資格取得のために自己学習を実施した場合の時間外労働の考え方
いつもありがとうございます。
今回は自己学習の時間について相談させてください。
当社はIT企業ですが、特定のベンダー資格を取得することが新規の案件獲得などに影響したりします。
特定のベンダー資格を勉強していないとプロジェクトに参加しても役に立たないことも多い業界です。
今回、当社で問題になっていることがあります。
目標設定で特定のベンダー資格を取得することを必ず設定しています。
しかし、その資格取得のための学習時間は自己学習として、定時後でも時間外労働としてつけさせておらず、土日に学習していても勤怠を登録していません。
この特定のベンダー資格というのはテレビCMでも流れている有名企業の資格で、その企業が設定しているベンダー資格はかなりの数があり、年間5個の資格取得を取引企業に推奨しています。
その企業と取引している部門では、資格取得の自己学習は時間外労働としていない運用です。その代わり、資格取得の際は一度だけ奨励金として3万~30万(難易度による)を支払っています。
この奨励金で不満はある程度収まっている状況ですが、人によっては月20~30時間の勉強時間を業務外で行っており、不満はあると考えております。
上記の点については、サービス残業にも該当する恐れもあり、改善を目指しておりますが、すべての自己学習を時間外労働とした場合は、年間会社の利益がふっとんでしまうほどの累積時間になります。
どのような取り扱いがよいか、ご教示いただけますでしょうか。
よろしくお願いいたします。
投稿日:2025/12/08 13:20 ID:QA-0161715
- ケマルナオキさん
- 東京都/情報処理・ソフトウェア(企業規模 1001~3000人)
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本Q&Aは法的な助言・診断を行うものではなく、専門家による一般的な情報提供を目的としています。
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具体的な事案については、必ずご自身の責任で弁護士・社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
プロフェッショナル・人事会員からの回答
プロフェッショナルからの回答
業務性
資格取得が必須なのか、奨励なのか、貴社の方針によります。
必須であれば業務ですので、勉強時間も勤務時間として算定しなければなりません。人によって理解度や必要時間が異なるでしょうが、業務命令であれば、給与支払いが必須となります。
一方、あくまで「奨励」であって、完全自由意志で、上司からのプレッシャーも一切ない環境であれば、勤務ではなく自己研鑽となるでしょう。問題はその資格の有無と業務が確実にリンクしているのかどうかです。
>新規の案件獲得などに影響
>プロジェクトに参加しても役に立たないことも多い
これらが明確に証明できるなら、該当社員には業務として命令すべきでしょう。あくまで絶対ではなく、望ましい程度であれば、業績評価によって給与等で有資格者には報いるべきです。
資格だけあっても業積に反映されることが無いようなものではないというのが大前提となりますので、会社の経営判断をお願いします。
投稿日:2025/12/08 14:34 ID:QA-0161725
相談者より
あくまで「奨励」であって、完全自由意志であるかどうかが問題というのは、その通りだと思います。
目標管理まで入れている状態は、命令に近くなると思いますので、強制に近いかもしれません。
ご回答ありがとうございました。
投稿日:2025/12/08 15:52 ID:QA-0161745大変参考になった
プロフェッショナルからの回答
ご回答申し上げます。
ご質問いただきまして、ありがとうございます。
次の通り、ご回答申し上げます。
1.結論
「資格取得を必須目標にしている」「取得しないとプロジェクトに参加できない」
この状態では、
自己学習は“業務の一部”とみなされる可能性が高く、未払い残業(サービス残業)リスクが極めて高いです。
つまり、
現状運用は「時間外労働として扱うべき行為を扱っていない」可能性が高い。
(奨励金で相殺にはならない → 法律上別問題)
2.法的判断のポイント(厚労省通達・裁判例)
以下の条件のいずれかを会社が課していると:
