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キャリアコンサルティングにより変化する人事の役割
新たな指針による、人事とキャリアコンサルタントとの協業促進の必要性

  • 花田 光世氏(慶應義塾大学 名誉教授 / 一般財団法人SFCフォーラム 代表理事)
東京特別セッション [SS-2]2020.07.15 掲載
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2002年に制度がスタートしたキャリアコンサルタントは、近年急速にその役割を変えつつある。法改正によって従業員に対する「キャリア支援」の提供義務が企業に課され、その責任者である「職業能力開発推進者」にキャリアコンサルタントのバックグラウンドを持つ人材を選任する必要もでてきた。人事とキャリアコンサルタントの積極的な「協業」が欠かせない時代が訪れているのだ。キャリア研究の第一人者である花田光世氏が、これからの人事が認識すべきキャリアコンサルタントと人事の関係について語った。

プロフィール
花田 光世氏( 慶應義塾大学 名誉教授 / 一般財団法人SFCフォーラム 代表理事)
花田 光世 プロフィール写真

(はなだ みつよ)南カリフォルニア大学Ph.D.-Distinction(組織社会学)。企業組織、とりわけ人事・教育・キャリア問題研究の第一人者。産業・組織心理学会理事、人材育成学会副会長をはじめとする公的な活動に加えて、民間企業の社外取締役、報酬委員会などの活動にも従事。経済産業省、厚生労働省の人材開発・キャリアの領域の研究会などに座長・委員として幅広く従事。「人事制度における競争原理の実態」で、第一回組織学会論文賞を受賞。主な著書に『働く居場所の作り方』(日本経済新聞出版社)『新ヒューマンキャピタル経営』(日経BP社)、主な論文に「人事制度における競争原理の実態」(組織科学)、「グローバル戦略を支える人事システムの展開法(上・下)」「コア人材の機能と条件」(以上「ダイヤモンド ハーバード・ビジネス」)などがある。American Sociological Review,Administrative Science Quarterlyといった海外の学術誌や国内の学会誌、人事分野の専門誌などに300本を越す論文があり、最近は、キャリア自律の推進、キャリアアドバイザーの育成などの活動に精力的に取り組んでいる。現在は、キャリア・リソース・ラボの活動に加え、一般財団法人SFCフォーラム代表理事として活動。


大幅に拡大したキャリアコンサルタントの役割

花田氏はまず、視聴者にこう投げかけた。

「皆さんの会社では、従業員のキャリア支援にどれくらい積極的に取り組まれているでしょうか。また、キャリア支援者は組織の中でどう位置づけられているでしょうか。これまで人事とキャリアコンサルタントはお互いにすみ分けをして、協業することはほぼありませんでした。しかし、ここにきて関係法令も変わり、キャリア支援に対して人事責任者がどういう見識を持っているのかが問われる時代になりつつあります」

花田氏は厚生労働省「登録キャリアコンサルタント等検討委員会」の座長として、キャリアコンサルタントの役割を検討し、政策の中に位置づける提言なども行っている。その花田氏がまず触れたのは、「初期のキャリアコンサルタントの役割が今は大きく拡大し、組織の活性化も活動対象になってきている」という点だった。

2000年代初頭のキャリア支援とは、基本的に「キャリアカウンセリング」だった。仕事に関する悩みに限定されない多様な悩みごとの相談を受けたり、心の不安の軽減を目指したりする活動だ。それが変化してきたのは2000年代中盤。「キャリア開発、キャリア形成の支援」が重要視されるようになり、キャリアコンサルタントの役割に加えられた。

2010年代に入ると「長期化するライフキャリアへの対応」も追加される。さらに、2016年以降は「キャリア支援により組織の活性化を図る」という考え方が注目されるようになる。こうした変化の背景にあるのが国の「職業能力開発基本計画」だ。5年ごとに策定されるこの計画によって、キャリア支援の普及とキャリアコンサルタントの役割拡大が進められてきたのだ。また、2016年4月には「改正職業能力開発促進法」が施行され、企業が従業員にキャリアコンサルティングを受ける機会を提供することが努力義務化される。

「こうした一連の動きを受けて、企業内でキャリア支援を行うチームと人事の『協業』がとても重要になっています。キャリアコンサルタントは、以前のようにカウンセリングだけをやっていればいいという時代ではなくなってきました。人事もまた、企業内でキャリア支援に関する教育を企画するような場合に、キャリアコンサルタントの国家資格をもつことが必要となり、国への補助金の申請などにいろいろと支障がでるようになってきたのです」

