リモートワークにおける妥当性と納得性の高い人事評価について考える
- 深井 幹雄氏(株式会社シーベース 代表取締役社長)
リモートワークが増えたことで、上司や同僚が他メンバーの仕事ぶりを把握することがますます困難になっている。こうした状況下で妥当性や納得性のある評価のヒントを得るには、材料が多い360度フィードバックの活用が有効だ。どうすれば誰もが納得できる人事評価に近づけるのか。360度フィードバックの有効な活用法を探った。
(ふかい よしお)1995年エン・ジャパン株式会社入社。新卒サイト、派遣サイト、エージェントサイトの事業部長を経て、2017年株式会社シーベースの代表取締役社長に就任。
同じ時間・同じ場所の共有を前提としたマネジメントは限界に
シーベース(CBASE)では、組織開発・人材開発を支援するHRクラウドサービスを提供している。2000年に設立されて創業20年、これまでに1000社以上の取引実績を持っている。対象企業はメーカー、商社、流通、小売、金融サービス、インフラ、IT、インターネット、マスコミ、官公庁など実に幅広い。
シーベースではHRクラウドサービスの中でも、特にサーベイの仕組みに特化。ソリューションテーマはエンゲージメント、理念・方針の浸透、次世代リーダー育成、離職率改善、マネジメント強化など多岐にわたる。主要サービスであるHRサーベイクラウドサービス「スマレビ」は、360度(多面)評価を始めとする、さまざまな場面で利用可能な社内アンケートツールだ。年間利用者70万人以上、顧客満足度91.1%を誇っている。
シーベースでは、顧客の状況の段階に合わせたサービスを行っている。顧客が何を行うべきかがわからない場合はコンサルティングから入り、組織の現状把握から課題分析、打ち手の検討、実施後のモニタリングまでをサポート。次に360度評価など、何を行いたいかが決まっている場合はガイドを行う。施策を実施する際の設問設計や社内説明、回答後のフィードバックまでの人事業務を伴走しサポートする。また、ある程度施策に慣れている顧客に対してはツールを提供し、複雑な組織事情を踏まえた施策実施に対応した運用設計と実施のサポートを行っている。
講演の冒頭で、深井氏が本日のプログラムのゴールを示した。「リモート下での人事評価の問題を把握する」「妥当性と納得性の高い人事評価のヒントを得る」の二つだ。そして、参加者の現在のリモートワークの状況についてアンケートを行った。アンケート結果からは、約8割の人が、部分的も含めてリモートワークを行っていることがわかった。
「日本経済新聞の10月時のアンケートでは、コロナ禍のピーク時と比べ、週1日程度がテレワークという人が3割程度となり、全体ではテレワークの日数が減っていることがわかります」
次に深井氏は参加者に対して、「リモートワークの長期化による弊害だと思われる事象にはどのようなことがありますか?」と質問した。チャットからは「コミュニケーションの低下」「コミュニケーションエラー」「納得感のある評価が困難」「メンタル問題」「OJTの停滞」などさまざまな答えが返ってきた。ここで深井氏は、テレワークを導入・実施して直面した課題について、民間のアンケート結果を紹介した。
「4割を超えたものには『労働実態を把握しにくい』『社内コミュニケーションを取りづらい』『テレワークで対応しづらい業務が発生する』があり、リモートワークに慣れても、組織状況を把握しづらい状況がずっと続いていることがわかります」
次に深井氏は日本経済新聞の10月の調査を紹介した。「リモートワークで生産性はどう変わったか」という質問だ。結果は「上がった」31.2%、「下がった」26.7%。上がった理由は「移動時間がなくなった」「業務を中断される機会が減った」「静かな環境で集中しやすい」など。下がった理由には「同僚や部下、上司とのコミュニケーションがとりにくい」「チームの仕事の進捗状況が把握しづらい」などがあった。リモートワークでは協働での生産性が低下しており、個人ではオンオフの線引きが難しくなっている現状がある。では、コミュニケーションにはどんな変化が起きているのか。
「ビフォアコロナでは、職場での会話と態度の観察ができました。同じ時間、同じ場所を共有しているからこそ、対面でその都度会話し、雑談ができ、相手の様子も見られました。しかし、アフターコロナではメールやチャットが中心。内容も業務が中心であり、雑談はなくなっています。オンラインミーティングでも観察は困難になり、タテの関係の会話ばかりになり、ヨコや斜めの関係の会話がなくなっている。コロナによる環境変化により、同じ時間・同じ場所を共有することを前提としたマネジメントは限界にきています。まさにマネジメント手法の変更が求められていると感じます」
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