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今さら聞けない「ジョブ型」雇用(前編)

マーサージャパン

今さら聞けない「ジョブ型」雇用

(その1)「ジョブ型」雇用とは何か?

ジョブ型の広まりと各企業の取り組み

最近よく聞く「ジョブ型」雇用とは何なのだろう? 働き方改革、デジタル人材獲得ニーズの高まり、そして新型コロナ対策、それぞれの中で「ジョブ型」雇用にしなければならない、というトーンで話がされている。「それ何?」と内心思っていても、今さら質問をするのは難しい雰囲気かもしれない。実際のところ「ジョブ型」雇用は、各人、企業によって捉え方が違い、理解度もさまざまだ。ここでは、状況を整理するために「ジョブ型」と言われる雇用の考え方や人材マネジメントの解説を行いたい。

ところで、今、雇用のあり方をジョブ型にすべき、という論調が世に出てきているのは何がきっかけなのだろうか? おそらく以下の三つの影響が大きい。

  • (1) 働き方改革の中で労働時間削減やダイバーシティ推進の障害とされた、無限定正社員という雇用形態に対比する概念としてのジョブ型雇用への注目
  • (2) デジタル人材の需要が高まることによる、職種別報酬の必要性の高まり
  • (3) 新型コロナ対応として、リモートワークの文脈におけるタスク・アウトプット管理の重要性の高まりと仕事の明確化の動き

これらの影響の中で、各企業ではさまざまな施策がなされている。例えば、下記などだ。

  • A) 仕事の内容の定義(Job Description作成)と適材適所の推進
  • B) デジタル人材の新卒の初任給の底上げ
  • C) ジョブグレードと役割給の導入
  • D) 職種体系と職種別報酬制度の導入
  • E) 職種別市場価値をベースにした従来とは違う雇用区分の導入
  • F) 裁量労働的な仕組みの導入

これらは全て、おそらく正しい問題意識に基づいているが、少々散発的で、個別の施策だけで本来望まれる変革は難しいように思える。

「ジョブ型」雇用を再定義する

「ジョブ型」の雇用というのは、従来の日本型雇用とは違う理念に基づくエコシステムだ。根幹にあるコンセプトを理解し、統合的・整合的にマネジメントシステム全体を整える必要があり、一部分のみを変えても効果は限られる。

今までの日本型雇用の根底にある、会社と社員の関係は、いわば「保護者と被保護者」だ。新卒で入社し、会社はその個人に対して一生(少なくとも長期)にわたり生活の安定を保障する。その代わり、個人は異動・転勤を含めて会社の業務命令には何でも従う、という関係だ。毎年、先輩・後輩の関係が40年分積み上げられ、年次に伴って平均的には安定的に、ただし、わずかずつ処遇が向上する。中途入社の場合も、その序列の中に組み込まれ、どこかに位置付けられていく。このような終身雇用の考え方の中では、環境や戦略が変化しても人の入れ替わりが起きにくいため、構造的に戦略と要員にギャップを生じさせやすい。

また、異動・転勤が会社裁量で、個人にとっては、自らどのような能力を伸ばしてキャリア形成をするのか、という自律的意志を持つことが難しい環境でもあり、自発的なリスキル・スキルアップが行われにくい。個人が自律的にキャリア形成をしない傾向に加え、法律・慣行的に雇用保障されており、出入りが少なく市場メカニズムが働きづらい。その結果、市場価値と実際の報酬に(高低ともに)乖離が発生しやすい。

それと比較すると、ジョブ型雇用は、「ジョブ」を通じた「会社と個人の対等な取引」が根本的な理念だ。会社の視点からすると、事業・戦略の方針により組織と必要なジョブが定義され、結果としてあるべき要員(質×量)が定まる。要員に関して、あるべき姿と現状のギャップは、要員の入れ替え(採用と代謝)、または、リスキル・スキルアップで実現する。この考え方であれば、従来と比較しビジネストランスフォーメーションは格段に行いやすい。

