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ビジネスに勝つため、いま日本企業に必要なリーダーとは

  • 八木 洋介氏(株式会社people first 代表取締役/株式会社ICMG 取締役)
  • 一條 和生氏(一橋ビジネススクール 国際企業戦略専攻 専攻長・教授)
パネルセッション [I]2021.01.08 掲載
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ビジネスにおいて、日本には世界に通用する絶対的リーダーがいないといわれる。背景にあるのは、自分らしさを貫く強いリーダーシップを示す人材の欠如だ。なぜ、日本のリーダーは自己を主張できないのか。ビジネスの現場で戦略人事を実践してきた八木洋介氏と、リーダーシップ論の専門家である一條和生氏が、いま日本で求められるリーダー像について語った。

プロフィール
八木 洋介氏( 株式会社people first 代表取締役/株式会社ICMG 取締役)
八木 洋介 プロフィール写真

(やぎ ようすけ)1980年京都大学経済学部卒業後、日本鋼管株式会社に入社。人事などを担当した後、National Steelに出向し、CEOを補佐。1999年にGEに入社し、Healthcare など複数の事業でアジア部門の人事責任者などを歴任。2012年に株式会社LIXILグループ 執行役副社長に就任。CHRO(最高人事責任者)を務め、同社の変革を実践。グローバル化、リーダーの育成、ダイバーシティの促進など、戦略人事を推進した。2017年に独立し、複数の企業のアドバイザーなどを務める。著書に『戦略人事のビジョン 制度で縛るな、ストーリーを語れ』(光文社新書、共著)がある。


一條 和生氏( 一橋ビジネススクール 国際企業戦略専攻 専攻長・教授)
一條 和生 プロフィール写真

(いちじょう かずお)1958年生まれ。1982年一橋大学社会学部卒業、1987年一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了、1995年ミシガン大学経営栄大学院にてPh.D.(経営学)取得。一橋大学大学院社会学研究科教授などを経て、20018年より現職。スイスのビジネススクールIMD客員教授を兼務。専門は経営組織論、イノベーション、知識創造理論。著書は、『リーダーシップの哲学―12人の経営者に学ぶリーダーの育ち方』(東洋経済新報社)、『MBB:「思い」のマネジメント』(東洋経済新報社)、『シャドーワーク―知識創造を促す組織戦略』(東洋経済新報社)、『ナレッジ・イネーブルリングー知識創造企業への五つの実践』(東洋経済新報社)、『井深大―人間の幸福を求めた創造と挑戦』(PHP研究所)など多数。


八木氏によるプレゼンテーション:世界で通用するオーセンティック・リーダー

八木氏は、世界で通用するリーダーに必要な「自分らしさ」について語った。他の人にはないオリジナルこそが大事だという。

「オーセンティック(authentic)とは、『本物の』『オリジナルの』という意味です。今語られているオーセンティック・リーダーは、『オリジナルの』という意味のほうが強い。自分らしさをしっかりと出せるリーダーが求められているのです。その意味において、リーダーに大事なことは、自分をリードすることだと思います」

現在はVUCAの時代であり、正解がない時代といわれる。2020年にはコロナ禍という想定外の事態も起きた。そうした中で、企業はどうすれば他社との差別化を図れるのか。正解がないからこそ、リーダーには方向性を示すことが求められている。

「今、リーダーに必要な力は五つ。ビジョンやミッションの構築力、戦略展開力、コミュニケーション力、実践力、継続学習の力です。これらの力を発揮するには、思い、軸、知識、知恵、人望、人格が必要です」

