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【ヨミ】キャリアジリツ

キャリア自律

キャリア自律とは?

「キャリア自律」とは、企業や組織に依存するのではなく、個人が自身のキャリアについて向き合い、主体的にキャリアを開発していくこと。キャリア自律度が高い人は、自己評価や仕事の充実感が高く、新しい事業を生み出す原動力にもなるため、社員のキャリア自律支援に取り組む企業が増えています。

掲載日:2022/03/08

1. キャリア自律とは

キャリア自律(Career Self-Reliance)は、1990年代半ばにアメリカで提唱され始めた概念です。アメリカの「キャリア・アクション・センター(Career Action Center:CAC)」では、キャリア自律を「めまぐるしく変化する環境の中で、自らのキャリア構築と継続的学習に積極的に取り組む、 生涯にわたるコミットメント」 と定義しています。

キャリア自律の概念が誕生した1980年代、アメリカでは経済不況からリストラが行われ、雇用が流動化。CACの本拠地があるシリコンバレーでは、1990年代で正社員は全体の3分の1程度に過ぎず、残りはフリーランスやパートタイムといった雇用形態でした。このような環境下では、組織に依存するのではなく、自己責任で自身のキャリアを構築していく必要がありました。

キャリア自律が従来のキャリア開発論と大きく異なるのは、新しい気付きや自己変容に焦点を置いている点です。それまで重視されていたのは、自分自身のこれまでの経験によって「自分はどういう人間なのか」を理解する自己概念の確立や、いまの自分にマッチする仕事を見つけることでした。自分を正しく理解することは重要である反面、変化への対応力にはあまり目が向けられていないため、必要以上の安定志向につながりかねない可能性がありました。

キャリア自律は、単に特定の分野においてスキルを高めていくことを目指すものではありません。環境が変化する中、自己概念は生涯にわたって変わりうるとの認識のもと、柔軟性を持って自分のキャリアを切り開いていく姿勢が求められています。

自律と自立の違い

「自律」と混同されやすい概念に「自立」があります。「自立」と「自律」は一般的に次のように区別されます。

●自立
他の助けを借りずに自力で物事を行う
●自律
他に強制されず自らをコントロールする

日本のキャリア論の第一人者である慶應義塾大学名誉教授の花田光世さんは、これらの言葉を「個人」と結びつけたとき、次のような違いが生じるとしています。

●自立の状態にある個人
自分の意見を持ち、自己の意見を主張できるが、個人の単なる自己主張・満足で終わってしまっている状態
●自律の状態にある個人
他者のニーズを把握し、それとの調整をはかりながら、自分自身の行動のコントロールを行い、自らを律しながら、自己実現を図ることのできる状態

花田さんは、自立の状態にある個人はいまの自分の意見に満足しているため、わざわざ労力をかけてまで自己概念を変容させようとはせず、むしろ変化や長期的な視点から目をそらしてしまう傾向があると言います。他者もまた自分の意見を持つ存在ですが、自立の状態で満足している以上、自己と他者の自己実現の両立に向けた理解や行動には至りません。

いま社会から求められているのは、自律の状態にある個人です。真のキャリア自律とは、自分自身のキャリアビジョンをしっかりと持ち、長期的な視点から自分のキャリアを構築することです。チャレンジの気持ちを持ちながら、自己啓発を日々行うことが必要です。

2. キャリア自律が求められている背景

キャリア自律の必要性を感じている企業は多数にのぼります。厚生労働省の2020年度「能力開発基本調査」によると、労働者の自己啓発に対する支援を行っている事業所は79.5%。また、キャリアカウンセリングを実施している事業所は38.1%でした。

正社員にキャリアカウンセリングを行う目的について、最も割合が高かったのは「労働者の自己啓発を促すため」で、71.1%という結果でした。以下、「職場の活性化」(69.1%)、「的確な人事管理制度の運用」(53.8%)と続きます。

これまでの人材開発は、組織があるべき人物像を定義し、明確な道筋のもとに企業主体で行われてきました。個人は会社の求めに応じて働くことで、勤続年数に応じたステップアップと終身雇用が約束されていました。

終身雇用制度が終焉を迎えた現在、個人と企業、社会をとりまく制度や価値観が変化してきています。

終身雇用や年功序列に対する考え方の変化

1990年代の日本は経営破綻やリストラが相次ぎ、右肩上がりの経済成長を前提にした「一つの企業に入社すれば定年まで安泰」という認識が崩壊。成果主義を導入する企業が増加し、勤続年数の長さが上位ポストの獲得につながらないケースも出てきました。

