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ジョブ型人事指針を読む(上)-先行20社の事例より:ジョブ型人事の基本と目的

ニッセイ基礎研究所 総合政策研究部 主任研究員 小原 一隆氏

ジョブ型人事指針を読む

要旨

8月28日に、内閣官房が「ジョブ型人事指針」を公表した。6月に公表された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2024年改訂版」には、夏に当指針を公表すると記載されており、これに沿ったものになっている。

ジョブ型人事制度は、グローバル競争力の強化やデジタルトランスフォーメーション(DX)推進等、現代の企業が直面する課題に対処するために導入されている。多くの企業が自社の戦略に応じた導入方法を採用しているが、その制度設計や導入範囲は企業ごとに特徴がある。本レポートでは、ジョブ型人事制度の基本(全体の枠組みや設計)、目的(導入の狙いと背景)について、企業事例を紹介し、ジョブ型人事の基本的な理解を提供する。

1――はじめに

8月28日に、内閣官房が「ジョブ型人事指針」を公表した 1。6月に公表された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2024年改訂版」には、夏に当指針を公表すると記載されており、これに沿ったものになっている 2

ジョブ型人事制度は、グローバル競争力の強化やデジタルトランスフォーメーション(DX)推進等、現代の企業が直面する課題に対処するために導入されている。多くの企業が自社の戦略に応じた導入方法を採用しているが、その制度設計や導入範囲は企業ごとに特徴がある。本レポートでは、ジョブ型人事制度の基本(全体の枠組みや設計)、目的(導入の狙いと背景)について、企業事例を紹介し、ジョブ型人事の基本的な理解を提供する 3

1 政府は、日本企業の競争力維持のため、ジョブ型人事の導入を進めるとしているが、今後各企業において、ジョブ型人事の導入の検討に際しての情報提供の位置づけ。20社の事例を紹介している。
2 ただし、新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023年改訂版においては、「今後年内に、職務給(ジョブ型人事)の日本企業の人材確保の上での目的、ジョブの整理・くくり方、これらに基づく人材の配置・育成・評価方法、ポスティング制度、リ・スキリングの方法、従業員のパフォーマンス改善計画(PIP)、賃金制度、労働条件変更と現行法制・判例との関係、休暇制度等について、事例を整理し、個々の企業が制度の導入を行うために参考となるよう、自由度を持ったものとする。中小・小規模企業等の導入事例も紹介する。また、ジョブ型人事(職務給)の導入を行う場合においても、順次導入、あるいは、その適用に当たっても、スキルだけでなく個々人のパフォーマンスや適格性を勘案することも、あり得ることを併せて示す。以下、いくつかの導入事例を示すが、更に多様なモデルを示すため、記述のとおり、年内に、個々の企業が具体的に参考にできるよう、事例集を、民間企業実務者を中心とした分科会で取りまとめる。」としており、8か月遅れの提示となったと言えよう。また、判例等については触れられていない。
3 本稿では特に断りのない限りジョブ型は「日本型ジョブ型」を指すものとする。

2――ジョブ型人事指針の内容

まず、指針とは何かを確認する。法令用語辞典によると、「『指針』とは、ある具体的な計画を策定し、あるいは対策を実施する等行政目的を達成しようとする場合において、準拠すべきよりどころまたは準拠すべき基本的な方向、方法を行政庁が示すこと」とされている 4。このジョブ型人事指針は、政府が目的とする日本企業のジョブ型人事導入の推進のためのよりどころ、ということといえる。だが、実態は、政府のヒアリングに応じた20社の事例集というものである。ジョブ型人事指針(以下、「指針」)においては、一口に日本企業といっても、個々の企業のおかれた状況やその経緯は千差万別であることから、自社のスタイルに合致する導入方法を検討できるように、20社のケースを挙げているものであり、何か統一された方法が示されているものではない。

