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副業・兼業と多様な働き方の推進
~副業・兼業の促進と併せて求められる、働き方の選択肢の多様化~

第一生命経済研究所 総合調査部 マクロ環境調査G 副主任研究員 奥脇 健史氏

副業・兼業と多様な働き方の推進

要旨

  • 副業・兼業に対する社会の関心が高まっている。6月に公表された「経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太の方針)」及び「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」において、副業・兼業の促進・拡大について記述されるなど、政府は積極的に取り組む姿勢を示している。
  • 副業・兼業を促進していくことは、労働者のモチベーションやスキルの向上など、企業・労働者の双方にとってメリットのある取組みであることが示されている。働き方の選択肢として社会に副業・兼業が浸透していくことで、日本の生産性向上に寄与することが期待される。
  • 副業・兼業はまだ浸透しているとは言えないのが現状だろう。内閣府の調査では、昨年秋時点で、副業・兼業を実施している労働者は1割強にとどまっているほか、制度として明確に許容している企業の割合は約4分の1にとどまっている。このような状況を踏まえ、政府は7月に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を改定し、企業に副業・兼業の許可状況などの開示を促す方針である。
  • 企業において、副業・兼業の容認が進むことはもちろん重要であるが、同時に制度の活用を促す取組みを進めていくことも重要であろう。そのためには、時間と場所に捉われない働き方の推進や週休3日制の導入などを併せて検討・実施していくことのほか、副業・兼業の事例・ノウハウを収集し、従業員に発信していく取組みなどが必要であろう。また、労働者の多様なキャリア形成や成長分野への円滑な労働移動の推進という観点では、社内でのジョブポスティング制度や在籍型出向の活用など、多様な選択肢を用意・拡充してくことも重要だと考える。
  • 労働者に多様な働き方の選択肢が存在することは、企業にとっては条件が合わず退職を検討している労働者などのつなぎ止めに寄与し、条件が合わずに会社を退職せざるを得ない労働者にとっては、退職後にも何等かの形で働ける可能性が高まることになると考えられる。これは労働者、企業、国、それぞれにとって有益なことであろう。足元で社会的な機運が高まっている中、副業・兼業の促進を含め、今後も働き方の選択肢が広がっていくことを期待したい。

1.社会の関心が高まる「副業・兼業」

副業・兼業(注1)に対する社会の関心が高まっている。6月に公表された「経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太の方針)」において、労働者の多様なキャリア形成や円滑な労働移動の手段として副業・兼業の促進について言及されたほか、同じく6月に公表された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」においても、「成長分野・産業への円滑な労働移動を進めるため、さらに副業・兼業を推し進める」と記述されるなど、政府は副業・兼業の促進に積極的に取り組む姿勢を示している。

背景には、日本の生産性をいかに向上させるかが課題となる中で、労働者のモチベーションの向上やデジタル・グリーンなどの成長分野への円滑な労働移動の推進が求められていることがある。

パーソル総合研究所の調査によると、企業が副業・兼業を容認したことによって実感した効果として、労働者のモチベーションやスキルの向上のほか、新規事業の創発、転職や再就職の支援などが挙げられている(資料1)。

資料 1 企業が副業(・兼業)を容認したことによって実感した効果

また、企業と同様に副業・兼業を行っている労働者自身も、副業・兼業を通じて本業では得られないスキルの習得や人的ネットワークの構築、自分の活躍できる場の増加など、プラスの効果を実感できているようだ(資料2)。そのほか、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」では、副業・兼業の効果として「副業を通じた起業は失敗する確率が低くなる、副業をすると失業の確率が低くなる、副業を受け入れた企業からは人材不足を解消できた、といった肯定的な声が大きい」という点が示されている(注2)。

資料 2 副業(・兼業)を行っている労働者が実感する効果

このように、副業・兼業は、労働者のモチベーションやスキルの向上による生産性向上のほか、人的ネットワーク獲得による転職・新規事業の創出などにもつながると考えられる。企業・労働者双方にとってメリットのある副業・兼業が浸透していくことは、日本の生産性向上に寄与することが期待される。

2.副業・兼業の現状と企業に求められる副業・兼業の容認

副業・兼業の現状をみると、まだ浸透しているとは言えないのが実情だろう。内閣府が昨年秋に実施した調査によると、「副業を実施している」と回答した労働者は1割強にとどまっているほか、副業・兼業を明確に許容している企業の割合は約4分の1にとどまっている(資料3)。

企業が副業・兼業を禁止している理由をみると、「自社の業務に専念してもらいたい」が最も多いほか、従業員の健康面を懸念するものや情報漏洩・ノウハウ流出・競業のリスクなどが挙げられている(注3)。慢性的な人手不足の中で自社の労働者に他の仕事をさせる余裕がないことや、労働者の健康面や自社のリスク管理の観点から、二の足を踏む企業が多いとみられる。

資料 3 労働者・企業における副業(・兼業)の実施状況等

もっとも、副業・兼業を希望する労働者の数は、2010年代後半にかけて緩やかに増加しており、労働者側の副業・兼業の容認への期待は高まっていると考えられる(資料4)。また、厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」においては、自社の事情を考慮しつつ、「原則、副業・兼業を認める方向とすることが適当である」とされている(注4)。

足元では、このような状況を踏まえ、政府が7月にガイドラインを改定し、企業に対して副業・兼業の許容状況及び許容の条件を自社のホームページ上などで開示することを促す方針である。企業にとっては、このような点からも副業・兼業の容認を進めていくことが求められている。

