休憩時間の設定におけるリスクについて
いつもお世話になっております。
営業職の1日の所定労働時間を7時間30分、休憩を2時間30分と就業規則に定めている当社のグループ会社があります。
この度、就業規則を改訂し、1日の所定労働時間を8時間とし、休憩時間を2時間に変更する旨、連絡がありました。
また、月の平均稼働が21日ですので、0.5時間×21日=月10.5時間、労働時間が増え、
年間10.5時間×12ヶ月=126時間、労働時間が増える代わりに、
126時間÷8時間=15.75日
年間休日を今までより16日増やすそうです。
ただし、私個人の意見としては、法律でも労働時間が6時間超~8時間以内であれば最低45分、8時間を超える場合は最低1時間と目安が示されている中、所定労働時間が8時間、休憩2時間ですと、1日の拘束時間が10時間00分は常識的ではなく、休憩2時間というのは長距離ドライバーや夜勤(深夜)の工場など仮眠や途中に休憩を取らないと危険な業務に適用されるものであり、日中の営業職に適用されるものではないと考えています。
適正な休憩時間の設定についてご検討いただくにあたり、上層部へどのようなリスクを提示し、どのような形で進言すべきか、ご意見を賜りたく存じます(とりわけ思いつくのは下記3点になります)。
①こんなに拘束されるのでしたら嫌だということで人手不足、少子高齢化で若者が少ない現代において応募してもらえなくなり、採用が難しくなると思います。
②営業職でしたら、結果を出して、早く帰社し、帰宅し、業績給を稼ぎながら、仕事と私生活を充実させた方が充実感も得られるかと思いますので、長時間の拘束は入社しても社員の定着に悪影響を与えると思います。
②実際には、外回り中、そんなに休憩を取っているとも思えず、時間を潰しているとしたら手待ち時間にカウントされますし、商談や移動で9時間働いていたら労働時間ですし、未払い賃金になってしまうリスクがあると思います。
投稿日:2025/10/31 09:25 ID:QA-0160122
- newyuiさん
- 神奈川県/その他業種(企業規模 31~50人)
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プロフェッショナル・人事会員からの回答
プロフェッショナルからの回答
ご回答申し上げます。
ご質問いただきまして、ありがとうございます。
営業職における「休憩時間2時間」という設定は、労基法上は直ちに違法ではないものの、実態と乖離している場合には、重大な法的・労務リスクを内包します。
以下に、上層部への説明・進言時に提示すべき「主なリスクと説得の方向性」を体系的にご説明申し上げます。
1.法的リスク(未払い残業・労基法違反)
(1) 実態と乖離する「休憩」設定の危険性
労働基準法第34条は、「労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩を与える」ことを義務付けています。
ここで重要なのは「休憩」とは労働から完全に解放されている時間であるという点です(厚労省通達 昭23.9.13 基収第2498号)。
営業職の場合、実際には次のような事情が多いです:
外出中に休憩を取っているように見えても、取引先や上司からの電話・メール対応をしている
昼食後に車中で資料整理・日報入力などを行っている
商談の合間で時間を潰しているだけで「自由利用」ではない
こうした実態があると、**「休憩」ではなく「労働時間(手待ち時間)」**として扱われ、
2時間のうち1時間半などが労働時間と認定される可能性があります。
→ 結果として、未払い残業・賃金請求リスクが生じます。
裁判例参考:
大林道路事件(東京地裁 平成11年3月29日)
現場作業員が昼休みに作業指示を受けていたとして、休憩の一部を労働時間と認定。
中日本フード事件(名古屋地裁 平成23年11月22日)
営業職が外回り中に「休憩」を取っていたとされるが、電話対応等により実質的に拘束されていたため、手待ち時間と認定。
2.労務リスク(採用・定着への悪影響)
(1) 採用難への直結
1日拘束10時間(8時間労働+2時間休憩)は、
応募者に「古い体質」「ブラック的」と映るおそれがあります。
特に現代の求職者は「働きやすさ」「ワークライフバランス」を重視しており、
同業他社に比較して拘束時間が長いと、応募率が著しく下がることが予想されます。