目標設定で「必ず取得」としている(事実上の業務命令)
資格がないとプロジェクトにアサインされない
業務遂行に資格が必須
勉強しないと評価・査定に著しい不利益
資格奨励金制度で取得を強く誘導
上司が学習状況をチェックしている
資格取得が会社の利益に直結
これらは法的に
「相当程度の指揮命令下」
と評価される。
→ 業務性あり=労働時間と認定される
厚労省の指針(ガイドライン)でも、
「会社が事実上強制している研修や学習は労働時間」と明記。
裁判例:
保険会社研修事件(東京高裁)
教育研修の参加が業務と認定され、未払い残業を会社が支払う判例 多数
3.現状の会社の危険点
(1)「必須目標としている」
→ 労働時間認定の決め手
(2) 5資格/年の取得推奨(顧客要件)
→ 業務に直結=学習は業務の一部
(3)20〜30時間/月の自主学習
→ 未払い残業の蓄積リスク(2年遡及)
(4)奨励金で「残業代の代わり」は不可
残業代は法律上の賃金 → 奨励金は任意の報奨金
残業代の代わりにすることは法的に不可能
→ 過去分を遡って請求されたら 数百万〜千万単位 が飛ぶ可能性あり。
では、どう改善すべきか?(実務可能な3方式)
【方式A】「業務としての学習」を正式に勤務時間へ組み込む(最も安全)
資格取得を必須とする限り、業務時間内で学習させる制度に切り替える
勤務時間内(例:週3時間)を「資格学習枠」として設定
それ以外の時間の学習は「任意」であることを明文化
(任意なら労働時間にならない)
メリット
未払い残業問題を根本解消
労基署対策として最も強い
社員の不満が大幅に減る
デメリット
業務時間が削られる
【方式B】「任意」であることを明文化+必須目標を撤廃(法律的には最強)
次の3点を明確にする。
資格取得はあくまで任意
取得しなくても評価・アサインに不利益なし
本人の自由時間に学習するかは完全に自由
→ この条件を満たすと、
自己学習=自己研鑽=労働時間に該当しない。
ただし、現実的には「資格が必須でない」運用が難しい企業が多い。
【方式C】「義務の範囲だけ業務時間に/それ以外は奨励金+任意化」
実務ではこれが最も採用しやすい。
「資格取得までの学習時間のうち〇時間は業務時間内で行う」
それ以外は「任意の自主学習」とし、業務命令や査定の基準としない
任意学習に奨励金をつける(今の制度を活かす)
→ 義務部分=労働時間として会社負担
→ 任意部分=法的には労働時間外として扱える
4.結論
現実的には【方式C】が最も安全で導入しやすい
業務に必要な最低限の学習時間は「業務」
それ以上は任意化して奨励金に置き換える
「目標設定で必須」の文言は撤廃する(労働時間認定されるため)
5.まとめ
現状は未払い残業リスクが非常に高い
資格取得を必須目標にしている以上、学習は労働時間と判断されやすい
奨励金は残業代の代替にならず、過去請求の危険
解決策は
- A:業務時間内で学習させる
- B:資格取得を任意にする(業務外扱い可能)
- C:義務部分は業務/任意部分は奨励金(現実的)
以上です。よろしくお願いいたします。
投稿日:2025/12/08 14:48 ID:QA-0161727
相談者より
井上先生
大変わかりやすく、また具体的な解決策までご教示いただき本当にありがとうございます。
いただいた3案(特にC案)を検討させていただきます。
投稿日:2025/12/08 15:16 ID:QA-0161739大変参考になった
プロフェッショナルからの回答
回答いたします。
ご質問について、回答いたします。
資格取得が目標設定で必須とされ、業務上不可欠な実態にある場合、
そのための学習時間は実質的に会社の指揮命令下にあると見なされ、
労働時間に該当する可能性が非常に高いです。
現状の自己学習・時間外労働としない運用はサービス残業のリスクがあります。
すべてを労働時間とするのが難しい場合は、会社が学習時間・方法の指示・関与
の程度を下げ、奨励という位置づけに再定義し、評価への直接的な影響を緩和する
必要があります。その上で、奨励金を充実させたり、所定労働時間内に学習時間を
確保できるような業務調整を検討すべきと言えます。
投稿日:2025/12/08 15:08 ID:QA-0161732
相談者より
ご教示いただきありがとうございます。
大変参考になりました。
投稿日:2025/12/08 18:09 ID:QA-0161756大変参考になった
