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データや事例から読み取る、大手企業における「強みをいかす人事業務変革」の潮流

  • 伊藤 秀也氏(株式会社Works Human Intelligence 経営企画 Vice President)
  • 関 尚弘氏(古河ファイナンス・アンド・ビジネス・サポート株式会社 代表取締役社長)
東京特別講演 [B-5]2020.07.03 掲載
株式会社Works Human Intelligence講演写真

従業員の価値観やリテラシーなどの内的変化、市場環境や技術革新などの外的変化により、組織運営に必要な制度やシステムの最適な形は刻々と変わる中で、人事はどう対応すればいいのか。大手企業向けのパッケージソフト開発や人事関連サービスを展開する株式会社Works Human Intelligenceの伊藤秀也氏が、古河ファイナンス・アンド・ビジネス・サポート株式会社の関 尚弘氏の取組みを基に、大手企業における人事業務変革の潮流を探った。

プロフィール
伊藤 秀也氏( 株式会社Works Human Intelligence 経営企画 Vice President)
伊藤 秀也 プロフィール写真

(いとう ひでや)大手企業の人事・給与管理システムに携わって20年。自社ソリューションのユーザー会を通じて、年間500社・50回を超える多様な業種・業態の大手企業とのテーマ別ディスカッションによるフィールドワークを通じて課題を正確に把握。制度・運用・システムなど、人事に共通する課題を解決するべく取り組みを続けている。


関 尚弘氏( 古河ファイナンス・アンド・ビジネス・サポート株式会社 代表取締役社長)
関 尚弘 プロフィール写真

(せき なおひろ)北海道大学卒業後、古河電気工業(株)に入社。情報システム部に異動し、10年間で1900日出張。全社情報管理、人事BPR等の社内情報システムPJに関与。2008年、人事部採用課長。2012年、戦略本部経営企画室にて組織改革、意識改革等を担当。2016年より現職。著書に『反常識の業務改革ドキュメント』。


新型コロナウイルス感染症への対応状況から見える潮流

講演写真

人事業務全般を統合的に管理するシステム「COMPANY」を提供するWorks Human Intelligence。同社ではシステムベンダーの観点から、セミナーなどを通じて人事部向けの情報を提供しており、年間500社、50回を超えて大手企業とテーマ別ディスカッションを行い、ユーザーの課題把握やシステム開発に役立てているという。

伊藤氏自身もユーザー会を通じて年間500名~700名の経営者や人事担当者とディスカッションを行っている。直近で大きな話題となったのは、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行だという。そこで、同社サービスを利用する大手法人の人事部を中心にアンケートを実施した。1回目の調査は政府から学校の休校要請される直前の2月21日から26日。2回目の調査は緊急事態宣言が発令される前後の4月6日から10日に行われた。

「アンケートでは『新型コロナウイルス感染症対策として、時差通勤や在宅勤務などに取り組まれていますか』と質問しました。2月の調査では、働き方改革やオリンピックへの対応もあり、既存制度を活用している法人が多かったのですが、『新たに対策として実施している』と回答する法人が28.5%いました。この回答の割合は、4月調査では87.6%となり最も多い割合になりました」

「在宅勤務を許可しているか」という質問に対しては、4月の調査では「全社で対応」(42.0%)と「一部部署・職制で対応」(47.3%)の合計で約90%が在宅勤務を許可していることがわかった。

在宅勤務の実施状況は以下の通り。

  • 全社的に完全に原則在宅勤務:14.9%
  • 現場や現業部門以外で原則在宅勤務:40.4%
  • 従業員の判断で在宅勤務を選択可能:31.6%
  • 子供の休校など、事情がある場合のみ在宅勤務:13.2%

また、人事部門における在宅勤務の実施状況は以下の通りだった。

  • 人事部門全員が在宅勤務:3.4%
  • 業務上必要な対応がある場合のみ出社を許容:56.0%
  • 希望者のみ在宅勤務:24.0%
  • 在宅勤務を行っていない:16.0%

伊藤氏は、人事部門はセンシティブな情報を取り扱うため、在宅勤務がしにくい面があるものの、多くの企業で在宅勤務を実施していると解説した。人事給与システムの外部からの接続については、「セキュリティ対策を行うのは大前提」と伊藤氏は補足した上で、21.9%が認めていると紹介した。

古川電工グループでの「テレワークにおける工夫」

講演写真

関氏が所属する古河ファイナンス・アンド・ビジネス・サポート(古河FBS)は、古河電工グループでシェアード・サービスを担っている。関氏は、古河電工で人事業務変革プロジェクトの副リーダーを務め、各地を奔走した経験を持つ。

「当社では働き方改革のもと、約3年前からテレワークに取り組んでいます。まず、2018年にリーダークラスから始め、2019年は全員に専用のノートパソコンを配布。2020年1月からは週1回でテレワークを実施しています。37社9,700人分の給与計算も全部テレワークで行いました。ただし、書類の押印や郵送物の処理もあるため、完全テレワークは至らず、4月のオフィス出勤率は14.0%でした」

関氏はテレワークで一番効率的な日数は週2日という欧州の論文を紹介した。実際、週5日のテレワークでは社員同士の雑談がなくなり寂しさを感じることも判明したため、Teamsのチャットに雑談ルームを設け、仕事と関係のないチャットができるようにしたという。

また、在宅勤務では時間管理が把握しにくいため、「出勤しました」「これからお昼ご飯にします」「退勤します」といったコメントを投稿するルールを設けた。そうした投稿に対して、管理職やメンバーが「いいね」などのスタンプで反応する。