20社は三位一体労働市場改革分科会に出席し、ヒアリングに対して極めて詳細に回答している。

【図表1】ジョブ型人事指針で紹介されている20社

ジョブ型人事指針の構成は下記のとおりである。

ジョブ型人事指針の構成

本レポートでは、ジョブ型人事制度の全体的な概念や導入の背景・目的に焦点を当て、基本的な理解を提供する。具体的には、ジョブ型人事指針の第1章から第3章の内容を通じて、各企業の事例をもとに、制度導入の背景や等級制度・報酬制度・評価制度といったジョブ型人事指針のエッセンスを抽出する。企業によってその取り組み方や導入経緯は区々であるが、共通する取り組みや独自性のある取り組みについて触れる。「4.人事部と各部署の権限分掌の内容」以降については、「ジョブ型人事指針を読む(下)」で取り扱うこととする。以下、内容に触れていく。

4 有斐閣「法律用語辞典」第4版

1|制度の導入目的と経営戦略上の位置づけ

(1) 制度の導入目的および (2) 経営戦略上の位置づけ

企業がジョブ型人事を導入する目的は様々だが、ひとことで言うと、環境の変化への適応である。グローバル化、DXの推進、業績の悪化、合併、退職者増加等の変化に、従前のメンバーシップ型の人事制度では立ち行かなくなったと言える。人材の最適配置と業務効率化や、従業員が自律的にキャリアを築き、変化に対応する能力を高めることが求められている。ジョブ型人事は、企業の戦略実行に必要な人材を育成し、迅速に適切な役割に配置するための枠組みを提供するとされる。

共通すること

1) グローバル化への対応
多くの企業は、グローバル市場での競争力強化を目指してジョブ型制度を導入した。国際市場での事業展開を背景に、柔軟な人材配置と職務ベースの評価・処遇が必要となっていた。例えば日立製作所等はグローバル事業拡大に伴い、従前の年功序列やメンバーシップ型の雇用制度では限界があると判断したことが背景にある。

2) 変化に対応できる組織の構築
デジタルトランスフォーメーション(DX)や技術革新等、事業環境の急速な変化に対応するため、従来の組織体制では硬直が課題となっていた。各社は変化に強い柔軟な組織を構築するため、ジョブ型を導入して社員の適切な配置や評価を行うことを目指す。富士通やKDDIは、特にこの観点から、DX推進のためにジョブ型制度を導入している。

3) 社員の自律的なキャリア形成支援
社員が自身のキャリアを主体的に描き、それに基づいたスキルアップを支援することが多くの企業での導入目的となっている。例えばアフラック生命保険や資生堂等は、従業員のキャリア自立を支援するための透明性のある評価と処遇を重視し、ジョブ型制度を導入している。

4) 経営戦略と人事戦略の連動
人事戦略は経営戦略とリンクすることが必要である。先に事業戦略を明確化し、それに対して必要な組織の設計、ポジションの定義を行い、現有人材を当てはめる。足りない場合はリ・スキリングや外部調達により、ギャップを解消する。

独自性のあること

1) 事業統合と事業転換への対応
レゾナック・ホールディングスは、昭和電工と日立化成の事業統合を景気に、事業構造を大きく転換する必要があったことで、この転換を支える柔軟な組織運営を目指してジョブ型制度へと移行した。

2) 若手の外資系転職対策
富士通は、2015年頃から、若手社員の外資系企業への転職が増加したことを契機とし、人材の吸引力やリテンションを強化し、外部労働市場で競争できる人事制度への転換を目指した。

3) 業績低迷等の危機からの脱却
過去に4期連続最終赤字を計上するといった業績低迷による危機感(ソニーグループ)や、品質問題を契機とするガバナンス改革の一環(三菱マテリアル)で、人事制度改革に取り組むことになり、ジョブ型制度の導入につながった。

まとめ
  • 大手企業はグローバル市場での競争力向上と、多様な人材を活用するためのジョブ型制度導入に動いている。多くの企業が、グローバル市場で適切な人材を迅速に配置し、事業成長を図ることを目指している。

  • 年功序列や職能資格制度が、組織の硬直化や人材の成長停滞を招いているという問題意識も、ジョブ型制度の導入動機として挙げられる。年齢や勤続年数に依存しない公平な評価を実現することで、社員のモチベーション向上やパフォーマンス向上が期待されている。

