タクシー会社の歩合給の制度
以下に示す、賃金制度は法的に問題はありますか?
🚕タクシー業界の賃金制度を刷新!
完全歩合給を「当月全額支給」できる新ロジックを提案/ 未払い歩合給の発生を防止し、法令リスクを低減
🏁 背景:歩合給の繰り延べ慣行とその課題
タクシー会社では「歩合給の一部を翌月や賞与に繰り延べて支給する」慣行が続いてきました。
この仕組みは、賃金計算の手法の問題として以下のような課題を生んできました。
一部の歩合給が未払い扱いになる
賞与支給時に繰り延べ処理される
計算根拠に伴う労働基準監督署からの是正勧告リスク
社会保険料算定に影響し、社会保険手当金が目減り(有給休暇手当に連動する場合は、手当が目減りします)
深夜稼働の有無による給与・賞与格差
こうした問題を是正するため、
「当月完結・全額支給」 を可能にする新しい歩合給ロジックを開発しました。
これらは、経営者・労働組合・士業従事者でも、解決できなかった課題であり、業界ではこれらに関係する訴訟問題となることも生じていました。
💡 新ロジック開発の目的
本ロジックは、こうした課題を解消するために考えたもので、従来の「翌月以降への繰り延べ」「賞与算入」を廃し、タクシー乗務員が働いた分をその月に正確に受け取れるための新しい賃金計算方式です。考え方は、歩合給を基本給部分と時間外手当部分に分離し、時間外手当計算を反復計算している点にあり、法的にもクリアしている点にあります。
⚙️ 仕組みの概要
提案する方式の歩合給は「基本給部分」と「時間外手当部分」に分解し、基本給部分は拘束時間に対する所定労働時間の割合とし、時間外手当部分は所定労働時間を除く時間外手当(残業手当・深夜残業手当・休日勤務手当・休日勤務深夜手当)として構成し、次の手順で自動的に算出するものとします。
拘束時間と所定労働時間の比率から、基本給に相当する「基本給部分率」を求める
基本給部分率に基づき、歩合給から基本給相当額を計算
残業・深夜・休日勤務の各時間に対して法定割増率(25%・35%など)を適用
歩合給からこれらの割増手当を控除し、残余を再計算に反映
反復計算を行い、歩合給総額と構成項目(基本給+各手当)の整合性を確保
賃金台帳および給与明細書には、前項の計算例に基づき、各構成項目(基本給部分、残業手当、深夜手当、休日手当、休日深夜手当)を区分して表示し、労働者が自己の割増賃金算定根拠を容易に確認できる形式とする。
歩合給は、当該月の実際の労働時間に基づき算定され、法定割増率を適用した割増賃金を全額支給する。したがって、別途の追加支給または減額調整は行わない。
この方式による歩合給の算定は、労働基準法第37条および同施行規則第19条第1項第6号の趣旨に従い、労働者に不利益とならない範囲で行う。
歩合給は、当該月に完結して全額を支給し、翌月または賞与への繰延支給は行わない(労働基準法第24条第1項の趣旨による)。
この仕組みにより、歩合給の中に内包されている時間外割増を正確に抽出し、1か月分の賃金として完結します。
投稿日:2025/10/28 00:05 ID:QA-0159987
- ランチさん
- 東京都/運輸・倉庫・輸送(企業規模 101~300人)
この相談に関連するQ&A
プロフェッショナル・人事会員からの回答
プロフェッショナルからの回答
ご回答申し上げます。
ご質問いただきまして、ありがとうございます。
次の通り、ご回答申し上げます。
1.従来型タクシー歩合給の法的問題点(背景の確認)
タクシー業界では従来、「月間売上高×歩合率」を基礎に、
翌月精算または一部を賞与に繰り延べて支給する形が多く見られました。
この仕組みが抱える典型的な問題は次の通りです。
問題点根拠条文・法的リスク翌月・賞与繰延により当月労働分の賃金が未払い扱い労基法24条(賃金全額払い原則)違反の恐れ歩合給に残業・深夜割増を内包しつつ明示していない労基法37条(割増賃金明示)違反の恐れ社会保険料算定・有給休暇賃金の基礎に影響社会保険法・労基法39条違反の恐れ割増賃金計算の根拠が曖昧監督署調査で是正勧告対象になりやすい
したがって、「歩合給を月内で完結・構成要素を明示する」という考え方自体は法的適正化の方向に一致しています。
2.ご提示の「新ロジック」の要点と法的適合性
【提案の要旨】
歩合給を「基本給部分」と「時間外手当部分」に分解し、当月内で完結計算・全額支給する。
この設計思想は、労基法第37条・第24条の趣旨に整合しています。
