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キーパーソンが語る“人と組織”

優秀な若手をひきつける「リテンション・マネジメント」
人が辞めない組織をつくりあげる極意とは

青山学院大学 経営学部 教授

山本寛さん

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環境の整備と同時に育成の連鎖を途絶えさせない

若手のリテンション対策では、どのような要素を重視するべきでしょうか。

青山学院大学 経営学部 教授 山本寛さん

まずは働きがいを充実させる前提として、「働きやすさ」を整えることが重要だと思います。待遇や勤務環境などに関して、業界トップとまではいかなくても、同業他社と肩を並べる水準にまで引き上げること。そのうえで、ジョブローテーションや留職、人材公募制度などの働きがいにつながる施策を盛り込むことが大切だと思います。特に、自分でオフタイムを設定できる自由があるといいでしょう。というのも、働きがいは何も仕事中に限らず、仕事から離れた瞬間に感じることも多いからです。

また、共感を呼ぶような会社の方針や姿勢を、明確に打ち出すことも大事です。自分自身の役割は会社の方向性にどう結びついているのか、どのような形で会社に寄与できているのかが分かると、従業員の仕事への納得度は高くなります。日本の企業は、少し前まで理念をそれほど意識することはありませんでした。実際、ひと目でどの会社の理念なのかがわかるような、個性の強いものはそう多くありません。しかしヒアリング調査では、リテンションがうまくいっている会社の若手社員が「その会社の良さ」をとても理解している傾向が見られます。

ただし理念の理解には、ある程度時間が必要です。トップが社内外を問わず、理念やメッセージを伝えると同時に、その内容を上司がかみ砕き、新入社員でも腹落ちできるように伝えることが重要です。行動指針やクレドの実践もその一つです。従業員参加の意識やオーナ-シップの醸成は、リテンションに効果があると思います。

コミュニケーション面では、何に配慮するべきでしょうか。

身近に相談できる人がいること、職場に打ち解けやすい雰囲気があることが重要です。日本の会社は、チームワークなどの和を尊ぶ傾向にあります。しかし、新人が自ら率先して信頼関係を築き上げようとしても無理があります。また、今の若者は叱られることに慣れていません。そのため、オープンマインドな雰囲気を基本に、上司や先輩社員のほうから歩み寄る姿勢が大切です。

施策としては、ブラザー・シスター制度や1on1ミーティングが挙げられると思います。身近な先輩が若手をサポートしたり、ときには自分の失敗談を交えながら相談にのったりといった関係づくりは、リテンションに有効であることがヒアリング調査からも分かっています。1on1ミーティングでは傾聴を基本とし、仕事の進捗状況を聞くだけで終わらせないことが大切です。ただ、ヒアリング調査では「キャリアに関する悩みは、そう簡単に人に話せるものではない」と話す方もいました。センシティブな事柄は結論を急がず、じっくり様子を見ながら進めるとよいでしょう。

青山学院大学 経営学部 教授 山本寛さん

また上司は、日頃からいつでも話を聞く姿勢でいることが大切です。忙しいとき、全てをシャットアウトして自分の仕事に専念したくなる気持ちは分かります。しかし、どんなときでも周りを見わたせる余裕を持つことが大事です。そういう意味で、課長職にあたるポジションを割愛したフラット型組織に、私は賛成できません。部長職がプレイヤーをマネジメントする状況では、一人で管理する部下の数が多くなってしまいます。それでは、辞めようと考えている従業員がいても、なかなか気づくことができません。中には、リテンション対策の観点で管理職の配置を決める企業もあるようです。

ただ、現実として管理職のポストは増えていません。その場合は、チーム制の業務を多くするのも一案です。クロスファンクションが当たり前の組織体系にしてみてはどうでしょうか。若手からプロジェクトリーダーを抜てきすれば、マネジメントを経験するいい機会にもなります。育成の連鎖を途絶えさせないためにも、そうした仕組みづくりは重要です。

離職者の本音を聞いて次のリテンションにつなげる

若手社員の志向と乖離(かいり)のないリテンションを実現するためには、どういうことに配慮すればいいのでしょうか。

中堅層のケアの充実がポイントになると思います。例を挙げると、ある宿泊サービス業では、中堅社員の給与を上げる代わりに、業務のマルチタスク化を導入したそうです。旅館業はフロントやレストランなど分業が基本ですが、職種によりピークタイムがはっきりしています。そこで、アイドルタイムに他部門の業務もこなすようにしたところ、結果はプラスに働きました。自身の専門性スキルがクリアになると同時に、他の業務に応用できることが分かったことで、エンプロイアビリティが向上したからです。また、全く関わってこなかった業務に携わることで、事業全体における所属部門の位置づけや、他部門の頑張りを知ることができ、エンゲージメント向上にもつながったといいます。

一方で、RJP(Realistic Job Preview:現実的な仕事情報の事前開示)も重要です。入社の段階で、どういう風土や志向性を持つのか、仕事の進め方の傾向など、可能な限り、自社のありのままを見せておくことで、入社後のギャップが軽減されます。ある会社では、中途採用の最終選考で実際に働いてもらい、見極めの機会を設けているといいます。

リテンション対策を行っていても、若手社員が退職してしまうことがあると思います。山本先生は著書の中で、退職面談こそが未来のリテンション・マネジメントにつながるとおっしゃっていますね。

会社を辞める際、本人は今までの環境に何かしらネガティブな印象を持っているはずです。「あのときのあの言動が、転職を意識するきっかけになった」など、退職の経緯を把握することは、会社にとって最大のモラ-ルサーベイになると考えられます。

ありのままを話してもらうためにも、直属の上司がヒアリングを行うのは避けたほうがいいでしょう。辞めていく部下にとっては、気まずいものですから。ほかの部門の複数のマネジャーや人事、キャリアコンサルタントなどでチームをつくり対処するのがベストです。一つの退職事例から改善ポイントを整理して、リテンション対策に反映していくとよいでしょう。

また退職の際は、円満に送り出すことも大切です。その後、自社のリテンション施策が充実すれば、退職した社員が戻ってくる可能性もあるからです。他社でキャリアを積み上げた社員が組織に戻ってくることは、ダイバーシティの観点からも有効だと思います。ぜひ多くの企業に、リテンション・マネジメントに取り組んでほしいですね。

青山学院大学 経営学部 教授 山本寛さん

(2018年6月22日、東京・渋谷区の青山学院大学にて)


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