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【ヨミ】タイショクダイコウ

退職代行

退職代行とは?

退職代行とは、従業員本人に代わり、退職の意向を会社に伝えるサービスのことをいいます。従業員が自ら退職する意向を会社に伝える行為は、労働者の一方的な意思により労働契約を解消する「辞職」に該当します。ひと昔前は、賃金未払いなどのトラブルを抱えるケースで、弁護士を通じて退職意向を伝える「代行」が利用されていました。2018年頃から、退職代行サービスを行う民間事業者のメディア露出が増えたことにより、退職代行サービスの認知が広がりました。

掲載日:2024/08/23
写真:KWD1726-24-0830-main.jpg

企業にとって、従業員本人ではなく退職代行業者から退職の意向を伝えられることはショッキングな出来事です。退職代行からの連絡とはいえ、法律および就業規則に問題のない方法であれば、企業は拒否できません。ただし、退職に伴う条件の交渉が含まれる場合、退職代行ユニオンや本人から委任を受けた弁護士からの依頼でなければ、法律違反となる可能性があります。

退職代行とは?

退職代行とは、従業員本人に代わり、退職の意向を会社に伝えるサービスのことをいいます。従業員が自ら退職する意向を会社に伝える行為は、労働者の一方的な意思により労働契約を解消する「辞職」に該当します。ひと昔前は、賃金未払いなどのトラブルを抱えるケースで、弁護士を通じて退職意向を伝える「代行」が利用されていました。2018年頃から、退職代行サービスを行う民間事業者のメディア露出が増えたことにより、退職代行サービスの認知が広がりました。

退職代行サービスは、退職したい従業員本人が、代行サービス会社に料金を支払い、退職意向を伝えてもらう仕組みです。わざわざお金を払ってでも退職したいという行動の背景には、「上司からハラスメントを受けていて直接言い出せない」「すぐにでも退職したいが執拗(しつよう)な引き留めに合う」などといった事情が考えられます。さまざまな理由で、若い世代を中心に需要が広がっているのが退職代行サービスです。

退職の意向が本人の意思を代弁する形であっても、企業は原則として拒否することはできません。「辞職」であれば、企業の承認を必要とせず、従業員は退職できます。

退職代行は違法ではない?

弁護士法第72条により、弁護士でないものが報酬を目的として法律事務を行うことは違法とされています。弁護士資格を持つもの以外が、報酬を得ることを目的に法律事務を事業として行うことを「非弁行為」といいます。非弁行為を行った場合、2年以下の懲役または300万円以下の罰金刑が適用されます。

退職代行は、サービスを行う事業者の資格と、サービスの内容によっては非弁行為に該当する可能性があります。ただし、従業員本人の退職意向をただ単に「伝達」するだけであれば、法律事務の交渉等には該当せず、弁護士資格を持っていなくても違法性はないと判断されています。

退職代行の主な形態は3種類

退職代行サービスは、主に弁護士、退職代行ユニオン、民間業者の三つに分けられます。

弁護士

弁護士が行う退職代行は、退職の意向の伝達だけではなく、企業との交渉や退職の手続きまで法律上問題なく行える点が特徴です。弁護士は、従業員本人に代わって賃金未払いなどの賃金債権の請求や退職金などの条件交渉を行います。また、従業員と企業との間に何らトラブルがあった場合、損害賠償請求なども引き受けることが可能です。

法的な信頼性・高い専門性から、料金が比較的高めに設定されています。依頼内容によっては、成功報酬の形で別料金が発生することもあります。単純な退職代行よりも、トラブルなどにより会社との交渉が必要なケースで選ばれると考えられます。

退職代行ユニオン

ユニオンとは、労働組合の一種です。特定の企業に属さない、社外の労働組合を指します。自社に労働組合がない場合でも、労働者はユニオンに加入できます。ユニオンが運営する退職代行サービスで行えることは、退職に伴う意思の伝達、退職手続きの代行。さらに、労働組合には企業との団体交渉権が認められているため、退職日の調整や未払いの賃金についてなど、交渉が伴う依頼も引き受けることが可能です。