個人は、会社と合意した職務領域で価値を提供し、提供価値に見合った外部競争力のある報酬を受け取る。異動や転勤は本人のキャリア(将来の「売物」)に影響があるため、本人同意が必要となり、自己裁量が高まる。取引関係が対等であるため、それが生涯続く保障はなくなる一方、キャリアの自律がなされるので、社外の機会を含め、個人は将来にわたりどのようなキャリアを形成し、どのように稼ぐかを考えることになる。その結果、環境変化に対して必要なリスキル・スキルアップが自発的に行われやすくなり、会社の事業運営にも個人のエンプロイヤビリティ(雇用される力)にも良い影響が期待できる。

「会社と個人の対等な取引」を進めるエコシステム

さて、「ジョブ」を通じた「会社と個人の対等な取引」を進めるエコシステムとはどんなものだろう? 「図表:従来の日本型雇用とジョブ型雇用の比較(一部)」を参照いただきたい。

まず大事なのは、需給バランスによりジョブごとの価格が違うために、市場価値に基づいた職種別の報酬制度が必要となることだ。例えば、そのベースとなる枠組みの一例として、従来の縦方向の等級だけでなく、横方向に職種にあたるものを設定し、それぞれのマス目に対して職種別等級別に報酬水準を規定する方法があげられる。職種別に報酬が規定されるため、採用は一括採用ではなく職種別採用となり、個人は基本的にはこの職種の中でキャリアを形成する。新卒同期の間の公平性はなくなる。職種をまたがる異動や転居を伴う転勤はキャリアに大きな影響を与えるために、本人同意とする。

また、個人のキャリア形成支援の一環として、空きポジションに対しては積極的に公募を行う。会社都合の異動を原則としてなくすため、パフォーマンス管理をしっかりやった上で、退職勧奨も必要となる。仕事が明確なため、成果で評価されるのが合理的で、成果に見合ったPayを受け取れない場合や労働環境が悪い場合は転職する。その結果、時間管理による労働者保護の必要性は薄くなる。

近年、就業期間が長くなることで雇用保障という一つの会社に頼った労働者保護はリスクが高くなっていることもあり、国としては、労働者保護を雇用保障と時間管理により行うスタイルから、個々人のエンプロイヤビリティ向上や労働力の公正取引強化により行うスタイルへの転換が必要だ。セーフティネットの充実もまた重要だろう。

今回は全ての解説は行わないが、一事が万事、会社と社員の関係性が変わることによって、理念をベースに一連の施策が相互にフィットしながら変わることが求められる。会社と個人の関係が対等かつ他社と人材を取り合うならば、職種別市場価値導入は避けられない。その結果、職種別採用とならざるを得ず、ゼネラルローテーションは困難になる。ローテーションがなくなるとパフォーマンスが芳しくない社員を、仕事を変えながら“だましだまし”使うことができなくなり、退職勧奨も増えるだろう。今までのやり方を維持するには無理があるのだ。

図表:従来の日本型雇用とジョブ型雇用の比較(一部)
項目 (従来の) 日本型雇用 ジョブ型雇用
会社と社員
の関係
保護者・被保護者 対等
人材の
流動性
低い  高い
要員計画 既存社員+新卒ー定年 事業計画ベース 
採用 新卒一括+中途 職種別
配属・転勤
(キャリア) 
会社裁量 本人同意・公募中心
トップ候補のサクセション
教育 階層別中心 選抜教育、本人希望ベースの
e-Learning
(リスキル支援を含む)
報酬 内部公平性重視
貢献・年功で配分
外部競争力重視、職種別市場価値
評価 処遇決定目的中心 パフォーマンス管理・人材開発中心
退職 定年退職・自己都合退職 左記に加えて PIP*・退職勧奨あり
人事権 昇給・賞与・昇格は中央集権的に決定 中央は人件費ファンド配分を決定
昇給・賞与・昇格は現場で決定
労働者保護 雇用保障、時間管理 エンプロイヤビリティ、流動性

*Performance Improvement Plan

競争力の源は、雇用システムのトータルな変革と自律的なキャリア形成に向き合うことにある

私は、日本企業が成長力、競争力を取り戻すため、また、個人が自分のキャリアを取り戻すために、ジョブ型雇用の導入は不可欠であると考える。しかし、これを実現するためには、「バブル崩壊の余波を受け90年代後半から00年代前半にかけて流行した成果主義」「グローバル化の文脈の中で00年代中盤から後半にかけて増加したグローバルグレード導入」と違い、接木アプローチでなく、雇用のあり方そのものをトータルに変革する必要がある。