人生100年時代による就労の長期化

2021年、改正高年齢者雇用安定法が施行され、企業に65歳までの雇用義務、70歳までの雇用機会確保の努力義務が課されました。遠くない将来、70歳までの雇用が義務化されるとみる専門家も少なくありません。

役職定年やいったん60歳で定年を迎えた際、賃金が下がったり仕事内容が変わったりすることで、社員のモチベーションが大きく下がることがあります。シニアのモチベーションを低下させず、一人ひとりスキルや状況にあわせていきいきと活躍してもらうためには、個人と組織のマインドチェンジが必要となります。

また、AIなどのテクノロジーの進化やビジネスモデルの革新により、いまある仕事が数十年後も存在しているのかを見通すことが難しくなっています。このような環境において同じ仕事を長年続けていれば、将来的に築いてきたキャリアが通用しなくなる可能性があります。そのため、新たな職務につくためのスキルを獲得する取り組みであるリスキリングの重要性が高まっています。

ジョブ型雇用の推進

高度経済成長期以降、日本では長らくメンバーシップ型雇用が取り入れられてきました。しかし、1990年代以降の労働力人口減少やグローバル化の流れの中で、生産性や専門スキルを高めるジョブ型雇用が注目されるようになりました。

日本経済団体連合会(経団連)は2022年、「ジョブ型雇用の導入・活用の検討が必要」との方針を打ち出しています。新型コロナウイルス感染症の影響からテレワークや在宅勤務制度を導入する企業が増え、仕事の成果がわかりやすいジョブ型雇用を求める動きも出てきています。

ジョブ型雇用が広まると、個人は希望する仕事に就くため、積極的にスキルアップやリスキルに取り組まなければなりません。ジョブ型雇用は仕事を通じた「会社と個人の対等な取引」が原則となります。キャリアを会社に委ねないジョブ型雇用は、キャリア自律と親和性の高いものと言えるでしょう。

働き方の多様化による、個人の労働観の変化

国は多様な働き方を支援していますが、それはキャリアのあり方の多様化を推奨することにもつながります。業務委託や派遣といった雇用契約を結んだり、社員に副業を認めたりする企業も増えています。

今後、同じ会社に勤めていても、人によってキャリアのあり方が異なることは珍しくなくなるでしょう。また、育児や介護といった事情を抱えた社員を支援するため、会社には柔軟な制度の運用が求められています。

3. キャリア自律支援のメリット

パーソル総合研究所の調査によると、キャリア自律度の高い就業者は、自己評価やエンゲージメント、学習意欲、仕事の充実感が高く、人生満足度も高いことがわかっています。企業にとっても、このような社員が所属していることは生産性や採用などの面で大きなメリットがあります。

組織が活性化し、生産性が向上

自律的な社員は、積極的に新たな気付きやスキルを得て、自身を変化させていきます。変化のスピードが速いビジネス環境下において組織を活性化させる役割を担い、新しい事業を生み出す原動力にもなるでしょう。また、主体的に行動することは良い成果を生み出しやすく、結果として生産性の向上にもつながります。

優秀人材の採用、定着

自律的なキャリア開発は、企業と社員双方の合意のもとに取り組んでいくものです。社員は自身の能力開発を支援してくれる企業に魅力を感じ、エンゲージメントが高まります。就職活動中の学生や転職活動中の人材にとっても、成長意欲が高い人材ほど、主体的にキャリアを形成できる環境は大きなアピールポイントとなるでしょう。

慶應義塾大学教授の高橋俊介さんによると、アメリカのシリコンバレーでキャリア自律を支援している企業としていない企業とでは、支援している企業ほど人材が流出していないそうです。キャリア自律支援によって上司と部下の間に密なコミュニケーションが生まれたことで、人間関係を理由とする転職を低減させる効果があったと考えられます。

4. キャリア自律支援における企業の課題

個人にとっても組織にとってもキャリア自律が重要である一方、企業が向き合わなければならない課題もあります。

帰属意識の低下

自律的なキャリア形成を推進することは、社員に社内だけではなく社外を含めた自身のキャリアの可能性を模索させることにつながります。その結果、組織への帰属意識が低下し、離職・転職につながるおそれがあります。

ただし、過去の研究では、企業がキャリア開発支援を行うことで仕事への満足度が高まるとの結果が示されています。これにより、転職意向よりも現職への残留意向が高まることもわかっています。

企業の体制整備

自律的なキャリア形成を図る社員は、自身のスキルを適切に発揮できる場を求めます。しかし、メンバーシップ型雇用が主流の日本企業では、社員が発揮したいスキルを適切に発揮できるポジションがあるとは限りません。個人が自律的なキャリア形成を進めるためには、企業が体制を整備する必要があります。

