メンタル不調による復職からの雇用契約について
当社では、一昨年9月から今年2月までメンタル不調で休職していた正社員の社員が、今年3月に契約社員・時短勤務で復職しました(契約は3ヶ月更新)。復職時、条件を満たせば正社員に戻すことを説明し、その条件として以下を提示しました。
・一定期間勤続(6ヶ月以上。3ヶ月で見直し検討)
・フルタイム勤務が可能
・勤務態度・業績が良好
・上長の推薦を受けること
(条件はすべて役員により決められています。)
本人は時短勤務(9:30〜17:00)から復職し、5月2週目以降は9:00からのフルタイム勤務を継続しています。
今回の契約更新時、役員より、正社員復帰はまだ認められないと伝えられました。理由としては、
・フルタイム勤務が本当に可能か、まだ信用できない
・復職当初9:30出社だったため、9:00出社ができるか不明
というものです。
出社時間については、時差出勤制度があったはずなのですが、その制度は当該社員の部署では使えなくなったと役員から伝えられました。しかし、そのような通達やアナウンスは出されていません。
現場の人事としては以下の点に不安を感じています。
・時短勤務を含めても3ヶ月継続勤務しており、かつ5月からはフルタイム勤務を続けているにもかかわらず、正社員復帰を認めない点
・出社時間に関しては正式な通達やアナウンスが出されていない中での条件変更であり、当初の契約書にも「9:00出社」の明記がない点
・出社時間の指摘後、約3週間は9:00出社を継続しているが、それが評価に反映されていない点
・安全配慮義務の観点からも、柔軟な勤務時間の対応は必要と考えているが、未通知の制度変更を理由に正社員復帰を拒否するのは問題ではないかという点
【質問】
・このような場合、正社員復帰を認めず契約社員として雇用を継続させることは、労働契約上・安全配慮義務上、問題はないでしょうか? 法的なリスクはありませんか?
・「9:00出社」を条件とする場合、契約書や就業規則に明記がない中で、これを理由に正社員登用を拒否することに問題はないでしょうか? 時差出勤制度の正式な廃止通達がなされていない点も含めてご意見を伺いたいです。
人事担当としては、役員の指示には従っているものの、法的なリスクがある対応を現場が主導することには不安があります。今後の対応を検討する上で、専門家のご意見をお伺いしたいと考えています。よろしくお願いいたします。
投稿日:2025/05/26 11:15 ID:QA-0152931
- いまりがわさん
- 東京都/情報処理・ソフトウェア(企業規模 51~100人)
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プロフェッショナル・人事会員からの回答
プロフェッショナルからの回答
ご回答申し上げます。
ご質問いただきまして、ありがとうございます。
次の通り、ご回答申し上げます。
1.はじめに
ご相談の件について、人事担当として適切なリスク感覚をお持ちであると感じます。以下、法的観点から整理し、企業として注意すべき点や今後の対応の方向性についてご説明いたします。
2.回答
質問(1)
正社員復帰を認めず契約社員として雇用を継続させることに、労働契約上・安全配慮義務上の問題はあるか?
【結論】
一部リスクがある可能性があります。
特に、(1)復職条件の曖昧さ、(2)客観的評価の不備、(3)合理的な配慮の欠如があれば、不当な差別的取扱い(労働契約法第3条・第20条)、メンタル疾患に関するハラスメント、または安全配慮義務違反(民法第415条)が問われる余地があります。
【解説】
1. 復職条件の妥当性
貴社が提示した「正社員復帰の条件」自体は、一見合理的で許容範囲内と考えられます。ただし、その判断基準や評価の過程が不明確・主観的・不統一である場合、従業員が「不当な差別・不利益取り扱い」と感じ、争いになる可能性があります。
2. 安全配慮義務
メンタル不調からの復職者については、企業には合理的な配慮を行い、再発を防止する義務があります。勤務形態や評価について「理由を明示せず・一方的に変更」し、柔軟性を欠いた対応をすることは、義務違反とみなされうる可能性があります。
質問(2)
「9:00出社」を条件とすること、およびそれを明示せずに登用拒否とすることに問題はないか?
