【ヨミ】コヨウホケン 雇用保険
雇用保険とは、会社が従業員に対して掛ける保険のことで、労働保険の一種です。従業員との一定の雇用関係が成立したときから加入が必要になります。
1.雇用保険とは

雇用保険には加入義務がある
雇用保険(旧称:失業保険)は、原則として会社が従業員全員に対して掛ける義務のある保険です。条件を満たすと、会社側も従業員側も加入を拒否する権利はありません。
雇用保険の目的は、主に二つあります。一つ目は、労働者が失業、休業した場合の金銭的なサポートをするためです。失業等給付や育児休業給付と呼ばれます。二つ目は、失業の予防などの労働者の福祉を増進するためです。失業を防ぐための雇用安定、能力開発の事業を雇用保険2事業と呼びます。
雇用保険の給付内容(手当の種類)
雇用保険の全体像は、以下の図のようになっています。

出典:雇用保険制度の概要|ハローワークインターネットサービス
雇用保険には膨大な給付事業がありますが、主要なものは次の七つです。
給付事業の名称 | 概要 |
基本手当 | 条件を満たした求職活動中の求職者に支払われる手当。 |
傷病手当 | 病気やけがで就職できない求職者に、基本手当の代わりに支払われる手当。 |
特例一時金 | 短期雇用特例被保険者(季節労働者など)が失業した際に支払われる手当。 |
育児休業給付 | 育児休業中に条件を満たすと支払われる手当。 |
介護休業給付 | 介護休業中に条件を満たすと支払われる手当。 |
教育訓練給付 | 条件を満たすと教育訓練受講に支払った費用の一部が支払われる手当。 |
高年齢雇用継続給付 | 60歳以上65歳未満の労働者のうち、賃金が一定の割合に低下した場合に支払われる手当。 |
雇用保険と社会保険の違い
雇用保険と勘違いしやすいのが社会保険です。
「社会保険」とは、「健康保険」「厚生年金保険」「介護保険」「雇用保険」「労働者災害補償保険(労災保険)」の総称です。このうち、「健康保険」「厚生年金保険」「介護保険」の三つを狭義の「社会保険」、「雇用保険」「労働者災害補償保険(労災保険)」の二つを「労働保険」と呼ぶのが一般的です。この関係を図式化すると以下のようになります。
図:会社と関係が深い社会保険一覧