キャリア自律を促進する企業とそうでない企業を比べると、社員自身の意向を反映した配置や所属部署の枠を超えた業務経験の提供に力を入れている割合の差が、2倍以上になっているという研究データもあります。

温度差のある社員への対応

キャリア自律を社員に呼びかけても、すべての社員が同じように反応するとは限りません。それでも、一部の自律意識の高い社員が自律的なキャリアを形成するのでは不十分です。予期していなかった変化は誰にでも起こる可能性があります。その際、個人が自身のキャリアに無関心であれば、変化に流されるままになってしまうかもしれません。上昇志向が強くない社員も含めて、キャリア自律への意識を徹底する必要があります。

このように、確かに課題は存在します。しかし、課題に向き合い、正しいキャリア自律支援策を展開することは、むしろ企業にとってプラスに働きます。自律的なキャリアを模索する個人は、市場価値の高い人材と言えます。自社に市場価値の高い人材が増えれば、会社全体の市場価値も高まります。企業は人を「選ぶ」だけではなく「選ばれる」立場でもあることを認識し、何をすべきかを考える必要があるでしょう。

5. キャリア自律支援を行う上でのポイント

企業が忘れてはならないのは、キャリア自律支援は福利厚生ではなく、自社の経営に資するものだという視点です。

経済産業省は2018年、「我が国産業における人材力強化に向けた研究会」の報告書の中で、「企業・組織が成長を続け、競争力を維持・強化していくためには、多様な人材を獲得し、かつ、その一人ひとりがそれぞれに成長・活躍できる環境を整えていくことが極めて重要」とまとめています。グローバル化や少子高齢化が進み、これまでの枠組みにとらわれない組織づくりを行わざるを得ない企業において、自律的な社員の存在は欠かせません。

キャリア自律は、社員自身やその上司に頼るだけでは十分とは言えません。もともと職種別の賃金相場や資格制度が根付いている欧米諸国と、根付いていない日本とでは、そもそものキャリアのあり方が異なります。

企業が社員に「自律的なキャリアを形成してほしい」と一方的に望んでも、自律的なキャリア形成を図る社員が大幅に増えることはないでしょう。日本では欧米諸国よりも強固に会社として支援の仕組みをつくっていく必要があるのです。

セルフ・キャリアドックの考え方

効率的に支援を進めるには、厚生労働省が推進する「セルフ・キャリアドック」の考え方を知ることが有効です。パンフレット「『キャリア・セルフドック』導入の方針と展開」によると、セルフ・キャリアドックは次のように定義されます。

企業が自社の人材育成ビジョン・方針に基づき、キャリアコンサルティン グ面談と多様なキャリア研修などを組み合わせて、体系的・定期的に従業員の支援を実施し、従業員の主体的なキャリア形成を促進・支援する総合的な取組み、また、そのための企業内の「仕組み」のこと

政府は2015年、「『日本再興戦略』改訂2015」において雇用制度の改革や人材力の強化に向けた施策の一つとして「セルフ・キャリアドッグの導入・促進」を盛り込みました。2016年からはキャリア形成促進助成金の支給対象にもなっています。

パンフレットにはセルフ・キャリアドッグの標準的な実施プロセスも明記されており、「キャリア自律を支援したいが、何から進めればいいかわからない」という企業には参考になるでしょう。

セルフ・キャリアドッグの標準的な実施プロセス
  1. 人材育成ビジョン・方針の明確化
  2. (1)経営者のコミットメント
    (2)人材育成ビジョン・方針の策定
    (3)社内への周知
  3. セルフ・キャリアドック実施計画の策定
  4. (1)実施計画の策定
    (2)必要なツールの整備
    (3)プロセスの整備
  5. 企業内インフラの整備
  6. (1)責任者等の決定
    (2)社内規定の整備
    (3)キャリアコンサルタントの育成・確保
    (4)情報共有化のルール
    (5)社内の意識醸成
  7. セルフ・キャリアドックの実施
  8. (1)対象従業員向けセミナー(説明会)の実施
    (2)キャリア研修
    (3)キャリアコンサルティング面談を通した支援の実施
    (4)振り返り
  9. フォローアップ
  10. (1)セルフ・キャリアドックの結果の報告
    (2)個々の対象従業員に係るフォローアップ
    (3)組織的な改善措置の実施
    (4)セルフ・キャリアドックの継続的改善

