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企業は自律型人財を「育成」できるのか ~自律型人財に必要な力とは~

  • 杉山 誠氏(株式会社シグマクシス Vision Forest ディレクター)
東京特別講演 [F-1]2020.07.03 掲載
株式会社シグマクシス Vision Forest講演写真

企業において自律型人財の重要性が高まっているが、その育成法は「自由放任」レベルの内容しか語られていない。育成が困難な背景には、自ら気づき、動ける人財を、企業が意図的に育成することの難しさがある。本セッションでは、シグマクシスの杉山 誠氏が自らの「気づき」から「ビジョン」をつくり、「行動」につなげる自律型リーダー育成のノウハウについて語った。

プロフィール
杉山 誠氏( 株式会社シグマクシス Vision Forest ディレクター)
杉山 誠 プロフィール写真

(すぎやま まこと)野村総合研究所、ベンチャー企業を経て、シグマクシスに参画。人財組織変革、イノベーション創発を専門とする。特に人財組織変革では、全社変革から部門変革に至るまで幅広く手掛ける。


デジタル時代の自律型リーダーに求められる「人間的能力」

シグマクシスは2008年に設立された、企業のデジタル・トランスフォーメーションを支援するコンサルティングファームだ。同社が提供する人財・組織変革プログラム「Vision Forest」では、自ら変革し続ける人財・組織づくりをサポートしている。

なぜ今、企業に「自律型人財」が求められるのか。杉山氏は次のように語った。

「企業の力、能力を式にすると『戦略×実行力』ではないかと思います。そしてこの実行力を要素分解すると『仕組み×人財の能力』となります。近年、ますますデジタイゼーションが進み、人が直接関わらなくても行えるロボティクスやIoTといった『仕組み』が構築されています。では、『人財の能力』とは何でしょうか。大きく分けると『論理的に考える力』と『人間的能力』になろうかと思います。『論理的に考える力』は、AIの学習能力が人間の能力を超えてその役割を担っていくでしょう。そんな中、人が行うべきことは『人間的能力』を高めることです。この部分に自律的な要素が入ってきます」

同社の人財・組織変革プログラム「Vision Forest」では、人間的能力を「自らのBeing-Doing(こうありたい・これをやりたい)を描き、気づき、変わり続けることができる力」と定義している。この力を分解すると「自ら考え動くための判断軸となる実現したいことを持つ力(Visioning :描く力)」「変化を受け入れ、内外のさまざまな知見を取り入れながら柔軟に対応し続ける力(Reflection:気づく力)」「すばやく判断・行動し、リスクや失敗を許容し、新たな価値創造に挑戦し続ける力(Action:動く力)」の三つに分かれる。この中でもReflectionが特に重要だと杉山氏は語る。

次にさまざまな自律型のレベルを紹介した。一つ目は、自ら実現したいことを見出し、試行錯誤しながら推進することができる「完全な自律型」。二つ目は、他者に示されたゴールに向かって自ら試行錯誤しながら進めることができる「部分的自律型」。三つ目は、指示されたタスクを自ら実行できる「実行自律型」だ。

「私たちは、自律型リーダーとは『組織内で実現したいことを自ら持ち、その実現に向けて周りを巻き込み行動を続ける』人と考えます。完全な自律型の人財をどのように企業の中で育成していくのか、ここからは特に現場リーダークラスでの人財育成について考えて行きたいと思います。」

自律型リーダーが1%いるだけで企業と組織は変化する

講演写真

杉山氏によれば、企業に自律型リーダーの育成方法をヒアリングすると、「現場や組織が社員に対して、やりたいようにやらせる機会を提供する」と答えるケースが非常に多いという。

「これは正解だと思います。ただ、最近は社員を管理しようとする考え方が強くなりがちで、実際は好きなようにできないことが多いようです。すると、『会社は言っていることとやっていることが違う』と、社員はフラストレーションを感じます。自律型リーダー育成の研修施策を実行はしていても、その人財が組織の中で思うように活躍できていないというケースもあるのではないでしょうか」

杉山氏は次にリーダーとして6つのタイプを紹介した。

  • 方針を提示し、強いリーダーシップで推進する「英雄型リーダー」
  • ぶれない信念で推進し、夢に参加したいと思わせる「ビジョンリーダー」
  • 高い個人技を持ち、背中で引っ張る徒弟制度的な育成を行う「実行派リーダー」
  • 話をよく聞いてくれ、相談しやすく、支持してくれる「サーバントリーダー」
  • メンバーが意思決定に参加し、合意のもとで進める「調整リーダー」
  • 相手のやり方を尊重し行動を支える「コーチングリーダー」

「日本に多いのは調整リーダーですが、最近はコーチングリーダーが増えています。自律型リーダーはこの6つの中のどれか1つというわけではなく、会社の事情によっても、部署によっても、求められる中身は異なるため、画一的なものではありません」