各社における覚悟と健闘を期待するとともに、立法・行政サイドとしても、「雇用保障」「不利益変更禁止」「時間管理」による労働者保護を見直し、「エンプロイヤビリティ向上」「公正な労働取引実現」による労働者保護に転換することで、実力ある労働者の増加を促していただきたい。それが最終的には、これからの時代における個人のキャリアの保護、本質的な「労働者保護」にもつながるのではないだろうか。

(その2)日本における人材マネジメント史 ~「ジョブ型」への歩み

日本における人材マネジメントの5類型と特徴

「ジョブ型」雇用の理解をさらに深めていただくため、マーサーが実施した過去の調査結果を用いながら、「ジョブ型」雇用に向かっている日本における人材マネジメントの歴史や現状を紹介したい。

マーサーは2017年度(2018年春リリース)の経済産業省の委託調査を実施した。約240社のアンケートと20社のインタビューに基づくもので、日本における統合的な人材マネジメントに関する調査としては、おそらく近年最大級のものである(*1)。

その調査で分かったことは、今日本に存在している人材マネジメントは概ね五つの類型に分類でき、それぞれの発生のタイミングや背景が違う、ということだ。
(図表:日本における人材マネジメントの類型、日本における人材マネジメント~類型ごとの特徴を参照)

図表: 日本における人材マネジメントの類型(*2)
日本における人材マネジメントの類型

*1: 平成29年度 産業経済研究委託事業:職務の明確化とそれを前提とした公正な評価手法の 導入状況に関する調査(職務・役割ベースから見る日本型人材マネジメントの課題と展望及びベストプラクティス)(受託者:マーサージャパン株式会社)
*2: *1本編P.78のチャートを加筆修正

その五つの類型とは以下のとおりである。

  • ⓪ :職能(=職能資格型
  • ①-A:内部公平性重視の役割・職務主義(=役割・職務(内部公平性重視)型
  • ①-B:バランス型の役割・職務主義(=役割・職務(内部公平性・外部競争力バランス)型
  • ②-A :グローバルでの外部競争力重視の役割・職務主義(=役割・職務(外部競争力重視)型=ジョブ型
  • ②-B:国内での外部競争力重視の役割・職務主義

※ 概ねベンチャー・中堅企業がさまざまな不利を跳ね返し優秀人材を確保するために行っている比較的ユニークな人材マネシジメント。今回は大企業を対象とした主なトレンドにつき述べているため便宜上説明から外す。

2017年に調査を実施したタイミングでは、日本企業において概ね⓪の職能が約50%、何らかの形で役割・ 職務概念が導入されている①②かが約50%であった。また、所属する産業の状況や会社のスタンスによって大きく違うが、大企業のステレオタイプな進化の流れを捉えると、職能資格型 ⇒ 役割・職務(内部重視)型 ⇒ 役割・職務(内外バランス)型であり(図上ではピンクの太い矢印の流れ)、今回のジョブ型への注目で、「役割・職務(外部重視)型」への本格的な動きが発生しつつあるのかもしれない。

図表: 日本における人材マネジメントの類型(*2)
  ⓪ 職能
職能資格型
①-A 内部公平性重視の役割・職務主義
役割・職務
(内部公平性重視)型
①-B バランス型の役割・職務主義
役割・職務
(内部公平性・外部競争力バランス)型
②-A 外部競争力重視の役割・職務主義
役割・職務
(外部競争力重視)型
=Job型
国内で普及した時期 1970年代~ 1990年代後半~ 2000年代後半~ 2010 年代後半~
背景 高度成長期の終焉 バブル経済崩壊 グローバル化 デジタル化、
働き方改革、
コロナショック
キーワード 資格と役職の分離 役割・成果主義 グローバルグレード ジョブ型
主なねらい 成長鈍化によるポスト不足への対応 年功処遇による過払いの削減 グローバルでの整合
市場価値への一部対応
外部労働市場との整合
キャリア自律
(結果、グローバル統一)
人事制度 職能資格 管理:役割・職務
一般:職能
役割・職務 職種×役割・職務
※職種別市場価値
要員計画 既存社員 – 定年退職 + 新卒 戦略・事業計画ベース
採用 新卒一括中心 新卒一括中心
+ 職種別中途
職種別採用
(新卒・中途)
配置 ゼネラルローテーション ゼネラルローテーション
サクセション
社内公募中心
サクセション
教育 OJT階層別研修 OJT、階層別研修、
選抜研修
OJT、e-Learning、
選抜研修
雇用調整 原則なし 希望退職あり 希望退職あり
退職勧奨あり