つまり、雇用保険は「広義の社会保険」に含まれるもので、「狭義の社会保険」とは別のものである、といえます。
参考・参照
雇用保険制度の概要|ハローワークインターネットサービス
雇用保険のしおり(令和2年9月)|愛知労働局
基本手当について|ハローワークインターネットサービス
傷病手当金について|厚生労働省
離職されたみなさまへ <特例一時金のご案内>|厚生労働省
育児休業給付の内容及び支給申請手続について|厚生労働省
介護休業給付の内容及び支給申請手続について|厚生労働省
教育訓練給付制度|厚生労働省
高年齢雇用継続給付の内容及び支給申請手続について|厚生労働省
人を雇うときのルール|厚生労働省
介護保険制度について|厚生労働省
2. 雇用保険の加入条件・範囲
続いて、雇用保険の加入条件や範囲を紹介します。厚生労働省は雇用保険の加入条件を以下のように定めています。
- 期間の定めがなく雇用される場合
- 雇用期間が31日以上である場合
- 雇用契約に更新規定があり、31日未満での雇止めの明示がない場合
- 雇用契約に更新規定はないが同様の雇用契約により雇用された労働者が31日以上雇用された実績がある場合 (注)
[(注)当初の雇入時には31日以上雇用されることが見込まれない場合であってもその後、31日以上雇用されることが見込まれることとなった場合には、その時点から雇用保険が適用されます。]
引用元:雇用保険の加入手続はきちんとなされていますか!|厚生労働省
(1)と(2)を満たす場合には、従業員は雇用保険の加入者になることが必要です。条件を満たす場合には、会社の住所を管轄するハローワークに届け出をします。従業員が雇用保険の被保険者となった月の翌月10日が締め切りです。
「適用事業所」の定義とは
続いて、雇用保険が適用される「適用事業所」について紹介します。
原則として、一人でも従業員がいる場合には雇用保険に入る必要があります。これは、「当然適用事業」と呼ばれています。ほとんどの場合、当然適用事業に当てはまるでしょう。
一方で、例外もあります。「暫定任意適用事業」と呼ばれるもので、従業員5人未満の個人経営の農林水産業などが当てはまります。暫定任意適用事業については、従業員の過半数が意思を示せば雇用保険を適用することになります。
農林水産の具体例は、以下の通りです。
- 土地の耕作若しくは開墾又は植物の栽植、栽培、採取若しくは伐採の事業その他農林の事業(いわゆる農業、林業と称せられるすべての事業)
- 動物の飼育又は水産動植物の採捕若しくは養殖の事業その他畜産、養蚕又は水産の事業
被保険者の定義とは
では、どのような従業員が雇用保険の被保険者に該当するのでしょうか。結論から言えば、以下の四つの場合が該当します。
・一般被保険者
・短期雇用特例被保険者
・日雇労働被保険者
・高年齢被保険者
一般被保険者
一般被保険者とは、「短期雇用特例被保険者」「日雇労働被保険者」「高年齢被保険者」のいずれにも当てはまらない従業員を指します。基本的には、従業員の大多数が一般被保険者です。パートやアルバイトについても一般被保険者に含まれます。
短期雇用特例被保険者
短期雇用特例被保険者とは、毎年特定の季節に雇用したり、短期間の雇用に就いたりする従業員のことを指します。なお、1年以上の雇用期間が継続した場合には一般被保険者となります。
日雇労働被保険者
30日以内の雇用期間を定めている従業員や、日ごとに雇われる従業員のことを指します。ただし、連続する2ヵ月間で18日以上雇用される場合や、31日以上連続して雇用する場合には、翌月の初日から一般被保険者や短期雇用特例被保険者になります。
参照:雇用保険のしおり 第14章 日雇労働被保険者の給付について|愛知労働局
高年齢被保険者
高年齢被保険者とは、65歳以上の被保険者のうち、短期雇用特例被保険者や日雇労働被保険者に該当しない従業員を指します。
被保険者に該当しない場合
会社に勤めていても、雇用保険の被保険者とならない場合があります。法人の取締役、家事使用人、学生、法人の代表者や個人事業主と同居する親族も被保険者には該当しません。
参照:雇用保険の被保険者の種類と要件|北海道ハローワーク
雇用保険の対象は65歳以上に拡大
雇用保険は平成29年に適用範囲の拡大があり、65歳以上も雇用保険の対象となっています。新たに適用範囲に加わった三つについて簡単に紹介します。
高年齢求職者給付金
65歳以上の労働者も雇用保険の対象となることにより定められた給付金です。離職時に受給資格を満たしていると、65歳未満の方と同様に給付金を受けられます。
人事担当者としては、以下の受給資格を押さえておくとよいでしょう。
- 離職していること
- 積極的に就職する意思があり、いつでも就職できるが仕事が見つからない状態にあること
- 離職前1年間(病気やけが等により働けない期間があった場合はその期間を加えることができることがあります)に雇用保険に加入していた期間が通算して6か月以上(賃金の支払の基礎となった日数が11日以上ある月を1か月と計算)あること
教育訓練給付金
教育訓練給付金については平成29年1月1日以降、対象が広がっています。高年齢被保険者や、高年齢被保険者(高年齢継続被保険者)として離職した翌日以降、教育訓練が開始されるまで1年以内の場合も対象です。
育児休業給付金・介護休業給付金
育児休業や介護休業給付金についても、高年齢被保険者が要件を満たせば支給の対象になります。
参考・参照
人を雇うときのルール|厚生労働省
雇用保険の加入手続はきちんとなされていますか!|厚生労働省
労働保険関係の成立と対象者|群馬労働局
雇用保険の被保険者について|厚生労働省
雇用保険の被保険者の種類と要件|北海道ハローワーク
雇用保険のしおり 第14章 日雇労働被保険者の給付について|愛知労働局
雇用保険の適用拡大等について|厚生労働省
3. 雇用保険の手続き方法・必要書類

ここでは、従業員を雇用するときや従業員が退職する際の手続き・書類について解説します。
従業員を雇用するとき
従業員を雇用する際には、会社の住所地を管轄するハローワークに、雇い入れた月の翌月10日までに「雇用保険被保険者資格取得届」を提出する必要があります。
なお、提出が万一遅れてしまった場合には、追加書類が必要になります。追加書類は以下の通りです。
・賃金台帳または給与明細
・入社時からのタイムカード など
従業員が退職するとき
従業員が転職や定年で退職する際には、退職日の翌日から10日以内に「雇用保険被保険者資格喪失届」「離職証明書」など以下の書類の提出が必要となります。こちらは遅れた場合の追加書類はありません。ただし、転職する社員の場合は書類をすぐに求められることもあるため、早めに準備をしておくことが大事です。
書類名称 | 備考 |
資格喪失届 | - |
労働者名簿 | - |
離職証明書(3枚複写式) | 「雇用保険被保険者離職票」の基となるもの。2枚目の(15)(16)は離職者の記載が必要。 |
離職前2年間のタイムカードまたは出勤簿 | - |
離職理由を客観的に確認できる書類 | 退職願・雇用契約書・解雇通知書・就業規則などが利用可能。 |
※従業員の雇用保険の主な手続き|大阪ハローワークを基に一部を加筆・修正し作成
なお、退職する従業員の「雇用保険被保険者離職票」が不要な場合、離職証明書・出勤簿・離職理由の確認書類は不要になります。とはいえ、多くの場合は離職票が必要になるので、退職が決まり次第書類の準備をしておくと安心です。
4. 雇用保険の計算方法
雇用保険には、一定の計算方法があります。また、金額については毎年変更になる可能性があるため、最新の情報を確認して計算するのがポイントです。
雇用保険料率とは
雇用保険料率は、従業員の賃金から差し引かれるものです。率については、徴収した保険料額と給付の差額や国庫負担額を基に毎年見直されます。見直しの結果、据え置かれる場合もあれば、増加・減少する場合もあるため、毎年保険料率を確認しておくことが重要です。
令和3年度の雇用保険料率は、以下のようになっています。令和2年度からの変更はなく、据え置きとなりました。

