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【ヨミ】シンリテキアンゼンセイ 心理的安全性

「心理的安全性」とは、「サイコロジカル・セーフティ(psychological safety)」を日本語に訳した心理学用語です。米Google社が自社の生産性向上のために調査する過程で再発見した言葉であり、近年では農林水産省が発表した「食品製造業における労働力不足克服ビジョン」や金融庁の「金融行政のこれまでの実践と今後の方針」でも心理学安全性という言葉が登場するなど、注目を集めています。(2017/4/10掲載)

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1. 心理的安全性とは?

「心理的安全性」とは、職場で誰に何を言っても、どのような指摘をしても、拒絶されることがなく、罰せられる心配もない状態のことをいいます。従業員同士が仲のいい状態、ざっくばらんに冗談を言い合えるような状態だと捉えられることもありますが、そのような状態とは少し異なります。むしろ、心理的安全性とは、「空気を読む」という日本的な仲の良さとは相反する側面があります。

近年、イノベーションや生産性向上が重要であることの議論が盛んに行われていますが、そのためには空気を読まない発言や、伝統を否定するような発言があっても、組織内で拒絶されず、評価が下がらない場を作らなければなりません。安心して誰に対しても発言することができる状態こそが、心理的安全性が意味するところです。

人事が押さえておくべき心理的安全性の意味

心理的安全性は単なる仲の良さや、一致団結して仕事に打ち込むことができる雰囲気とは少し異なる意味を持っています。また、「会議での発言は自由に行うこと」「誰の発言も罰さないこと」というルールを定めることとも異なります。

心理的安全性とは、誰にどのような発言をしても罰せられないという「ルールが決められていること」ではありません。誰にどのような発言をしても罰せられない「雰囲気」「暗黙の了解」のことをいうのです。心理的安全性を、単に仲が良いこと、あるいは罰せられないというルールを決めることと誤解しては、本来の目的からかけ離れてしまう可能性もあります。

このことを理解するために、「心理的安全性」という言葉を最初に組織論で用いたハーバード大学のエドモンドソン教授の発言を引用してみましょう。エドモンドソン教授は、「心理的安全性」を次のように説明しています。

"A shared belief held by members of a team that the team is safe for interpersonal risk taking." (このチーム内では、対人関係上のリスクをとったとしても安心できるという共通の思い)
Edmondson (1999) Administrative Science Quarterly. 44(2)

つまり、普通なら嫌われたり、関係が破綻したりするようなリスクであっても、心理学安全性では、どのような発言や指摘をしても問題がない状態」を意味しているのです。通常であれば、遠慮のない発言をしてしまったことで人間関係が悪化するケースが、心理的安全性ではそのようなリスクがないことが特長です。

チームの上下関係がなく、誰もが気づいたことを発言できる雰囲気があれば、学びの機会も増え、それだけ業績が上がりやすくなります。仮に上下関係があったとしても、自由に発言ができることが大切なのです。もちろん、誰に何を指摘しても罰せられないという雰囲気を作るためには、ある程度の仲の良さがなければ難しいでしょう。心の内を全員が打ち明けて、チームが崩壊してしまっては元も子もありません。

心理的安全性が注目されてきた背景

「心理的安全性」が近年注目を集めている背景には、米Googleが2012年から行ってきた「プロジェクト・アリストテレス」という生産性向上計画が関係しています。Googleは本プロジェクトの中で自社の数百にも及ぶチームを分析の対象として、どのようなチームがより生産性が高い働き方をしているのか調査をしました。

その結果、チームメンバーの能力や働き方によって生産性が左右されるのではなく、他者への心遣いや、どのような気づきも安心して発言できるという心理的な要素が、生産性に影響していることがわかりました。

2016年に研究結果が発表されて以降、心理的安全性が徐々に注目を集めています。Googleの研究成果という点も注目を集めた理由の一つですが、テクノロジーが急速に発展する中で、効率がよく生産性が高い働き方を多くの企業が求めていたという背景もあるでしょう。

2. 心理的安全性を取り入れる上で知っておくべき基礎知識

では、なぜ誰に対してどのような発言をしても拒絶されず、罰せられない状態が、仕事のパフォーマンス向上につながるのでしょうか。心理的安全性を取り入れて運用するためには、どのような状態が理想であるのか、もう少し理解を深めていきましょう。