  • 社員が自律的にキャリアを形成し、自身のスキルを発揮できる環境作りも、ジョブ型制度の重要な目的となっている。企業で、社員のキャリア自律を支援する制度設計に力を入れている。

  • ジョブ型制度は経営戦略と連動する形で導入されており、特にDXや新事業開発等の分野で、柔軟な組織運営と迅速な人材配置が求められている。

2|ジョブ型人事の骨格

(1) 導入範囲

ジョブ型人事制度の導入範囲は企業ごとに異なるが、一般的にはまず管理職や専門職を対象に適用が始まり、段階的に一般社員や他の部門へと拡大されるケースが多い。全社一斉に導入する企業もあるが、これは例外的である。また、導入範囲は企業の業種や業態によっても大きく影響を受ける。

共通する取り組み

1) 段階的導入の採用
多くの企業が、全社一斉導入ではなく、まず特定の部署や職種から段階的にジョブ型を導入する方式を採用している。特に、管理職や専門職に導入し、その後一般社員や他の部門へと広げていくことが一般的である。

独自性のある取り組み

1) 全社一斉導入
パナソニック コネクトのように、特定のタイミングで全社員に一斉にジョブ型人事制度を導入した企業もある。これは、新しい組織形態や事業戦略と連動して、迅速に対応を図るための措置といえる。

2) 部門ごとの異なる導入範囲
ソニーグループのように、グループ会社ごとの業務内容や事業戦略に応じて、導入範囲を調整するアプローチを採用している企業もある。これにより、部門ごとの必要性に応じた柔軟な適用が可能となっている。

3) 「一国二制度」的運用
三菱UFJ信託銀行は、ジョブ型とメンバーシップ型を併用する「一国二制度」を採用している。アクティブファンドマネージャー等、一部の職務にはジョブ型を導入し、その他は従来のメンバーシップ型を維持。職務に応じた柔軟な制度運用を行い、キャリア自律と競争力強化を両立させている。

まとめ
  • 全社一斉導入よりも、パイロットプロジェクトを経て段階的に導入を進める企業が多数である。これにより、制度の有効性や課題を事前に確認し、柔軟に対応することができる。

  • 企業の戦略や業務内容に応じて、導入範囲を調整することが効果的である。特に、専門職や管理職から始めるアプローチが一般的である。

  • 一部企業では全社一斉導入を行っているが、これは例外的なケースである。

(2)等級制度

ここでいう等級とは、ジョブの等級である。企業内での職務や役割に応じた評価・処遇を行うための重要な仕組みである。従来の年功序列型の等級制度から、ジョブ型人事制度への移行が進む中で、各企業は職務に応じた等級を定めることで、社員のモチベーション向上と公平性の確保を目指している。これにより、社員は自らの役割や責任に基づいて評価されるため、キャリアの透明性が高まり、組織全体のパフォーマンス向上に寄与するとされている。

共通点

1) ジョブ型人事に基づく等級の明確化
多くの企業が、従来の年功序列的な等級制度から、ジョブに基づく等級制度に移行している。職務内容や役割に応じた等級を設定し、それに基づく給与体系を導入している。これにより、能力や経験に基づく公平な評価が行われるようになる。等級の個数は企業によって大きく幅がある。

2) 等級ごとの役割と責任の明示
等級ごとに明確な役割と責任を定め、社員が自らのキャリアパスを明確に意識できるようにする企業が増えている。これにより、キャリア開発の道筋が明示され、社員のモチベーション向上につながることを期待している。

3) 専門職等級の設置
KDDIでは、専門職に特化した等級制度を設け、特定のスキルを持つ社員に対してキャリアパスを提供している。これにより、管理職だけでなく、専門職としてのキャリアアップも可能としている。

4) グローバル等級制度の導入
三井化学は、グローバルに通用する等級制度を採用しており、海外拠点の社員とも統一された基準で評価を行っている。これにより、拠点間の平仄を取ることにで、グローバルな人材活用を促進している。

5) シニア社員への対応
ジョブ型人事の導入を機に役職定年の廃止や、定年後再雇用社員の等級を整備する等、シニア社員向け制度を拡充しているケースもある。

6) 職務記述書
これらの前提として、職務記述書(ジョブディスクリプション)において、職務の内容や要件を定義している。記載内容の粒度や、記載されるジョブの範囲は企業によって区々と考えられる。

