて何もしなかった理由」から、パワハラが起こりやすい職場の傾向もわかります。

東京海上日動リスクコンサルティング株式会社の調査 p. 98
パワハラを受けて何もしなかった理由は、2016年度と同様に「何をしても解決にならないと思ったから」が最多で67.7%に達しました。以下、「職務上不利益が生じると思ったから」(22.6%)、「何らかの行動をするほどのことではなかったから」(20.7%)と続きます。
「解決してくれない」と諦める理由としては、職場に相談しにくい雰囲気があることや、相談体制が整備されていないことなどが考えられます。「不利益が生じるのではないか」と、職場に対する不安が原因になっていることからも、企業への信頼や組織内の雰囲気は、パワハラの起こりやすさに大きな影響を与えているといえます。
4. 企業が実施すべきパワハラ防止対策

上述の厚生労働省の調査では、過去3年間にパワハラを受けた人に、パワハラを受けていることを認識した後の勤務先の対応を聞いています。結果は「特に何もしなかった」が47.1%で最多で、「行為者に事実確認を行った」は9.7%にとどまっています。一方で、ハラスメント解決に向けた方策として、企業側は80.5%が「事実関係の迅速かつ正確な確認」と回答しています。
迅速に事実確認をしてくれたと感じる労働者が少ない一方で、企業側の多くが迅速に事実確認したと回答しています。労働者と企業の間で認識の相違が発生していることからも、企業における防止対策の明確な定めが求められます。
パワハラ防止のために企業が実施すべき対策として「職場環境の整備」があります。企業に対する信頼や組織内の雰囲気がパワハラの発生しやすさに影響することを考えても、職場環境の整備は重要です。
パワハラを防ぐためにすべきこと
パワハラを防止するための職場環境整備において、最も重要かつ基本的な取り組みは、組織全体を啓蒙・教育することです。
啓蒙・教育方法の例としては、下記が挙げられます。
- 経営者などのトップから従業員に対してメッセージを伝える
- 就業規則にパワハラ防止の旨を明記する
- 企業としてパワハラ防止のガイドラインを作成し、研修により徹底的に周知する
- 従業員アンケートによりパワハラの実態を調査する
- 従業員同士のコミュニケーションを増やし、相談できる場を用意する
- 企業内外に相談窓口を設置する
- 加害者に対する再発防止教育を行う
自社でのパワハラ防止策を具体的にイメージできるよう、パワハラ防止に向けた取り組みを行っている企業の事例を紹介します。
東京ガス株式会社の事例 |
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東京ガス株式会社では、会社の行動規範内に「人権の尊重」「元気の出る職場づくり」という指針を明確に示しています。パワハラをはじめとした各種ハラスメントや人権問題を解消するために、元気が出る職場づくりを共通の目的とする必要があると考えているためです。 代表的な取り組みとして、1年間の研修を通じた人権啓発推進リーダーの育成があります。人権啓発推進リーダーは、組織のコンプライアンス部と連携しながら職場でのパワハラ問題に対応します。経営層よりも現場に近い従業員がリーダーを担うことで、問題を的確に把握・解決できる点がメリットです。 |
福祉事業を展開するF事業団 |
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福祉事業を展開するF事業団では、施設長が集まる幹部会議で理事長からパワハラ防止が指示され、企業独自で啓発パンフレットを作成しました。パンフレットは全職員に周知され、会議などで定期的に注意喚起しています。 パンフレットの作成にあたっては、実態把握のためにアンケートを実施しました。アンケートは匿名制で項目選択型の質問を多くすることで、皆が回答しやすい工夫をしています。アンケートの結果を踏まえて、パワハラの根本には職員同士のコミュニケーション不足に伴う信頼関係の希薄があるとわかったようです。 |
上記のほかにも、さまざまな企業がパワハラ防止に努めています。下記のページを参考に、企業規模や業種などを照らし合わせながら取り組みを進めてください。

「社内でハラスメント発生!人事担当の方」他の企業はどうしてる?|あかるい職場応援団 厚生労働省
厚生労働省では、パワハラを防止するための指導やパワハラ相談を受けた際の対応方法などを動画で解説しています。

動画で学ぶハラスメント|あかるい職場応援団 厚生労働省
従業員からパワハラの相談を受けたら
パワハラが実際に発生した場合、企業には迅速な対応が求められます。最後に、実際に従業員からパワハラの相談を受けたときの対応方法を紹介します。具体的な手順は、下記の五つです。
- 相談者との面談・ヒアリング
- 事実確認・調査
- 社内処分の検討(事実があった場合)
- 再発防止策の検討
- 相談者のフォロー
1 相談者との面談・ヒアリング
はじめに、相談者との面談を行います。必要に応じて、パワハラを起こしている相手や、第三者にもヒアリングを行います。
2 事実確認・調査
次に、面談・ヒアリングした内容の事実確認と調査を行います。まず事実確認の有無を判断し、誤解だったと判明した場合は、相談者本人と相手に、誤解であった旨を説明します。
3 社内処分の検討
事実確認・調査の結果、パワハラが認められた場合は、懲戒に該当するかを判定します。懲戒対象にならない場合は本人に説明し、懲戒対象となる場合は処分内容を検討します。
4 再発防止策の検討
パワハラが発生した要因を探り、同じことが二度と起こらないように防止策を検討します。必要に応じて研修や勉強会を実施し、組織全体で防止に努めることが重要です。
5 相談者のフォロー
忘れてはいけない大切なステップが、相談者のフォローです。特に精神的なダメージが大きい場合は、回復するまで休職させる、もしくは業務量を減らすなどの措置を検討します。
5. パワハラを予防し、働きやすい職場へ
職場でのパワハラを防止するために重要なことは「職場環境の整備」。企業としてパワハラに反対する方針を明確にし、就業規則などに厳正な処分内容を盛り込むことが大事です。ストレスマネジメントやアンガーマネジメントに関連する研修やセミナーを活用し、社員全体がパワハラ防止に取り組める工夫も効果的といえます。
日本の人事部ではパワハラ対策に関するセミナーを検索することができます。

「パワハラ」のセミナー一覧|日本の人事部