認定看護師取得支援費用の返還請求に関する相談
当院では、看護師が認定看護師の資格取得を希望した場合(業務命令ではありません)、以下の支援を行っています。
・大学在学期間中の基本給の支給
・大学の入学金・授業料・テキスト代・家賃・交通費等の支給
(入学金・授業料は大学に直接支払し、その他は領収書により精算)
現行の規程では、「認定看護師取得後5年間の勤務」を義務付けていますが、労働基準法第16条(賠償予定の禁止)に抵触する可能性があると認識しています。
今後は、資格取得後に金額が確定した段階で、支援費用(基本給を除く)について免除特約付き消費貸借契約を締結し、返還請求が可能な仕組みにしたいと考えています。
以下の点についてご相談させてください。
・大学を途中退学した場合や試験に不合格となった場合、既に支給した費用を返還請求できるか
・領収書精算方式で逐次支給する運用(家賃など一定期間ごとの支給を含む)でも問題ないか
・事前に「途中退学や資格取得不可の場合は返還する」旨の誓約書を締結することで対応可能か
本来は本人が一旦全額を立て替え、金額確定後に消費貸借契約を締結する方法が適切と考えますが、本人の負担を考慮し、より良い運用方法を検討しています。
どうぞよろしくお願いいたします。
投稿日:2025/11/12 14:56 ID:QA-0160533
- 人事太郎2025さん
- 福岡県/医療・福祉関連(企業規模 3001~5000人)
この相談に関連するQ&A
プロフェッショナル・人事会員からの回答
プロフェッショナルからの回答
ご質問の件
業務命令でないのであれば、
金銭消費貸借契約書を作成し、締結すれば、
原則返還とし、
大学卒業、資格取得、あるいは5年間勤務した場合には、
返還を免除するといいうことはできます。
投稿日:2025/11/12 20:22 ID:QA-0160545
相談者より
ご回答ありがとうございました。
投稿日:2025/11/14 10:04 ID:QA-0160633参考になった
プロフェッショナルからの回答
お答えいたします
ご利用頂き有難うございます。
ご相談の件ですが、いわゆる労働条件としてではなく、免除特約付き消費貸借契約を締結される事で支援をされるという事であれば、原則としまして返還請求は可能ですし、領収書精算等の方法も自由に行えるものといえます。
但し、当然ですが消費貸借契約書上でそうした内容について明確に定めておかれる事が不可欠とされます。
また、誓約書については直接の法的効力は生じませんが、心理的な効果を得られる為に提出頂くという事であれば差し支えございません。
投稿日:2025/11/12 23:15 ID:QA-0160556
相談者より
ご回答ありがとうございました。
投稿日:2025/11/14 10:05 ID:QA-0160634参考になった
プロフェッショナルからの回答
ご回答申し上げます。
ご質問いただきまして、ありがとうございます。
次の通り、ご回答申し上げます。
1.基本法理:労基法第16条との関係
労働基準法第16条(賠償予定の禁止)
使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
この条文は、
「勤務年限を満たさなかった場合に自動的に違約金を徴収する」ような契約を禁止しています。そのため、たとえば次のような規定は違法となります。
「資格取得後5年以内に退職した場合は、支給した費用全額を返還すること。」
→ このような一律返還は「賠償予定」にあたり、無効となります。
(最高裁昭和36年12月13日判決・大星ビル管理事件など)
2.適法な設計方法:免除特約付き消費貸借契約方式
・仕組みの概要
「病院が貸与(貸付)」する形で支援金を支給する。
その後、一定の勤務年数を満たした場合に返還を免除する。
満たさなければ返還義務が発生する。
この方式であれば、「勤務年限を満たさなかったことによる損害賠償」ではなく、
「返済義務付き貸与金の免除条件不成就」として構成でき、労基法16条の禁止に該当しません。
・参考判例
東京地裁平成15年7月17日判決(医療法人K事件)
→ 奨学金制度を貸与契約+免除特約で運用していた事案。
返還義務は有効と判断。
福岡高裁平成19年7月25日判決(看護師育成費用返還事件)
