年休の不適切な使用例について
当社は時間単位年休を導入しています。
フレックスタイム制を導入するにあたり不適切と思われる使用例を考えていますが、以下のような使用は適切なのでしょうか。年休の趣旨を考えるとあまり適切ではない気がしていますが、一般的にそこまで過度に考える必要はないのでしょうか。
①1か月の所定労働時間の不足分を補うために年休を充てる。(1日、半日、時間単位いずれも該当してくると思われます。)
②コアタイムの全時間を時間単位年休を充て、フレキシブルタイムを勤務しない、実質的な「丸一日休み」を行ってしまう。
→例えば、コアタイム(10:00〜15:00)を時間単位年休で取得し、フレキシブルタイム時間帯はフレックス扱いとして出社しないケース
③実働時間が標準労働時間を超えているのに時間単位年休を取得
→例えば、1日の標準労働時間が7時間なのに、実働8時間+時間単位年休1時間=9時間とするような運用をすると、1時間分長く勤務したことになり、他の日で1時間短く勤務することが可能。
・月末清算時に1時間分の割増賃金が発生する可能性もあるのではないか。
投稿日:2025/10/29 10:47 ID:QA-0160027
- 労務担当者_さん
- 東京都/コンサルタント・シンクタンク(企業規模 1001~3000人)
プロフェッショナル・人事会員からの回答
プロフェッショナルからの回答
お答えいたします
ご利用頂き有難うございます。
ご相談の件ですが、時間単位であっても年次有給休暇に変わりございませんので、当人がどのような形で取得されても原則自由になります。
従いまして、示された全ての事例に関しまして取得を制限される事は不可です。
但し、3の場合に1日の標準労働時間を超えて取得する事は可能ですが、1か月の所定労働時間を超えて取得する事については労働義務の無い時間に年休を採る事は不可能ですので、特別に残業指示をされていない限り認められません。従いまして、会社に義務付けられている日々の勤務時間の管理をしっかり行われ、所定労働時間超過とならないよう注意される事が重要といえます。
投稿日:2025/10/30 13:27 ID:QA-0160095
相談者より
大変参考になりました。
ありがとうございました。
投稿日:2025/10/31 11:58 ID:QA-0160135大変参考になった
プロフェッショナルからの回答
ご回答申し上げます。
ご質問いただきまして、ありがとうございます。
次の通り、ご回答申し上げます。
フレックスタイム制と時間単位年休を併用する場合は、「年次有給休暇の趣旨(労働義務の免除)」と「フレックス制度の時間管理」の整合性が問題になります。
順に、(1)〜(3)のケースについて法的・実務的観点から解説申し上げます。
基本原則:年休は「労働義務がある時間を免除するもの」
年休(労働基準法第39条)は、本来労働義務のある時間帯を休む権利です。
したがって、「もともと働く義務がない時間帯」に対して年休を使うことはできません。
また、時間単位年休は柔軟な運用を可能にしますが、時間管理が不適切だとフレックス制度の趣旨と矛盾する場合があります。
1.所定労働時間の不足分を補うために年休を充てる
1か月の所定労働時間の不足分を、年休(時間・半日・1日)で補うケース。
→ 結論:不適切(年休の趣旨に反する)
年休は「労働義務の免除」であり、「労働時間の調整手段」ではありません。
フレックスタイム制の不足時間を埋めるために年休を使うのは、本来の趣旨を逸脱します。
年休=休養・リフレッシュのための休み
不足時間の補填=時間外管理上の帳尻合わせ
→ 年休の目的外使用にあたる可能性があり、厚労省の通達(基発0123第3号/平成22年)でも「時間単位年休は労働義務のある時間に対してのみ付与できる」とされています。
実務対応の例:
不足時間の調整は「翌月繰越」や「欠勤控除」で対応し、年休を充てて調整する運用は避ける。
2.コアタイム全時間を時間単位年休にして実質「1日休み」にする
コアタイム10:00〜15:00を時間単位年休で取得し、
フレキシブルタイムは出勤せず実質的に休みにする。
→ 結論:制度上は可能だが、運用上は慎重にすべき
時間単位年休は「1時間単位での取得」が可能なので、形式上は合法です。
ただし、実質的に「1日休み」となるため、制度趣旨(柔軟な短時間休暇の取得促進)からは外れます。
留意点:
頻発すると「制度の乱用」と見なされるおそれ。
「1日休むなら1日年休を取得」とするのが本来の形。