そうした中で自律型リーダーに求められる能力は「ビジネスを変革し、その実行を担う人・組織をリードできる能力」と杉山氏は語る。そのためには、「ビジネススキル」「マネジメント知識」「変革をリードするマインドセット(Visioning×Reflection×Action)」が必要になると付け加えた。

「多くの企業ではビジネススキルとマネジメント知識は教育されていると思います。しかし、変革をリードするマインドセットが備わっておらず、スキルや知識を十分に活用できていないケースが少なくありません。自律型リーダーの能力の土台ともいえる、このマインドセットをどのようにケアしていくかが重要なのです」

次に杉山氏は、会社や組織が目指すべき自律型リーダーの規模を説明した。「実践で感じる、成功への境目となる値は全体の1%です。1000人の企業なら、自律型リーダーが10人いれば組織の空気は変わります。1%でもそうした人たちがいると、その周囲には10名~20名程度、その人をフォローしていたり、うまく巻き込まれたりする人が出てくる。こうしたフォロワーシップを日本人は得意としています。すると、社内で合計5~10%の同じ考えの人がいることになります。このように現場リーダーが自律的な意識で横につながれる状態が生まれることは大変重要だといえます」

杉山氏は、人財をトップマネジメント層・ミドルマネジメント層・現場自律型リーダーの三つのタテ階層で捉え、最大10%程度の変革リーダーをコミュニティ化させることが鍵になると語る。トップマネジメント層では変革への本気のコミットメントを行い、ミドルマネジメント層では自律型リーダーを引き出すマネジメントへの変革を実践。そして、現場自律型リーダー層では最大10%程度の変革リーダーがつながって、組織を自走させていく。

「現場自律型リーダーが沢山いたとしても、ミドルマネジメント層に理解者がいなければ現場自律型リーダーは一気につぶれてしまいます。一度やろうと奮起し、それがダメになると精神的なダメージも大きい。したがって、自律型リーダーを育成するというよりは組織開発の側面で捉えていけるか、ということがまずポイントになります」

気づきからビジョンを描き、職場で実践していくことが重要

杉山氏は、自律型リーダーが備えておくべき9つの力を「Visioning」「Reflection」「Action」ごとに紹介した。

  • Visioning領域
    「突き動かす力」「問いを創る力」「巻き込む力」
  • Reflection領域
    「観察する力」「共感する力」「自分を知る力」
  • Action領域
    「設計する力」「行動する力」「自分を変える力」

「自律型リーダーになるには、課題を認識し、実現したいことに向けて行動し、振り返る作業が必要です。ただし、突然Visioningといってもなかなかできるものではありません。自分でいくつか気づいたものがあって、それを基に『これではないか』とビジョンを探し、アクションする。この繰り返しによって自律型リーダーになっていくと考えています」

まず、「Reflection」で自らの過去の体験から形成された価値観とバイアスを見出していく。そして、他者からの視点を受け止めながら、多面的かつ深い自己認知につなげる。次の「Visioning」では、自らの価値観や想いを踏まえて、組織のミッションとのつながりを見出す。それにより、実現したいことを模索し続ける。「Action」では、ビジョンとひもづき、バイアスなどの阻害要因を考慮したプランを立案し、職場で実践していく。

講演写真

「当社では、3年前に現場リーダーが自律的になるためのプログラム『KOERU Change Leader Lab』を立ち上げました。自らのBeing-Doingを変え続ける力の向上を目的としたプログラムです。実務での言動・行動を観察し、自らと周囲の反応から学びを得続けるサイクルをつくることに主眼を置いています」

プログラムでは、4回のセッションを半年間で実施していく。1回目は実現したいことを表現。2回目は自らのバイアスに向き合う。3回目は変革ストーリーを描き切る。ここで実践期間を設けて、4回目は気づきを結合し、自らの変容の型をつくっていく。

講師は教えるのではなく、参加者に問いを投げ、自己内省+参加者間の対話からの学びを引き出す。フォローメニューでは1on1セッションを実施する。100社5000⼈以上の変革プロジェクトで培った実践知を基に、参加者の自律性や特性を見立て、その結果に基づいたフィードバックを行い、同時に参加者の上長やオーナーへの働きかけも行っていく。

「参加者は40歳前後の課長クラスの方が多いですね。1社5人での参加が多いですが、この人数であれば組織ごとの傾向が出てきます。参加した個人の見立てや組織の傾向をつかむことで、組織全体の人事・組織戦略やアサインメントに役立てることが可能になります」

最後に杉山氏は、企業での自律型リーダーの育成推進のポイントを語って講演を締め括った。

「まず、組織にとっての自律型の人物像を明確にし、具体的な数値目標を設定すべきです。その上でトップマネジメント・ミドルマネジメント・現場リーダーの三階層での変革に取り組んでいく。人事は組織開発の観点から、自律型組織への変革ストーリーを描いていくことが重要になるのではないでしょうか」

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