つまり、この20年ほどで、企業が従業員のキャリア開発、キャリア形成、さらにはライフキャリアをより手厚くサポートすることが求められるようになったのだ。また、それらを通して組織を活性化し、成長させようという考え方も一般的になっている。キャリア支援の専門家としてのキャリアコンサルタントの役割が拡大しただけでなく、人事もキャリアコンサルタントが組織活性化にどう貢献するのかを十分に理解した上で、お互いに協業することでより大きな成果を生み出すことが求められるようになっているのだ。

キャリア支援で実現する組織の活性化・変革・成長

現在のキャリアコンサルタントの業務の中核は、法律上は「能力開発に際しての相談・助言・指導」とされている。かなり大まかな定義だが、その具体的な内容を明らかにしている、指針化された報告書がある。厚生労働省がまとめた「セルフ・キャリアドック」だ。この「セルフ・キャリアドック」の取りまとめに、座長として中心的な役割を果たしたのも花田氏である。

「セルフ・キャリアドック」は、人事のキャリア支援に対してもさまざまな提起を行っている。たとえば、就業規則内に職業生活設計の支援責任を組み込むこと、職業能力開発推進者を選任することなどだ。とりわけ「職業能力開発推進者」については、極めて重要なポイントがあると花田氏は語る。

「職業能力開発推進者は、文字通り職業能力開発のための計画を定めて推進する責任者です。これまでは教育研修部門の責任者、または労務・人事・総務などの責任者が兼任するのが一般的でした。しかし、2019年4月に大きく変わりました。キャリアコンサルタントとしての能力を持つ者の中から選任することになったのです。もし、社内にそういう人材がいない場合は、教育や人事の責任者がその資格を取得することが必要となってきました」

さらに、キャリアコンサルタント/職業能力開発推進者には、その役割を果たすためのより積極的な動きも求められる。

講演写真

「もし、社内にキャリア開発や職業設計を阻害するような組織的要因がある場合は、それを取り除くよう経営や人事に提言することが求められます。従来なら人事の仕事だったかもしれませんが、『セルフ・キャリアドック』ではキャリアコンサルタントの仕事となりました。対個人の支援だけでなく、組織への介入もその職務領域に含まれるようになったのです」

こうした新たなキャリアコンサルタントの役割を整理したものが「花田モデル」だ。同モデルでは、キャリアコンサルタントが担うべきキャリア支援を、1次~7次支援の各段階に分類して解説している。

「特に重要なのが、組織の活性化、組織の変革・成長を目的とした6次・7次支援です。具体的には、『パフォーマンス開発』や『MBOS』の運用、あるいは『個人の元気』をKPI化して組織活性化につなげていくなど、まさに人事とキャリアコンサルタントが一体となって仕組みをつくっていく活動です。さらに、組織の変革・成長に関わる場合、職業能力開発推進者はチーフキャリアオフィサー(CCO)として、チェンジエージェントの役割も担うことになります」

こうしたキャリアコンサルタントの役割拡大に伴い、キャリアコンサルタント養成機関に対しても、そのカリキュラムに「職業能力開発推進者の業務にも対応できる知識・能力を習得する課程」を組み込むことが義務づけられるようになっている。

経営的視点でのキャリア支援を定める「セルフ・キャリアドック」

「セルフ・キャリアドック」は、他にもキャリア支援の活動を効果的なものとするさまざまな協業のケースに触れている。

役職定年を迎えた人や、ポスト不足でなかなか管理職になれない中間層のケア。個人の能力開発の状況を一種のカルテやデータベースとして作成し、保管しておくこと。キャリア自律に向けた組織風土の分析。個人のキャリアを職場(上司、同僚)でサポートする新組織開発。上司によるキャリア面談のサポート。主体的な現場での能力向上を行う新OJTによる能力開発。360度フィードバックを活用しての個人の能力開発など、非常に幅広い分野が対象となる。

「これらは従来、人事が行っていた業務ではありますが、『セルフ・キャリアドック』ではキャリアコンサルタントにも協業して推進することを求めています。守秘義務のある悩み相談やカウンセリングの中身を共有するという話ではありません。従業員が職業設計や能力開発を十分に行えているか、そのネックになるような要因が組織内にあるのかどうか、あるとしたらその検証や改善に関する調査・報告・提案・調整などを行い、制度構築や運営、フォローまでを人事と連携しながらやっていく、という趣旨なのです」