【結論】
問題がある可能性が高いです。
雇用契約書や就業規則に「9:00出社」の義務が明記されていない場合、それを後から登用条件として一方的に追加することは不適切です。法的にも黙示の労働条件変更の限界を超える可能性があります。
【解説】
1. 契約書に明記のない勤務時間を評価基準とする不合理性
労働条件のうち、労働時間は労働契約の重要な要素です。
登用・待遇変更の判断基準にするのであれば、明示されていない条件で評価を行うことは原則として許されません(判例上も、合理的説明ができないと否定される傾向にあります)。
2. 時差出勤制度の「未通知廃止」
運用上、「制度が使えなくなった」としても、制度廃止は正式な社内通達または就業規則の変更手続きが必要です。
通達のない状態で「制度廃止」を前提に扱うことは、就業規則違反の疑いがあり、行政指導や労働審判・訴訟リスクにつながる可能性もあります。
3.法的リスクまとめ
観点→リスク内容→該当する法的根拠
不当な登用拒否→明確な理由なく、契約社員のままとする→労働契約法第3条(均等待遇)・同第20条(不合理な待遇差)
合理的配慮の欠如→柔軟な勤務時間制度の撤廃、説明なし→安全配慮義務(民法第415条)・パワハラ指針
勤務条件の不当変更→出社時間条件の後出し・未明示→労働契約法第8条(労働条件の変更)
制度廃止の未通達→時差出勤制度の廃止が文書化されていない→就業規則法理、労基法第89条・90条等
4.人事部門としての対応提案
(1)客観的な評価指標の明示
「正社員登用基準」を明文化し、本人に書面で開示することを強く推奨します。
勤務態度、業績、勤務時間、評価時期などの具体化を行い、「透明性」を確保。
(2)時差出勤制度の運用方針を明文化
廃止・制限するなら「明確な社内通達」「就業規則の変更」が必要。
逆に、復職支援の観点から制度の再整備・活用も検討可能です。
(3)正社員登用を拒否する場合の「文書による説明」徹底
本人に対し「現時点で登用しない理由」と「次の見直し時期」「改善項目」を具体的に伝える。
曖昧・抽象的な説明(「信用できない」など)は避け、指導記録や評価記録を残すこと。
(4)再発防止と本人支援の両立
メンタル不調者に対しては、過剰なプレッシャーにならないよう業務量や登用判断のタイミングにも配慮が必要です。
5.結論
現時点のまま正社員復帰を拒否し続けることは、法的に一定のリスクをはらんでいると考えられます。今後、以下の3点を実施することで、法的トラブルを避けつつ、社員本人との信頼関係も維持しやすくなります:
(1)登用基準の明文化と開示
(2)時差出勤制度の正式な廃止手続きまたは再運用方針の明示
(3)登用見送り理由の文書説明と次回判断時期の明示
以上です。よろしくお願いいたします。
投稿日:2025/05/26 12:16 ID:QA-0152938
プロフェッショナルからの回答
お答えいたします
ご利用頂き有難うございます。
ご相談の件ですが、文面内容を拝見する限りですと安全配慮義務の観点から正社員復帰を拒む事情はないようですし、実際にそうであれば労働契約上本来の正社員としての労働条件で勤務してもらうべきです。
そして、9:00出社について契約書や就業規則に明記がない点、時差出勤制度の正式な廃止通達がなされていない点いずれも当然に問題がございます。前者は労働基準法における労働条件の明示義務違反、後者は労働契約法における労働条件の不利益変更という違法措置に該当します。御社役員がこうした事柄に気付かれていない、または分かっていても軽視されているようでしたら、コンプライアンスの観点から重大なリスクを生じるものといえますので、その旨警告の進言をされる事をお勧めいたします。
たとえ役員の指示であっても、法令上問題が有るにも関わらず反対せずそのまま従う事は連帯責任を問われますし、そうでなくとも人事担当者として法令遵守による労務リスクの回避の姿勢で対応される事が職務上重要です。
投稿日:2025/05/26 12:59 ID:QA-0152945
プロフェッショナルからの回答
回答いたします
ご質問について、回答いたします。
まず、ご質問のケースにおいては、明確に法令上、問題かどうかを回答するのは
難しい問題かと思案いたします。
本件においては、後述します、プロセスも重要です。
法令上、明確に判断基準が定められてはいない問題ですので、争われた場合は、
個別事案として民事上での可否判断を仰ぐこととなります。
その上で、ポイントになるのは、今年3月に契約社員・時短勤務になった際の
契約折衝と、契約合意に至るまでのプロセス(やりとり内容)となります。
通常、正社員から契約社員への雇用形態変更は、社員にとって不利益な変更に
該当する為、対象社員の合意がなければ、成立しませんし、強要も不可です。
合意に際し、条件を満たせば正社員に戻すことが条件として成立していれば、
その通りにしなくてはなりません。何故ならば、条件を満たすことで正社員に
戻れる期待値と、その期待値があって、契約社員としての雇用形態に合意した
ものとなるからです。その期待値が当初より無ければ、契約社員としての雇用
契約は合意していなかったともみれます。
よって、当初の期待値が著しく損なわれた場合は、当初の契約社員としての
契約自体が無効と判断される可能性も高いものと思案いたします。
上記、問題が大きく発展した場合は、民事上で争われる事案です。
民事上で争われた場合は、安全配慮義務の観点ではなく、契約社員へ雇用形態を
変更した際の、労働契約法における契約成立要件が焦点になるかと思案します。
まずは、基準が不明確な点が問題ですので、明確化を図ってください。
その上で、改めて、対象社員の方に明確な条件を提示し、ご納得されるかの
折衝を急ぎ行ってください。その上で、対象社員の方が納得されないようで
あれば、弁護士等、民事問題を想定した専門家へのご相談をお勧めします。
投稿日:2025/05/26 13:06 ID:QA-0152948
プロフェッショナルからの回答
ご質問の件
文面を拝見する限り、
役員の恣意的な感情論で判断しているように見受けられます。
休職前の職につかせるのが原則ですので、
一定期間正社員としないなどは、規定がないとその根拠がありませんし、
安全配慮義務という観点では、根拠となる医師の診断が必要です。
時差出勤も廃止されていないのであれば、そのまま運用する必要性があります。
現場の上司、人事部として公正に判断する必要があります。
投稿日:2025/05/26 17:06 ID:QA-0152955
プロフェッショナルからの回答
専門家(産業医)の意見
以下、回答させていただきます。
(1)このような場合、正社員復帰を認めず契約社員として雇用を継続させるこ
とは、労働契約上・安全配慮義務上、問題はないでしょうか? 法的なリスク
はありませんか?