職能資格型(1970年代〜)

職能資格型のマネジメントは、1970年代に高度成⻑期が終わり、成長が鈍化しポストを確保することが難しくなった場合に資格と役職を分離することで、ポストが無くても昇格を可能とした際にスタートした仕組みだ。社員にとっては安定的・内部公平的な処遇向上を⻑年にわたり実現し、年功運用を浸透させた側面も強い。

その後、社員間であまりに差がつかないということで1980年代には評価により賞与や昇給に差をつけるケースが増え、日本型実力主義ともいわれた。日本企業の中では、現在もこの型は多く採用されており、調査時点では管理職クラスに関しても全体の半分程度が未だに職能資格だった。しかしながら、近年の制度改革において職能資格を選ぶことは非常に稀であり、その比率は徐々に減っている。

役割・職務(内部公平性重視)型(1990年代後半〜)

役割・職務(内部公平性重視)型はバブル経済崩壊後に発生した。90年代中盤は非常に景気が悪く、希望退職施策が増えたが、人員削減だけでなく、職能資格の下、年功的に上がり過ぎた給与を抑制するため、また、貢献に見合った処遇を実現するために、多くの企業で積極的に導入された。別の言い方をすると、社員の年収を年功順ではなく、その時の貢献順に近づけようという試みであった。

この仕組みは、中⻑期的に人件費を抑制し、年収の順位を貢献順に近付けるという意味で効果があった。しかし、新卒一括採用、終身(長期)雇用、ゼネラルローテーションなどの主要人事施策は変わらず、その結果、人が入れ替わらないという前提や40年の積層した先輩後輩関係がある、という状況に変化はなかった。先輩後輩の序列がある中では、能力レベルが概ね同じ場合、ポスト登用はどうしても年長者が有利になるため、ジェネレーションが若くなるほど昇格が難しく、期待できる生涯年収が低くなる、という事態を今日も招いている。

また、人材マネジメントのあり方を全体的には見直さない中で人事制度のみ接木的に変えるアプローチをとっているので、ゼネラルローテーションにより降格が発生するなどの不都合も多い。社員の不満が大きくなり、さらには骨抜きとなって事実上職能運用に回帰していく、などの問題も起こっている。なお、このカテゴリーには、役割・職務系のマネジメントを行っている非常に多くの企業が属している。

役割・職務(内部公平性・外部競争力バランス)型(2000年代後半〜)

役割・職務(内部公平性・外部競争力バランス)型は2000年代中盤以降、人口減少局面に入り、各日本企業が熱心にグローバル化を進める、という文脈の中で生まれた。この頃になると、グローバル人材を始めとして日本企業における中途採用も徐々に増えており、日本企業の給与水準と外部労働市場のギャップが問題として捉えられたタイミングでもある。

この型の主な施策はグローバルグレードを導入し、グローバルで共通の人材マネジメント基盤を揃えていく、ということであるが多くの場合、最も大きな問題になるのは日本だった。職能資格の場合は、役割・職務型に切り替える必要があり、既に役割・職務(内部重視)型の企業にとっては、グローバルグレードとの整合をとるための再整理を行う必要があった。加えて、中途採用をしやすくするように「新たに雇用区分を設ける」「格付けや報酬決定の特別措置を設定する」などの工夫を同時に行った企業も多い。

一方、国内の人材マネジメントを全体的に俯瞰すると、役割・職務(内部公平性重視型)と大差なく、従来の日本型マネジメントに役割・職務型の人事制度を接木した状態は解消できていない、ともいえる。なお、大企業で先進的な人材マネジメントを行っている企業群は、このカテゴリーに所属していることが多いが、相対的にはその数は限られている。

