ビジョンや経営戦略とリンクした「人事制度」をいかに構築するのか?
人事制度設計コンサルティングの傾向と選び方
働き方や価値観の多様化、法令改正への対応などにより、多くの企業において人事制度の見直しが必要となっています。人事制度は経営理念や経営戦略を体現するための仕組みとして重要なものですが、一方で制度設計の難易度は高まっているのが現状です。
そこで『日本の人事部』では、人事制度のトレンドをまとめました。人事制度設計コンサルティングを活用するメリットや選び方のポイント、サービス比較も併せて解説します。
人事制度とは
まずは、人事制度の役割とトレンドを見ていきます。
人事制度が担う役割とは
人事制度は、従業員への公正な評価と処遇を実現するためのルール・仕組みです。広義には労務関連や福利厚生なども含まれますが、現在は従業員の処遇を決める「等級制度」「評価制度」「報酬制度」を指して人事制度と捉える、狭義的な意味合いで用いられることが多くなっています。
等級制度 | 能力や職務、役割などを基準に等級(職階・資格)を定める。 人事制度の柱であり、これをもとに処遇が決まる |
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評価制度 | 職務上の成果や取り組む姿勢などを評価する仕組み。 人事考課、査定とも呼ばれる |
報酬制度 | 等級と評価結果に基づき給与・賞与などの報酬を決める仕組み。 これにより最終的な処遇が決まる |
この三つの制度は人事制度の中核となるもので、経営理念の実現や経営課題の解決を目指すうえで、人材マネジメントの基盤となる仕組みとして位置づけられます。人事制度の設計ではビジョンや経営戦略に沿って「求める組織」「求める人材」の全体方針を定め、これらとの整合性をとりながら各制度を決めることが極めて重要です。
事業環境や経営戦略の変化にともなって人事制度との間にズレが生じている場合は、早急に見直す必要があります。経営に資する人と組織をつくるには、公正性、効果性、運用の効率性の観点から、適切な設計を行わなければなりません。
人事制度の直近トレンド
コロナ禍で多くの企業がリモートワークの導入に踏み切った2020年は、人事制度が大きく見直されました。また、ダイバーシティによる雇用形態の多様化や、副業をはじめとする多様な働き方の加速、70歳までの就労確保の義務化、同一労働同一賃金など、人事制度の再構築が急務となっているのが昨今の実情です。
人事制度の直近トレンドを追うと、以下のキーワードが台頭しています。
ジョブ型雇用 | 職務内容に応じて人材を雇用する制度 |
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リアルタイムフィードバック | 評価期間を短くして課題の早期発見・解決を目指す |
ノーレイティング | 等級・ランク付けを廃止し、社員の個性や多様性を踏まえた評価を目指す |
評価の見える化 | 評価基準や結果をオープンにして従業員の納得感や意欲につなげる |
バリュー評価 | 企業にとって価値の高い行動を評価する |
パーパス・ビジョン・ミッション | 「パーパス」は組織の存在意義を表す。あるべき姿を示す「ビジョン」と、実現の方向性を示す「ミッション」とともに定義される |
これらのキーワードは、従来の年功序列や過度な成果主義がもたらすデメリットの回避、法令に対応するための方法として注目されていると捉えることができます。また、生産性向上がミッションに掲げられる今、一人ひとりに求める成果が高度化し、これを評価する仕組みが求められているという背景もあります。
人事制度はそれぞれの企業の経営理念や戦略に基づき、より良い成果を生み出す方法を採用しなくてはならないため、これが正解というものはありません。しかし、変化のスピードが速い現代においては、より短期的かつ柔軟に対応できる仕組み作りが求められているといえるでしょう。
人事制度改革の企業事例
人事制度改革で成果を上げている、2社の事例を紹介します。
カゴメ株式会社
食品メーカーのカゴメ株式会社では、働き方改革から一歩進み、個人の「暮らし方改革」を掛け合わせた「生き方改革」を掲げ、人事制度改革に踏み切っています。この背景には、企業側の論理で働き方改革を進めるのではなく、従業員個人の生活の質を高め、より充実した人生を歩んでもらいたいという経営ビジョンの実現があります。
生き方改革では、従業員一人ひとりが柔軟に選択できる働き方のオプションを増やすことを大切にし、「自分のキャリアを自分で決められるようにする」という状態を目指しています。