経営者自ら、キャリア自律支援に対してのビジョンや方針を共有

社員に対して自律的なキャリア形成を促すには、経営者が先頭に立って社内に周知する必要があります。次に、あるべき自律的な人材像と自社の人材の実態のギャップを把握し、そのギャップを埋めるためのビジョンや方針を策定します。

時代や組織の変化に合わせ、従来のあるべき人材像をアップデートする必要も出てくるかもしれません。社員が「自律的なキャリアを形成している」とみなされる状態は会社によって異なるため、それぞれの会社で自社に合う人材像を定義することが求められます。

支援にあたっては、責任者を定めることも重要です。これまでは人事が担当するケースが多数を占めていましたが、人事部門に限らず、キャリアコンサルタントの有資格者をはじめ幅広いポストの中から、影響力の強い適任者を選定するとよいでしょう。

キャリアコンサルタントや相談窓口など、個人への働きかけを実施

キャリア自律に向けた個人のマインドセットを整えるためには、個人に気づきを与え、内省の機会を作ることが必要です。社内外の相談窓口やキャリアコンサルタントを活用することも有効です。

面談するタイミングは、新入社員であれば入社時研修時など、社員の年齢と属性に応じて設定すべきでしょう。上司が人事考課面談とあわせて実施する際は、キャリアへのフィードバックを日常業務へのフィードバックと分けて実施するように留意しなければなりません。

中堅、シニアなど年代・属性別にキャリア開発を実施

キャリア開発は、年齢・属性ごとに異なる支援を行うことが有効です。年齢の観点では、入社時、一定年数経過時(5 年、10 年など)、一定年齢到達時(35 歳、45 歳、55 歳など)でキャリア研修を実施し、その年代の社員が持つ課題に応じた内容を取り上げます。ベテラン・シニア人材に対しては、該当する社員の活用を経営戦略と位置づけ、スキルや経験が生かせる場をつくっていくことが求められます。

属性別では、なかなか管理職になれない中間層のケアや、育児や介護に携わっている社員に対するキャリア開発を支援していく必要があるでしょう。終了後にはフォローの場を設けることも重要です。

副業やボランティアなど外部刺激の機会を積極的に促進

副業など、外部からの刺激を受ける機会を積極的につくることも、社員の可能性を広げることにつながります。厚生労働省は「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を整備・推進しており、労務行政研究所の発表では、35.4%の企業が副業・兼業を容認しています。

副業から得られるのは、金銭的な報酬だけではありません。経験やスキル、人脈を本業に還元することも期待できます。社会貢献を目的としたパラレルキャリアやボランティア活動でも同じことが言えます。

社内で社員のスキルを伸ばすのに必要な学びの機会を十分に与えられない場合は、外部での学びの機会を提供することも必要です。あえてキャリアチェンジの機会を与え、自身のキャリアを振り替えさせるのもよいでしょう。

ジョブローテーション、社内公募制度など、人事制度による機会提供

社員の新たな能力を引き出すためには、新たな職務を経験させることも一つの手段です。計画的な職務経験と教育訓練を組み合わせながら開発する「CDP(Career Development Program)」には、下記のような制度があります。

ジョブローテーション 社員の能力開発のために、人事計画に基づいて行われる戦略的人事異動
自己申告制度 社員自身に職務の目標、遂行状況、問題点などを自己評価させ、特技、専門知識、希望職種などを申告させる制度
社内公募制度 人材を募集しているポジションを社員に公表し、社内から応募を募る仕組み
社内FA制度 社員が自らのキャリアやスキルを希望部署に売り込み、希望する職種や職務を登録

6. キャリア自律支援を促進している企業事例

効果的なキャリア自律支援のためには、社員に企業の考えを押し付けるのではなく、もともと社員の中にあったキャリアやスキルへの志向を企業がうまく引き出すことが求められます。ここでは社員の主体性を生かしたキャリア自律支援策を展開している3社の企業事例を紹介します。
(※取り組み内容、経歴は取材当時のものです)

KDDI株式会社:「KDDI版ジョブ型人事制度」

KDDIは2020年8月から、ジョブ型の長所を取り入れ、メンバーシップ型の強みも生かした「KDDI版ジョブ型人事制度」を導入しています。海外のジョブ型雇用は一人ひとりの仕事を細かく定めますが、それは決められた仕事以外はせず、評価もしないことにつながります。そこでKDDIでは、スキルを明確化し、専門性を深耕できるようなジョブディスクリプションや実力主義のグレード制を取り入れる一方、組織貢献につながる「人間力」の高さも評価することにしました。

