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人生100年時代の学び方

  • 高橋 俊介氏(慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任教授)
東京基調講演 [G]2020.07.16 掲載
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想定外の変化が起こる昨今の経営環境下では、組織のありよう、求められる人材像、働き方のすべてが大きく変化する。それに伴って、人生100年時代を意識しながら、学び方やキャリア形成のあり方を変えることも求められている。これから何を学び、どんなキャリアを形成すべきなのか。慶應義塾大学大学院の高橋俊介氏が、これまでの日本の環境や学び方を振り返り、その特徴や課題を踏まえた上で方向性を語った。

プロフィール
高橋 俊介氏( 慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任教授)
高橋 俊介 プロフィール写真

(たかはし しゅんすけ)1954年生まれ。東京大学工学部卒業、米国プリンストン大学工学部修士課程修了。日本国有鉄道(現JR)、マッキンゼー・ジャパンを経て、89年にワイアット(現タワーズワトソン)に入社、93年に同社代表取締役社長に就任する。97 年に独立し、ピープルファクターコンサルティングを設立。2000年には慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授に就任、11年より特任教授となる。主な著書に『21世紀のキャリア論』(東洋経済新報社)、『人が育つ会社をつくる』(日本経済新聞出版社)、『自分らしいキャリアのつくり方』(PHP新書)、『プロフェッショナルの働き方』(PHPビジネス新書)、『ホワイト企業』(PHP新書)など多数。


これまでの日本人の学びにおける「五つの問題点」

変化が激しい時代と言われるが、実際に現場ではさまざまな変化が起きている。例えば、テクノロジーを含む経営環境の変化が起こり、ビジネスモデルに革新をもたらした。今後は、AIに代替されてなくなる仕事や、要件が変化する仕事が多数出るとも言われている。ただし、それはごく一部の話だと高橋氏はいう。

「同時に、今までなかったような新しい仕事も登場します。ただし、『そういった変化が、いつ・どこで・どのぐらいのスピードで起こるのか』『この仕事はいつなくなるのか』『どんな仕事がいつ生まれるのか』まではわかりません。変化は確かに起こりますが、確かな予測は不可能です。例えば、EV化によって内燃機関が不要になると言われてきました。しかし、いつどのぐらいの規模でどこまでなくなるのか、じわじわと残っていくのかはわかりません。自動車業界における四つの次世代トレンドといわれるCASEの進展も、何らかの影響を及ぼすはずです」

これまでのような、内燃機関が差別化の基本だった時代には、「すり合わせ型」の仕事や組織の形が、効果やクオリティーを生んでいた。しかし今後は、「組み合わせ型」のオープンソース的な部分が重要になってくると考えられる。内部取引費用の軽減よりも、外部機会の取り込みの必要性が高まり、外向きでアンテナの高い多様な人たちの活躍が求められるようになるからだ。そうすると均質で内向き求心力のある組織から、多様性のある外の機会獲得を重視する組織への変化が起こる。

「さらに、学び方も変化することになります。過去の産業化社会が目指してきたような、緻密に計画を立案して着実に実行するというタイプの進め方では通用しにくくなくなるのです。すると、日本人のこれまでの学び方では問題があるので、今後は見直していかなければならない。問題の一つ目は“安心社会型”の学びです。内部のタテ型伝承に偏った、タテ型OJTとも言えます。これまで先輩や上司が、後輩や部下を指導していくことで、日本組織の強みをつくり上げてきました。ところが、今後はそれが弱みになってしまう。自己啓発が弱く、外から刺激を受けたり学んだりしない傾向が強いので、イノベーションも起きにくくなると予想されるからです」

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二つ目の問題は「タテ社会型」の学びだ。会社というタテ社会に大きく依存し、タテ関係の中においては学ぶが、外のプロフェッショナルとは交流しない、学び合わないという特徴がある。変化の激しい時代には、社内で得た学びは時代遅れとなっていて、外の動きや新しい動きについていけなくなるかもしれない。タテの枠を超えて、外に出て、同じような仕事をしている人たち同士による、ヨコでの学び合いが必要になる。

