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サーベイフィードバックで実現する職場づくり:60分でわかる組織開発の基本

  • 中原 淳氏(立教大学 経営学部 教授)
基調講演 [B]2020.12.21 掲載
講演写真

エンゲージメントサーベイ、パルスサーベイ、従業員調査……組織のなかには「サーベイ(組織調査)」があふれている。しかし、サーベイをいくら行っても、組織がなかなか変わらないのはなぜなのだろう。HRテクノロジーの発展によりますます注目されるサーベイを、どのように組織開発に活用すればいいのか。立教大学 経営学部 教授の中原淳氏が、現場でのサーベイフィードバックの事例を交えながら語った。

プロフィール
中原 淳氏( 立教大学 経営学部 教授)
中原 淳 プロフィール写真

(なかはら じゅん)立教大学経営学部ビジネスリーダーシッププログラム(BLP)主査、立教大学経営学部リーダーシップ研究所 副所長などを兼任。博士(人間科学)。北海道旭川市生まれ。東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院 人間科学研究科、メディア教育開発センター(現・放送大学)、米国・マサチューセッツ工科大学客員研究員、東京大学講師・准教授等をへて、2018年より現職。「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人材開発・組織開発について研究している。専門は人的資源開発論・経営学習論。単著(専門書)に『職場学習論』(東京大学出版会)、『経営学習論』(東京大学出版会)。一般書に『研修開発入門』『駆け出しマネジャーの成長戦略』『アルバイトパート採用育成入門』など、他共編著多数。


参加者の80%がサーベイを実施しているが、満足しているのは3%

「あなたの会社では、従業員調査やエンゲージメント調査、職場調査が行われていますか?」

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中原氏のこの質問に対して、オンライン視聴者の約80%が「行われている」と回答した。サーベイは、いまや主流の人事施策となっている。しかし、うまく機能しているかというと別の話だ。さらに質問は続く。

「その結果がメンバーにフィードバックされていて、対話がなされ、成果を出せていますか?」

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この質問に「快晴(実践されている!)」と答えたのは、たったの3%。「晴れ(まあまあ)」が21%、「曇り(どちらかというと厳しい)」が46%、「豪雨(察してください)」は30%だった。仕組みとして導入はされているが、なかなかうまくいっていない、というのが現状のようだ。

中原氏はここで、「組織開発」を定義した。組織開発とは、組織やチームを元気にすること。そして、その手法に組織調査(サーベイ)を用いることを「サーベイフィードバック」という。その歴史は長く、1950~60年代から存在するが、近年あらためて注目されている背景には、HRテクノロジーの浸透がある。ITによって職場の状態の見える化が容易になったこと、従業員のエンゲージメントや感情が組織の生産性に大きく影響するとわかってきたこと、エンゲージメントが数値化できるようになったことで、経営指標としても注目され、サーベイフィードバックの導入を加速させた。

しかし、サーベイの実施率が上がるにつれて、以下のようなさまざまな問題が起きている。

サーベイの実施率上昇に伴う問題

  1. データをとったはいいものの放置病
    (データは取得したが、机のなかにしまわれて終わり)
  2. 調査結果が出ても無風病
    (調査結果は、回覧かイントラに上げられて終わり。ノーアクション)
  3. ともに忖度(そんたく)して問題隠蔽病
    (数字が下がると面倒くさいので、管理職もメンバーも適当につける)
  4. データをむやみやたらに取り過ぎ病
    (高頻度でデータ取得、データが現場に返還されない)

「視聴者の方からのチャットを見ると、『耳が痛いです』というコメントも来ていますね。最近はパルスサーベイといって、脈拍のように高頻度で調査をする手法も増えています。クリック一つでデータを取れるので、次々にデータを取得できますが、現場の改善に役立っていないケースも多いようです。本日の講演では、サーベイフィードバックの理論を知ること、実務に活かすことの二つのパートに分けてお話ししていきます」