それぞれの条文との関係を具体的にみます。
(1)労基法第24条(賃金全額払いの原則)
原則:賃金は毎月1回以上、一定期日に全額を支払うこと。
→ 「歩合給を翌月や賞与に繰延べない」という点は、法に完全に適合。
タクシー業界ではむしろ望ましい方向性です。
(2)労基法第37条(時間外・休日・深夜の割増賃金)
時間外・休日・深夜労働には、所定の割増率を上乗せして支払うこと。
→ 歩合給に割増分を内包させることは可能ですが、
「割増部分を明確に区分・算出根拠を説明できること」が前提です。
ご提示の方式では、
拘束時間と所定労働時間の比率から「基本給部分率」を算出
各時間外労働等に法定割増率を反映
反復計算により整合性を確保
とされています。
もしこのプロセスで「各割増賃金額」を算出でき、賃金台帳・給与明細にも区分表示できるなら、
第37条の要件を満たす構造と評価できます。
(3)最低賃金法との関係
タクシー業界の完全歩合給制では、
「稼働が少なかった場合に最低賃金を下回る」リスクが常にあります。
→ よって、この方式でも必ず次の対応が必要です。
当月総労働時間 × 地域最低賃金 ≦ 支給総額(基本給+割増手当)
これを満たさない場合は最低賃金補償給(保証給)を別途支給する
この部分を明文化していないと、労基法・最低賃金法双方の是正リスクが残ります。
(4)社会保険・有給休暇への影響
当月完結方式では、
毎月支払額が実労働分に対応して安定するため、
標準報酬月額・平均賃金計算への反映が正確化
結果として、有給休暇や各種手当の基礎が正確になり、むしろ法的リスクは低減します。
3.法的観点から見た「実装上の注意点」
留意事項実務的ポイント割増計算の根拠「歩合給内に含まれる割増賃金額」を明示・保存(計算表を添付)給与明細の表示「基本給」「時間外手当」「深夜手当」「休日手当」等を区分して表示労使協定歩合給の算定ロジックを就業規則または労使協定に明記最低賃金保障当月の稼働が低い者への補填制度を明文化賃金台帳第37条対応で割増内訳を明確に区分記録残業・深夜・休日時間の管理タコグラフ・運行記録等で労働時間を客観的に把握する必要あり
4.行政実務上の評価(監督署視点)
労働基準監督署の立場では、
「歩合給内に割増分を含める」こと自体を否定していません。
ただし、過去の是正事例を見ると:
「割増部分を明確に区分しておらず、算出根拠を説明できない」
→ 割増賃金未払いとして是正。
とされるケースが多いです。
したがって、貴社方式のように反復計算によって構成項目の整合性を担保し、明細に区分表示するなら、
行政的にも合理的かつ適法な歩合給制度として説明可能です。
5.結論
評価項目現行法適合性コメント当月完結支給◎労基法24条に適合。繰延払いより明確に望ましい。割増賃金算定方法○~◎割増部分の区分・算出根拠を明示できれば法的に有効。最低賃金遵守要確認稼働減時に保証給制度があれば問題なし。賃金台帳・明細の区分〇(前提条件)区分表示・保存が必須。労使協定の整備必要ロジックを就業規則・協定に明記することが重要。
6.実務アドバイス
本制度を導入する際は、
「歩合給計算規程(ロジックを明文化)」と「最低賃金補償規程」を就業規則別表として添付することを推奨します。
また、賃金台帳のサンプル(計算過程含む)を事前に労基署へ相談すると、後の是正リスクをほぼ排除できます。
以上です。よろしく、お願いいたします。
投稿日:2025/10/28 14:48 ID:QA-0160004
相談者より
ご回答まことにありがとうございました。
専門家の方から、考え方は間違いではなかったことが分かり、とても心強く感じています。
詳細な計算方法は、別途、賃金規定として作成していますが、表形式を一部使用しているため、掲載できませんでした。
宜しければ、下記に詳細な方法を書き留めておりますので、ご参照いただきましたら、幸いです。
ありがとうございました。
https://drive.google.com/file/d/1Z1Gp8hf-q-6jfpdAc9ashPWYEANpNQxL/view?usp=drive_link
投稿日:2025/10/30 13:48 ID:QA-0160097大変参考になった
プロフェッショナルからの回答
論点
以下、回答いたします。
(1)「基本給部分」と「時間外手当部分」との関係が重要であると認識されます。前者の額が後者の減額につながる仕組みとなっているのかどうかという問題です。