参照:ウェルビーイング時代の人事のあり方 カゴメが推し進める、働き方の改革の先をゆく「生き方改革」とは|日本の人事部
株式会社湖池屋
数々のヒット商品を生み出し続ける湖池屋では、「リブランディング」の戦略とともに人事制度を改革しました。指示待ちの組織を脱却し、思考力と主体性を身につけることをテーマに、人材が育つ仕組みをさまざまな人事制度によって生み出しています。
シンプルでわかりやすく、経営スピードにあわせてカスタマイズできる人事制度であることを目指し、「チャレンジ重視」をキーワードにした評価制度を設定。失敗したとしてもチャレンジしたことを認めるという心理的安全性の担保や、チャレンジ・スキル・経験をマトリクスで評価する仕組みで、社員の意欲を後押ししています。
人事制度設計コンサルティングとは
人事制度を再構築する必要性が高まっている現在、専門的な知見と設計ノウハウを持つ「人事制度設計コンサルティング」が脚光を浴びています。ここでは、サポートの内容や外注化するメリットについて見ていきます。
人事制度設計コンサルティングで提供される内容
人事制度設計コンサルティングでは、大きく「設計フェーズ」と「運用フェーズ」でのサポートを行っています。それぞれの内容を以下に整理しました。
プロセス | 内容 |
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現状把握 | アンケート調査やインタビューなどを実施し、経営層や現場の現状や思いを把握する |
課題抽出 | 顕在化している課題にくわえ、中長期的に予想される課題を見据えて人事制度の方向性を定める |
人事方針の策定 | 人事制度のコンセプトとなる全体方針を明文化する |
人事制度のアウトライン設計 | 等級制度・評価制度・報酬制度のほか、育成制度など各種制度を視野に入れて整合性がとれるようアウトラインを定める |
詳細設計 | アウトラインで定めた内容を具体的な方法に落とし込み、実際に運用できるところまで詳細に設計する |
プロセス | 内容 |
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移行支援 | 現行制度からの移行にあたって課題となることを整理し、スムーズな移行計画を策定して支援する。 |
運用支援 |
制度の運用状況を確認し、うまく機能していない場合は解決策を提示して定着に向けた支援を行う。例として以下のような対策がある。
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サポートする内容は各社で異なるため、事前に確認しておくことが必要です。また、昨今では非正規雇用やダイバーシティへの対応、M&Aへの対応というように、局所的なテーマへのニーズも高くなっており、これに応じるサービスも提供されています。
人事制度設計を外注化するメリット
人事制度設計を外部に依頼するメリットには、以下のようなことが挙げられます。
自社にないノウハウを獲得できる
人事制度の構築には、人と組織を動かすための設計力に加え、公正性を担保できる仕組み作りなど、高い専門性が求められます。人事制度設計コンサルティングを導入することで、自社にないノウハウを取り入れることができ、有効性を裏付ける根拠に基づいた制度設計を実現できます。
客観性を担保できる
人事制度の構築には、人と組織を動かすための設計力に加え、公正性を担保できる仕組み作りなど、高い専門性が求められます。人事制度設計コンサルティングを導入することで、自社にないノウハウを取り入れることができ、有効性を裏付ける根拠に基づいた制度設計を実現できます。
制度設計における効率性・計画性の向上
人事制度の見直しと再構築は緊急度が高い状態にあるケースが少なくないため、スピードが求められます。しかし、通常業務に追われながら人事部門だけで制度設計を行うのは容易ではありません。専門ノウハウを持つコンサルティング会社に外注することで、計画的かつ効率的に進行できるというメリットがあります。
社員がノウハウを習得できる
人事制度設計コンサルティングは、人事担当と密に連携しながら制度設計を進めていきます。そのため、自社の社員がプロのノウハウを習得できる良い機会となります。人事制度は、一度作ってしまえば終わりというものではありません。社員がスキルを身につけることで、運用フェーズにおける課題発見やスムーズな解決に役立てることができます。
時代のニーズに合った人事制度を構築できる
人事制度設計コンサルティングは、他社の事例や業界のニーズなど多方面の情報を持っています。広い視野での提案を受けることができるため、より時代のニーズに即した人事制度設計を実現できるというメリットがあります。