民間業者

事業の一つとして退職代行サービスを行う民間事業者もあります。従業員に代わって退職の意思を伝達できますが、弁護士や退職代行ユニオンのように、会社と交渉する権利は持っていません。退職までのスピーディーな対応や、実績、安価な価格などをアピールポイントとしています。

資格とできること
弁護士資格
  • 退職の意向の伝達
  • 賃金未払いの請求
  • 退職金などの条件交渉
  • 損害賠償請求
団体交渉権
  • 退職の意向の伝達
  • 賃金未払いの請求
  • 退職日の調整
特になし
  • 退職の意向の伝達

退職代行を使われた際に人事がすべきこと

辞職は、従業員の意思をもって労働契約を一方的に解消する行為のため、代行サービス会社を経由して示された意向であっても、会社は原則として拒否することはできません。退職代行を使い、自社の従業員が退職の意思を伝えてきた場合には、以下のポイントに沿って手続きを進めます。

代行業者の資格を確認する

代行業者の資格を確認します。退職の意向を伝えるだけではなく、退職日や有給の取り扱いなど条件交渉が含まれる内容であれば、弁護士資格を持つもの、もしくはユニオンである必要があります。

退職代行サービス業者が該当する資格を有していないにもかかわらず、法律事務を行った場合は非弁行為となり、違法な退職代行サービス業者である可能性があります。

従業員本人の依頼なのか確認

本人の依頼であるかどうかを確認します。第三者による嫌がらせで、なりすましにより退職代行が利用されている可能性も考えられるからです。「依頼人に提出した委任状」「印鑑登録証明書のコピー」などの提出を依頼人に要求することで、本人からの依頼であることを確認できます。

従業員の雇用形態を確認

従業員の意思により一方的に労働契約を解消できるのは、無期雇用であることを前提としています。有期雇用の場合、原則として労働契約の期間内に従業員からの意思で退職することはできません。そのため、退職代行サービスから退職の意向を受け取った際は、該当する従業員の雇用形態を確認します。

ただし、有期雇用で契約期間中であっても、ハラスメントが行われていた場合や、本人が病気などの特別な事情で就業継続が難しくなっている場合は、「やむを得ない事由」に該当し、退職が認められるケースがあります。そのため、退職の理由や状況について、客観的で正確な事実を確認することが必要です。また、労働基準法では、1年を超える労働契約が結ばれている有期雇用の場合、雇用開始から1年以上経過すればいつでも労働契約を解消できます。

退職届の提出依頼

民法第627条第1項によれば、無期雇用の従業員の場合、退職の申し出から2週間が経過すれば、企業の承諾がなくても労働契約が終了することになっています。従業員が退職希望日の2週間前に退職意向を伝えれば、法律上の問題はありません。ただし、就業規則にそれよりも長い解約の申し入れ期日を定めている場合、従業員に不利益を与えるようなものでなければ、会社は従業員に対して就業規則を順守するよう求めることができます。

これらを踏まえ、従業員から退職の申し出があった際は、退職希望日を確認し、問題がなければ退職届の提出を依頼します。後々のトラブルを避けるために、口頭で退職意向を受けるだけで済まさず、書面により退職の意向が確認できる退職届の提出を本人に依頼するのが望ましいといえます。

退職届の受領、貸与品の返却依頼

労働者本人からの退職届が確認できた場合、貸与品などの返還依頼を行います。自社のセキュリティーを確実に保護できるように、退職時の手続きや従業員の義務について、就業規則にルールを定めておく必要があります。具体的には、貸与物や名刺の返却、パソコンやスマートフォンのアカウントの削除、データの保存、引き継ぎ書の作成などについてどうすべきかを、事前に定めておきます。

退職代行は拒否できる?