リーダーの基本的な役割とは何か。八木氏は七つの役割を挙げる。一つ目は、決めること。正解がないからこそ、言語化された思いと軸が必要になる。二つ目は、過去を捨てて未来をつくること。勝つためには過去を断ち切ることも大事だ。三つ目は、人を活かすこと。方向を定め、信頼し、任すことだ。四つ目は、分け隔てなく人に接すること。ダイバーシティの推進は当然のことだ。五つ目は、チームをつくること。六つ目は、巻き込み、盛り上げること。エンゲージメントを高めて、組織と個人が同じ方向を向いている状態をつくり出す。七つ目は、変革すること。勝ちにこだわり、結果を出す。そのうえで八木氏は、現在のリーダーに求められる役割としてPVMVCモデルを示した。

「Purposeとは存在意義、Visionとは目指すイメージ、MissionはそのVisionを実現するためのゴールとコミットメント。これらが統合的に実践されて、Culture=組織に定着した状態をつくる。これらの要素がそろっていれば、自動的に動ける組織がつくれるはずです。しかし、PurposeやVisionをうたっている企業は世の中に数えきれないほどあるのに、それが真実になっている企業はほとんどありません」

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リーダーの重要な役割の一つに、イノベーションの促進がある。八木氏はイノベーションには二つの型があると語る。プッシュ型とプル型だ。

「プッシュ型とは、自分たちが持つ資源を活かした形でイノベーションを起こすことです。今やっていることの延長戦上で、イノベーションを起こす。プル型とは、顧客から資源を引き出してイノベーションを起こすこと。今までと異なるものを新たに結合させて、イノベーションを起こす。これからは、未来を切り開くことの必要性を説く『思いのリーダーシップ』と、そこで素晴らしいものを見出していく『目利きのリーダーシップ』が必要です」

リーダーの最終目標は、グローバルで勝つことだ。八木氏は、正解がない中でリーダーが一つのものを選んだら、それで世界に対して横串を通していくことが、グローバルにおけるリーダーシップだと語る。

「共通の方向性、ゴール、戦略をもって、世界に横串を通していく。世界にはいろいろな人がいますが、その人たちをバラバラにしない、ということです。リーダーにはそうした強さ、強い意志が必要です。そのために必要なコンピテンシーとは何か。インテリジェンスでは特に価値創造力、問題発見力、感性。人間力ではオーセンティシティ(自分らしさ)、好奇心、教養が求められます」

一條氏によるプレゼンテーション:DXのリーダーシップ

一條氏は、今の日本に必要なのはDX (Digital Transformation)をリードするリーダーだと語る。そのDXの現状だが、新型コロナウイルス感染症によって明るい兆しが見えている。

「企業ではオンライン化、在宅勤務化により、スピーディーな意思決定が促進されました。その結果、企業の生産性が上がったという調査結果も出ています。2020年度の企業のIT投資は、前年度実績比15.8%と大幅に増える見通しです。ただし、新型コロナウイルスによって世界が変わったわけではなく、それまで起こっていた変化が加速された、ということ。我々はこの変化に対応していかなければなりません」

一條氏が危惧するのは、DXが流行化しているのではないか、ということだ。企業では、DXそのものが目的化していないだろうか。「DXをやれ」というトップの指示に振り回されて、現場が混乱していないだろうか。

「ここで大事なことは、DXのXが『変革=Transformation』を意味していることです。変革はそう簡単に起こるものではありません。これまで日本企業は変革が起きないことで苦労してきました。今はまさにDXを起こすリーダーシップが求められています」

日本の不都合な真実に目をつぶってはいけないと、一條氏はいう。その一つが、日本がDXの世界後進国であるという事実だ。特にその要因となっているのは「企業のアジリティ(俊敏さ)」「人材の国際経験」の不足であり、データ上は世界でも日本が最下位レベルにある。

「日本企業は今、世界で何が重要視されているかという動きに疎い。こうした長年の日本企業の問題を解決せずに、DX化は実現しません」

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では、どうすれば真のDXが実現できるのか。鍵となるのは二つのCX(Corporate Transformation)だ。一條氏は「DX for CX by CX」と述べた。一つ目のCXは、自社のパーパスに適った顧客価値の提供。二つ目のCXは、企業変革。つまり、企業変革によって、顧客に高い価値を提供するためのDXを実現するということだ。