「三つ目の問題は“詰め込み型”の学びです。日本の学校教育の影響が多分にあると思いますが、丸暗記型の試験対策に慣らされてきたために、深く学ばない、学びを面白がらない、学びの意味を考えない、といった傾向が強い。学びが身に付きにくく、変化に対する応用力にも欠けます。すると、四つ目の問題である“正解主義的”な学びにも陥ってしまうわけです。正解だけをただ求めるために、自ら考えて試行錯誤するのは時間のムダと考えてしまう。持論を形成する習慣がつきにくくなり、正解のない仕事に対処できなくなるのは明らかです。五つ目の問題は“独学に慣れていない”という問題。先生から教えてもらうことを待っているだけで、独学をしながらヨコと共有し学んでいくという刺激的な学び方が不足しています。これら五つの問題に着目し、学びをどう変えていくのかを考えなければなりません」

時代の変化は「キャリア形成のあり方や求める人材像」を変える

変化は学び方だけなく、キャリア形成のあり方にも及ぶ。まずは、計画的にキャリアをつくること自体が非現実的になったことをしっかり認識する必要がある、と高橋氏は説く。長期的で具体的な目標を綿密に立てて、キャリアを計画的合理的につくっていくという発想は、かつての工業化社会のパラダイムだ。

「“計画的”ではなく“結果的”に、満足度の高いキャリアに導くのは“良い習慣”です。習慣によって、自分らしく満足度の高いキャリアにたどり着く確率が明確に変わります。“専門性”も、キャリア形成には不可欠です。表面的なテクニックでは対処できないような環境変化が起こり、さまざまな分野で専門性の細分化が進んでいるため、深い専門性と深い学びが重要です。“多様な人たちとの信頼関係構築能力”もキャリア形成には欠かせません。これは多様な人と短期間に信頼関係をつくり、互いの専門性を上手に橋渡しして成果に結びつけることができるスキルです」

キャリア形成のあり方が変わると、人材像も変わってくる。例えば、リーダー像に注目すると、これまではタテ社会型の強みをうまく活用し、精神的な支柱として求心力を持つ「武士道リーダー」が組織のトップに多く見られてきた。一方、今後は「商人道リーダー」が求められるようになる。リーダー自身が積極的に外に出て行き、多様な人たちと新しい信頼関係を次々と構築することが重要になるからだ。

「これまでのタテ社会型では、リーダーの卓越した才能やリーダーシップという能力の高さよりも、配下の人の能力の総和の高さが大切でした。つまり、おみこしの乗り方や担がせ方がうまい人がリーダーに適していたといえます。ところが、ヨコ社会型では、専門性を持つプロフェッショナルがリーダーにふさわしくなります。例えば、医師や弁護士は日本では相対的にヨコ社会が形成されている分野ですが、どんなに素晴らしいマネジメント経験があっても、医師や弁護士ではない人がリーダーとして活躍するのは難しい。自らも現役であり続ける、ハンズオンリーダーシップが今後は中心になります」

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ハンズオンリーダーシップはガバナンスにも影響する。タテ社会型ではリーダー自身がガバナンスを担ってきた。ミドルが考えたことをトップがさばき、上手にブレーキをかけて調整していくのが典型的パターンだ。ところがハンズオンリーダーシップの場合、ブレーキ役を果たすのは外部取締役や外部監査役となる。リーダーには、新しい課題を見つけてはチャレンジする、というアクセル役が求められる。

「経営資源の活用に関しては、従来のように内部の経営資源を戦略に則って効率的に活用する形は難しくなり、今後は外部資源との協業が肝になります。わかりやすい例が社会起業家です。自社内の経営資源がほとんどないため、人のフンドシで相撲を取らなければなりません。そのためには、外に出て人をうまく巻き込んでいくタイプのリーダーシップが大事。以上を念頭に、時間を要するリーダー育成の方法も変えていかなくてはなりません」

