退職後の引継ぎに関する規程への記載について
いつも大変お世話になっております。
当社の就業規則に以下の内容が記載されております。
(異動に伴う事務引継ぎ)
第●●条 社員は、休職・転勤・退職・及び職種変更を命じられたときは、次の各号により後任者との事務引継ぎをしなければならない。
①~
③ 事務引継ぎ事務などのため、退職後であってもその完了するまで勤務させる
ことがある。
上記の規程条文の第3号はあとあと問題になりませんでしょうか?
実際に退職後にも、この規定を根拠に何かさせたといった事例はありません。
それでも、なにか悪い誤解を招くようなら削除したほうがよいでしょうか?
エビデンスを確認したく、ご教示いただけますと幸いです。
投稿日:2025/10/27 17:03 ID:QA-0159958
- 模索する人事さん
- 新潟県/建築・土木・設計(企業規模 51~100人)
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プロフェッショナル・人事会員からの回答
プロフェッショナルからの回答
ご回答申し上げます。
ご質問いただきまして、ありがとうございます。
次の通り、ご回答申し上げます。
まず、このご質問は、就業規則における「退職後の引継ぎ義務」規定として非常に重要かつ微妙な論点です。
結論から申し上げますと、ご提示の第3号の記載は削除または修正を検討されるのが望ましいと考えます。
以下、法的根拠と実務上の理由を整理してご説明申し上げます。
1.退職後の「勤務命令」は法的に無効
(1)労働契約の終了により指揮命令権は消滅
退職日をもって労働契約関係は終了します。
したがって、会社にはもはや労働者に対する指揮命令権は存在しません。
退職後に「勤務させる」ことを規定しても、法的には拘束力を持たず、
この条文のままでは労働契約法上も労基法上も無効と解されます。
・根拠:労働契約法第2条、同法第16条(権利濫用の禁止)
・趣旨:労働契約の終了=雇用関係の消滅。退職後に労務を命じることはできない。
(2)裁判例・行政実務上の扱い
退職後に業務を強制した事例はほとんど存在しませんが、
類似概念として「退職時の引継ぎを拒否した社員への損害賠償請求」などが争われたケースがあります。
・主な参考事例
西日本鉄道事件(福岡地裁 平7.9.25)
退職者が引継ぎを十分に行わず退職したことにつき、会社が損害賠償を請求。
→ 裁判所は「労働契約期間中の誠実義務違反には該当するが、退職後にまで労務義務は及ばない」と判断。
つまり、退職後に引継ぎを命じること自体が法的には不可能です。
また、強制すれば「不当な拘束」「損害賠償請求リスク」に発展するおそれがあります。
2.実務的リスク:誤解や権利濫用とみなされるおそれ
「退職後も勤務させることがある」という表現は、
あたかも退職後も労働義務が続くように誤解される。
労働基準監督署の就業規則審査の現場でも、
このような条文は「法的に不適切な表現」として修正指導の対象になり得ます。
特に近年は「退職の自由(憲法22条)」の観点から、
退職後の拘束や「引継ぎを理由に退職を延ばさせる行為」は問題視されやすい状況です。
3.望ましい代替表現(修正案)
(修正例1)法的に安全な書き方
(3)退職の際は、退職日までに担当業務の引継ぎを誠実に行わなければならない。
会社は必要に応じ、引継ぎ内容の報告を求めることがある。
→「退職日までに」と明示することで、法的拘束期間を明確にします。
(修正例2)協力依頼の形にとどめる場合
(3)退職後においても、会社が業務上必要と認めた場合は、
当該社員に対し、合理的な範囲で協力を依頼することがある。
ただし、その場合の対応は本人の自由意思によるものとする。
→強制ではなく「依頼」に留め、法的拘束を回避します。
→実際の対応時は、業務委託契約・謝礼支払(源泉徴収含む)の形式を取るのが安全です。
4.エビデンス(参考指針・判例)
出典→内容
労働契約法第2条・第16条→労働契約終了後の指揮命令権は消滅。権利濫用禁止。
西日本鉄道事件(福岡地裁平7.9.25)→退職後の引継ぎ義務は否定。
厚労省「モデル就業規則」第94条→「退職の際は在職中に引継ぎを行う」と明記。退職後の勤務規定なし。
労基署運用通達→就業規則に労働契約終了後の義務を定めることは不適切。
5.実務的助言
現状で「実際に退職後に勤務を命じたことはない」とのことですので、
現時点でトラブルは生じていませんが、将来的な誤解防止・法的整合性の観点からは削除・修正が望ましいです。
特に行政調査や労働審判の場では、
この条文が「会社が退職を拘束する意図を持っていた」と誤解される可能性があります。
6.結論
「退職後に勤務させる」条文は法的効力を持たず、削除または修正が望ましい
代わりに「退職日までに誠実に引継ぎを行う」と明記する
退職後に協力を得る場合は「依頼」+「謝礼または委託契約」で対応
モデル就業規則にも退職後勤務の規定は存在しない。
以上です。よろしくお願いいたします。
投稿日:2025/10/27 17:39 ID:QA-0159961
相談者より
早速の回答、また細かな解説ありがとうございました。見過ごせない点が多くある点を鑑み、迅速に変更の手続きを取りたいと思います。とても参考になりました!