独自性のある取り組み

1) 専門性の認定
ソニーグループでは、社員の専門性の認定では、専門性が異なる領域間でも統一的な判断ができるよう、技術を認定する委員会を設置している。

まとめ
  • 従来の年功序列的な等級制度から、ジョブに基づく等級制度への移行により、職務内容や役割に応じた等級を設定し、それに基づく給与体系を導入している。等級ごとに役割と責任が明確であり、キャリアパスを意識することにも寄与している。専門職についても整備がなされている。また、この前提として職務記述書を作成している。

  • 特にグローバル展開している企業では、海外拠点の社員とも一貫性のある評価制度を導入することで、国際的なキャリアパスを描くことが可能となり、グローバル人材の活用が進んでいる。

  • ジョブ型人事制度の導入を機に、シニア社員向けに役職定年廃止や、再雇用制度の整備が進められ、年齢でなく職務による処遇することを徹底する企業もある。

(3) 報酬制度

ジョブ型人事制度における報酬制度は、職務に基づく報酬体系を主流とし、企業全体に透明性と公平性を確保することが共通の目的として掲げられている。多くの企業は、市場の報酬水準を基準に、職種ごとに適切な報酬水準を設定している。

共通する取り組み

1) 市場水準に基づく報酬設定
企業は市場の変動を反映し、柔軟に報酬を調整する。レゾナック・ホールディングスやパナソニック コネクト他、多くの企業で採り入れられている。

2) シングルレートとレンジ給
同一等級のジョブにおいてはすべて同一の給与水準とするケースもあれば、一定のレンジを定めるケースもある。前者は年功的要素を排し、シンプルかつ厳格な運営に繋がり、後者は従前の職能的要素が残る一方で柔軟な運営に資するものである。

3) 成果に基づく報酬
職務の責任や成果に応じてボーナスのみならず、基本給の昇降を決定する企業もある。欧米のジョブ型においては、ジョブによって基本給は固定されており、成果に関してはボーナスや昇進等の材料になるのと異なる運用と言える。

独自性のある取り組み

1) 高度専門職への特別対応
富士通やパナソニック コネクトでは、AIやデータサイエンス等高度専門分野の人材に対して、通常の報酬体系とは異なる特別な処遇が行われている。

2) トータルリワードの導入
アフラック生命保険は、報酬に加え、福利厚生やキャリア支援等も含めた「トータルリワード」という報酬体系を導入し、社員の多面的なニーズに応えている 5

5 Total Reward. 金銭的報酬に加えて、仕事のやりがいなどの非金銭的報酬を含めた総合的な報酬により、社員の仕事への動機づけを行う考え方や報酬体系をいう。アフラック生命保険の場合、金銭的リワードとして、基本給・上期下期賞与、短期業績賞与、転勤手当、自己啓発への金銭的補助、中長期インセンティブ、従業員持ち株会、退職金等があり、非金銭的リワードとしては、企業の存在意義への共感、やりがいある仕事の提供、キャリア形成支援、安心・安全な環境の提供等を挙げている。これに伴い、報酬は市場水準の最高値には設定していない。(ジョブ型人事指針)

まとめ
  • 市場水準をベースに当該ジョブの報酬水準を設定することが、一般的である。

  • 欧米のジョブ型と異なり、成果が基本給の算定に繋がるといった、成果主義的要素や職能・年功序列的要素が併存している企業もある。

  • 高度専門職や特定のスキルを持つ人材に対しては、個別の対応を行い、専門分野の競争力を強化する企業が増えている。

  • 報酬だけでなく福利厚生やキャリア支援等多様な報酬要素を提供する企業もあり、トータルリワードの考え方を取る企業もある。

(4)評価制度

ジョブ型人事における評価は、職務ごとの重要度や難易度に基づいて評価を行うのが基本である。これにより、従来の年功序列や職能に代わり客観的、公平な評価が行われ、組織全体のモチベーション向上や効率的な人材運用が期待できるとされる。ただし、先に述べたとおり、成果主義的要素が織り込まれているケースも散見される。