⇒ 「フルタイム勤務が可能」との条件を満たしているのかどうかという論点
であると認識されます。
「5月2週目以降は9:00からのフルタイム勤務を継続している」という一定
の事実がある一方で、役員は「フルタイム勤務が本当に可能か、まだ信用で
きない」とのことです。
会社としての最終的な判断をくだす前に、その合理性を担保するために
も、主治医の診断結果を含めて専門家(産業医)の意見を聴く必要があると
考えられます。そこでは、フルタイム勤務が可能な状態となっているのか、
仮になっていないのであればそれはなぜか、可能な状態になっているために
は何が必要なのかなどについて診ていただくことが考えられます。
(参考)アメックス事件(東京地裁 平成26年11月26日判決)
本件診断書及び本件情報提供書における、Xが就労可能であるとする
C医師の診断の信用性を争う旨のYの主張は、いずれも採用することが
できない。
Yとしては、本件診断書及び本件情報提供書の内容について矛盾点や
不自然な点があると考えるならば、本件療養休職期間満了前のXの復職
可否の判断の際にC医師に照会し、Xの承諾を得て、同医師が作成した
診療録の提供を受けて、Yの指定医の診断も踏まえて、本件診断書及び
本件情報提供書の内容を吟味することが可能であったということができ
る。
Yは、そのような措置を一切とることなく、何らの医学的知見を用い
ることなくして、C医師の診断を排斥し、本件判定基準9項目のうち
「昼間の眠気がないこと」及び「休職期間が満了するまでに問題なく職
務が遂行できる健康状態に回復していること」を満たしていないと判断
しているところ、そのようなYの判断は、Xの復職を著しく困難にする
不合理なものであり、その裁量の範囲を逸脱又は濫用したものというべ
きである。
(2)「9:00出社」を条件とする場合、契約書や就業規則に明記がない中で、これ
を理由に正社員登用を拒否することに問題はないでしょうか? 時差出勤制度
の正式な廃止通達がなされていない点も含めてご意見を伺いたいです。
⇒ 「契約書や就業規則に明記がない」とのことです。契約内容の変更につい
ては、原則、両者の合意が必要です。復職社員が合意しない限り、「正社員
復帰の条件に本来の始業時間で働くことを組み込む」ことは困難です。
一方、「9:00出社」を条件として提示することは可能です。しかし、「時差
出勤制度の正式な廃止通達がなされていない」とのことですので、その説得
力には難点があると考えられます。
投稿日:2025/05/26 19:19 ID:QA-0152967
プロフェッショナルからの回答
対応
復職判断は公正公平に行われなければなりませんので、担当役員の言い分は全く合理性が感じられないもので、違法性が高いと思います。
「信用できる」かどうか、判断基準を明確にし、俗人的感触ではなく3カ月の時短勤務実績をもって90%以上の正しい勤怠であれば認める・・・というような、明確な基準で判断して下さい。
「復職当初」のような根拠ない理由ではなく、5月1か月間の勤怠状況でなぜ認められないのか、明確な基準を設定し、広く公知が必要です。
いずれも合理的理由とは考えられずハラスメントの可能性も高い理不尽な対応であり、著しいコンプライアンス違反となり得るでしょう。コンプライアンスの観点から、対応に問題あることをぜひ提案されるべきと思います。
投稿日:2025/05/26 21:28 ID:QA-0152981
回答に記載されている情報は、念のため、各専門機関などでご確認の上、実践してください。
回答通りに実践して損害などを受けた場合も、『日本の人事部』事務局では一切の責任を負いません。
ご自身の責任により判断し、情報をご利用いただけますようお願いいたします。
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