資料 4 副業(・兼業)希望者数の推移

3.副業・兼業の促進と、多様な働き方の選択肢を用意・拡充する重要性

企業において副業・兼業の容認が進むことはもちろん重要であるが、同時に制度の活用を促す取組みを進めていくことも重要であろう。

前述の内閣府のアンケートにおいて、副業・兼業に向けて準備や情報収集を行っている層が副業・兼業を行っていない理由をみると、勤務先で許可されていないことのほかにも、企業側の懸念としてもあった「本業と両立できるか不安」や「適当な副業が見つからない」などの点が挙げられている(資料5)。本業に従事する中で時間的・身体的に余裕がなかったり、自身の要望を満たすものやスキルを活かせるものが見つからないという状況では、労働者側も副業・兼業に踏み切れないというのが実情だろう。

資料 5 副業(・兼業)に向けて準備や情報収集をしている人が副業(・兼業)を行っていない理由

また、労働者が副業を実施する動機の上位3項目は、「副収入(趣味に充てる資金)を得たいから」、「現在の仕事での将来的な収入に不安があるから」、「生活するには本業の収入だけでは不十分だから」と、収入に関するものである(注5)。収入を目的とした副業・兼業は、労働者のモチベーションの向上につながると考えられる一方で、必ずしも労働者のキャリア形成やスキルアップ、成長分野への円滑な労働移動につながるとは限らない。

これらの点を踏まえると、副業・兼業を容認するだけでなく、並行して他の制度改革などにも取り組んでいく必要があるだろう。たとえば、活用を促すうえでは、テレワークなど時間と場所に捉われない働き方の推進や週休3日制の導入などを併せて検討・実施していくことが考えられる。加えて、実際に副業・兼業を行っている従業員や容認している他社の事例・ノウハウを収集・発信するなど、副業・兼業をより身近なものとしていくための取組みも必要だろう。

また、労働者の多様なキャリア形成や成長分野への円滑な労働移動の推進という観点では、企業が副業・兼業を容認する意図を明確に示すことのほかにも、人材を必要とするポストを公表し社内で応募を募るジョブポスティング制度や労働者の育成などを目的とした在籍型出向の活用など、多様な選択肢を用意・拡充していくことも重要であろう。

労働者に多様な働き方の選択肢が存在することは、人口減少下の日本において、労働力人口の維持にもつながると考えられる。労働力調査によると、労働者の離職理由で最も多いのが「より良い条件の仕事を探すため」であるほか、「結婚・出産・育児のため」や「介護・看護のため」に離職する割合も一定程度いるのが現状だ(注6)。

企業が多様な働き方の選択肢を用意・拡充していくことは、企業にとっては条件が合わず退職を検討している労働者などのつなぎ止めに寄与し、条件が合わずに会社を退職せざるを得ない労働者にとっては、退職後にも何等かの形で働ける可能性が高まることになると考えられる。これは労働者、企業、国、それぞれにとって有益なことであろう。足元で社会的な機運が高まっている中、副業・兼業の促進を含め、今後も働き方の選択肢が広がっていくことを期待したい。

【注釈】
1)各種資料において、「副業」と「兼業」の明確な区別はなされてない。
2)データは、新しい資本主義実現会議(第7回)資料1「基礎資料」P11~P13参照。
3)パーソル総合研究所「第二回 副業の実態・意識に関する定量調査」(調査時期: 2021年3月4日~8日)によると、企業の副業(・兼業)禁止理由上位10項目は以下の通り(質問では、1位~3位を選択)。禁止意向企業とは、現在副業(・兼業)を禁止しているかつ今後も禁止していく意向の企業のこと。

副業禁止理由

4)厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」では、「裁判例を踏まえれば、原則、副業・兼業を認める方向とすることが適当である。副業・兼業を禁止、一律許可制にしている企業は、副業・兼業が自社での業務に支障をもたらすものかどうかを今一度精査したうえで、そのような事情がなければ、労働時間以外の時間については、労働者の希望に応じて、原則、副業・兼業を認める方向で検討することが求められる。」と記述されている。
5)パーソル総合研究所「第二回 副業の実態・意識に関する定量調査」(調査時期: 2021年3月4日~8日)によると、副業(・兼業)者の副業(・兼業)実施動機上位10項目は以下の通り(あてはまる―あてはまらない 5段階尺度で聴取)。

副業実施動機上位10項目

6)前職の離職理由・理由別割合の推移

前職の離職理由・理由別割合の推移

【参考文献】

  • 厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(令和2年9月改定)
  • 厚生労働省 第175回労働政策審議会労働条件分科会(2022)「副業・兼業の促進に関するガイドラインの改定案について(概要)」
  • 内閣府(2021)「第4回新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」
  • 内閣府(2022)「経済財政運営と改革の基本方針2022」
  • 内閣官房(2022)新しい資本主義実現会議(第7回)「基礎資料」
  • 内閣官房(2022)「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」
  • パーソル総合研究所(2019)「副業の実態・意識調査」
  • パーソル総合研究所(2021)「第二回 副業の実態・意識に関する定量調査」
  • 経団連(2021)「副業・兼業の促進」
  • 経団連(2022)「2022年版経営労働政策特別委員会報告」
  • 総務省「平成29年度就業構造基本調査」
  • 総務省「労働力調査」
  • 奥脇 健史(2022)「コロナ禍で活用される「在籍型出向」~雇用維持 だけでなく、人材育成や職場の活性化にも効果あり~」 (https://www.dlri.co.jp/report/ld/183829.html)
株式会社 第一生命経済研究所

第一生命経済研究所は、第一生命グループの総合シンクタンクです。社名に冠する経済分野にとどまらず、金融・財政、保険・年金・社会保障から、家族・就労・消費などライフデザインに関することまで、さまざまな分野を研究領域としています。生保系シンクタンクとしての特長を生かし、長期的な視野に立って、お客さまの今と未来に寄り添う羅針盤となるよう情報発信を行っています。
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