結果的に満足度の高いキャリアへと導く「六つの良い習慣」

高橋氏が先に述べた、「“結果的”に満足度の高いキャリアに導く」という「良い習慣」とは、学びに関するものだという。一つ目は、持論形成とアウトプットの習慣だ。何に対しても問題意識を持ち、インプットなり刺激を受けたときに「私はどう思うのか」と考えてみる。そして、口に出しアウトプットできるよう頭の中を整理しておく。二つ目は、深く学ぶ習慣と考え方を伝える習慣だ。物事の現象を表面的に受け止めてすぐに答えず、その前に自分に常に問いかければ、基礎理論や歴史的背景にも思考が及ぶようになる。その思考を相手に伝えてみたときに理解されなければ、自分も理解できたとはいえない。相手が納得するまで工夫して伝え続けることは、自分自身の腹落ちにつながるのだ。

「三つ目は、独学と学び合いの習慣です。独学とは、受け身で教わるのではない主体的な学びのこと。本やインターネットなどから学んだことを人と共有し合えば、新たな気づきも得られます。四つ目は、体系的先端的専門性の継続的追求の習慣です。長い経験から身に付いた“経験的な専門性あるいは実務的な専門性”は、イレギュラーな事態や変化に弱いものです。基礎理論である“体型的”専門性は、実務経験がないと空理空論になってしまいます。“先端的”専門性は、外に出てヨコから新しい流れなどを学ぶものです。これら三つの専門性を、偏らずに求めるべきです」

五つ目は、人間関係を積極的に切り開き、関係性に投資する習慣だ。布石のような形で打っておいた人間関係が、のちに思わぬ収穫として返ってくるケースは、今後ますます増えると考えられる。六つ目は、観察し傾聴し働きかける習慣だ。サッカーのJリーグの調査によると、長く活躍できた選手と早い引退を余儀なくされた選手の違いは、肉体やスキル以上に、観察し傾聴し働きかける習慣が大きいことが判明した。相手を観察・傾聴し、それを受けて積極的に動く重要さが示されている。

学びの最終目標は「変化に対応できる自分の世界観を磨き上げること」

高橋氏は「学びの習慣を変えるという意味からも、リカレント教育が注目されているが、これは新たな知識を頭に入れるといった単なるスキル更新を意味するものではない」という。

「変化に対応するために自ら変化し続け、キャリアを切り開き続ける能力を身に付ける、ということです。それには、先ほどお話しした六つの良い習慣が重要で、自分の仕事観、世界観、人生観、歴史観、経営観などの形成にアップグレードを促してくれます」

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リカレント教育にあたってはリベラルアーツに注目すべき、と高橋氏は語る。今後、グローバルな場に出てさまざまな人たちと人間関係を構築していくには、幅広い教養や知識が欠かせない。仕事に役立つ専門分野だけでなく、長い人生の中で自分の生きがいとなるような趣味の探求も大きな力になる。一見関係のない知識は、直感的につながってイノベーションを生み出す可能性を高める。アートや音楽などを感性で受け止め、持論をアウトプットし議論を進めると、直感も研ぎ澄まされていく。

「今後一番大事になるのは、物事の本質を理解し普遍性の高い発想の引き出しを増やして、自分の世界観形成につなげていくことだと思います。リベラルアーツはそこで優れた力を発揮します。リベラルアーツを学ぶ際は、フィクションよりもファクト、フィロソフィーよりファクトを重んじてください。経営者の哲学というものが、多くの経験や認識の裏にある背景やプロセスによって完成したことからもわかると思います。本を読む際も、問題意識を持ちつつ本質を理解しようと努めるのです。一つの分野だけでなく違う分野の本も読めば、異分野間の本質的なつながりに気づくこともできます」

リベラルアーツを学ぶ過程では、ファクトへの謙虚さ、異なった意見に対する前向きな議論、異なる分野にある関係性を意識する。そういった姿勢が、変化に対応できる自身の世界観を磨き上げていくという。今このタイミングで新しい学びを始めてみてほしい、と高橋氏はエールを送った。

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