「今の日本に必要なのは、DXをリードするリーダー。ここで大事なのは、日本企業は平成の失敗から学ばないといけない、ということです。日本がこのような状況になった原因は分析過多、計画過多、コンプライアンス過多にあります。外部に捉われすぎたのです。これからは、Inside-out FirstからOutside-inを目指すべきです。まずは自分の思いを持って、それを外に訴えていく。何をやりたいのかが大事です。DXにおいても最初に思いありき、人ありきではないでしょうか」

まさにDXは未来創造だ。初めに志ありきであり、その実現のためにデジタルテクノロジーを活用することが求められる。ここで問われるのはまさに企業の生き方だ。一條氏は「DXはアナログに始まることが、DX実行のリーダーシップにつながるのではないか」と締めくくった。

ディスカッション:今の日本企業における変革のキーワードは何か

一條:グローバルリーダーの必要性は以前から言われていましたが、日本は人材の国際経験で世界最下位といった評価をされています。こうした評価はあまり変わっていないのではないかと思いますが、八木さんはどう思われますか。

八木:今日は一條先生と私の考えがほとんど同じだったと思います。言葉は違いますが、やはり自分らしさをしっかり持たなければいけません。人を海外に出したからといって、私はグローバルな人材が育つことはないと思います。やはり、世界に出たときに自分の考えはこうだという、まさに一條先生がおっしゃるInside-outができなければいけない。修羅場経験のために海外に出しました、それでとりあえず2、3年で帰ってきました、ということでは人は育ちません。海外で活躍すること、グローバルの中で物事を進めていくとはどういうことなのかを、ただの経験だけではなく、その経験を内省し、グローバルな経営の中で活かすためには何が必要なのかを考えなければならない。海外には出たけれど、日本に帰ってきて結局、日本の忖度型というような環境に入ってしまってはだめで、海外で得たものを日本の改革に活かすぐらいの強い意志をもって行動しなければいけません。私は今日、自分らしいリーダーシップ、自分をリードすると言いましたが、一條先生の言葉だとInside-outのリーダーシップが必要なのではないかと思います。


一條:これまでのグローバルリーダーの育成方法は大事な視点が抜けていた、ということでしょうか。

八木:まさに必要な視点が抜けていたと思いますね。日本から世界に出ると、ダイバーシティが進んだ経営を見るわけです。海外ではこんなにイキイキとした経営を行っている企業がたくさんあるのに、日本に戻ると、経営会議はおじさんばかり。これでは、世界で勝てるわけがありません。海外で見て良いと思ったことは、歯を食いしばってでも日本で実現する。そういうリーダーシップが必要だと思いますね。なぜ、それができないのか。志よりも周囲との関係性を重視する、という弱さに課題があるのではないかと思います。そうではなく、人を巻き込んで引っ張っていくのだという強い意志がリーダーには求められます。

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一條:私は先ほどInside-outの大切さについて話しましたが、これは決してOutside-inの重要性を否定するものではありません。やはり、世の中の変化を分析していかないといけない。しかし、Inside-outなしにOutside-inに振り回されてはだめだと思います。八木さんはGEでさまざまなグローバルリーダーにお会いになったと思いますが、彼らはOutside-in を大事にしつつも、Inside-outを強く持っている人たちなんですね。

八木:一條先生がおっしゃるようにOutside-inを必ずやる、未来に何が起こるのかを徹底して学ぶ。そのうえで自分が何をしたいのかを考えることが大事なことだと思いますね。

一條:八木さんは自分らしさを持つリーダー育成のために、どんなことをされていますか。

八木:誰もが自分らしさを持っていますが、まずはそれを活かすことを考えたい。自分が大切にしていることは何なのかを、しっかりと言語化しておさえておく。そのうえで、自分らしさを磨き上げていく。日本人には人間としていいところがたくさんあると思いますが、ビジネスでは皆が言うことに対して「そうだね、そうだね」と意見を聞くばかりになります。それでは、組織を引っ張っていくことはできません。自分らしさとは何か、自分は組織で何を実現したいのかということに、こだわりを持ってもらうことが大事だと思います。

