企業が実施すべきパワハラ防止対策
パワハラとは、「パワーハラスメント」の略称であり、職場での優越的な立場を利用した嫌がらせのことです。パワハラ防止法の施行により、パワハラへの対策を取らない企業への視線はより厳しくなっています。
パワハラの発生のしやすさには、労働者の企業に対する信頼や組織内の雰囲気が影響を与えます。そのため、パワハラを防止するための最も重要かつ基本的な取り組みは、組織全体の啓蒙・教育です。啓蒙・教育の方法としては、トップからの発信、ガイドラインの作成、就業規則への明記などが挙げられます。そのうえで、パワハラが実際に発生してしまい、労働者から相談を受けたときには、「相談者との面談・ヒアリング」「事実確認・調査」「社内処分の検討(事実があった場合)」「再発防止策の検討」「相談者のフォロー」の五つのステップで対応します。
厚生労働省の調査では、過去3年間にパワハラを受けた人に、パワハラを受けていることを認識した後の勤務先の対応を聞いています。
結果は「特に何もしなかった」が47.1%で最多で、「行為者に事実確認を行った」は9.7%にとどまっています。一方で、ハラスメント解決に向けた方策として、企業側は80.5%が「事実関係の迅速かつ正確な確認」と回答しています。
迅速に事実確認をしてくれたと感じる労働者が少ない一方で、企業側の多くが迅速に事実確認したと回答しています。労働者と企業の間で認識の相違が発生していることからも、企業における防止対策の明確な定めが求められます。
パワハラ防止のために企業が実施すべき対策として「職場環境の整備」があります。企業に対する信頼や組織内の雰囲気がパワハラの発生しやすさに影響することを考えても、職場環境の整備は重要です。
パワハラを防ぐための啓蒙・教育
パワハラを防止するための職場環境整備において、最も重要かつ基本的な取り組みは、組織全体を啓蒙・教育することです。
啓蒙・教育方法の例としては、下記が挙げられます。
- 経営者などのトップから従業員に対してメッセージを伝える
- 就業規則にパワハラ防止の旨を明記する
- 企業としてパワハラ防止のガイドラインを作成し、研修により徹底的に周知する
- 従業員アンケートによりパワハラの実態を調査する
- 従業員同士のコミュニケーションを増やし、相談できる場を用意する
- 企業内外に相談窓口を設置する
- 加害者に対する再発防止教育を行う
自社でのパワハラ防止策を具体的にイメージできるよう、パワハラ防止に向けた取り組みを行っている企業の事例を紹介します。
東京ガス株式会社の事例
東京ガス株式会社では、会社の行動規範内に「人権の尊重」「元気の出る職場づくり」という指針を明確に示しています。パワハラをはじめとした各種ハラスメントや人権問題を解消するために、元気が出る職場づくりを共通の目的とする必要があると考えているためです。
代表的な取り組みとして、1年間の研修を通じた人権啓発推進リーダーの育成があります。人権啓発推進リーダーは、組織のコンプライアンス部と連携しながら職場でのパワハラ問題に対応します。経営層よりも現場に近い従業員がリーダーを担うことで、問題を的確に把握・解決できる点がメリットです。
福祉事業を展開するF事業団
福祉事業を展開するF事業団では、施設長が集まる幹部会議で理事長からパワハラ防止が指示され、企業独自で啓発パンフレットを作成しました。パンフレットは全職員に周知され、会議などで定期的に注意喚起しています。
パンフレットの作成にあたっては、実態把握のためにアンケートを実施しました。アンケートは匿名制で項目選択型の質問を多くすることで、皆が回答しやすい工夫をしています。アンケートの結果を踏まえて、パワハラの根本には職員同士のコミュニケーション不足に伴う信頼関係の希薄があるとわかったようです。
上記のほかにも、さまざまな企業がパワハラ防止に努めています。下記のページを参考に、企業規模や業種などを照らし合わせながら取り組みを進めてください。
「社内でハラスメント発生!人事担当の方」他の企業はどうしてる?|あかるい職場応援団 厚生労働省
厚生労働省では、パワハラを防止するための指導やパワハラ相談を受けた際の対応方法などを動画で解説しています。
動画で学ぶハラスメント|あかるい職場応援団 厚生労働省
従業員からパワハラの相談を受けたら
パワハラが実際に発生した場合、企業には迅速な対応が求められます。最後に、実際に従業員からパワハラの相談を受けたときの対応方法を紹介します。具体的な手順は、下記の五つです。
- 相談者との面談・ヒアリング
- 事実確認・調査
- 社内処分の検討(事実があった場合)
- 再発防止策の検討
- 相談者のフォロー
1 相談者との面談・ヒアリング
はじめに、相談者との面談を行います。必要に応じて、パワハラを起こしている相手や、第三者にもヒアリングを行います。
2 事実確認・調査
次に、面談・ヒアリングした内容の事実確認と調査を行います。まず事実確認の有無を判断し、誤解だったと判明した場合は、相談者本人と相手に、誤解であった旨を説明します。
3 社内処分の検討
事実確認・調査の結果、パワハラが認められた場合は、懲戒に該当するかを判定します。懲戒対象にならない場合は本人に説明し、懲戒対象となる場合は処分内容を検討します。
4 再発防止策の検討
パワハラが発生した要因を探り、同じことが二度と起こらないように防止策を検討します。必要に応じて研修や勉強会を実施し、組織全体で防止に努めることが重要です。
5 相談者のフォロー
忘れてはいけない大切なステップが、相談者のフォローです。特に精神的なダメージが大きい場合は、回復するまで休職させる、もしくは業務量を減らすなどの措置を検討します。
パワハラを予防し、働きやすい職場へ
職場でのパワハラを防止するために重要なことは「職場環境の整備」。企業としてパワハラに反対する方針を明確にし、就業規則などに厳正な処分内容を盛り込むことが大事です。ストレスマネジメントやアンガーマネジメントに関連する研修やセミナーを活用し、社員全体がパワハラ防止に取り組める工夫も効果的といえます。
日本の人事部ではパワハラ対策に関するセミナーを検索することができます。
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