長欠後の復職判定で、有給休暇取得後退職意思がある社員への対応
いつもお世話になり、ありがとうございます。
精神疾患により長欠していた社員が、主治医の「復職可」の診断を受けましたので、産業医との復職面談を実施し「復職可」の診断を受けました。
会社のルールは、主治医診断、産業医診断、復職に対する判定会議でいずれも出勤可能と判定された場合に出勤が認められることとなっておりますが、当該者から「復職を認められたとしても復職後は出勤せずに有給休暇取得し、全て消化した後に退職したい」との申し出がありました。
仮出勤判定項目には、「復職・業務遂行の意欲」も審議内容に含まれており、復職したとしても業務遂行意欲がない社員への復職は、前例にもなりかねないので認めたくないと思っていますが、社労士へ相談した結果、「復職については、主治医および産業医の意見を参考に、私傷病の治癒が認められるか、現職復帰が可能かどうかを判断することになる。本人の体調面的には復職が可能との判断がなされるようであれば、有休取得、退職見込みがあるからという理由で復職を認めないことは、本来の復職判断に反するものとなり、会社側の恣意的な判断であると捉えられかねないと考える。」との回答でした。
そこで日本の人事部プロフェッショナルの皆さんのご見解を伺いたいのですが、
①このケースでは判定項目(復職・業務遂行の意欲)を満たさないため、「復職不可」と判定しても法令上の問題やリスクは有りませんでしょうか。
②復職判定はあくまでも身体・精神などの医学的判断で行うべきものでしょうか。
以上お伺いいたしたく、よろしくお願いいたします。
投稿日:2025/07/25 08:03 ID:QA-0155812
- サ推室さん
- 愛知県/建設・設備・プラント(企業規模 301~500人)
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プロフェッショナル・人事会員からの回答
プロフェッショナルからの回答
判例と手引き
回答させていただきます。下記(1)、(2)も御参照ください。
1)について
「従前の職務を通常の程度に行える健康状態になった場合」には、休職事由が消滅したものと認識されます。そして、このような健康状態になったのか否かを判断するために、主治医、産業医に加えて、事業場内産業保健スタッフ等による実務的観点からの検討がなされるものと認識されます。但し、あくまで「職務遂行可能な健康状態の有無」に関するものであり、復職・業務遂行の意欲に関しては、例えば、本人から「あまり自信がない」旨の意思が示された場合にどのように考えるのかということがあげられます。「有休取得、退職見込みがあるからという理由で復職を認めないことは、本来の復職判断に反する」については、その通りではないかと考えられます。
本件については、むしろ、「復職を認められたとしても復職後は出勤せずに有給休暇取得し、全て消化した後に退職したい」との申し出があったことにより、下記(2)第2・3・4ステップを踏まえれば、復帰のハードルが下がったようにも思われます。
2)について
職場復帰の可否については、医学的な判断が重要ですが、その他にも必要な情報を収集し、さまざまな視点から評価を行い総合的に判断することが大切であると認識されます。下記(2)第2・3・4ステップを御参照ください。
(1)次の裁判例を踏まえれば、「従前の職務を通常の程度に行える健康状態になった場合」には、休職事由が消滅したものと認識されます。
「日本電気事件」(2015年7月29日 東京地)
休職命令は、解雇の猶予が目的であり、就業規則において復職の要件とされている「休職の事由が消滅」とは、労働契約における債務の本旨に従った履行の提供がある場合をいい、原則として、従前の職務を通常の程度に行える健康状態になった場合、又は当初軽易作業に就かせればほどなく従前の職務を通常の程度に行える健康状態になった場合をいうと解される。
(2)詳細については、「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(厚生労働省、独立行政法人労働者健康安全機構)が参考になると考えられます。そこでは、職場復帰支援のステップとして次のように整理されています。
<第1ステップ>病気休業開始及び休業中のケア
<第2ステップ>主治医による職場復帰可能の判断
<第3ステップ>職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成