プロフェッショナルからの回答
ご質問の件
資格取得の自己学習は労働ではありませんので、
残業は不要です。
奨励金をもらうかどうかは、本人の自由選択です。
また、
特定のベンダー資格を取得することが新規の案件獲得などに影響したりするので
あれば、一時金の奨励金ではなく、毎月支給する資格手当も検討してください。
投稿日:2025/12/08 16:56 ID:QA-0161755
相談者より
自己学習は労働ではないため、時間外労働にはならないとの指摘
手当での対応など、ご教示ありがとうございます。
参考になりました。
投稿日:2025/12/08 18:11 ID:QA-0161757大変参考になった
プロフェッショナルからの回答
事業場外労働
以下、回答いたします。
(1)就業時間外の教育訓練については、以下の通達があります。
労働者が使用者の実施する教育に参加することについて、就業規則上の制裁等の不利益取扱による出席の強制がなく自由参加のものであれば、時間外労働にはならない。(昭26.1.20 基収2875号、昭63.3.14 基発150号、婦発47号)
(2)この通達は本件にそのまま当てはまるものではありませんが、「目標設定で特定のベンダー資格を取得することを必ず設定しています」とのことですので、資格取得は業務の一環であると考えられ、また、資格を取得できない場合には目標未達として何らかの不利益取扱いを受けるものと推察されます。
(3)以上を踏まえれば、目標設定での対象資格を極力絞り込んだうえで、当該資格取得のために必要となる標準的な時間につき、労働基準法第38条の2の「事業場外労働」として取り扱うことが考えられます。また、その他「資格」の取得に対しては、別途、奨励金を支給することが考えられます。
投稿日:2025/12/08 20:35 ID:QA-0161759
相談者より
服部先生
通達を踏まえた上でのご回答ありがとうございます。
参考になりました。
投稿日:2025/12/23 17:07 ID:QA-0162430大変参考になった
プロフェッショナルからの回答
お答えいたします
ご利用頂き有難うございます。
ご相談の件ですが、資格学校等が実施される資格取得の外部講習を勧められた上で、そうした講習の受講時間は労働時間扱いされるのが妥当といえます。併せて講習で使用される教材費等についても会社が負担されるべきです。
そうすれば、講習外で別途自宅学習される時間については、個人の任意学習としまして現行通り労働時間としての扱いは不要で差し支えございません。
つまり、奨励金といった支給額の根拠が判然としない支援に代えて、きちんと精算が可能になる方法を採られる事で対応すべきといえるでしょう。
投稿日:2025/12/08 22:46 ID:QA-0161763
相談者より
服部先生
いつも的確なご回答ありがとうございます。
業務で資格を取得させるなら、資格学校に通わせるということも検討いたします。
投稿日:2025/12/23 17:06 ID:QA-0162429大変参考になった
人事会員からの回答
- オフィスみらいさん
- 大阪府/その他業種
資格取得のための勉強時間(土日を含む)は労働時間と見做す必要はなく、割増賃金の対象とする必要もありません。
特定のベンダー資格を勉強していないとプロジェクトに参加しても役には立たず、当該資格を取得することが新規の案件獲得に影響するというのであれば、御社で働く以上は言われるまでもなく勉強はするでしょう。
資格を取得すれば、資格手当という形で毎月支給してあげることでよろしいのではないでしょうか。
資格取得時の一時金より、毎月一定額でもらうほうが、社員にとってはモチベーションは上がるでしょう。
投稿日:2025/12/09 07:18 ID:QA-0161765
本Q&Aは法的な助言・診断を行うものではなく、専門家による一般的な情報提供を目的としています。
回答内容の正確性・完全性を保証するものではなく、本情報の利用により生じたいかなる損害についても、『日本の人事部』事務局では一切の責任を負いません。
具体的な事案については、必ずご自身の責任で弁護士・社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
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