なお、最新情報は以下のサイトから確認できます。
雇用保険料率について|厚生労働省
事業主・労働者負担額の計算方法
事業主負担額については、雇用保険被保険者である従業員全員の賃金に、業種によって異なる保険料率を掛けて計算します。一般の事業の場合、事業主負担は0.6%です。もし賃金が合計1,000万円の場合、事業主負担は6万円となります。
労働者の場合には、給与の支払いや賞与の支払いがあるたびに計算します。業種ごとに0.3%から0.4%の負担が必要です。給与や賞与に率を掛けることで、負担額を計算できます。賞与で100万円の支給があった場合には、3,000円の雇用保険料を天引きすることになります。
5. 雇用保険が未加入だった場合の罰則と対応方法
では、雇用保険の対象者がいるにもかかわらず未加入だった場合には、どうなるのでしょうか。未加入の原因としては、会社側、もしくは従業員側が雇用保険に入りたくないケースが考えられます。特にパート・アルバイトの従業員は、「雇用保険の負担をしたくない」と考える場合もあるはずです。
しかし、条件を満たしているのであれば、原則として雇用保険への加入が必要です。雇用保険法第83条には、以下のような罰則規定があります。
一 第七条の規定に違反して届出をせず、又は偽りの届出をした場合
二 第七十三条の規定に違反した場合
三 第七十六条第一項の規定による命令に違反して報告をせず、若しくは偽りの報告をし、又は文書を提出せず、若しくは偽りの記載をした文書を提出した場合
四 第七十六条第三項(同条第四項において準用する場合を含む。)の規定に違反して証明書の交付を拒んだ場合
五 第七十九条第一項の規定による当該職員の質問に対して答弁をせず、若しくは偽りの陳述をし、又は同項の規定による検査を拒み、妨げ、若しくは忌避した場合
引用元:雇用保険法|e-Gov法令検索
6. 雇用保険に関するよくある質問

最後に、雇用保険にまつわるよくある質問を紹介します。
従業員の住所変更時の対応
雇用保険には、住所が登録されていません。そのため、住所変更は不要です。
従業員の転勤時の対応
従業員が転勤する際、「雇用保険被保険者転勤届」の提出が必要になることがあります。会社が雇用保険適用事業所番号を複数持っており、従業員が別の番号の事業所に転勤するケースです。
この場合は、転勤日から10日以内に、転勤先の住所を管轄するハローワークに転勤届を提出します。提出は、ハローワークの窓口へ直接出向くか、電子申請で行うことも可能です。
なお、会社が雇用保険事業所番号を一つのみ所持している場合は、この手続きは不要です。
●直接ハローワークの窓口へ行く場合の手続き
被保険者についての諸手続き|徳島労働局
●雇用保険被保険者転勤届の作成・印刷
雇用保険被保険者転勤届|ハローワークインターネットサービス
電子申請については、会社の住所地を管轄するハローワークにお問い合せください。
退職する従業員から離職票提出を求められた場合
離職票の発行を求められたら、雇用保険被保険者資格喪失届と離職証明書をハローワークに提出して対応します。ハローワークに提出する際の必要書類は、以下の通りです。
書類名称 | 備考 |
資格喪失届 | - |
労働者名簿 | - |
離職証明書(3枚複写式) | 「雇用保険被保険者離職票」の基となるもの。2枚目の(15)(16)は離職者の記載が必要。 |
離職前2年間のタイムカードまたは出勤簿 | - |
離職理由を客観的に確認できる書類 | 退職願・雇用契約書・解雇通知書・就業規則などが利用可能。 |
※従業員の雇用保険の手続き|大阪ハローワークを基に一部を加筆・修正し作成
参照
雇用保険被保険者転勤届|ハローワークインターネットサービス
被保険者についての諸手続き|徳島労働局
従業員の雇用保険の手続き|大阪ハローワーク