(2) 定着率の低下
営業職にとって、成果を出したら早く帰宅できる「裁量感」がモチベーション源になります。
それを長時間拘束する形に変えると、
「やる気のある人ほど離れていく」「成果主義が空洞化する」リスクがあります。
→ 上層部への説得ポイント:
「法令上は問題なくても、“拘束10時間”という就業規則は人材マーケット上での競争力を失わせます。」
3.運用・労働時間管理リスク
(1) 実態との乖離による記録上の矛盾
実際に営業職が「2時間休憩を取った」と証明することは困難です。
労基署調査や裁判で、GPS・携帯通話記録・商談スケジュールなどが開示された場合、
「休憩中も電話や移動をしていた」と判断されれば、
会社の労働時間管理そのものが否定される可能性があります。
(2) 残業時間の潜在的膨張
名目上の休憩2時間が実際には1時間程度しか取れていないとすれば、
「実質的な1日労働時間=9時間」になり、
会社側が把握しているより残業が発生していることになります。
4.進言の仕方(実務的提案)
(1) 経営層への説明ポイント
論点内容法令遵守実態が「自由な休憩」でなければ、法定休憩の趣旨を満たさず未払い残業リスクがある人材確保「拘束10時間」は採用難・離職率上昇を招く企業イメージ労務管理の近代化に逆行して見える(若年層・女性の応募減)管理コスト「2時間休憩の実態確認」による勤怠管理の煩雑化・紛争対応コスト
(2) 提案モデル
所定労働時間8時間+休憩1時間(拘束9時間)を基本とする
営業職の裁量性を尊重し、「外出中の休憩取得ルール」を別途細則で定める
実態調査(ヒアリング・GPSデータ等)を実施して、休憩実態を見直す
5.まとめ(上層部への報告書・口頭説明に使える要約)
「法律上は休憩時間を長く取ることも可能ですが、実態が伴わない場合には、
未払い残業の認定や人材流出のリスクを招くおそれがあります。
営業職のように外回り主体の職種では、“2時間の完全休憩”を確保するのは現実的ではなく、
むしろ労働時間管理上のリスクを増やす結果となりかねません。
今後の人材確保・法令遵守・企業イメージを考慮すると、拘束9時間(休憩1時間)が妥当です。」
以上です。よろしくお願いいたします。
投稿日:2025/10/31 09:49 ID:QA-0160123
相談者より
いつもお世話になっております。
非常に的確で説得力のあるご説明をありがとうございました。
とても丁寧にご回答いただき、とても参考になりました。ありがとうございました。
投稿日:2025/10/31 10:34 ID:QA-0160127大変参考になった
プロフェッショナルからの回答
お答えいたします
ご利用頂き有難うございます。
ご相談の件ですが、3点全てについてご認識の通りといえるでしょう。
つまり、働き方改革が進んでいる今日におきまして、長時間拘束されるという措置に関しましては明らかに時代錯誤的といえます。働き手にとりましても、そして会社にとりましても大きな時間の浪費に繋がるものといえます。
問題は、経営陣がそうした意識を何処迄持たれており、時代に即した職場改革を進める意思が有るかという点にございます。可能であれば、人事担当の意見のみならず職員のアンケート調査等も実施され、直接現場からの要望の声もお届けされるのが心に響きますのでお勧めしたいです。
投稿日:2025/10/31 09:52 ID:QA-0160124
相談者より
いつもお世話になっております。
職員のアンケート調査を実施、現場の声を届けるのも有効かと思いました。
大変参考になりました。有難うございました。
投稿日:2025/10/31 10:41 ID:QA-0160129大変参考になった
プロフェッショナルからの回答
回答いたします
ご質問について、回答いたします。
休憩時間2時間は一般的には合理的理由が無い限り、長いものと判断されます。
記載いただいた3点以外でいいますと、
・レピュテーションリスク
・安全配慮義務違反リスク
が代表的なものととしてございます。
レピュテーションリスクが表に出るきっかけの多くは現在、SNSへの投稿です。
SNSの投稿は拡散される可能性が高い為、拡散されますと社会的信用を失います。
また、安全配慮義務違反は、合理的理由に基づかない長い拘束時間の設定や、
休憩時間が実質とれていないなどにより、従業員が健康を害した場合、
会社は安全配慮義務違反として、損害賠償責任を問われるリスクがあります。