役割・職務(外部競争力重視)型=Job型(2010年代後半〜)

役割・職務(外部競争力重視)型、すなわち今の言葉でいうジョブ型は、3年前の調査当時は、ほぼ外資系にしか見当たらず、日本企業に関しては、規模があまり大きくないが先端的な経営をしているグローバル企業数社に限定されていた(ただし、例外的に証券会社のフロント部門だけは一部ジョブ型が導入されていることは多い)。

外部競争力を重視すると職種別市場価値となり、職種別採用、ゼネラルローテーションの否定、 結果として必要となる退職勧奨、新卒同期の間での報酬格差、というようなこれまで大事にしてきた内部公平性や雇用保障という価値観にそぐわないマネジメントを行わなければならず、このハードルが日本企業にとっては相当高いため、導入が進んでいなかったのだと考えられる。ただ、デジタル人材の必要性や若年者の労働流動性が非常に高まり、調査後のこの3年間、徐々に潮目が変わっていることを感じる。

日本型人材マネジメントの変革に向けた「ジョブ型」雇用の新たなシナリオ

マーサーは、外部労働市場のデータを持つコンサルティング会社としては日本国内で最大規模を誇り、人事領域を専門とするコンサルティングスタッフは競合の数倍在籍している。また、ジョブ型の導入に関しては、2015年頃からその促進を官庁に働きかけていたこともあり、国内で大企業に対するジョブ型への改革を支援させていただいているケースは最も多いのではないだろうか。

特にこの2年、まずは一国二制度、ないしは出島の形式でジョブ型のマネジメントシステムの導入を業界トップクラスの企業に対して支援するケースが増えている。やはり、数千人から万人以上の新卒からのプロパー社員をジョブ型に移行させるのは難しく、さりとて、外部労働市場に対して開かれた仕組みが無いと人材獲得競争、ひいては、グローバル競争に負ける、という判断から行われている施策だ。

さらに最近は、新卒プロパー社員も含めて、キャリア自律を高めジョブ型に移行しようとしているケースも見られ始めている。新卒プロパー社員は、過去に会社主導でキャリア形成がされており、ジョブごとに報酬が違うことを不公平と感じやすい。そこで、長期戦にはなるが、個々の社員がキャリアを選択する機会を増やし、教育・リスキルを行い、キャリア自律をさせることと併せて、職種別の報酬に移行していく、というシナリオで動き出しているのだ。

ジョブ型へ移行するためには、日本型人材マネジメントをフルでアップデートしなければならず、厳しい挑戦となる。しかし、それを怠ると極めて相性の悪い接木となり、効果が出ないだろう。ジョブ型への移行は、環境変化、 戦略変化に則したダイナミックな組織運営・人材確保・有効活用を可能とし、日本企業が再度世界のトップクラスに返り咲くために、ぜひ取り組んでいただきたい経営課題だ。

(その3)わが社は「ジョブ型」なのか?

ここからは「ジョブ型」雇用に関して、最近よく頂戴するご相談について論じたい。具体的には、以下の二つの問いについてである。

  1. 「ジョブ型」雇用とは何か?
  2. 我が社は「ジョブ型」雇用なのか?

「ジョブ型」雇用とは何か?

まず、問1に回答する前段として、メンバーシップ型とジョブ型の雇用契約としての性質の違いについて、あらためて確認する。

図表: メンバーシップ型とジョブ型の雇用契約の相違
メンバーシップ型とジョブ型の雇用契約の相違

メンバーシップ型は社員から見ると「会社が求める異動などの業務命令には原則従う」見返りとして「雇用保障が得られる」という契約だが、ジョブ型は「予め定められたジョブの遂行について会社と個人が対等に合意する」と同時に「そのジョブの遂行に対して適切な対価が得られる」という契約だ。

ジョブ型はジョブを介した対等な市場取引を目指すものなので、遂行するジョブの変更、すなわち、異動・転勤は会社の意思だけでは決められず、会社が発案する場合は本人の同意が必要となる。