→ 奨学金ではなく給与扱いとして支給した部分の返還請求を否定。
3.大学中退・資格不合格時の返還可否
適法に返還請求できるケース
次の条件を満たせば、返還請求は有効です。
支援金を「貸付金」として明示していること
事前に本人が書面で返還条件を明確に承諾していること
支給の名目が給与・手当でないこと(給与で支給すると返還請求は不可)
したがって、
「大学を途中退学した」「試験不合格」など資格未取得に終わった場合、
支援金が“貸付金”として支給されていれば、返還請求は可能です。
4.支給方法:逐次支給・領収書精算でも有効
逐次(毎月・毎学期ごと)に支給する方式でも、契約の本質が貸与であることが明示されていれば問題ありません。
・運用上の工夫
「総額上限〇円」「毎月上限△円を貸与」など、上限を定める。
各回の支給時に「○年○月分奨学金貸与金〇円」として明確に記録。
領収書精算方式でも、「会社負担」ではなく「立替分貸与」である旨を記載。
ただし、給与明細に「手当」「支援費」などと表示すると給与性が推認されるため、別途貸与簿・記録を作成することが重要です。
5.誓約書方式(「中退・不合格時は返還」)
誓約書だけで返還義務を発生させることも可能ですが、
「誓約書=損害賠償予定」とみなされるおそれがあります。
したがって、誓約書単独方式よりも「貸与契約+免除特約」のほうが安全です。
推奨構成
契約名称:免除特約付き消費貸借契約書
主な条項:
病院は、認定看護師養成課程修了のために必要な費用(入学金・授業料・教材費等)を「貸与」する。
看護師は、貸与金を卒業後○年勤務した場合に限り返還を免除される。
途中退学または資格取得不能の場合は、貸与金を全額返還する。
返還時期は、退学または資格取得不能が確定した日の翌月末日まで。
給与とは別建ての支給であり、給与・手当・福利厚生費としては扱わない。
6.支援費に含める項目の取扱い(給与・非給与の区別)
費用項目性質返還請求の可否入学金・授業料・教材費明確な貸与対象返還可家賃・交通費(在学中)貸与金扱いであれば返還可返還可基本給・給与労務の対価→×返還不可
基本給は「労務提供がなくても支給」された場合でも、給与性がある限り返還請求は無効です。
したがって、今後は「基本給除外」で設計されている方針が正解です。
7.より安全な運用フロー例
ステップ実務対応
(1) 支援承認時「支援承認申請書」および「貸与契約書(免除特約付き)」締結
(2) 支給時領収書精算・振込を「貸与金」と明示、台帳管理
(3) 修了後認定看護師登録完了後、「返還免除確定通知」発行
(4) 中退・不合格時「返還請求書」発行、分割返還も可(合意書で設定)
8.参考行政通達
厚労省 労基局通達(昭23.9.14基発1275号)「貸与金」は賠償予定に当たらない。
9.まとめ
論点結論・推奨対応大学中退・不合格時の返還貸与金契約であれば返還可能領収書精算方式問題なし。支給時に「貸与金」名義を明確化誓約書だけで対応不安定。必ず「消費貸借契約+免除特約」形式で給与支給分の返還不可(労基法16条に抵触)今後の運用貸与契約書・誓約書・管理簿を整備して明確化
以上です。よろしくお願いいたします。
投稿日:2025/11/13 08:16 ID:QA-0160578
相談者より
とても参考になりました。ご提案頂いた運用フローで進めたいと思います。ありがとうございました。
投稿日:2025/11/14 10:13 ID:QA-0160635大変参考になった
プロフェッショナルからの回答
回答いたします
ご質問について、回答いたします。
以下、ご認識の通りです。
|労働基準法第16条(賠償予定の禁止)に抵触する可能性があると
|認識しています。
その上で、免除特約付き消費貸借契約は、上記の問題を回避するための有効な
方法として広く認められているものとなります。
以下については、労働契約ではなく、あくまでも免除特約付き消費貸借契約
となりますので、原則可能と判断できます。
|以下の点についてご相談させてください。
|・大学を途中退学した場合や試験に不合格となった場合、既に支給した費用を
|返還請求できるか
|・領収書精算方式で逐次支給する運用(家賃など一定期間ごとの支給を含む)
|でも問題ないか