人事制度設計を外注するときの注意点
人事制度設計のプロフェッショナルであるコンサルタントへの外注では、多くのメリットを得られますが、制度設計を成功させるためには注意すべき点もあります。
実現したいことを明確にする
人事制度は、経営理念や経営戦略を実現するうえで効果的な仕組みとする必要があります。コンサルティング会社によっては課題の抽出もサポートしていますが、自社の実現したいことが不明瞭な状態では的確な支援はできません。外注化するにあたっては、まず自社が目指すゴールを明確にしておくことが重要です。
コンサルティングの対応範囲を確認する
人事制度設計コンサルティングの提供内容は多岐にわたるため、どこまでのサポートを行っているか、対応範囲は各社で異なっています。たとえば、人事制度の設計までを支援するケースもあれば、移行時の説明会実施、制度導入後の調整までをサポートする場合もあります。事前に対応範囲を確認し、自社の目的に合致する会社を選ぶことが大切です。
コンサルタントに丸投げしない
専門的な知見を有するコンサルタントは人事制度設計の大きな助けとなりますが、分析や設計を丸投げしないことが重要です。自社にノウハウが蓄積されないという問題が生じ、運用時につまずいてしまう可能性が高まるからです。コンサルティング会社に外注する際は、協業できる環境を整備し、ともに進めていく姿勢が望ましいといえます。
人事制度設計のコンサルティング会社を選ぶときのポイント
人事制度設計をサポートするコンサルティング会社は数多くあるため、どのような基準で選べばいいのか迷うことも多いでしょう。これまでの実績を確認することはもちろんですが、自社の課題に適した会社を選ぶことが重要です。ここでは、企業規模による特徴を踏まえつつ、選び方のポイントを見ていきます。
大手企業のケース
大企業の人事制度では、多様な価値観を持つ従業員のダイバーシティへの対応、ニューノーマル時代への対応、次世代リーダー育成など広範囲の課題を挙げるケースが多くなっています。課題が広範囲にわたる場合は、多様なニーズに応えられるノウハウがあるかどうかをしっかり確認することが必要です。
また、経営戦略からの立案が必要など、より高度な設計支援が必要な場合は、人事領域だけでなく、経営全般の知見を持っている総合コンサルティング会社が望ましいでしょう。人材育成や組織開発も行いたい場合は、教育・研修に強みを持つコンサルティング会社も候補となります。
中小企業のケース
中小企業では、多種多様な経営課題を抱えていることが多いため、スピーディーかつ効率的な制度設計が可能なコンサルティング会社であることが、検討する際の目安となります。人事担当のリソースが不足している場合は、設計から運用までをワンストップで支援してもらえるかどうかも視野に入れるとよいでしょう。
製造業や飲食業など、特定の業種に特化して悩みに寄り添った提案を強みとしているコンサルティング会社もあり、よりフィット感の高い制度設計が可能になっています。
ベンチャー企業のケース
ベンチャーやスタートアップ企業では、先鋭的な人事制度に積極的に取り組むケースが多く見られる一方で、人事担当のリソースが十分ではないことが少なくありません。また、事業フェーズによって従業員数が短期的に変わったり、多様な雇用形態となっていたりする場合もあり、人事制度導入後の運用効率が課題に挙げられることが多くなっています。
そうした課題を抱えている場合は、スピード感ある制度設計ができることに加え、導入後の円滑な運用を踏まえて提案してくれるコンサルティング会社かどうかも重要といえるでしょう。
たとえば、IT活用による効率的なシステム運用を得意としているコンサルティング会社も存在します。自社の経営理念・戦略の実現と運用効率の両面から、得意領域が合致するコンサルティング会社を選ぶことをおすすめします。
人事制度設計コンサルティングの傾向と、選ぶ際のポイント
人事制度設計コンサルティングを選ぶ際は、自社の課題・目的に即しているかどうかを慎重に判断することが重要です。実際にどのような人事制度設計コンサルティング企業があるのか、紹介していきます。
株式会社あしたのチームの「ゼッタイ!評価」は、12ヵ月で、評価制度を自社で運用できるようにするサービスです。従業員数に基づいたリーズナブルな価格設定で提供しています。
コーン・フェリー・ジャパン株式会社の「人事制度設計コンサルティング」では、グローバルでの70年にわたる行動心理学に基づく調査研究、ならびに日本での30年以上のコンサルティング実績を通じて蓄積したノウハウを活用したコンサルティングを提供しています。