「ジョブの遂行」という役務提供の約束は予め内容が決まっているので、買い手である会社の論理だけで勝手に変えることはできない。個人の側からすると、ジョブの内容への会社側のコミットメントを得ることで、そのジョブを通じた経験蓄積が約束され、将来において同じ専門領域の更に上位のジョブへと自らをレベルアップするキャリアプランを立てることができる。

「相互に対等な市場取引を目指す」という考え方に立脚している以上、個人の側のキャリア形成という面からも、個人の選択は尊重されなければならない。また、この論理の帰結として、採用時点から職種別(最初に、お互いにコミットする領域をある程度明確にする雇用契約)である必要がある。

個人のジョブの遂行に対して対価をもらう市場取引を目指す以上、何をやっても価格は同じにはならない。個人・会社の双方が外部労働市場にアクセスする権利を持っているため、ジョブ別の市場価値に基づいた報酬を支払うことが必要となる。

もちろん、会社の側から見れば、市場取引を目指す以上、会社の視点から見て、報酬に対して提供価値が不足する場合は改善を促し、それでも改善がなされない場合、契約解消や雇用条件の見直しの希望を伝えることになる。理屈上は、PIP*を経て状況が改善されなければ退職勧奨することも起こりえる。逆に、提供価値に対して報酬・その他労働条件が不十分な場合は、個人が契約を打ち切る、すなわち別の機会を求めて退職することになるだろう。
* Performance Improvement Plan

これまでの話をまとめると、「ジョブ型」雇用の一般的要件は下記のとおりである。

「ジョブ」を通じた会社と個人の対等な市場取引の志向

  • 「ジョブを特定した採用」および「異動に関する本人の同意」
    (本人が提供する役務と会社が期待するジョブの内容に双方が同意している)
  • 市場価値ベースの報酬
    (「ジョブ」への値付けが適切である)
  • 個人にとっては外部労働市場にアクセスできるキャリアを形成できること
    会社にとってはパフォーマンスが未達の場合のPIP・退職勧奨が選択肢にあること
    (両者ともに契約の見直しができる)

我が社は「ジョブ型」雇用なのか?

最近、「ジョブ型」雇用という言葉が流行しているため、以下の二つの質問を受けることが多い。

・我が社は「ジョブ型」雇用なのか?
・我が社の改革の方向性は「ジョブ型」雇用なのか?

もちろん、個社の状況によって回答は違うのだが、ここでは典型的な事例として下記状況を想定したケーススタディを検証したい。

ケーススタディ:ある企業における人事施策の方向性

  • 今までは職能資格制度だった
  • 今後は個々の社員の責任を明確にするためにJD**を作成する
  • JDに基づき、役割等級と報酬レンジが定まり、より実力主義になる
  • 採用は中途採用も積極的に行うが、従来の新卒一括採用を継続する
  • 配置に関しては、社内公募を積極的に行うが、会社主導のローテーションは継続する
  • **Job Description

これらは、「社員の貢献に対するインセンティブを高める」「年功的に高止まりした賃金を抑制する」「社員のキャリア選択肢を広める」という意味で、一般的に合理的である可能性が高い施策群だ。また、ジョブが定義され、ジョブ概念と報酬が結びついているので「ジョブ型」雇用であると考える会社であれば、社内的には「ジョブ型」という整理もできるかもしれない。

ただ、この整理は、昨今話題になっている「ジョブ型」雇用のもともとの意味合いとは違ってしまっている。「ジョブ型」雇用は、従来の日本型雇用である「メンバーシップ型」雇用、“会社が求める異動などの業務命令には原則従う”が“雇用保障が得られる”関係への対比概念である。会社と社員が「ジョブ」を通じた相互に対等な取引関係であることで、市場メカニズムにより適切な報酬・労働条件と労働価値の交換を促すエコシステムだ。

前述のケーススタディでは、中途採用と社内公募を除き、採用、配置ともに従事するジョブの選択に本人の意思が働かず、本人のキャリア自律が実現できない、また、その結果、会社が雇用を保障する道義的な責任が発生し、減給、もしくはPIPや退職勧奨に躊躇する面が出てくる。