従業員が退職代行を利用した場合、辞職の意志を受け取ることに抵抗を感じることも少なくないでしょう。しかし、退職代行であっても、退職意向の連絡は原則として拒否できない点を踏まえて対応する必要があります。

基本的に、法律を順守している場合は拒否できない

従業員が退職代行サービスを利用したとき、法律に沿った手順を踏んでいるかを確認します。前述の民法第627条第1項の解約の申し入れなど、退職日までの期限に問題がないことや、社内規定に問題がないことを確認します。

また、弁護士が退職代行を行っている場合、本人と直接対話する行為は差し控える必要があります。退職代行サービス業者が代理人として正当に退職手続きの委任契約を結んでいる場合、代理人の行為は本人に及びます。本人と直接対話をすることは代理人にとって本人の利益を損ねることになりかねず、代理人を通してして交渉するように連絡が来るのが一般的です。本人へ直接連絡するとトラブルになることがあるため注意が必要です。

非弁行為にあたる場合、交渉は拒否できる

弁護士資格やユニオンは正当に会社と交渉できる権限を持っていますが、そうでない業者が交渉を行ってきた場合、会社は拒否することが可能です。仮に、退職代行会社が労働者の代理人として交渉を行い、退職条件がまとまったとしても、非弁行為で思わぬトラブルに巻き込まれ、退職の決定そのものが無効になってしまう可能性があります。

有期雇用の場合は、雇用期間に注意

有期雇用の場合、契約終了日まで労働者から退職を申し出ることは原則としてできません。ただし、やむを得ない退職理由がある場合は、有期雇用でも退職が認められます。そのため、労働者の退職理由を確認することが重要です。

また、労働契約期間が一年を超える有期雇用の場合、労働契約が開始してから一年が経過していればいつでも退職できる点にも注意が必要です。(労働基準法附則第137条)

退職代行対応でトラブルを避けるには

退職代行が利用された際、一方的に拒否したり、代行業者と交渉しようとしたりすると、のちのちトラブルに発展する可能性があります。

弁護士資格がないサービス業者との「交渉」は避ける

民間の退職代行業者が交渉をもちかけてきた場合は、非弁行為に該当します。退職にあたっての条件が合意できるものであっても、本人の意思が確認できなければ効力が及ばない可能性があります。退職そのものが無効になれば、時間や労力が無駄になってしまうでしょう。弁護士資格を持たない民間の退職代行サービス業者との「交渉」には注意が必要です。

ユニオンの退職代行サービスを利用して交渉してきた場合は、その交渉に誠実に対応する必要があります。ユニオンは一般的な退職代行業者とは異なり、労働者の権利を保護する目的で交渉をしてきます。団体交渉を拒絶すれば不当労働行為に該当する可能性があるため、注意が必要です。

従業員との対話は強制できない

従業員が退職代行サービスを利用して退職の意思を伝えてきた場合、引き留めや事実確認のために本人と話がしたいと考える上司や管理職は少なくありません。退職代行サービス経由で伝えられたことにより、ショックを受けて「なにかの間違いかもしれない」「真実を確認したい」と考えることもあるでしょう。

しかし、退職代行サービスに対して、従業員本人の依頼によるものかの確認はとれても、従業員本人に直接対話することは強制できません。法律上、問題のない退職であれば、しつこく対話の場を持とうとすることは避けるべきです。電話やメールを繰り返しては、トラブルになるばかりか企業のイメージダウンにつながる可能性があります。

未消化の年次有給休暇の確認をする

退職の連絡を受けたら、本人の年次有給休暇の残り日数を確認します。原則として、年次有給休暇取得の申出が労働者からあった場合、会社側が一方的に取得を拒否することはできません。会社に認められているのは、労働者が年次有給休暇を取得することで事業の正常な運営を妨げる結果になる場合に、有給取得時季をずらしてもらう「時季変更権」のみです。

未消化の年次有給休暇が多く残っている場合、退職日までに全てを消化することが困難なケースもあります。未消化の年次有給休暇の買い取りや消化させなかった賠償などが企業に請求されるケースは少なくありません。退職日までに消化できなかった年次有給休暇は、退職日を過ぎた時点で消滅します。退職によって消滅する年次有給休暇を買い取る義務はありません。しかし、買い取りに応じることもできるため、トラブルを避けるために年次有給休暇の取り扱いも踏まえて本人と交渉する必要があります。

年次有給休暇は計画的な消化が奨励されており、企業としては日頃から計画的に従業員に年次有給休暇を消化させることが重要です。

「退職代行」なぜ使われた?