投稿日:2025/10/31 10:15 ID:QA-0160125
相談者より
いつもお世話になっております。
リスクに関して的確なご意見ありがとうございました。
とても参考になりました。
投稿日:2025/10/31 13:09 ID:QA-0160139大変参考になった
プロフェッショナルからの回答
判断
法律は最低限の休憩時間は規定していますが、長く取ることは規制されません。
どの程度の休憩を入れるかは、正に経営方針であり、人事政策です。
ご指摘が的を射ており、普通に考えれば人材確保に不利なことは常識です。
人材確保に支障が出ていることだけでも十分な判断材料かと思います。ご懸念をそのまま具申されるべきと思います。
投稿日:2025/10/31 10:35 ID:QA-0160128
相談者より
いつもお世話になっております。
大変参考になりました。
有難うございました。
投稿日:2025/10/31 13:12 ID:QA-0160140大変参考になった
プロフェッショナルからの回答
日本の人事部Q&Aをご利用くださりありがとうございます。ご提示くださった3つのリスクを上層部に提案するに際し、提案の説得力が増しそうな補足情報を提供させて頂きたいと思います。
1. 採用難のリスク および 2. 社員定着率悪化のリスクへの補足
所定労働時間の延長と2時間休憩の組み合わせによる「1日の拘束時間10時間」という設定は、働き方改革や現代の労働者の意識が求める潮流に逆行するリスクがあります。
(1).働き方改革の目的との矛盾
・ 働き方改革は労働者の心身の健康を確保し、仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス/WLB)を実現することを最も重要な目的の一つとしています。
・労働時間等設定改善法によると、事業主には、雇用する労働者の労働時間の短縮その他の労働条件の改善に努める責務があるとされています。
・今回の変更は、年間休日が増えるとはいえ、1日の所定労働時間と拘束時間を延長するものであり、この国の施策の方向性(時短推進)に逆行し、企業としての責務(労働時間の短縮努力義務)を全うしていないと見なされる可能性があります。
(2).労働者のWLB意識との乖離(令和7年厚生労働白書より)
・全世代の労働者にとって、WLB実現を阻害する大きな要因として、労働時間制度の柔軟性の不足が挙げられています。10時間拘束という硬直的な勤務体系は、柔軟な働き方を求める現代のニーズに合致しません。
・特に若年層は、将来への不安解消や自分の生活基盤の確保とWLB意識が強く結びついており、柔軟な働き方に関心を持っています。長時間拘束は、彼らが自身のライフイベントや生活設計を考える上での大きな障害となり、採用市場での魅力を損ないます。
・また「共働き・共育て」が推進され、育児・介護との両立支援の必要性が高まる中で、10時間拘束は、特に育児や介護の負担を担う社員の離職を招く要因となりえます。柔軟性のない勤務体系は、仕事と家庭の両立を困難にさせます。
3. 未払い賃金のリスクへの補足(休憩時間の定義の観点)
肉体的負荷の大きくないホワイトカラーである営業職に対してわざわざ2時間もの休憩を設定する理由が、業務上の移動や雑務を休憩時間内に済ませることを期待してのことであれば、その時間は法的に「休憩時間」として認められず、結果として未払い賃金の発生に直結する可能性が極めて高いです。
(1).休憩時間の法的定義
休憩時間とは、労働者が「使用者の指揮命令下から完全に解放され、自由に利用できる時間」を指します。逆に、従業員が会社の監督・指揮命令下にある時間は、実際に作業をしていなくても労働時間と見なされます。
(2).労働時間と見なされる具体的な事例
営業職が外回りの途中で2時間の休憩を取ろうとしても、以下のような時間は労働時間と見なされるリスクがあります。
・手待ち時間(待機時間);次の商談のために喫茶店などで待機している時間や、移動時間中に連絡に備えている時間は、実質的に会社の監督・指揮命令下にあると判断される場合があります。
・付随的な業務時間; 次の訪問先への移動や、商談前の資料確認などの仕事の準備に費やした時間は、労働時間となりえます。
・黙示の指示による労働時間;会社からの営業ノルマ達成のプレッシャーが強いため、実質的に2時間の休憩取得が困難であり、目標達成のために働かざるを得ない状況は、会社からの「黙示の指示」があったとして、休憩時間が労働時間と認められる場合があります。