徒労感、罪の意識、怒り。組織開発には「負の感情」がつきまとう

組織開発は、大きく3ステップに分類される。(1)見える化(What?)、(2)ガチ対話(So What?)、(3)未来づくり(Now What?)という3ステップだ。サーベイフィードバックが担うのは(1)で、調査によりチームや組織の今の状態を可視化する。「サーベイ」は英語で「見渡す」という意味があるが、ブラックボックスになりやすい組織をまさに見渡すために行われる。サーベイフィードバックを正しく行えば、組織の課題を解決できる、メンバー間の関係を良好にする、コミュニケーションを円滑にする、生産性を高める、創造性を高めるなどといったメリットを享受することができる。

「特にウィズコロナ時代は、互いの顔が見えづらく、ますますブラックボックス化しやすい環境にあります。見える化しただけで、そのまま放っておくことは、組織開発とは言えません。必ずそれが現場にフィードバックされて、対話が生まれなければならない。データは現場を変えません。データに現場の人間が向き合い、対話によって意味づけられてこそ、変革が起こります。自分たちのチームや職場のことは、自分たちで決める。これが大原則です」

ミシガン大学教授のデービッド・G・バウワーらの1973年の研究によると、さまざまな組織開発の手法を比較した結果、最も効果があったのは「対話のあるサーベイフィードバック」だった。対話なくサーベイフィードバックを行っても、効果は薄い。現場が当事者意識を持ち、データを意味付けした上でアクションプランを決めることで、改善へとつながる。

そもそも「職場で対話して組織を変える」というのは、簡単なことではない。組織を変えるには「負の感情」がつきまとうからだ。

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「データを取得して、さあお願いしますと言っても、管理職は怖くてできないと思います。徒労感、罪の意識、怒り、失敗、やりきれなさ、そんな負の感情が出てくる。組織開発というのは、心理戦です。不安や自己防衛、恐れと戦わなければいけない。しかし一方で、何か良い結果につながるかもしれない、という希望もある。その心理戦を戦うためには『型』が必要です。管理職の人たちには、『型』という武器を手にしてほしいですね」

サーベイ結果について、職場で対話するための六つのステップ

次は、その“型”について。サーベイフィードバックをいかに実務に活かすのか。また、どのようにフィードバックを対話に導くか。中原氏は、サーベイを職場にかえして対話するための六つのステップを紹介した。

サーベイ結果について、職場で対話するための六つのステップ

  • (1)目的説明
    職場やチームの関係者を一堂に集めることを目指す。その上で、その会の目的、アジェンダなどを話し合う。
  • (2)グラウンドルールの提示
    各人が本音で対話ができるように、守るべきルールを設定する。
  • (3)データの提示
    なるべくシンプルに、データを提示する。見るべき部分を焦点化するなどはOK。
  • (4)データに対する解釈
    データに対して、各人が日ごろから思っていること、感じていることを言ってもらう。
  • (5)「未来」に向けた話し合い
    今、自分たちはどのような状況にあり、未来にどうありたいのかを話し合う。
  • (6)アクションプランづくり
    明日からできることを考える。具体的なアクションプランに落とし込む。

特に大切なのは、(1)(4)(6)だ。なぜなら、変革のためには「データを意味づける」ことが必要だからだ。

(1)目的説明

いきなりサーベイの結果を叩きつけるようなことをしていないか。目的が説明されていない段階で対話をしようとせず、なぜこの場を設けたのか、なぜ今このタイミングで変化が必要なのか。対話に移る前に、目的をメンバーに腹落ちしてもらう必要がある。大切なのは、ねぎらいと感謝の言葉から始めることだ。

「皆さんの日々の努力のおかげで、こんな成果が出ています。サーベイにご協力いただき、ありがとうございました。そんな言葉から始めてみてください。目的を説明したら、次はスケジュール。時間をかけてミーティングを行い、最終的にはこんな結果が出てくることを期待しています、と。『OARR(オール)を握る』と言いますが、Outcome(目的)、Agenda(スケジュール・進行)、Role(期待される役割)、Rule(その場のルール)をきちんと伝えて、同じ船に乗ってもらうようなイメージで説明しましょう」