|・事前に「途中退学や資格取得不可の場合は返還する」旨の誓約書を締結する
|ことで対応可能か
但し、誓約書については、労働基準法第16条(賠償予定の禁止)との切り離し
が解釈上、難しいところも出てきますので、消費貸借契約の内容に盛り込んで
いただいた方が望ましいかと存じます。
投稿日:2025/11/13 08:32 ID:QA-0160580
相談者より
ご回答ありがとうございました。
投稿日:2025/11/14 10:13 ID:QA-0160636大変参考になった
人事会員からの回答
- オフィスみらいさん
- 大阪府/その他業種
業務命令でなければ、本来は本人が負担すべきであり、使用者が資格取得に必要な費用を貸与し、一定期間勤務すればその返還義務を免除する、という実質のものであれば労基法第16条に違反するものではございません。
大学を途中退学した場合や試験に不合格となった場合であっても、一定期間勤務するのであれば、返還は困難と思われます。
領収書精算方式で逐次支給する運用(家賃など一定期間ごとの支給を含む)でも問題はありません。
事前に「途中退学や資格取得不可の場合は返還する」旨の誓約書を締結することは可能ですが、誓約書は労働者が契約上の義務として服務上遵守しなければならない重要事項を会社が労働者に再確認させること等を目的とするものであって、法律に根拠があるわけではございませんので、そこは留意しておかれたらいいでしょう。
投稿日:2025/11/13 10:23 ID:QA-0160592
相談者より
ご回答ありがとうございました。
投稿日:2025/11/14 10:14 ID:QA-0160637大変参考になった
プロフェッショナルからの回答
対応
シンプルにいえば、お金の貸し借り契約なので、それ以外の義務などを縛ることは難しいととらえています。逆に支給方式などは自由に決めて良いと思われます。
かなり法律的専門性が必要なので、人事相談ではざっくりした人事政策としての可否面のみにし、法律面は専門家の弁護士の確認を得るべきでしょう。
目論見通りの成果が出ない可能性をふまえて、貸借契約を構成することになりますが、誓約的な文書は逆に退職縛りの証拠になるリスクも考えられます。
投稿日:2025/11/13 13:26 ID:QA-0160607
相談者より
ご回答ありがとうございました。
投稿日:2025/11/14 10:14 ID:QA-0160638参考になった
プロフェッショナルからの回答
労働基準法第16条
以下、回答いたします。
(1)労働基準法は、以下の規定により、賠償予定を禁止しています。これは、労働者が違約金や賠償予定額を支払わされることをおそれ、本意とは異なり。労働契約の継続を強いられることを防止しようとするものであると認識されます。
(賠償予定の禁止)
第十六条 使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
(2)本件に関連した裁判例として、以下の、和幸会(看護学校修学資金貸与)事件(2002年11月1日 大阪地 判決)があります。
※ 修学資金の貸与に関する契約を締結 : 修学資金は原則として返済すべきであるが、免許取得後Xの経営する病院に二年以上勤務した場合はその一部を、三年以上勤務した場合は全額を免除する、看護学校を退学した等の場合は契約解除、その場合は本件修学資金を利息ともに返還しなければならないなど。
※ 使用者が労働者に対し、修学費用等を貸与した際の、一定期間就労した場合には貸与金の返還は免除するが、そうでない場合には一括返還しなければならないとの合意は、形式的にその条項の規定の仕方からのみではなく、貸与契約の目的、趣旨等からして、
1)同契約が、本来本人が負担すべき修学費用を使用者が貸与し、ただ一定期間勤務すればその返還債務を免除するというものであれば、労働基準法16条に違反するものではないが、
2)使用者がその業務に関して技能者の養成の一環として使用者の費用で修学させ、修学後に労働者を自分のところに確保させるために一定期間の勤務を約束させるという実質を有するものであれば、同法16条に反するものと解される。
(3)本件、「大学を途中退学した場合や試験に不合格となった場合、既に支給した費用を返還請求できるか」との御相談です.