したがって、営業活動の実態として2時間の休憩を完全に自由に利用することが困難である以上、その時間が労働時間と認定され、未払い賃金が発生するリスクは非常に高いと言えます。
営業職は対人コミュニケーション能力、分析力と提案力および問題解決力、そして自己管理能力とレジリエンスが求められる仕事であり、個人の資質に大きく依存する職種ですが、拘束時間を延長して画一的に営業職を管理しようとするのは、時代の流れにマッチしておらず、むしろ営業職のマインドやスキルの低下をもたらすと考えます。
以上、雑駁な回答で恐縮ですがご質問者様の援護射撃になれば幸いです。どうぞ宜しくお願いします。
投稿日:2025/10/31 11:01 ID:QA-0160130
相談者より
説得力のあるご意見を定義を踏まえ、わかりやすく解説していただき、とても参考になりました。
ありがとうございました。
投稿日:2025/10/31 13:52 ID:QA-0160147大変参考になった
プロフェッショナルからの回答
進言のやり方:「勤務間インターバル」制度の導入
以下、回答いたします。
(1)「勤務間インターバル」制度の導入が法律上、企業の努力義務となっています。
※ 「勤務間インターバル」制度
1日の勤務終了後、翌日の出社までの間に、一定時間以上の休息時間(インターバル)を設けることで、労働者の生活時間や睡眠時間を確保しようとするもの。
※ 「労働時間等の設定の改善に関する特別措置法」第2条第1項
「事業主は、~(略)~健康及び福祉を確保するために必要な終業から始業までの時間の設定 ~(略)~その他の必要な措置を講ずるように努めなければならない。」
(2)本件、リスクの提示とともに、進言のやりかたとして、合わせて、「勤務間インターバル」制度の導入を御提案されることが考えられます。導入に当たっては、「労働時間の途中」での一部「休憩時間」を、「終業から始業」までの「休息時間」に振り向けることになろうかと考えます。
(3)直ちに当該制度を導入することが現実的ではない場合であっても、同制度の趣旨に鑑み、一部「休憩時間」を「休息時間」に振り向けることは一考に値するものであると認識されます。
(ご参考)「勤務間インターバル制度とは」(厚生労働省)
https://work-holiday.mhlw.go.jp/interval/
「働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)のご案内」や「制度導入に関するお役立ちサイト」(働き方・休み方改善コンサルタント等)もあります。
投稿日:2025/11/01 06:33 ID:QA-0160159
相談者より
新たな視点からの進言方法についてご教示いただき、ありがとうございました。
とても参考になりました。
投稿日:2025/11/04 13:34 ID:QA-0160187大変参考になった
人事会員からの回答
- オフィスみらいさん
- 大阪府/その他業種
①、②、③ すべてごもっともな意見です。
そのまま上層部に進言すればよろしいでしょう。
1日の所定労働時間が7時間30分、休憩時間が2時間30分を、それぞれ8時間、2時間と変更するが拘束時間は変わらずでは、働き方改革が叫ばれる令和の時代に昭和の感覚がそのまま残っているとしか思えず、まずは上層部に意識を変えてもらう必要があります。
全従業員から意見を募り、集計結果を “現場の声“ として上層部に届けることで意識改革につながる効果も期待したいですが、問題は上層部の人たちが ”聞く耳” をもっているかどうかです。
投稿日:2025/11/01 08:00 ID:QA-0160161
相談者より
いつもお世話になっております。
大変参考になりました。
ありがとうございました。
投稿日:2025/11/04 13:37 ID:QA-0160188大変参考になった
回答に記載されている情報は、念のため、各専門機関などでご確認の上、実践してください。
回答通りに実践して損害などを受けた場合も、『日本の人事部』事務局では一切の責任を負いません。
ご自身の責任により判断し、情報をご利用いただけますようお願いいたします。
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