共通する取り組み

1) 目標達成度と行動評価の組み合わせ
多くの企業では、業績の達成度と行動評価を組み合わせた総合的な評価が行われており、短期的な成果だけでなく長期的な成長も考慮している。

2) 透明性の確保
評価基準の公開やフィードバックの強化を通じて、公平で透明性のある評価制度を目指している企業がある。

3) グローバルな評価制度の導入
多くの企業はグローバル基準での評価制度を導入し、国内外で一貫性のある評価を実施している。これにより、国や地域に依存しない公平な評価基準が確立されている。

独自性のある取り組み

企業ごとに独自の評価制度が導入され、社員の自己挑戦やフィードバックを重視した施策が見られる。

1) 昇任チャレンジ制度
ライオンでは、社員が上位職に挑戦できる「昇任チャレンジ制度」を導入し、自己成長を促す制度を独自に展開している。

2) 目標の社内公開
社員が設定した目標を部門内で公開することにより、目標の適切さを担保し、公正な評価を目指しつつ、部門内の他の社員のモチベーション向上を期待する取り組みを行うケースがある。

3) ノーレイティング評価制度
パナソニック コネクト等では、評価記号を廃止し、定量的なフィードバックではなく対話を重視する「ノーレイティング」制度を導入することで、社員の課題や成長へのきめ細かな支援を図っている 6

6 A, B, Cといった評価記号を用いた評価や社員のランク付けを廃止する取組であり、画一的な評価記号ではなく、個々の社員ごとの目標設定やパフォーマンスに応じたフィードバックが重視される。(ジョブ型人事指針)

まとめ
  • 評価基準の公開とフィードバックの充実により、透明性の高い評価制度が普及しつつあり、社員の納得感を向上させている。

  • 成果に応じた評価制度をさらに強化し、短期的な業績だけでなく、長期的な成長や責任を重視した報酬システムへ移行しているケースもある。

3|雇用管理制度

(1)採用

採用は、企業が事業の成長や競争力強化のために、必要な人材を確保するプロセスである。ジョブ型人事制度のもとでは、職務内容や役割に応じて人材を募集し、即戦力となる専門性を持った人材をターゲットとする。これにより、従来の年功序列や新卒一括採用に頼らず、企業のニーズに即した柔軟な採用が可能となる。

共通する取り組み

1) 経験者採用の拡充
中外製薬やKDDI等では、経験者採用を大幅に拡大し、即戦力となる専門職の採用が増加し、近年は新卒採用よりも経験者採用が多くなっている。さらには、レゾナック・ホールディングスのようにCxOや組織長も外部から調達しているケースもある。

2) 新卒採用の早期配属確約
アフラックでは、新卒社員の一部に初期配属先を確約することで、早期に社員がキャリア志向に沿った職務に従事できる体制を整えている。

独自性のある取り組み

1) ジョブマッチング型のインターンシップ
富士通では、ジョブ型人事に対応した、有償の「ジョブ型インターンシップ」を実施しており、学生のジョブに対する理解促進と、具体的なキャリア形成を支援している。

2) 採用ルートの多様化
日立製作所では、経験者採用の専任チームを大幅に拡充し、リファラル採用、グループ内公募、アルムナイ採用等、採用手法の多様化に取り組んでいる。

まとめ
  • 経験者採用が新卒採用を上回るケースもあり、ジョブ型を通じ即戦力となる人材の獲得が進んでいる。

  • 新卒採用において職種別採用を実施し、採用時点で職掌を特定することで、配属後のミスマッチを防止する。

  • 外部市場からの人材登用を積極的に行い、特に専門職やCxOクラスのポジションにおいて、外部人材を重用しているケースがある。

(2)人事異動

ジョブ型人事制度を導入した企業では、社員が自律的にキャリアを形成できるような異動制度が拡充されている。ポスティング制度や社内公募制度を活用することで、社員が自らの意思でキャリアを切り開ける環境が整備されている。