(4)データに対する解釈

人は同じ出来事や経験をしていても、視点が異なれば、それぞれ違うものが見えてくる。しかし、人は「自分の見えているもの」を相手も見えていると思ってしまう。他者の見え方を想像できない。

そのため、この段階ではなるべく本音で語ってもらえるように場を整える。話し合いにおいて、「実は……」という言葉がたくさん出ることが理想だ。それでも率直な意見が出ない場合には、付箋に書いてそのまま読ませるという方法もいい。昨今の状況では、「Google Jamboard」というオンライン付箋ツールも使える。

(6)アクションプランづくり

アクションプランは、翌週月曜日からできること。なるべく小さく、スモールステップでなるべく早く効果を実感できるくらいのものを設定するのがよい。悪者探しをせず、改善することに焦点を当てる。そして、最初が「ねぎらい」で始まったように、最後も「ねぎらい」で終える。要するに、しっかりと目的を伝え、データを提示し、その解釈を述べ合い、今後の行動を決めていくことが大事だ。

教員の残業時間を、サーベイフィードバックにより大幅に削減

ここからは、中原氏が実際にサーベイフィードバックを用いて長時間労働の削減に貢献した事例について。横浜市の教育委員会と、中原氏が行った共同研究が紹介された。学校における組織開発の事例だが、企業でも手法はまったく同じだ。

横浜市の教員へアンケートを実施したところ、平均在校時間は11時間42分。月1日以上休日出勤している教員は78.8%、在校時間が過労死ラインをこえている教員は42.0%、健康不安がある教員は51.1%だった。78.2%が仕事にやりがいを感じているものの、この仕事を若い人に勧めたいと思うと答えたのは半数以下の34.0%だった。

横浜市のとある小学校で、中原氏との取り組み前、残業時間が月80時間を超えている教員の割合は横浜市の平均以上の23.5%だったが、取り組み後の翌月は5.9%にまで下がったという。

「学校は、皆さんが考えている以上に変革するのがとても難しい場所です。そこで、管理職の皆さんにやり方を丁寧にお伝えして、ワークショップで必要なビデオも、サーベイツールも、スクリプトも、パワーポイント資料も、すべてお渡ししました。全部の武器をお渡しした上で、実践していただきました」

前述の3ステップ((1)見える化、 (2)ガチ対話、 (3)未来づくり)をさらに細かくして、(1)見える化、(2)コアチームづくり、(3)ねぎらう・感謝する、(4)持続可能性を問う、(5)ズレを見せる、(6)手がかりを示す、(7)対話と未来づくり、(8)フォローアップというフェーズに細分化した。各フェーズでの実践内容は、次の通りだ。

(1)見える化

サーベイの質問は、質問数を30問ほどに抑える。ここでいきなり200問を超す質問をぶつけられると、始まる前から委縮してしまう。また、質問項目そのものがメッセージになるので、質問選びはしっかりと練りたい。大事なことは、ベンチマークを用意すること。「自分の職場 VS 他の職場」といったように、比較がないと自分たちの立ち位置を正しく評価できない。

(2)コアチームづくり

経営学の概念に「統制可能人数」というものがある。影響を与えられるのは、1人あたり多くても7人が限界。そのため、30人ほどの職場では、コアチームは4人ほど必要。組織規模に応じて、コアチームを作る。そして、OD(Organization Development:組織開発)する人たちのチームを、まずODする。何をゴールにし、いつまでに実現していくかを決めるのだが、コアメンバーには、現場をうまくまとめていけそうな人、若手代表、シニア代表、育児と両立している人など、意図的に多様なメンバーを割り当てる。