会社と社員は対等なパートナーでは無く、メンバーシップ型の保護者・被保護者の関係が継続している。社員にとっては、「キャリア選択の自律と自由」と「一社に頼り切らずに生きる力」を得ることが難しく、会社からすると「ビジネスモデルや戦略の変化に応じた大規模な人の入れ替えやリスキル」を期待しにくい。「ジョブ型」雇用に望む効果が得られ難いのだ。

ジョブを定義して役割等級・役割給にすれば、エコシステムとしての「ジョブ型」雇用が実現する訳ではない。人材フロー機能を含めたトータルなコーディネーションが必須である。ジョブを定義しても、会社裁量で異動を決めてしまえば、「ジョブ型」雇用のもともとの定義にある「本人同意による業務の限定」はされない。その結果、自律的キャリア形成ができず、会社と社員の関係が変わらない。

「ジョブ型」雇用の成立のためは、ジョブの定義だけでなく、個人がジョブを選び遂行に責任を持つことがポイントなのだ。上記ケーススタディは「ジョブ型」雇用というよりも、「メンバーシップ型」雇用の問題点を軽減するために「ジョブ型」雇用で良く実施される幾つかの施策を採り入れた「メンバーシップ型」雇用と考えるのが妥当だ。

各社にとっての雇用のあり方の選択とは?

私は基本的には多くの日本企業は「ジョブ型」雇用に向かうべきと考えているが、個社にとってはそれが最良の選択でないケースはある。「メンバーシップ型」雇用においては、社員間に長期リレーションが構築されるため “擦り合わせ”“習熟”“改善”の積み重ねによる業務・製品・サービスの品質が大いなる強みとなる。これが高度成長期からバブル経済までの日本経済の原動力であったことは間違いない。

一方、「ジョブ型」雇用は大きな変化に強い。人材の流出入やそれに端を発する自発的なリスキル・ケイパビリティ向上は、デジタル化、グローバル化によるビジネスモデルの変革に非常に有効だ。前者も後者もそれぞれビジネスとの整合という意味で共に重要である。

しかし、多くの企業にとって、現状は後者の重要性が相対的に高い環境へと変化している。従事する事業の性質により判断は違って然るべきだが、私が多くの日本企業が「ジョブ型」雇用に向かうべきと考える理由は、この後者の重要性の高まりである。

前述のように、昨今、多くの日本企業においてビジネスモデルの変革が必要とされているが、「既存の社員が耐えられない」「既存の社員に受け入れられない」という理由で、エコシステムとしての「ジョブ型」雇用を採用せず、「ジョブ型」雇用のいくつかの施策を「メンバーシップ型」雇用に採り入れるケースは多い。事業上、変革が必要だとしても、組織が変革に耐えられないのであれば先が無く、この考え方は十分に理解でき、正解の場合も多いだろう。

一方、この策には気を付けるべき点もある。日本企業は戦後70年以上メンバーシップ型で人事運営をしてきた。そのため、人材マネジメントの方向を決める経営者やその他メンバーそのものがメンバーシップで育ってきており、ジョブ型への移行リスクを高く捉える傾向がある。しかしながら、外資系企業や投資ファンドに買収された場合、非常に短期間でメンバーシップ型からジョブ型へのトランスフォーメーションを果たした元・日本企業は多く存在し、現在も問題なく事業を営んでいるという事実もある。つまり、日本企業の“既存社員”は「ジョブ型」雇用下でも活躍しており、トランスフォーメーションリスクはさほど高くないかもしれない。

個社にとっての「メンバーシップ型」から「ジョブ型」へのシフトは、「封建制」から「資本主義」に変わるようなパラダイムシフトだろう。受入れが難しいのは当然であり、その心理的な抵抗に寄り添わないとうまく行かない時もある。一方、巨視的に見ると、大きな挑戦ではあるが、多くの企業にとって通らねばならぬ道ではないだろうか。

(執筆者)
マーサージャパン株式会社 取締役 執行役員 組織・人事変革コンサルティング部門 日本代表
白井 正人

マーサージャパン株式会社

組織・人事、福利厚生、年金、資産運用分野でサービスを提供するグローバル・コンサルティング・ファーム。全世界約25,000名のスタッフが130ヵ国にわたるクライアント企業に対し総合的なソリューションを展開している。
https://www.mercer.co.jp/

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