共通する取り組み

1) 社内公募制度の拡充
多くの企業で、社員が自らの手を挙げて異動を希望できる仕組みが整っている。これにより、社員は自らのキャリア形成を進め、新たな挑戦に取り組むことが可能になっている。富士通、日立製作所、三菱マテリアル等で導入されており、この制度を通じて、社員のキャリア自律を促進し、新たな挑戦や成長機会を提供する。また、テルモ等は管理職の昇進にあたっても公募している。

2) 社員の自律的なキャリア形成の支援
多くの企業で、社員が異動に際して自己成長を促進できるよう、キャリア相談や1on1ミーティングを活用している。富士通やソニーグループ、三井化学等では、社員の希望や成長目標を考慮した上での異動が進められている。

独自性のある取り組み

1) 会社主導と社員希望のバランス
アフラック生命保険や資生堂等では、会社主導のジョブローテーションと社員の希望に基づく異動のバランスを取る方針が強調されている。特にアフラック生命保険では、全国の拠点における人員配置や危機管理を考慮したローテーションが実施されている。

2) 社員主導の異動
ソニーグループでは社員本人の希望に応じて異動ができるカルチャーであり、会社主導での異なる職種への異動はあまり行われず、その場合も本人の同意を得ることが基本で強制はしない運用となっている。

3) タレントマネジメントシステムの活用
ENEOSでは社員の評価、経歴、保有資格等の情報はタレントマネジメントシステムに蓄積され、人材配置にあたってはこれらの情報をもとに、最適な人材を成長分野や重要ポジションに投入している。

まとめ
  • 社内公募制度が活発に運用されており、社員が積極的に異動を希望し、キャリア形成を進める機会が増加している。

  • 管理職の昇進にあたっても社内公募制度を活用することで、社員のキャリア形成を促進している。このような制度により、社員は自発的にキャリアを切り開く意欲が高まり、企業のエンゲージメントが向上する。

  • タレントマネジメントシステムを活用し、社員のスキルや評価情報をもとに最適なポジションに人材を配置しているケースもある。これにより、成長分野や重要ポジションに適切な人材が投入され、企業の競争力が強化されている。

(3)キャリア自律支援

キャリア自律支援は、社員が主体的にキャリアを設計し、成長できる環境を整備する取り組みである。企業は、自己啓発の機会提供や、キャリア相談のサポート、社内公募制度等を導入し、社員のスキル向上や新たな挑戦を促進している。これにより、社員のモチベーション向上と企業の競争力強化を両立させることを目指している。

共通する取り組み

1) 社内公募制度の充実
多くの企業で、社員が自発的にキャリアを選択できる社内公募制度(ジョブポスティング)が整備され、社員が異なる部署や職務に挑戦する機会が提供されている。例えばテルモ、レゾナック・ホールディングス等で導入されている。これにより、社員は異なる部署や職務に挑戦する機会が提供され、キャリアの多様な可能性が広がっているとされる。

2) キャリア開発プラン
各企業でキャリア開発プランを活用し、社員が自らのキャリア目標を設定し、その達成に向けた具体的な成長計画を上司と共有する仕組みが広がっている。例えばアフラック生命保険等でみられる。この取り組みで、上司との対話を通じて能力開発を進める仕組みを整備している。

3) 1on1ミーティングによるキャリア相談の促進
定期的に1on1ミーティングを実施し、社員と上司がキャリアに関する対話を通じて、成長とキャリア形成を支援する取り組みが各企業で進んでおり、キャリア自律を促進する重要な手法として活用されている。

独自性のある取り組み

1) ベテラン社員向けキャリア再設計支援
ソニーグループは、50歳以上の社員を対象にした体験型のキャリア研修で、外部企業や地方創生支援プロジェクトでのインターンシップを通じた、新しい環境での経験を積むことを重視している。

まとめ
  • 多くの企業が社内公募制度やキャリア開発プログラムを導入し、社員が自らキャリアを選択・形成する環境を整備しているが、パーソナライズ化した支援が進んでいる企業は限られている。