当該返還請求を可能とする場合、一般に、これは、限定的なものではありますが、上記(2)2)を強める方向で作用しうる一つの要素ではないかと考えられます。
投稿日:2025/11/14 06:38 ID:QA-0160631
相談者より
ご回答ありがとうございました。
裁判例までご紹介いただき参考になりました。
投稿日:2025/11/14 10:04 ID:QA-0160632大変参考になった
プロフェッショナルからの回答
日本の人事部Q&Aをご利用くださりありがとうございます。
さて、認定看護師取得に要する費用を病院が貸付するにあたり、労働基準法の賠償予定禁止条項に抵触せぬよう、免除特約付き金銭消費貸借契約で運用したいというお考えは賢明なご判断だと思います。
3つのご質問についても概ね問題ありませんが、制度設計にあたって留意すべき点など申し添えさせて頂きます。
1. 途中退学・不合格時の返還請求の可否
~可能です。なお返済時のトラブル防止のために、院内貸付規程を整備し、当該規程および金銭消費貸借契約書において、返済要件(返済を要する場合、償還期間、返済方法等)を具体的に明記しておくと宜しいかと存じます。
2. 逐次支給(領収書清算方式)の妥当性
~妥当です。なお貸付であることを明確にするため、領収書の但し書きには「○月分貸付金として確かに受領しました。」などの文言を明記すると良いでしょう。
3. 誓約書の有効性
~誓約書の取得はかえって労基法第16条違反の誤解を招く恐れがあるため、院内貸付規程と個々の金銭消費貸借契約書の中に、誓約条項を明記するのが無難だと思われます。
■注意事項
勤務先が従業員に無利息で金銭貸付を行い、その返済を免除した場合には、無利息部分と免除の額が従業員に対する経済的利益の供与とみなされ給与課税されます。
一方で所得税法第9条第1項第15号、所得税基本通達9-14によると、奨学金制度にもとづき貸し付けた学資金等の返済を免除した場合には、無利息部分も含めて非課税として構わないというルールがあります。
そこで税理士さんの確認のもと、貴院の奨学金制度にもとづく学資金の貸与…という建付けで人事制度を整備なさるとよろしいかと存じます。
■その他補足
ご存知とは思いますが、現在、認定看護師制度は特定行為研修へと制度移行の過渡期にあります。そして特定行為研修の受講にあたっては、雇用保険の特定一般教育訓練給付金制度を活用することで、学費の一部について助成を受けられる場合があります。
また今年10月から教育訓練休暇支援給付金制度がスタートしました。こちらの制度は認定看護師や特定行為研修を受講するために無給休暇を取得した場合に、失業保険の計算に準じた休暇給付金が支給される制度です。
これら社会保険給付も踏まえて院内の制度を設計することで、貴院および看護師さんの経済的負担を軽減できます。なお後者の制度については貴院で教育訓練休暇制度を整備すること、また休暇給付金は失業保険の先食いである点に注意が必要です。
以上となりますが、少しでも質問者様のお役に立てば幸いです。
どうぞ宜しくお願い申し上げます。
投稿日:2025/11/14 10:59 ID:QA-0160641
相談者より
ご回答ありがとうございました。
教育訓練休暇支援給付金制度までご紹介いただき大変参考になりました。
投稿日:2025/11/14 15:09 ID:QA-0160685大変参考になった
回答に記載されている情報は、念のため、各専門機関などでご確認の上、実践してください。
回答通りに実践して損害などを受けた場合も、『日本の人事部』事務局では一切の責任を負いません。
ご自身の責任により判断し、情報をご利用いただけますようお願いいたします。
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