「リアルな職場では、給与計算の作業中に隣の席の人に質問して確認し合うこともできますが、テレワークでは難しい。そこで、給与計算中はTeamsのビデオ会議に接続しつづけてもらうことにしました。この際、音声・チャットはオン、ビデオはオフを基本に、必要な時だけオンにして質問をしたり、声を掛け合ったりします。給与計算の際には8時間48分繋ぎっぱなしの日もありました。この方法によって実際の職場にいるのと変わらない雰囲気が生まれ、いつも誰かと繋がっている安心感は寂しさも解消してくれます。ビデオをオフにしておけばデータ通信量の抑制にもつながります」

古河FBSではまた、2019年に働きながら休暇を取る「ワーケーション」のトライアルを行った。帰省先に子どもを預けてシェアオフィスを2週間ほど利用する。実家の親は孫の面倒を喜んで見てくれるため仕事に集中でき、学生時代の友人と旧交を温める時間も持てたと、トライアルに参加した社員は喜びの感想を寄せてくれたという。関氏は、ワーケーションはITリテラシーやワーク・ライフ・バランスの向上なども期待でき、テレワークとともに今後効果的な制度になると考えているとした。

自分ごとでのデータの捉え直しは、人事業務変革のヒントになる

直近の変化である新型コロナウイルス感染症の世界的流行とは別に、中長期的な変化として避けられないのが少子高齢化に伴う人口減少だ。1900年ごろ4600万人だった日本の人口は100年で約3倍に増えたが、今後100年で同じスピードで減少すると予測されている。関氏は、新書『未来の年表』(著:河合雅司)の中から、2025年に団塊世代が後期高齢者になり、そのうちの4割が要介護状態になり、医師や介護福祉士が不足する時代に入る。すると遠距離介護や在宅介護が増加する説明する。

「人口減少は目に見えませんし、長期的な変化であるため、自分ごととして問題意識を持つことが重要です。そこで取り組んだのが『見える化』です。COMPANYのシステムに記録しているグループ会社9700人の情報を基に、1社ごとの人口ピラミッドを作りました。ピラミッドからは、例えば10年後の各年齢層の人員の予測が可視化されます。後期高齢者の親御さんを持つ可能性の高い年齢層のボリュームを見ると、介護や介助という課題がいつ大きくなるかが見えるわけです。さまざま場で社員や役員にこのシミュレーションを見せて、中長期的な問題について理解してもらっています」

続けて、5年以内に4人に1人、10年後に2人に1人の割合で働きながら介護をしているだろうというインテージリサーチ社の調査を紹介。同じ設問を自社グループで取りまとめたところ、10年後に4人に3人が家族の介護が必要な状態になっているだろうという結果が出た。自分ごととしてのデータの捉え直しは、人事業務変革のヒントになると関氏は強調する。

不都合な決まりごとを放置せず、企業同士で協力してルールを変えていく

伊藤氏は、短期的・中長期的な課題に対して自社の改善はできたとしても、法制度やルールは自社だけでは変えられない。変える鍵は現場の実情に即した前向きな提案にあると指摘する。

講演写真

「今まではどちらかというと法制度やルールに合わせて、社内制度や業務フローを見直し、従業員教育を組み、システムを導入してきました。現場からは『ここをこう変えればもう少し業務がシンプルになる』『ここが統一されると複雑なシステムをつくらずに済む』という話が出てきます。ところが、法制度やルールを決めている側は、現場の実情を熟知している訳ではない。ですから、法制度を作る政府・行政に対して、業務を行っている側から前向きな提案を伝えることが重要になります」

伊藤氏は、「就労証明書の標準的様式策定」の事例を取り上げた。これは、子どもを保育所に入るために親が就労していることを証明するため、自治体などに提出する書類だ。239社の協力を得て独自アンケートを実施したところ、就労証明書の発行業務に1社あたり年間平均88時間をかけていたことが判明した。「自治体ごとにフォーマットも異なっている」「手書きで作成している」などの実態を含めて、結果を内閣官房に提出。さらに国会議員と7社の人事部門担当者が、法制度改定について意見交換する会合を2016年10月に行った。

「その結果、2017年8月に内閣府、厚生労働省から、フォーマットの標準様式が定められました。今では半数以上の自治体が採用し、徐々に浸透しています。様式が揃うとシステム対応も進めやすくなります。この取り組みには、古河FBSの関様にも参加いただきました」

関氏は、「これが当たり前だから」「もう変わらないから」といった思い込みは禁物であり、不都合や非効率な事柄があれば、声を集めて伝えれば自分たちでも変えられる。そんな手応えを感じたと明かした。

最後に伊藤氏は特別徴収税額の決定・変更通知書の事例を紹介した。

「数年前の話ですが 『給与所得等に係る特別徴収税額の決定・変更通知書』のマイナンバーの記載方法が、自治体によってバラバラだったことから国会議員との会合で提言したところ、2017年に法律が改正され、2018年度以降の通知書からマイナンバーが不記載になりました。さらに、電子化も検討されています。人口減少の中、限られた人数で生産性を上げていくためにも、日々感じる不都合な決まりごとを放置せず、企業を超えて協力しながら変えていく取り組みは大切です。業務改善でもシステム投資でもない解決策があることを知っていただければと思います」

「急激に世の中が変わっている今は、停滞していた事案を一気に進めたり、今までのやり方を変えたりする、いいタイミング。これに乗り遅れないようにしてほしい」と語り、講演を締めくくった。

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