さらに、こうした取り組みは、最終的に組織の責任者、つまり経営者がコミットメントとすべき課題として改正された職業能力開発促進法に明記されていると花田氏は強調する。

「職業能力開発推進者は、全体報告を最低でも年1回、できれば四半期に1回程度のペースで行うべきです。そして、能力開発に関わる問題点をまとめて、その改善を経営に対して求めていく。キャリア支援を経営問題として位置づけるには、そのくらいの頻度が必要です。守秘義務のある情報は別として、組織全体で課題を共有し、その解決に取り組むことが重要です。そのためにも、まずは個々人のキャリア開発の状況を記録したデータベースをしっかりつくることが大事です」

また、今後は企業の研修体系の中に階層別研修・職能別研修と並んで「キャリアデザイン研修」を組み込むことが必然だという。

「キャリアデザイン研修では、個人のキャリア目標、キャリア方針、アクションプランなどを明確化し、どう実践するかを計画します。さらにそれを面談でフォローしていきます。そういった進め方なども『セルフ・キャリアドック』に書かれていますので、ぜひ厚生労働省のウェブサイトからダウンロードして参考にしてみてください。人事とキャリアコンサルタントの協業といわれても、すぐにはピンとこないという場合も、まずそこにある協業のモデルケースをきっかけにしていただけるといいのではないでしょうか」

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長期化するライフキャリアに対応していくために

「近年、人事の役割が新しくなったと言われています。その一つが長くなったライフキャリアへの対応です」

花田氏が最後に触れたのは、ライフキャリアに関連する問題だ。従来のような短期的な成果主義を基盤としたスキルベースの人事、ジョブマッチング型のタレントマネジメントでは70歳、80歳まで現役で働こうという時代に対応できない。長期にわたるライフキャリアの中では、変化の激しい時代にどう能動的・主体的にチャレンジし、自らの成長やキャリアチャンスの拡大の可能性を拡げていくかが問われることになる。キャリアコンサルタントには、そうした時代の変化に対応できるキャリア支援が求められる。

「それがダイナミックプロセス型のキャリア支援です。タレントマネジメント型からタレントディベロップメント型へと、キャリア支援のあり方そのものを切り替えていく必要があります。これも、キャリアコンサルタントと人事の協業なくしては不可能な取り組みなのです」

さらにライフキャリア長期化に伴って、重要になる概念が二つあるという。

「一つは『キャリアコンピタンシー』。どんな状況でも、キャリアを構築し続けられる力を意味します。もう一つは『ソーシャルキャピタル』。他者の役に立ち、信頼されることを通して自分の立ち位置を明確化し、自己肯定感につなげる考え方です。キャリアコンサルタントはこうした総合的な力を認識し、その発揮を促すことが重要な役割になります。3~5年おきのキャリアデザイン研修でキャリアの棚卸しをしっかりと行い、キャリア形成が順調に進んでいるか、そのエネルギーを持続できているかを見直していくことがポイントになります」

変化の激しい時代においてもっとも重要なのは、キャリアコンピタンシーを身につけることだと花田氏はいう。

「海外の研究者による調査ですが、日本の場合、現在の仕事の49%が2030年までに消滅するか、その役割を大きく変えるといいます。また小学校に入学したとき存在していた仕事とその小学生が大学を卒業するときの仕事は激変し、大学卒業時では65%の仕事が小学校に入学したときには存在していなかった仕事に変わっているという研究もあります。築いたキャリアはどんどん陳腐化し、消費期限ではなく、賞味期限は短くなるという問題に私たちは直面しています。

そこでもっとも重要になるのが、『戦略的な学習力』であり『学び続けるエネルギー』ではないでしょうか。このときの学びは座学ではなく、むしろ現場で得た知恵というべきものでしょう。60歳でも70歳でも現場に出て、学び続ける仕組みを自ら作ること。そのためのエネルギーを持ち続けることが何よりも大切になってきます。これはまさにキャリアコンピタンシーです。これからの人事とキャリアコンサルタントには、それが身につく仕組みを構築し提供することが求められているのです」

キャリアコンピタンシーを身につけた人材が増えれば当然、組織も強くなる。戦略人事として企業に貢献するためにも、キャリアコンサルタントの専門性を生かしていく視点がこれからの人事に欠かせないものであることは間違いないだろう。

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