キーパーソンが語る“人と組織”

組織の壁、実力の壁、言葉の壁
――“壁”を突破し続ける思考が世界を広げる [1/3ページ]

竹内 健さん

中央大学 理工学部 電気電子情報通信工学科 教授

内外のビジネス環境が激変するなか、企業には、厳しい競争と淘汰に耐えうるサバイバル能力が何よりも求められています。強靭な組織の実現は、それを支える社員一人ひとりのたくましさや柔軟性なしにはありえません。では、そうした人材をどう育成すればいいのでしょうか――「極論すれば、人事部が過保護にしすぎないのが一番」と語るのは、東芝OBで、中央大学理工学部の竹内健先生です。半導体産業というグローバル競争の最激戦区で、ときに企業社会の慣習や制度の壁とも闘いながら走り続けてきた世界的エンジニアである竹内先生の言葉は、多くの日本人がとらわれがちな内向き志向を振り払うヒントに満ちています。


Profile
たけうち・けん●1967年、東京生まれ。東京大学 工学部物理工学科卒業、大学院工学系研究科物理工学専攻修士課程修了後、東芝に入社。スタンフォード大学でMBA、東京大学大学院工学系研究科電子工学専攻で博士を取得。2007年に東京大学 工学部電気電子工学科 准教授、2012年より現職。コンピュータシステム、新メモリデバイスの研究に従事。著書に『世界で勝負する仕事術 最先端ITに挑むエンジニアの激走記』(幻冬舎)。日経Tech-Onに「エンジニアが知っておきたいMOT」を連載中。
世界で勝負する仕事術
最先端ITに挑むエンジニアの激走記



なぜ技術者が人事部と闘ってまでMBA取得を?

―― 東芝に長く在籍され、フラッシュメモリの黎明期から技術開発の最前線で奮闘されてきた竹内先生にとって、人事部は“因縁の相手”だったそうですね。

ええ。私が会社にMBA留学を志願したとき、人事部に猛反対を受けたんですよ。でも、反対されたのも無理はないんです。当時、企業負担で留学したのにそのまま会社を辞めてしまう事例が相次いで、社会問題になっていましたから。MBA取得後に辞めた元社員と企業の間で、留学費の返還をめぐる裁判などもよく起こっていました。しかも間の悪いことに、私が留学を願い出たちょうどその時に、東芝の技術者でハーバードのMBAを取っていた方が会社を辞めて、経済誌に「日本の企業はだめだ」なんて記事を発表したものだから、人事はかなり神経質になっていたと思います。

―― いまでこそMOT(技術経営)という概念が広まりつつありますが、当時、技術者が業務に関係のないMBA取得を目指すという例は、東芝にもなかったとか。

竹内 健さん Photo

ほとんど前例がなかったので、反対されたんですよ。社内には、設計技術を学んで持ち帰る技術系の留学制度が別にありましたしね。ほとんどのエンジニアはその制度を使って留学していましたが、技術なら社内でも追求できるでしょう。でも、私は経営を学びたかった。だからMBAだったんです。技術者がどれだけ開発に心血を注いでも、マネジメントがちゃんとしていなければ、その技術は商品化までたどりつけません。フラッシュメモリの可能性を確信していたからこそ、私はただ設計開発するだけでなく、ビジネスとしても自らの手で成功させたかったんです。でも組織の論理からすると、それは越権行為。他の部署ともいろいろぶつかりました。

―― たとえば、どんなことがあったのでしょうか?

フラッシュメモリは、携帯電話やデジタルカメラ、iPodなどさまざまな電気製品に使われています。各メーカーがどんな製品をつくろうとしていて、そのためにどういう半導体を欲しがっているのか、周辺技術はどう進化しようとしているのか、業界の詳しい動向をつかむには、やはり技術者が直接出ていって、主要プレーヤーの担当者と技術面まで突っ込んだディスカッションをしたほうがいいわけです。いわゆるマーケティングですね。ところが顧客や取引先とのパイプをにぎっているのは営業など、研究所とは別の部署ですから、私が出ていくと「勝手に行くな」と怒られてしまう。権限の壁です。研究所から外へ出て、ぶつかって初めて、組織にはそういう壁があることを思い知らされました。


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