清算期間における労働時間の整合性をとる必要あり。
実務上の工夫:
「時間単位年休は1日4時間以内」や「連続4時間まで」など、社内ルールで上限を定める企業が多いです。
(※労基法上は制限なしですが、就業規則で制限可能)
3.実働が標準時間を超えているのに年休を取る
標準7時間の日に実働8時間+時間単位年休1時間=合計9時間の扱い。
→ 結論:不適切(整合性が取れない)
このケースでは、「働いた時間」と「休んだ時間」が重複している形になります。
年休は「労働義務の免除」なので、その時間に働いている以上、年休は成立しません。
また、
実働8時間分を労働時間としてカウント
+ 年休1時間分を付与
とすると、給与・残業計算上の整合性が取れなくなり、割増賃金誤算の原因になります。
→ 結果的に「実労働時間9時間」となるため、法定外残業扱いとなる可能性があります。
4.実務上の対応策
項目対応策・考慮点フレックスタイム制の不足時間年休での補填を禁止(就業規則に明記)時間単位年休の上限1日4時間までなど上限を設定年休と労働時間の重複実働時間+年休時間が「1日の標準労働時間」を超えないように管理管理方法フレックス管理システムで別区分管理(「年休」と「実労働」を明確に分離)
5.まとめ
ケース判断理由
(1)所定労働時間の不足分を年休で補う→× 不適切年休は「休養」のためであり、「時間調整」目的ではない
(2)コアタイム全休で実質1日休み→△ 条件付き可乱用防止のため、ルール設定を推奨
(3)実働+年休で標準時間超過→× 不適切労働時間・賃金計算に矛盾が生じる
参考資料
厚生労働省『時間単位の年次有給休暇制度について』(基発0123第3号, 平成22年1月23日)
『フレックスタイム制の導入・運用の手引き』(厚生労働省)
労働基準法第39条
以上です。よろしくお願いいたします。
投稿日:2025/10/30 14:04 ID:QA-0160101
相談者より
大変参考になりました。
ありがとうございました。
投稿日:2025/10/31 11:59 ID:QA-0160136大変参考になった
プロフェッショナルからの回答
労働基準法と労働契約法
以下、回答いたします。
(1)年次有給休暇については、法律上はこれをどのような目的のために利用しようと関知するものではなく、休暇の利用目的が休養のためでないという理由で使用者が拒否することは認められていません。(「令和3年版 労働基準法 上」厚生労働省労働基準局編)
(2)判例(林野庁白石営林署賃金カット事件 最高裁判決1973年3月2日)においても、「年次休暇の利用目的は労基法の関知しないところであり、休暇をどのように利用するかは、使用者の干渉を許さない労働者の自由である、とするのが法の趣旨であると解するのが相当である。」とされています。
(3)以上を踏まえれば、「どのような目的のために年次有給休暇を利用しようとしているのかについては関知しない」「聴かない」というスタンスが適切であると考えられます。
(4)一方、労働契約法第3条第4項及び第5項において、労働者も「労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない」、「労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない。」とされています。
これに反すると考えられる労働者の行為(年次有給休暇の時季指定権の行使)を内々リストアップしておくことも考えられないわけではありませんが、御提示のあった、1)1か月の所定労働時間の不足分を補うために年休を充てる、2)コアタイムの全時間を時間単位年休で充て、フレキシブルタイムを勤務しない、実質的な「丸一日休み」を行ってしまう、3)実働時間が標準労働時間を超えているのに時間単位年休を取得する、こうしたことが上述の労働契約法の規定に反するとまでは言い切れないように思われます。
(5)他方、「休日その他労働義務の課せられていない日については、これを取得する余地がない」など年次有給休暇についての基本的事項を予め情報提供することは有益であると思われます。
投稿日:2025/10/30 17:05 ID:QA-0160110
相談者より
大変参考になりました。
ありがとうございました。
投稿日:2025/10/31 11:59 ID:QA-0160137大変参考になった
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