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キャリアショックを乗り越える「キャリア自律」とは

  • 高橋 俊介氏(慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任教授)
基調講演 [D]2021.01.05 掲載
講演写真

コロナ禍によって、キャリアショックがますます加速している。キャリアショックとは高橋氏の造語で、想定外の変化が起き、今まで積み上げてきたキャリアやキャリアイメージが短期間で崩れ去る状態を指す。今、議論すべきはメンバーシップ型やジョブ型といった雇用の形ではなく、社員が自らキャリアをつくるキャリア自律だと高橋氏は強調する。企業はどのようにして、社員のキャリア自律を推進すべきなのだろうか。

プロフィール
高橋 俊介氏( 慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任教授)
高橋 俊介 プロフィール写真

(たかはし しゅんすけ)1954年生まれ。東京大学工学部卒業、米国プリンストン大学工学部修士課程修了。日本国有鉄道(現JR)、マッキンゼー・ジャパンを経て、89年にワイアット(現タワーズワトソン)に入社、93年に同社代表取締役社長に就任する。97 年に独立し、ピープルファクターコンサルティングを設立。2000年には慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授に就任、11年より特任教授となる。主な著書に『21世紀のキャリア論』(東洋経済新報社)、『人が育つ会社をつくる』(日本経済新聞出版社)、『自分らしいキャリアのつくり方』(PHP新書)、『プロフェッショナルの働き方』(PHPビジネス新書)、『ホワイト企業』(PHP新書)など多数。


コロナ禍でキャリアショックが加速。求められるキャリア自律

高橋氏は、今、キャリアにおいて大きな変化が起きているという。コロナ禍によって、キャリアショックがますます加速しているのだ。このキャリアショックという言葉は、高橋氏が20年前に出版した本で取り上げた言葉だ。想定外の変化が起き、その結果として今まで積み上げてきたキャリア、あるいはこの先こうなると予想していたキャリアのイメージが短期間で崩れ去ってしまう状態を指す。なぜ、このような変化が起きているのか。変化の本質について、高橋氏が解説した。

「最近は、『AIにできる仕事はなくなる』と言われていますが、それはごく一部に過ぎません。テクノロジーを含む経営環境の変化がビジネスモデルの革新を求めており、そのためになくなる仕事、要件が変化する仕事、新たな仕事が多数生まれているというのが変化の本質です。そのため、雇用以上にキャリアが不安定化しています。なぜなら、こうした変化はいつどこで起こるのかがわからないので、『自分の仕事はいつなくなるのか』『どんな仕事がいつ生まれるのか』を予測できないからです」

予測不能な例を挙げると、新型コロナウイルスを始めとする感染症もそのタイプによって、ビジネスや生活への影響がまったく異なってくる。そのため、マニュアル的な事前準備はまったく機能しない。ビジネスでは、EV(電気自動車)化で内燃機関が不要になるのはいつか、CASE(コネクティッド化:通信による接続、自動運転化、シェアサービス化、電動化)の進展が企業組織をいつどう変えるか、といった予測は簡単ではない。高橋氏は、その変化について、単に内燃機関のエンジニアの仕事がなくなるだけではなく、すり合わせ型の仕事の仕方や組織が陳腐化し、組み合わせ型のオープンソーシングが重要になると語る。

加えて最近では、雇用はメンバーシップ型ではなく、ジョブ型にすべきと言われるようになっている。遠隔で仕事をしていると、相手が何をしているかわからなくなるためだが、高橋氏は「この考え方は短絡的」と指摘する。そもそもメンバーシップ型とは、役割より序列が重視される単一タテ社会帰属のジェネラリスト組織だ。役割は柔軟だが、所属が固定的で、序列が下方硬直的になりやすい。一方、ジョブ型では役割・職務が重視され、かつ固定的になる。しかし、所属や序列は柔軟でキャリアは転職が基本となる。

「アメリカで、米国公民権法対応などで進化していったジョブ型は、そもそも成果主義を前提としていませんでした。成果ではなくジョブに対して報酬を払うものです。伝統的ジョブ型の唯一の変化対応手段となるのは転職ですが、その手段では今の変化は乗り切れません。そもそもジョブ型は変化に対応しにくいのです。今求められているのは序列より役割であり、かつ役割・職務が柔軟であることが重要といえます」

一方で、メンバーシップ型は変化にも柔軟に対応できると思われているが、今のような激しい変化ではとても乗り切れないと、高橋氏はいう。

「その理由は三つあります。一つ目は、ジェネラリストでは成果が出せないビジネスモデルが増えているためです。専門性がないと勝てないモデルが増えています。人事分野もその典型ではないでしょうか。二つ目は、会社主導のジョブやキャリアチェンジによる意欲低下が起きてしまうためです。人は『あっちに行け、こっちに行け』と言われると、やる気をなくしてしまいます。三つ目は、無限定性の対価である所属の固定の崩壊です。企業はこれまで、雇用を最後まで保証するという責任を果たしてきましたが、これが崩れてきている。だから今はメンバーシップ型かジョブ型かではなく、企業はキャリア自律を推進すべきです」

