職場のモヤモヤ解決図鑑【第62回】
人事異動の具体的な業務内容とは?
人事異動の工程から配属後のフォローまで解説[前編を読む]
自分のことだけ集中したくても、そうはいかないのが社会人。昔思い描いていた理想の社会人像より、ずいぶんあくせくしてない? 働き方や人間関係に悩む皆さまに、問題解決のヒントをお送りします!
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吉田 りな(よしだ りな)
食品系の会社に勤める人事2年目の24才。主に経理・労務を担当。最近は担当を越えて人事の色々な仕事に興味が出てきた。仲間思いでたまに熱血!
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石井 直樹(いしい なおき)
人事労務や総務、経理の大ベテラン42歳。部長であり、吉田さんたちのよき理解者。
人事異動案を作成したものの、人事部長はその後の現場との調整にてこずっているようです。人事異動案の作成だけではなく、内示や新組織図の作成なども人事異動には必要な工程です。初めて目にする業務に興味を持った吉田さんとともに、人事異動を進める上で、人事部に求められる具体的な業務について見ていきます。
人事異動の業務フロー
一般的には、人事異動案に基づき、各部署との調整を行った後、異動する本人への内示、辞令の発表という手順を踏みます。
フロー1:
人事異動案をもとに各部署と折衝を行う
人事異動案の実現には、異動先と異動元、両方の部署から了承を得なければなりません。
異動先からは、求める人材要件との違いを指摘される可能性があります。異動対象となる社員に、不足しているスキルがある場合は研修を実施するなど、フォロー体制を考えておく必要があります。
異動元の部署からは、人員が減ることや、重要な人材を失うことへの不満が上がる可能性があります。現場の声を聞き、社員が抜けた後の体制を検討することが重要です。
フロー2:
異動対象の社員へ内示する
正式な辞令を発表する前に、社員本人に内示します。ここで重要なのは、「伝えるタイミング(異動までの準備期間)」と「伝え方」です。
一般的には、内示から異動まで、1ヵ月程度は準備期間があるのが望ましいと考えられます。また、確定事項として一方的に人事異動を告げるのではなく、異動の目的や社員への期待を伝えつつ、打診する形で本人の意思を確認するとよいでしょう。本人に不満が残る人事異動は、社員のモチベーションの低下や、離職につながる恐れがあります。
人事異動でトラブルを起こさないために
原則として、就業規則にのっとった工程を踏めば、人事異動に従業員の同意は必要ありません。しかし、異動までの日数が極端に少なかったり、面談での伝え方が高圧的であったりする場合、トラブルに発展する恐れがあります。
個別の労働契約で勤務地や職種が限定されている場合は、人事異動の範囲が限定されるため、異動先の選定を慎重に検討しなければなりません。さらに、「業務上の必要性がない場合」「不当な動機・目的がある場合」「労働者に著しい不利益がある場合」などの人事異動は、会社の権利濫用として無効となる可能性があります。
たとえ就業規則や労働契約に反しない人事異動であっても、職種や勤務地など、本人にとって急激な変化を伴う人事異動は、社員のキャリアやモチベーションに影響を及ぼすこともあります。
フロー3:
人事異動の辞令を発表する
辞令とは、人事異動を命じるときに交付する文書をいいます。社員から異動の承諾を得た後に、書面やメール、社内イントラネットなどで通達します。
フロー4:
異動する社員や、受け入れ先をフォローする
人事異動は、発令して終わりではありません。異動した社員が新しい環境に適応し、活躍できるように準備する必要があります。
異動する社員は、どのような不安を抱えている?
職場環境が変わることへの不安
異動する社員は、職場環境が変わることに少なからず不安を抱いています。同じ企業内とはいえ、部署やチームごとに雰囲気が違ったり、独特のルールがあったりします。人事異動によって、社員を取り囲む環境は大きく変わることになるのです。
まずは新しい職場と業務を知ることから始めなくてはなりませんが、リーダーや中堅層の社員が異動した場合、周りの社員も即戦力として期待し、基本的なフォローが見落とされてしまうことも少なくありません。教育係やメンターがいない、業務でフォローしてくれる人がいないといった場合、社員が「放っておかれているのではないか」と孤独を感じることもあります。
- 【参考】
- 組織再社会化|日本の人事部
成果へのプレッシャー
どれだけ社員のスキルや能力が高くても、異動直後から本来の実力を発揮できるわけではありません。業務や職場環境に慣れないうちから負荷が高い業務を任せたり、大きな成果を出すようプレッシャーをかけたりすると、本人に強いストレスを与えることになります。
また、新しい業務に挑戦する場合は、知識やノウハウが不足していることも多いため、研修やOJTなどの教育体制を整えるべきです。
こうした点を踏まえ、異動直後は、目標や評価基準に気を配ります。既存社員と同じ尺度で「成果が出ていない」と評価を下すと、社員のモチベーション低下につながるだけでなく、人事や上司へ不信感を生む可能性もあります。
人事部ができる、異動する社員へのフォロー
異動した社員がスムーズに職場になじみ、早期に能力を発揮するために、人事にできるフォロー施策を見ていきます。
配属前:
現場と連携し適切なフォロー体制を構築する
人事異動案が決定したら、異動先の部門と連携して、社員のフォロー体制を確認します。前任者との間で適切な引き継ぎが行われるように、新任者の経歴や職務適性などを新しい上司と共有することが大切です。また、異動した社員のメンター役を決める、社員の業務関係者とのミーティングを定期的に設けるなど、異動後にどのようなフォローをするか、上司と話しておくのもいいでしょう。
内示:
人事異動の目的を明確に伝える
人事異動の目的は、本人はもちろんのこと、新しい上司ともしっかりと共有します。その社員が適切である理由、会社として期待する成果などをしっかりと伝えます。人事部と現場で認識に齟齬がある場合、異動した社員が現場で戸惑うことになります。
配属前~配属後:
異動先で求められるスキル習得の研修を実施する
ポテンシャルに期待した人事異動など、社員の能力・スキルにやや不安がある場合、それを補うための研修を実施することもあります。社員一人ひとりの情報だけではなく、各部門で求められるスキル・知識と、そのレベルについて、人事部門が把握していることが重要です。
【まとめ】
- 人事異動を内示する際は、異動までのスケジュールや本人の要望に配慮しながら意思を確認する
- 異動した社員の不安を解消し早期活躍を図るには、フォローする人員や体制が重要
- 人事からは、必要なフォローについて現場とすり合わせを行う
本人への内示の伝え方やタイミングも重要なんですね
僕も配属当初、すごく緊張したな。年の近い吉田さんがいろいろ教えてくれて安心できました
異動後、社員がイキイキと働けるようフォローするのも人事の仕事だね
自分のことだけ集中したくても、そうはいかないのが社会人。働き方や人間関係に悩む皆さまに、問題解決のヒントをお送りします!