<第4ステップ>最終的な職場復帰の決定
<第5ステップ>職場復帰後のフォローアップ
第2ステップに関しては、主治医による判断に加え、「主治医の判断と職場で必要とされる業務遂行能力の内容等について、産業医等が精査した上で採るべき対応を判断し、意見を述べることが重要」とされています。
第3ステップに関しては、「安全でスムーズな職場復帰を支援するため、最終的な決定の前段階として、必要な情報の収集と評価を行った上で職場復帰ができるかを適切に判断し、職場復帰を支援するための具体的プラン(職場復帰支援プラン)を作成」とされています。
具体的には、以下のことが示されています。
ア 情報の収集と評価
職場復帰の可否については、必要な情報を収集し、さまざまな視点から評価を行い総合的に判断することが大切です。情報の収集と評価の内容は次のとおりです。
(ア)労働者の職場復帰に対する意思の確認
(イ)産業医等による主治医からの意見収集
(ウ)労働者の状態等の評価
治療状況及び病状の回復状況、業務遂行能力、今後の就業に関する労働者の考え、家族からの情報
(エ)職場環境等の評価
業務及び職場との適合性、作業管理や作業環境管理に関する評価、職場側による支援準備状況
(オ)その他
その他必要事項、治療に関する問題点、本人の行動特性、家族の支援状況や、職場復帰の阻害要因等
イ 収集した情報の評価をもとに、職場復帰の可否についての判断
職場復帰が可能か、事業場内産業保健スタッフ等が中心となって判断を行います。
ウ 職場復帰が可能と判断された場合、職場復帰支援プランの作成
以下の項目について検討し、職場復帰支援プランを作成します。
(ア)職場復帰日
(イ)管理監督者による就業上の配慮
(ウ)人事労務管理上の対応等
(エ)産業医等による医学的見地からみた意見
(オ)フォローアップ 等
第4ステップでは、それまでのステップを踏まえ、次のように、最終的な職場復帰の決定が行われるとされています。
ア 労働者の状態の最終確認
イ 就業上の配慮等に関する意見書の作成
ウ 事業者による最終的な職場復帰の決定 等
投稿日:2025/07/26 14:30 ID:QA-0155839
相談者より
職場復帰支援のステップまでご教示くださり、ありがとうございました。参考にさせていただきます。
投稿日:2025/07/28 14:00 ID:QA-0155880大変参考になった
プロフェッショナルからの回答
ご回答申し上げます。
ご質問いただきまして、ありがとうございます。
次の通り、ご回答申し上げます。
1.ご相談内容のポイント整理
主治医・産業医ともに「復職可」の診断。
貴社は「判定会議」で最終的に出勤可否を決定。
当該社員は「復職後すぐ有休を全消化し退職したい」と希望。
「復職・業務遂行意欲」は判定項目の一つ。
ご懸念:意欲の欠如を理由に「復職不可」とできるか?
社労士の見解:「医学的に復職可能なら拒否は難しいのでは」との指摘。
2. 「復職・業務遂行の意欲」欠如を理由に「復職不可」とすることは可能か?(法令リスク)
3.法的観点
基本的に「復職可否の判断」は、労働契約上の安全配慮義務・労務提供義務の適否に基づくため、
・就労が可能かどうか(医学的観点)
・就業規則上の復職基準(制度運用の適正性)
に照らして客観的に判断されなければなりません。
4.「復職不可」とするリスク
貴社の「復職・業務遂行意欲」を判定項目に含める運用は、一見合理的に思えますが、次のようなリスクがあります。
(1) リスク1:医学的判断に反する会社側の主観的判断とみなされる
→ 産業医・主治医が復職可能と判断している場合、それに反して「意欲がない=復職不可」とするのは、裁判例では不当とされる傾向があります。
(例:「日立製作所事件」東京地裁平成27年3月5日 など)
(2)リスク2:復職の要件として「意欲」まで求めることは、労働契約の不当な制限とされるおそれ
→ 労働契約は「労働力の提供を約束する契約」であり、「気持ち・意欲」自体は評価しづらい主観的要素であるため、復職を拒否する正当理由と認められにくい。
(3)リスク3:復職後に即有給休暇を取得すること自体は、違法ではない
→ 年次有給休暇は、労働基準法上の「権利」であり、「退職前に有給を使いたい」こと自体をもって、復職の妨げとはならない。
5.よって、
「意欲がない」という主観的要素を理由に、復職を拒否することには、一定の法的リスクがあると考えるべきです。
6.復職判定はあくまで医学的判断で行うべきか?