一條:世の中では新たな事業が求められていますが、そのためには知の探究が必要です。しかし、企業のルールや制度に合わせていると、現状レベルでの進化しかできない。今の時代には、どんなリーダーシップが必要だと思われますか。

八木:社員の副業を許可することについて、まだ厳しく考えている企業がありますが、そういう制約を外していくことが大事だと思います。そういうことを、ルールで決める必要はない。もっと人を信頼する、信頼できない人に対しては厳しいアクションを取る。このような当たり前のマネジメントを行うべきです。現場で「やってみればいい」といえないゆえに、すぐルールに頼ってしまう。こういうやり方では、イノベーションは起きません。もっと人を信頼して自由度を与えていくこと、同じ方向性や同じ志を持つ人を一つの信頼のグループとして扱うことが、これからの組織に期待される姿ではないかと思います。

一條:まさにマネジメントの発想の転換ですね。何かまずいことを行う人のためにルールはつくられますが、現実にはそういう人のほうが圧倒的に少ない。ルールは、ネットワークを広げていこうとする人たちの活動を妨げてしまいます。もっと社員を信頼しなければなりません。

八木:人事の中でよくある議論に、性善説や性悪説がありますが、人がどちらか両極端であることはありません。事が起こればその場で判断していけばいい。それよりも、同じパーパスを持って、そこから見えるビジョンを皆で確認し、そのビジョンをもとに今何をやるべきかについて共有する。そういう仕事の仕方をバリューという形で行動規範に決め、それを確実に実現すれば、カルチャーが生まれてきます。正解に近い解を見つけ出すための経験則や発見方法をヒューリスティックと言いますが、そういう状態が組織の中でつくられていくことが大事だと思います。

一條:最近では、テレワークが広まったことでジョブ型のマネジメントが議論されるようになりました。八木さんはジョブ型へのシフトをどのように捉えていますか。

八木:私はジョブ型という形はないと考えています。世界中のほとんどの会社には実現したいゴールがあって、それを実現するためにどんな人が必要かを考え、そのポジションに対して誰が適任かを考える。これは誰が考えてもごく当たり前のプロセスであって、これにジョブ型という名前を付けること自体が、ばかばかしいことだと思います。必要なタスクに対して、誰がふさわしいのかを社内で探し、中にいなければ外から連れてくることを考える。適材適所ではなくて、適所適材で考えることが大事です。

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一條:日本企業では、こうしたやり方を広めていく変革はなかなか難しいと思います。

八木:全部一気に変えなければいけないと思うから、難しくなる。システムになったものを一つひとつ変えていくとなると、そこにはアンバランスなことも起きます。しかし、それを怖がらずに行動していくことが大事です。新しいことだけをするのではなく、古いもの、おかしいと思うものを止めることから始めるべきだと思います。

一條:それは重要な視点ですね。日本は世界と比べると、アブノーマルなことがいろいろある。だから、日本のアブノーマルをまず取り除くことが重要だと。確かにそこから始めたほうが良さそうですね。

八木:外の世界と比べると、日本の生産性は非常に低い。エンゲージメントサーベイの結果も低い。日本はこうして世界の中で置いて行かれていることを、もっと悔しいと思わなければいけません。日本の若い人たちは、世界の若い人と比べても、決して負けてはいないと思います。個の力は変わらない。これはあくまでも組織の問題です。

一條:変革のキーワードは日本におけるアブノーマル、おかしなことをまず止めようとすること。それが第一歩ということですね。人事部の皆さんには、ぜひ強い覚悟を持ってリーダーシップを発揮していただきたいと思います。本日はありがとうございました。

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