心理的安全性が生産性を向上させる背景

心理的安全性が生産性を向上させる背景には、大きく二つの理由があります。それは、情報交換がスムーズになることと、多様な能力を持つ人間が集まりやすくなる組織作りができることです。

情報交換がスムーズになる

1990年代、最初に心理的安全性が注目されたのは、発言の自由さが学習の向上に寄与するからでした。また、発言だけではなく、どのような挑戦をしてもとがめられることなく、トライ&エラーができる状態であれば学習の理解がより速くなる点も話題になりました。

「失敗は成功の母」とよく言いますが、「こんな考えを言っても恥ずかしくない」「強い行動をしなければならない」といった思いや、躊躇なく自由に挑戦し、失敗することが学習の理解につながります。組織内の心理的安全性で見ても、経験が浅く知識がそれほどないメンバーでも自由に気づきを発言できる雰囲気を作ることで、チーム全体の学習も促進されるという研究が出ています。さまざまな観点から得られた情報がスムーズに交換されることで、チーム全体の知識量も知識の深さも向上するのです。

多様な能力を持つ人間が集まりやすくなる

近年では多様性(ダイバーシティ)や創造性に注目が集まっています。そのような状態が、これまでになかったイノベーションを生むと考えられているからです。

心理的安全性がある組織では、多様な価値観が認められるため、さまざまな個性や能力を持つ人が集まり、議論が深まりやすいという特長があります。イノベーション面では、同じような価値観を持つ人間同士が自由に話し合うよりも、異なる価値観の持ち主が自由に話し合うことの方が重要です。心理的安全性は、そのような場を作ります。

他にもある、心理的安全性の効果〜やる気や責任感のアップ〜

さらに心理的安全性では、特に個人レベルのコミュニケーションが円滑になり、やってはいけないことをやってはいけないと発言することもできるため、パワハラなどのリスクを減らすことができます。また、仕事に対してより責任感や関心が生まれ、積極的に業務に取り組んでもらいやすくなります。

コミュニケーションが円滑になるという点では、メンバー同士が足りない点を補いあって活動することで、より関係が深まることも知られています。一般的に、メンバー間の関係性が良い場合、新しい人が入りにくいという側面もありますが、心理的安全性の高い組織では、立場の低い人も自由に発言することができ、仲間に入る心理的な障壁が比較的低いとされています。安心して自分から発言し、積極的に参加することが許されるため、メンバーの一人ひとりのやる気も上がるようです。

心理的安全性の最近の研究動向

心理的安全性は、すでにさまざまな研究が進められています。しかし、「自由に発言し、咎められることのない状態」が、組織において新しい規範を作るのにどのような役割を果たすのかについては、まだまだ研究が必要なようです。しかし、心理的安全性を作り上げる上では、リーダーの役割が重要であることが、エドモンドソン教授らが発表した2016年の研究で明らかにされました。
 
その研究によれば、心理的安全性には仕事の内容や組織の形態にかかわらず、リーダーの心理的安全性に対する意識がどの程度のものなのかが、チームの心理的安全性に影響を与えるとしています。それ以外にも、心理的安全性を高めることで、チームが向いている方向が共有されやすくなったり、有機的な活動がしやすくなったり、パフォーマンスが上がったりするという研究もあります。ただし、日本での研究はまだ十分ではありません。日本において心理的安全性がもたらす価値は、これから明らかになっていくでしょう。

Edmondson, A. C., Higgins, M., Singer, S. & Weiner, J. (2016). Understanding psychological safety in health care and education organizations: a comparative perspective. Research in Human Development, 13(1), 65-83.

3. 心理的安全性を職場で活用するために

心理的安全性が組織やチームの中に浸透していくために重要なのはリーダーの意識です。リーダーが、心理的安全性とは何か、それを活用してどのような組織にしたいかのビジョンを持つことで、それ以外のメンバーも働きやすくなるからです。

導入の際には、単に優しいぬるま湯的な雰囲気のチーム、空気を読むあまり誰かが不利になるような発言はしない気遣いが生まれてしまうチームになってしまわないよう、注意するべきです。

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