なぜ近年、退職代行サービスが広がっているのでしょうか。退職代行の需要や利用状況について解説します。

退職代行の利用状況

東京商工リサーチが2024年に実施した「人材確保・退職代行」に関するアンケート調査では、大企業の約2割、中小企業の8.3%が退職代行サービス業者からの退職手続きの要請を経験しているという結果が出ました。退職代行サービスの利用状況は、業界によっても差があるのが特徴です。一番多いのは、「洗濯・理容・美容・浴場業」が約3割。百貨店などを含む商品小売業が26.6%、宿泊業が23.5%と、接客業や販売業での利用率が高くなっています。

従業員が退職代行を使う理由

なぜ、従業員は退職代行を利用するのでしょうか。退職代行サービスの認知度が広がる一方で、実際に利用したことがある人は少数派です。即日退職というスピーディーさを求める人もいれば、ハラスメントなどを受けて利用する人もいます。

エン・ジャパンが2023年に行った調査によれば、退職代行を利用したことがあると答えた人のうち、理由の1位は「退職を言い出しにくかったから」、次に「すぐに退職したかったから」「人間関係が悪かったから」とあげています。

また、退職代行サービスを行う民間業者の「モームリ」によれば、自社で退職代行を利用した人15,934人のうち、上司から各種ハラスメントを受けている人が33.9%。上司から退職を止められている人が30.2%でした。

自社で「退職代行」が使われた理由を知る

退職代行を利用されると、「なぜ直接話してもらえなかったのか」といった疑問が残ります。とくに、直接の上司はマネジメントの至らなさを痛感してしまうかもしれません。起きたことは覆りませんが、退職代行利用の背景にある組織の課題を、できる範囲で把握し、検討・改善することが大切です。

従業員の悩みは、人事や上司には話しづらいと感じている場合は少なくありません。本人だけではなく、現場の同僚や上司にヒアリングを行ったり、匿名アンケートを行ったりして、ハラスメントの有無や心理的安全性が確保されていたかなど、職場環境を確認すると良いでしょう。

退職代行を使われない企業になるために

退職代行を使われないためには、従業員が話しやすいと思える環境づくりが大切です。上司と部下のコミュニケーションの状況を見直し、従業員間での人間関係が円満で信頼し合える職場環境づくりについて、今一度考えると良いでしょう。

企業事例

電子部品、電子化学材料などの製造・販売を手掛けるタムラ製作所では、働き方改革の主軸として、組織の心理的安全性向上に取り組みました。実現に向けた要となったのは、管理職のマネジメント手法です。心理的安全性サーベイと360度調査の結果を活用し、管理職のマネジメントのブラッシュアップをサポートする取り組みを実施しました。その結果、自己都合による離職者数は、2019年度と比較し、23年度は3/4になるという効果が見られました。

まとめ

退職代行サービスから連絡があった場合、法律と就業規則に照らし合わせて問題のないやり方であれば、原則として退職依頼を拒否することはできません。退職代行依頼から連絡を受けた際は、本人からの依頼であるかを確認しつつ、適切な手順で退職の手続きを進める必要があります。交渉が含まれる場合は、退職代行サービス業者の資格を確認することも重要です。

退職代行を利用した従業員には、そうせざるを得なかった事情があるかもしれません。会社としては、退職代行から意向を伝えられると、従業員に裏切られたようでショックを受けるかもしれませんが、その背景にある企業の問題点を把握することが、職場環境の改善につながることもあります。普段からのコミュニケーションを見直し、心理的安全性を育むことで、従業員が話を切り出しやすい環境づくりにつながるでしょう。

企画・編集:『日本の人事部』編集部

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