(1)結論
医学的な就業可能性を前提としつつ、会社としての業務遂行可能性や労務提供の実現性も含めて判断すべきです。
(2)補足
医学的判断(主治医・産業医)だけで「当然に復職できる」というわけではありません。
会社としては、「配置可能性」「安全配慮義務」「周囲との関係性」など、就業環境面の要素も加味して最終判断を下すことができます。
ただし、その判断は「客観的・合理的な理由」が求められ、「意欲がない」などの曖昧な表現ではなく、具体的な不安要素(例:再発リスク、職場秩序への影響など)を明示できる必要があります。
7.実務上の選択肢と対応案
選択肢→内容→法的リスク
(1) 医学的判断通りに復職を認め、有給休暇の取得も容認→有給は労基法上の権利であるため、復職後の消化を拒むことはできない→リスク小
(2) 面談等で「本当に就労意思があるのか?」を確認し、復職判定を保留または延期→意欲の有無ではなく、労務提供の意思の明確化という視点で→運用次第で許容
(3) 意欲・行動に一貫性がないことから「形式上の復職は認めがたい」と判定→主観に頼るとリスク高。記録や行動に基づいた客観資料の整備が重要→リスク中~高
8.まとめ
「復職・業務遂行の意欲」欠如だけで「復職不可」とするのは、法的リスクがある。
復職判定は、まず医学的判断(主治医・産業医)を基礎とし、会社側で配置可否・労務提供意思の有無等を含めて、総合的に判断すべき。
復職=すぐ就労ではなく、有給取得も認めざるを得ない。
ただし、「復職を装った退職準備」であり、労務提供の意思がないのでは?という観点で、記録(本人の申出、面談内容など)を整備し、慎重に対応されることをお勧めします。
以上です。よろしくお願いいたします。
投稿日:2025/07/26 14:45 ID:QA-0155840
相談者より
各要点をまとめていただき、あわせ法的リスクのみならず、実務上の選択肢と対応案までご教示いただき、ありがとうございました。対応の参考にさせていただきます。
投稿日:2025/07/28 14:03 ID:QA-0155882大変参考になった
プロフェッショナルからの回答
回答いたします
ご質問について、回答いたします。
復職判断は、法的には 労働契約に基づき労務の提供が可能かどうか という観点で
行う必要があり、これは 医学的・客観的根拠 に基づいて、最終的には会社が、
判断されるべきものとされています。
その上で、仮に本人が復職後に出社せずに有休を使って退職したいと述べた
としても、それが体調的に業務遂行不可能であることの証明にはなりません。
つまり、本人の業務遂行の意欲がないという理由だけをもって判断するのは、
会社側の恣意的な復職拒否と判断とされるリスクがあります。
あくまでリスク問題となりますが、会社としてリスクを回避するのであれば、
本人希望通り、復職後、有給消化を経て退職とさせることをお勧めいたします。
投稿日:2025/07/28 07:41 ID:QA-0155852
相談者より
会社側の恣意的な復職拒否と判断とされるリスク、とのご指摘を重く受け止め、対応を検討させていただきます。どうもありがとうございました。
投稿日:2025/07/28 14:05 ID:QA-0155883大変参考になった
プロフェッショナルからの回答
対応
復職判定は会社が一義的に行うものであり、医師は主治医でも産業医でも、医学的所見を述べるに過ぎません。
一方、会社の判断を行う際に、「意思、意欲」のような恣意的な項目を入れることも、事態を混乱させると考えられます。
会社の一方的リストラと解されるリスクは大きいと思われます。
業務適性、業務への負荷など、客観的に判断できる項目だけで復職判定をするよう、現状制度の見直しを図るべきでしょう。
投稿日:2025/07/28 14:14 ID:QA-0155884
相談者より
「客観的に判断できる項目だけで復職判定をする」ことが大切であることを気付かされました。どうもありがとうございました。
投稿日:2025/07/28 15:35 ID:QA-0155887大変参考になった
プロフェッショナルからの回答
ご質問の件
休職制度は会社のルールになりますので、
復職につきましては、育児休業からの復帰とは異なり、
原則として、会社の休職規定にどのように記載されているかによります。
そのうえで、
復職後に有休を取得することはやむを得ませんが、
復職の意思なく、退職前提で有休を使用するのは違う気がいたします。
休職は、最終的には会社が判断するものですので、
退職前提者は労働の意思がありませんので、復職判断はできないでしょう。
投稿日:2025/07/28 17:13 ID:QA-0155895
相談者より
ご回答ありがとうございました。
投稿日:2025/07/29 10:17 ID:QA-0155946あまり参考にならなかった
回答に記載されている情報は、念のため、各専門機関などでご確認の上、実践してください。
回答通りに実践して損害などを受けた場合も、『日本の人事部』事務局では一切の責任を負いません。
ご自身の責任により判断し、情報をご利用いただけますようお願いいたします。
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