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実はアメリカでも、過去にこのようにしてジョブ型を乗り越えようとしたことがある。例を挙げると、ヒューレットパッカードは以前、ノンレイオフポリシーと家族的社風をジョブ固定型の働き方と両立していた。しかし1990年代初頭のビジネスモデルなどの環境変化に対応できず、大規模な人員整理に追い込まれる。その結果を踏まえて、社員のキャリア自律を推進し、プロジェクト型の働き方と個人主導のアサインメントとスキル開発の仕組みへと移行した。

IBMは同時期に、ジョブ型等級制度を廃止し、社内認定プロフェッショナル制度を定めて、目指すキャリア人材像を明確化した。サウスウエスト航空は、ジョブ型雇用と職種別労働組合の業界でありながら、キャリア自律の推進と職種転換の促進を行った。それにより、社員の定着率の向上とビジョン求心力強化を実現している。では、日本ではどのように対応すべきなのか。

「今、日本企業に問われているのは、無限定性の強い伝統的メンバーシップ型正社員を伝統的なジョブ型雇用にして、仕事を定義し、固定化することではありません。仕事そのものをプロジェクト的に随時確認し、可視化していくことが求められています。ジョブ固定ではなく、仕事役割の可視化が重要なのです。そうすることで、フリーランスなどの外部資源も活用しやすくなります」

高橋氏は、伝統的ジョブ型雇用は、むしろ非正規限定雇用の人たちの5年越え雇用の際の正社員の受け皿といった場面で活用すべきだという。そして、一番大事なことは「タテ型社会の典型である序列昇進ではなく、個人主導の、専門性を重視したプロフェッショナル的なキャリア形成を推進する、といったキャリア自律の取り組みを会社主導で行うこと」と主張する。

「伝統的ジョブ型からキャリア自律で脱しようとした米国企業のように、日本企業も伝統的メンバーシップ型から脱出しなければいけません。そこでは、キャリア自律の推進と柔軟な役割の可視化が求められます。これからはテクノロジーを使えば、遠隔であっても、仕事の役割や進捗、プロセスの可視化がこれまで以上にやりやすくなるでしょう」

キャリア自律の経験者調査から見えてきた三つの実践ポイント

では、自分らしいキャリアを自ら切り開くキャリア自律は、どうすれば実践できるのか。高橋氏は、これまでの経験者への調査から、三つのポイントが見えてきたと語る。一つ目のポイントは、目標よりも習慣を大事にすることだ。予定通りにキャリアはつくれない。良い習慣が自分らしいキャリアへと導いていく。

「調査によれば、具体的なキャリア目標からの逆算でのキャリア自律には、相関がありませんでした。それよりも大事なのは、思考行動習慣を身につけることです。そこで役に立つ行動習慣が三つあります。一つ目は『主体的ジョブデザイン行動』です。キャリアというよりもジョブを自分でデザインしていくことです。二つ目は『ネットワーキング行動』。人間関係に対して投資をし、布石を打っていきます。三つめは『スキル開発行動』。スキルを計画的に育成していきます」

二つ目のポイントは、普遍性の高い学びを行うことだ。継続的な学びで想定外のキャリアチェンジを乗り切るには、普段からの学び方が重要になる。

「例えば物事の背景を知る、根拠を知る、何のためにやるのかを知れば、より深い学びができます。また、異なる専門分野の人と対話すると、自身の専門性を深めることができます」

三つ目のポイントは、健全な仕事観を持つことだ。仕事価値観を持つことで、想定外の変化を主体的に乗り切ることができ、自分らしいキャリアへと導ける。

「自分にとって仕事とは何なのか。仕事に対して自ら腹落ちする価値を持てていることが重要です」

では、企業側はキャリア自律推進にどう取り組むべきなのか。高橋氏はこれまで、多くの企業がキャリア自律推進に乗り出す場面を見てきた。例えば、総合電機業界の企業は、多角的な事業を展開しており、状況はどんどん変化し、働き手のジョブの変化も激しかった。また、メンタルの問題もあって、キャリア自律をベースにしなければ変革は無理という機運から実践された。

また、広告代理店では、クライアントにバリューを出すにはプロフェッショナルが必要という結論になり、自分自身に投資し、プロとしてキャリア自律を行う人材がいることが競争力の源泉になると考え、キャリア自律が実践されることになった。総合商社では、資源分野の業務を減らし、これからは生活産業に注力しようということになった。しかし、これまで一つの分野で一筋にやってきた人を他に回せない、という事態が何度も起きる。そこで企業側からも労働組合側から、キャリア自律をやらざるを得ないという結論となった。