投稿日:2025/10/27 18:01 ID:QA-0159967大変参考になった
プロフェッショナルからの回答
回答いたします
ご質問について、回答いたします。
労働契約終了後は、業務をさせることはできません。
また、退職は社員の意思によって決まり、社員の意思によって
労働契約の解除ができます。
このような規定は、契約の自由権利を会社が法令に反して侵害しているとされ、
在職社員からも不信感をいただかれる可能性が極めて高いと言えます。
前項の規定がわかりませんが、このような規定は削除すべきかと存じます。
投稿日:2025/10/27 17:51 ID:QA-0159963
相談者より
早速のかくにんありがとうございました。
前項は以下のとおりの記載となります。
① 金銭、物件の出納その他計算に従事する者は、引継ぎ日現在を締切日として計算書類を作成、引き継ぐ。
② 担当した書類・物件に関して処分未了の件名など、将来の処理の要領について意見を付して引き継ぐ。
この部分は問題ないかと思いますが、いかがでしょうか?
投稿日:2025/10/27 18:00 ID:QA-0159965大変参考になった
プロフェッショナルからの回答
お答えいたします
ご利用頂き有難うございます。
ご相談の件ですが、いかなる理由があっても、退職後の労働者に勤務を命じる法令上の権限は使用者にございません。
従いまして、こうした違法となる措置に関しましては、直ちに削除される必要がございます。
投稿日:2025/10/27 19:14 ID:QA-0159978
相談者より
回答ありがとうございます。
直ちに削除するよう、動くこととしたいと思います。
投稿日:2025/10/29 13:02 ID:QA-0160040大変参考になった
プロフェッショナルからの回答
労働基準法
以下、回答いたします。
(1)労働基準法第5条では、「強制労働の禁止」について定められています。「事務引継ぎの完了」が恣意的に判断される余地があるのであれば、この第5条(若しくはその趣旨)への実質的な抵触が懸念されます。(因みに、第5条違反が最も重い罰則となっています)
第五条 使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。
(2)また、民法第90条(公序良俗)や、同法第709条(不法行為による損害賠償)等との関係も論点としてあげられうるものと認識されます。
(3)「実際に退職後にも、この規定を根拠に何かさせたといった事例はない」とのことであれば、必要性という観点も加味して第3号を削除することが考えられます。
投稿日:2025/10/27 21:22 ID:QA-0159983
相談者より
やはりまずい内容だということがよくわかりました。削除の方向で動くこととします。
投稿日:2025/10/29 13:07 ID:QA-0160041大変参考になった
プロフェッショナルからの回答
対応
契約期間以外を縛る契約は無効です。問題というよりも、契約終了後に効力を発揮することのない条文には意味がありません。
脅しにはなるかも知れませんが、コンプライアンスに反する経営姿勢をわざわざ表明するデメリットの方が大きいと思います。
投稿日:2025/10/27 22:55 ID:QA-0159985
相談者より
確かにデメリットが大きいようです。削除したほうがよさそうですね。。。
投稿日:2025/10/29 13:08 ID:QA-0160042大変参考になった
人事会員からの回答
- オフィスみらいさん
- 大阪府/その他業種
いかなる理由があろうと、会社はいったん退職した社員に勤務を命ずることはできません。
ただし、業務の引き継ぎが未完であれば、退職社員とアルバイト契約を結んだうえで、引き継ぎを完遂してもらうことは可能です。
ですが、次の勤務先への出社日が決まっており、時間的にも余裕がないというような場合は、この限りではないでしょう。
そもそも退職した社員に “以前勤めていた会社“ の就業規則は適用できませんし、効力も及びません。
したがって、③の条文はあとあと問題になるどころか、初めから意味を為さず、また一般的にもこのような規定は見聞きしたこともありません。
「退職(予定)日までに、業務の引き継ぎが間に合わない可能性がある場合は、本人の都合その他に支障がなければ、会社は完了するまで退職(予定)日の変更(繰り下げ)をお願いすることがある。
その期間については、引き継ぎ業務の内容および本人の都合等に十分配慮したうで、双方で話し合って決めるものとする。」
といった体で③の条文を改定するか、あるいは③そのものを削除するというのが妥当だと考えます
社員が退職するにあたっては、事務の引き継ぎ等は当然になすべきことですから、会社としてもこの点はきちんと伝える必要があります。
退職までに行うべき引き継ぎ業務を具体的に明らかにし、それを前提に年休利用の変更、退職予定日の変更等を求めるべく話し合いを行うことが重要になります。
投稿日:2025/10/29 09:13 ID:QA-0160023
相談者より
ご回答ありがとうございます。参考にさせていただきます。
投稿日:2025/10/29 13:02 ID:QA-0160039大変参考になった
回答に記載されている情報は、念のため、各専門機関などでご確認の上、実践してください。
回答通りに実践して損害などを受けた場合も、『日本の人事部』事務局では一切の責任を負いません。
ご自身の責任により判断し、情報をご利用いただけますようお願いいたします。
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