(3)ねぎらう・感謝する

組織開発には、ネガティブな感情がつきまとう。中原氏も教員に説明をする際、適切な言葉選びをすることに細心の注意を払ったという。

「教員の場合、時間外業務を減らすことは、子どもと向き合う時間が減るということ。児童や保護者への罪悪感やためらいのある教員が、36.6%いました。つらいけれど、子どものために何とかやってきた、自負のある先生が多い。そんな人たちのところにいきなりやってきて、『明日から2時間残業減らしてください』と言ったら、その時点でシャッターを下ろされてしまいます。とにもかくにもサーベイフィードバックは、感謝とねぎらいから始めてください」

講演写真

初めは、平均より優れている点に着目する。こんなに思いが強い、こんなに児童に時間を割いている。そのようなデータから、徐々にスパイシーなデータを差し込んでいく。

(4)持続可能性を問う

「やめましょう!」「減らしましょう!」とは言ってはいけない。本当のことを言うときこそ、慎重さが必要だ。「変えましょう」と言う代わりに、「良いところを、さらに持続可能にするために」というロジックで、改善の方向性へ導く。

「先生方に一番ささったのは、この項目でした。『自分の授業の振り返りの時間が十分確保できている』『自動の状況を評価する時間が十分確保できている』という項目が、どちらも平均より半分以上低かったのです。ビジネスに置き換えると、今のビジネスには注力できているけれど、新規事業や自己革新には注力できていないということです」

(5)ズレを出す

良いことの持続可能性を問うた後には、ちょっとした亀裂を示す。いつも一緒に働いている人たちは、自分と同じ価値観を持っていると思いがちだが、少しのズレを実感することで「一枚岩ではなかったのかも」と気付くことになる。例えば、データを年齢別に分ける。「遅くまでいた教員が評価される雰囲気がある」という質問に「あてはまる」と答えたのは、40歳以上では12.5%だったのに対し、40歳未満では43.8%だった。

(6)手がかりを出す

課題はわかった。では、どうすればいいのか。このフェーズでは、手掛かりを示すことが有効だ。「会議資料を事前に共有」「誰でもすぐ利用できるよう物品を共有」など、その手掛かりは必ずしも彼らがやりたいことでなくてもOK。たたき台があることで、自分たちに必要なものは自ずと出てくる。

(7)対話と未来づくり

アイデアを出しやすい状態になれば、あとは本人たちがさまざまに工夫する。なぜなら、「職場には無駄がある」とみんながわかっているから。パーソルの調査によると、83.7%は「職場に無駄がある」と思っている。しかし、「上司はどれも理解していないと思う」は28.3%に上る。この状況では、諦めムードになってしまう。そのため、自分たちの働き方は自分たちで決めるのだと組織開発に対する当事者意識を持ち、意見を交わし合うことが大事だ。

(8)フォローアップ

働き方改革には、必ずリバウンドがやってくる。特に、繁忙期。リバウンドしそうなときの少し手前で、振り返りをすることが大事だ。これまで何をしてきたか、これから何をしていかなければいけないのか。どう繁忙期を迎えたらいいのかという話し合いの場を設けると、リバウンドは避けられる。

これらは学校の働き方改革に寄った事例ではあったが、組織開発のポイントは企業になっても変わらない。見える化し、目的を共有し、対話し、アクションプランを決める。

最後に中原氏は、昨今の状況を引き合いに出して講演を締めくくった。

「現在は、新型コロナウイルスの感染拡大でリモートワークが進行していますね。多くの企業では、ある人は出社し、ある人はリモートワークという状態。なかなか全員が一堂に会する機会がありません。モチベーションは、だいたい20%ほどダウンしています。ただでさえ日本のエンゲージメントは低いのに、新型コロナウイルスでさらに厳しい状況になってしまっている。だからこそ、組織にはそれに抗う力が必要です。遠心力が働いてしまっている今だから、求心力が求められているのです。それが、サーベイフィードバックで実現できることを期待しています」

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