「つまり、企業の中でのキャリアが不安定化すればするほど、企業主導でキャリア自律推進に取り組まざるを得なくなっています。特にここ1、2年は業界ごとにこうしたキャリア自律の機運が急速に高まっています」

講演写真

では、そのような企業はまず、何を行うべきなのか。やるべきことは三つある。一つ目は、企業としてのキャリア自律支援の考え方を社員に伝達することだ。会社としてキャリア自律をどう捉え、何を社員に求め、会社はどういう支援を約束すべきなのかを考える。

「キャリア自律推進とはある意味、企業と働く社員の間の相互の約束です。福利厚生ではなく、経営課題としてキャリア自律に取り組むことを、社員に伝えなければなりません」

二つ目は、個人のマインドセットへの働きかけと個の支援を行うことだ。

「個人の気づき、節目感の醸成、内省の機会をつくり、支援を必要とする人にキャリアコンサルタントなどの個別の支援を行います。企業にいながらでも専門家に相談に乗ってもらえる体制をつくらないといけません」

三つ目は、個別のキャリア形成のための多様な機会を提供することだ。主体的な学びの機会、キャリアチェンジの機会とその支援、パラレルワークや社会活動など外部の刺激の機会など、キャリア自律につながる支援を行う。

「自分に足りないスキルがわかったら、企業は外部で学べる機会を提供し、刺激を与えなければなりません。学びの公募制を行うことも、一つの方法です。社員にキャリアチェンジの機会を与え、それを学びのきっかけにする方法もあります。これら三つの手法をセットで進めることが、企業でキャリア自律を進め方の基本だと思います」

日本企業に求められるのは、社員に良い学びの習慣をつくり出せる職場

高橋氏は「日本人の学び方には大きな問題がある」と言い、企業における学び方改革の必要性を説いた。深く学ぶうえで、これから脱却すべき学び方が四つあるという。一つ目は「タテ社会」「安心社会」型の学びだ。

「日本では内部のタテ型伝承に偏り、学校に戻ろうとしない。自己啓発もせず、外で刺激を受けたり学んだりもしない。組織内でもヨコの学びが少ない。そのためにイノベーションが起きにくくなっています」

二つ目は、詰め込み型で学びの意味や面白さを軽視した学びだ。

「丸暗記型の試験対策に慣らされ、深く学ぼうとしない。学びを面白がらないし、学びの意味を考えない。そのため、学びが応用力に欠けてしまい、身に付きにくくなっています」

三つ目は、正解主義のインプット主体の学びだ。

「正解主義教育に慣らされ、インプットではなくアウトプットを重視していない。そして、自論形成の習慣が薄い。海外ではよく『日本人には知識があるが、自論を言えない』といわれます。そのため、正解のない仕事に対応できない。そもそもソリューションとはまさにそういう作業であり、正解のない仕事です」

四つ目は、「独学に慣れていない」ことからの脱却だ。

「学びが受け身であり、タテの伝承ではなく、独学とヨコの共有が不足している。そのため、ただ教えてくれるのを待つようになっています。職場の中での学びの変革を、管理職が日々行うコミュニケーションのスタイルの中で実践し、学びの変革を行っていくことが大変重要だと思います」

高橋氏は、「日本企業には、社員に良い習慣を持たせることが必要であり、そうした習慣をつくり出す職場が必要」と語る。

最後に、高橋氏はキャリア自律を経営課題として推進していくうえで大切な六つのポイントを語った。

一つ目は、各職場において自論形成とアウトプットの習慣を持たせるために、常に自論を求められる職場にしていくことだ。二つ目は、深く学ぶ習慣と考え方を伝える習慣を持つこと。深い学びを誘い、アウトプットさせるファシリテーションを行うことで、具体的な事例の分析とそこから得られる普遍的な学びの間を何度も往復。そこから得られる考え方を伝達していく。三つ目は、主体的学びである独学と学び合いの習慣を持つことだ。相互に自身の学びを伝え、共有し高め合う職場を目指す。

四つ目は、体系的先端的専門性の継続的追求の習慣を持つことだ。外での学びと内への持ち帰りを奨励する職場を目指す。五つ目は、遠隔でも信頼関係を構築し、開いた関係性資本を積極的に切り開き、関係性に投資する習慣を持つことだ。多様に開かれた人間関係を遠隔の中でも構築。そうしたスキルを一人ひとりが身につけていく。そして六つ目は、観察し傾聴し働きかける習慣を持つことだ。

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「始めに外の世界を観察して、そこで何かを言おうとする人がいればよく話を聞く。そのうえで自分なりに分析し、考えて仮説を立て、自論を持ったうえで、人に働きかけていく。こうした連鎖の中で自身も学んでいく。こうしたつながりを繰り返す習慣をぜひ身につけてほしいと思います。個人としての習慣、職場としての習慣をこれから推し進めてほしい。皆さんの社内でもぜひ、キャリア自律に取り組んでみてください」

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