  • 社内イベントやワークショップを活用し、社員のキャリア自律の促進や成長意識の向上にうつなげる企業が増えている。

  • ベテラン社員(50歳以上等)の社員のキャリア形成支援に力を入れ、今後のキャリアプランの再設計や学び直しの機会を提供することで、長期的な成長を促している。

(4)等級の変更

ジョブ型人事により、職務や職責に基づく評価制度が導入され、年功序列型の評価から脱却する企業が増えている。特に管理職層では、責任に応じた報酬等が明確化され、社員の納得感を高める取り組みがなされている。段階的な導入や経過措置を用いることで、社員への影響を抑えつつ制度移行を図っている。

共通する取り組み

1) 等級変更に伴う昇格・降格のルール化
全20社が、ジョブ型人事制度に基づき、職務に応じた等級の昇降のルールを整備している。

2) 報酬の連動と激変緩和措置
等級変更に伴い、報酬も変動するが、急激な変動を防ぐために激変緩和措置を設けている企業が多くみられる。例えば資生堂やENEOS等は、等級が下がった場合でも報酬の減額を段階的に行う等、社員への影響を緩和するための措置を実施している。

3) マネージャーの評価能力向上への取り組み
等級制度の円滑な運用には、上司やマネージャーの評価能力向上が重要とされており、各社とも1on1や評価面談を通じて、部下との対話を強化している。日立製作所では、マネージャーに対してキャリア指導に関するノウハウ集の提供等を行い、部下指導の能力向上を図っている。

4) パフォーマンス改善プログラム
パフォーマンスが一定基準を下回った社員に対して、パフォーマンス改善プログラム(PIP)を実施し、スキルや業務遂行能力の向上を目指したサポートを提供している。

独自性のある取り組み

1) 再登用の仕組み
リコー等では、降格後でも一定基準を満たせば再度登用される「再登用ルール」を整備し、キャリアの持続的な成長を支援する体制を構築している。

まとめ
  • 多くの企業で、等級変更の頻度が高まる中、報酬への負の影響を緩和する施策が広がっている。

  • マネージャーの役割強化が等級制度の円滑な運用のために不可欠であり、マネージャーの研修やフィードバックに注力している。

  • パフォーマンス改善や再登用制度が、社員の長期的なキャリア形成をサポートする一助となっている。

3――おわりに

ジョブ型人事制度は、従来の年功序列型からの脱却を目指し、企業の競争力強化と社員のキャリア自律を促進するために導入が進められている。しかし、導入経緯や範囲、評価・報酬制度の細部においては企業ごとに差が見られる。今回のレポートでは、各企業の取り組みを紹介しながら、共通する取り組みや独自の対応策を抽出した。

等級制度や報酬制度の運用についても、急激な変革ではなく段階的な移行を行うことで、社員の安心感と組織の安定性が保たれることが期待される。

欧米流のジョブ型では、当該ジョブに就く前に、ジョブを担う要件を充足しているとして評価がなされており、給与は定額であるところ、日本型のジョブ型では成果に応じて昇降給がなされるケースが散見される。ジョブ型に成果主義的要素が混入していることが特徴である。また、非管理職についてはジョブでなく職能で処遇する例も見受けられる。先行企業の中にはジョブ型導入後相応に時間が経っている場合もあるが、全体としては道半ばであると言えるだろう。

今後、ジョブ型人事制度がさらに浸透し、より多くの企業で採用されていく中で、企業が直面する新たな課題も出てくるだろう。それに伴い、制度の改良と調整が求められ、より持続可能で柔軟な人材管理の仕組みが確立されると考えられる。

次稿では、ジョブ型人事指針の第4章(人事部と部署の権限分掌の内容)と第5章(導入プロセス)に触れ、さらに各社の具体的な事例、とりわけ人事部門からの権限移譲や、導入プロセス等について確認し、ジョブ型人事制度がもたらす効果や、懸念も含めた今後の展望を考察する。

株式会社 ニッセイ基礎研究所

ニッセイ基礎研究所は、年金・介護等の社会保障、ヘルスケア、ジェロントロジー、国内外の経済・金融問題等を、中立公正な立場で基礎的かつ問題解決型の調査・研究を実施しているシンクタンクです。現在をとりまく問題を解明し、未来のあるべき姿を探求しています。
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