この点に関して、判例(国際自動車(第2次上告審)事件 令和2年3月30日)では、以下の旨が判示されています。
※割増金の額がそのまま「通常の労働時間の賃金である歩合給(1)」の減額につながるという仕組みでは、労働基準法37条の定める割増賃金が支払われたということはできない。
1)労働基準法37条の趣旨(割増賃金を支払わせることによって時間外労働等を抑制)に沿うものとはいい難い。
2)通常の労働時間の賃金に当たる部分がなくなり全てが割増賃金となる場合、法定の労働時間を超えた労働に対する割増分として支払われるという労働基準法37条の定める割増賃金の本質から逸脱したものといわざるを得ない。
3)本件割増金は、通常の労働時間の賃金である歩合給(1)として支払われるべき部分を相当程度含んでいるものと解さざるを得ない。通常の労働時間の賃金に当たる部分と労働基準法37条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することはできないこととなる。
(2)一方、割増賃金の計算方法については、次のように解されています。(令和3年版 労働基準法 上 厚生労働省労働基準局編)
1)労働基準法第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)に定める計算額以上の額の割増賃金を支払う限り、必ずしも本条に定める計算方法に従う必要はない。
2)出来高払制その他の請負制によって賃金が定められている場合については、時間外、休日又は深夜の労働に対する時間当たり賃金、すなわち1.0に該当する部分は、既に基礎となった賃金総額のなかに含まれているのであるから、加給すべき賃金額は計算額の二割五分以上をもって足りる。
3)割増賃金額の計算方法を例示すれば、次のとおりである。賃金が出来高払制その他の請負制によって定められている場合には、
割増賃金額=(基礎賃金の1時間当たり金額)×(時間外労働の労働時間数×時間外労働についての割増率+休日労働の労働時間数×休日労働についての割増率+深夜労働の労働時間数×深夜労働についての割増率)
因みに、この計算方法を図示したものとして、「しっかりマスター 労働基準法 割増賃金編」(東京労働局)(6ページ目)があります。
chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/content/contents/000501860.pdf
(3)本件では、
1)まず、「基本給部分率に基づき、歩合給から基本給相当額を計算。残業・深夜・休日勤務の各時間に対して法定割増率(25%・35%など)を適用。歩合給からこれらの割増手当を控除し、残余を再計算に反映。反復計算を行い、歩合給総額と構成項目(基本給+各手当)の整合性を確保」とのことです。
これについては、上記(1)の問題が懸念されます。
2)また、「歩合給は、当該月の実際の労働時間に基づき算定され、法定割増率を適用した割増賃金を全額支給する。」とのことです。この点については、以下の疑問が認識されました。
ア)「歩合給は当該月の実際の労働時間に基づき算定」ということであれば、これは歩合制と言えるのでしょうか。
イ)仮に、そうとは言えないということになれば、上記(2)2)3)に関連して支障が生じないでしょうか。
ウ)一方、売上等の一定の成果を取り入れるのであれば、上記(1)の問題につながっていくことにはならないでしょうか。
投稿日:2025/10/30 10:53 ID:QA-0160077
相談者より
ご回答まことにありがとうございます。
計算の詳細内容を掲載していないため、分り難いことをお詫びいたします。
下記をご参照いただきましたら、幸いです。
https://drive.google.com/file/d/1Z1Gp8hf-q-6jfpdAc9ashPWYEANpNQxL/view?usp=drive_link
投稿日:2025/10/30 13:55 ID:QA-0160098大変参考になった
回答に記載されている情報は、念のため、各専門機関などでご確認の上、実践してください。
回答通りに実践して損害などを受けた場合も、『日本の人事部』事務局では一切の責任を負いません。
ご自身の責任により判断し、情報をご利用いただけますようお願いいたします。
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