評価については、専門分野で発揮される「テクニカルスキル」とチームワークやコミュニケーション能力といった「人間力に関連する能力」の二つに評価項目を分類しています。年功序列制度ではなくアウトプットベースで評価されるため、若手が一気に昇格する可能性もあります。大規模な制度変更に対し、特に中堅以上の社員からは戸惑いの声もありましたが、「成果だけで評価するのではなく、人間力をしっかり評価していく」と丁寧に伝えたことで、理解を得られました。

そのほか、人材育成では「自律的なキャリア形成」をテーマに掲げ、研修内容を変えました。もともとは人事が社員の研修内容を決めていたところ、それぞれが学びたい内容を考える手挙げ制に移行。オンライントレーニングのメニューも増やしました。業務時間の20%を社内副業に当てられる社内副業制度も取り入れており、2022年度以降は社外副業にも対応していく予定です。

ライオン株式会社:自律的な学びを後押しする「ライオン・キャリアビレッジ」

ライオンでは2019年1月、多様な人材創出のための新しい学びの仕組み「ライオン・キャリアビレッジ」を導入。人事部門が社員に学びを指示するのではなく、社員の学びたい意欲を支援しています。階層別、職種別に実施していたすべての研修をWebコンテンツのプラットフォームに集約し、誰でも好きな研修を視聴することができるようになりました。

プログラムは「動画を中心としたeラーニング」と「少人数討議」の大きく二つにわかれます。eラーニングでは、「共通(ビジネススキル、社内情報など)」「SCM(購買、生産、物流)」「研究技術」「マーケティング(マーケティング、営業、流通)」など複数の分野で約300の自社コンテンツと、2000以上の社外コンテンツ(2020年6月時点)を用意。スマートフォンからも見られるので、通勤時間にも活用されています。

少人数討議とは、実際に社内で起こった、あるいは起こりうる事例をテーマに議論を交わすものです。たとえば、「大地震が発生した際に被災地に商品を届ける方法」「お客さまからのクレームの対応方法」といったテーマを取り上げています。20代から60代まで幅広い年齢層の社員が参加しているため、違う世代の考え方を知る機会にもなっています。

プログラムへの参加は強制ではありませんが、対象者の70%以上が何らかのWebコンテンツを受講し、うち約20%は討議型プログラムにも参加しています。社員へのアンケートでは、「新しく学んだ知識を仕事に活用した、または活用予定」が約40%、「現時点では活用の機会はないが将来活用できそう」が約50%と、プログラムを評価する回答が多く寄せられました。

ソニー株式会社:ベテラン社員のキャリア支援「キャリア・カンバス・プログラム」

ソニーでは、ベテラン社員の割合が大きくなっていることから、ベテラン・シニア社員の活性化に向けた「キャリア・カンバス・プログラム」を展開しています。プログラムは「新しい分野への挑戦を促す」と「キャリア形成を支援する」施策にわかれています。

「新しい分野への挑戦を促す」取り組みとしては、現在の部署に籍を置いたまま、業務時間の2~3割ほどを使って、別の仕事を兼務できる「キャリアプラス」を導入。制度に関心がありそうな人や、挑戦してくれそうな人に個別に声をかけ、まず試しにやってみてもらうことからはじめ、利用のハードルを下げました。

「キャリア形成を支援する」施策としては、ベテラン・シニア世代の新たなスキル獲得や学びなおしをサポートする「Re-Creationファンド」という制度を設けています。これは、50歳以上の社員が新たなスキル獲得のために自己投資をした場合、上限10万円までの費用を会社が補助するというもの。得意分野をさらに伸ばすために利用する社員もいますが、業務に関係ないことでも認められるため、そば打ちや世界遺産検定に挑戦した社員もいます。

研修では、50~53歳を対象とした「エクスプローラー」と、57歳を対象とした「ネクストステージ」と呼ばれるワークショップ型研修を実施しています。「エクスプローラー」では自身のキャリアを考える楽しさを感じること、「ネクストステージ」では定年後を見据えたお金の計算や再雇用の検討など、将来を設計することを目的としています。研修後には、キャリアカウンセリングの国家資格を取得した社内のメンターによるフォローアップを実施し、一過性のものにならないように努めています。

7. キャリア自律を深く知る

「人事白書2021」では、キャリア開発研修を実施することで「期待した成果をあげられている」と回答した企業は6割強との結果が得られました。自律的なキャリア形成につながる取り組みが多くの企業で成果をあげる一方、4割弱の企業にとってはまだ改善の余地が残るものとなっています。

最後に、キャリア自律について、さらに知識を深めたいと思ったときに参考になる書籍や資料をまとめました。

企画・編集:『日本の人事部』編集部

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