コンピテンシーコンサルティング株式会社の「人事制度構築支援(テンプレート提供型サービス)」は、人事制度の中心となる「等級・評価・報酬制度」の参考となるテンプレートを提供。テンプレートを活用しながら、自社で設計から運用までを進めることができます。
株式会社新経営サービス 人事戦略研究所の「人事戦略策定コンサルティング」は、定量分析、定性分析を貴社のニーズに合わせて実施。単なる人事戦略の策定のみならず、その具現化に向けた各種人事施策の立案から実行支援を個社ごとのニーズに合わせてトータルでサポートします。
セレクションアンドバリエーション株式会社の「人事制度設計コンサルティング」は、日本企業に適したジョブ型人事制度の設計をサポート。メンバーシップ型の組織に、ジョブ型のメリットを導入することで、リモートワークにも対応する人事を実現します。
株式会社タナベ経営の「人事制度再構築コンサルティング」は、人事の潮流を踏まえ、理念・ビジョンに沿った人事制度をトータルデザイン。人事部門の生産性向上もトータルサポートし、運用フォローまでをカバーします。
株式会社トランストラクチャの「人事制度設計・移行支援」は、経営方針や事業計画に基づく人事制度を設計。資格等級や役職、給与、評価の三つの制度を軸に、人材フローも見直します。
株式会社リンクアンドモチベーションの「人事制度設計コンサルティング」は、人を管理するためではなく、企業成長を実現するための人事制度設計を行うコンサルティングサービスです。運用されることで初めて人事制度が機能することを最重要視し、運用事後のフォローも実行します。
公益財団法人日本生産性本部の「人事・賃金制度コンサルティング」は、人間尊重の精神を基軸とし、人と組織の変革に関わる改善・改革のお手伝いをします。環境変化を鑑みながら、組織に最適な制度を構築し、適切な運用をご支援します。
人事制度設計コンサルティングを提供するを行う全国のソリューション企業一覧
- EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング株式会社
- FMBコンサルタンツ株式会社
- KPMGコンサルティング株式会社
- PwCコンサルテイング合同会社
- アクタスHRコンサルティング株式会社
- 株式会社アクティブアンドカンパニー
- 株式会社あしたのチーム
- 株式会社インソース
- ウィリス・タワーズワトソン株式会社
- 株式会社グラスティ
- 株式会社経営コンサルタント協会
- コーン・フェリー・ジャパン株式会社
- コンピテンシーコンサルティング株式会社
- 株式会社さかえ経営
- 学校法人産業能率大学 総合研究所
- 有限会社サントウ経営事務所
- 株式会社新経営サービス 人事戦略研究所
- 人事評価総研株式会社
- セレクションアンドバリエーション株式会社
- 株式会社タナベコンサルティング
- 一般社団法人中部産業連盟 東京事業部
- デロイトトーマツコンサルティング合同会社
- 株式会社トランストラクチャ
- 株式会社日本経営
- 株式会社日本コンサルタントグループ
- ビズアップ人事コンサルティング株式会社
- 公益財団法人日本生産性本部
- 株式会社日本総合研究所
- 株式会社日本能率協会コンサルティング 関西オフィス
- 株式会社野村総合研究所
- 服部賃金労務サポートオフィス
- ビジネスコーチ株式会社
- 株式会社フィールドマネージメント・ヒューマンリソース
- 株式会社ベクトル
- マーサージャパン株式会社
- みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社
- 株式会社三菱総合研究所
- 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
- 株式会社みのり経営研究所
- 株式会社リブ・コンサルティング
- 株式会社リンクアンドモチベーション
- 株式会社レイヤーズ・コンサルティング
人事課題をともに解決するパートナーを得る
人事制度は従業員のモチベーションを左右し、経営にダイレクトに影響をもたらすものです。環境変化への対応、経営戦略との整合性、従業員の定着率の向上など、課題が山積していることがわかっていても、容易に変更できるものではありません。
人事制度設計コンサルティングは、クライアント企業の理念や現状を把握し、目標達成に向けて伴走してくれる存在です。人事課題をともに解決するプロフェッショナルのパートナーを得ることは、企業の成長を後押しするとことにつながります。
人と組織の課題を解決するサービスの潮流や選定の仕方を解説。代表的なサービスの一覧も掲載しています。