「育てる」をやめると若手社員が「育つ」 現場と若手をつなぐ働き方の哲学
- 村山 昇氏(キャリア・ポートレートコンサルティング代表)
- 武信 絢子氏(AIGビジネス・パートナーズ株式会社 人事部 Learning&Development)
- 川口 唯貴氏(リ・カレント株式会社 若手人材開発事業部 プロジェクトマネジャー)
![リ・カレント株式会社講演写真](images/202005-D5-img01.jpg)
変化が激しく正解がないといわれる現代において、若手育成で重視されるのは一人ひとりに働く意義を持たせることだ。しかし、現状の人材育成施策では十分な成果が得られていないと感じる人事担当者は少なくない。どうすれば効率的な人材育成ができるのか。人事コンサルタントの村山 昇氏とAIGビジネス・パートナーズ 人事部の武信絢子氏、リ・カレント株式会社 若手人材開発事業部の川口唯貴氏が若手育成で意識すべきポイントについてディスカッションした。
![村山 昇 プロフィール写真](https://img.jinjibu.jp/updir/hrc_lecturer/025/02501/D5_murayama.jpg)
(むらやま のぼる)『働き方の哲学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)著者。1986年慶應義塾大学・経済学部卒業。プラス、日経BP社、ベネッセコーポレーション、NTTデータを経て、03年独立。主に企業の従業員を対象に、プロフェッショナルシップ、キャリア教育、コンセプチュアル思考、管理職研修等のプログラムを開発・実施。
![武信 絢子 プロフィール写真](https://img.jinjibu.jp/updir/hrc_lecturer/025/02502/D5_takenobu.jpg)
(たけのぶ あやこ)2014年に旧AIU保険会社へ新卒入社。保険金支払担当業務の経験からトレーニングの道を志し、保険金支払部門専門のトレーニングチームを経て、2018年より現職。主に新卒社員導入研修、若手社員向け研修を担当。業務の傍ら、2016年より3年間、社内の若手社員向けグループ「Young Professionals ERG」の代表として若手向けの全社イベントを企画・実施。
![川口 唯貴 プロフィール写真](https://img.jinjibu.jp/updir/hrc_lecturer/023/02365/D5_kawaguchi.jpg)
(かわぐち ゆいき)16年大学卒業後、リ・カレントへ新卒入社。若手人材開発事業部「トレジャリア」の新規事業立ち上げに参画。19年2月より同事業部のプロジェクトマネジャーを務める。”周囲の期待”と”自分の在り方”のギャップに悩みながら「自分の仕事観」を持つ重要性を見出す。若手が仕事を通し自身のキャリアを描く育成モデルを提唱。
今求められるのは、仕事への意義付け力を持ち、自ら育つ若手
リ・カレントは企業向け研修サービス、人材および組織開発コンサルティング事業を展開している。講演の冒頭で同社の川口氏は、若手人材育成の問題点について語った。
「正解のない時代において若手育成で大切なことは、若手一人ひとりに働く意義を持たせることです。しかし、若手育成の現状は一言でいえば、『人事・現場の時間と労力』と『若手の成長努力』に見合う育成効果が得られていません。企業からもこのような相談を多くいただいています」
企業にヒアリングすると、育成側からは「早期戦力化のために育成施策を行っているが、現場からの声は芳しくない」「忙しい中、指導しているのに打って響く感触がない」といった声があがってくるという。一方、若手からは「周囲の期待に応えるために自分なりに努力をしているが、成長実感が持てない」「努力してできることは増えたが、自分のなりたい姿につながっているのか疑問」という声が聞かれる。ここで川口氏は、現場で人材育成を行う村山氏、武信氏に現状を聞いた。
「若手には両極なタイプが増えています。一つはピンポイントでスキルを身に付けたいと視野が限定されている人。その反対にいるのは、漠然としか将来像を描けず、日々の仕事に流されるだけで不安感を持っている人です。企業の人事は、教育や配属のミスマッチに悩み、個々の要望が見えずに何をすべきかわからないといった状況にあります」(村山氏)
「若手からは『自分が今どこに向かっているのかわからない』『目的やゴールが見定められないままに日々忙しくしている』など、成長実感が持てないという言葉が聞かれます。一方で上司側から見ると『手をかけて育てたのに辞めてしまった、異動してしまった』という事態が起きている。お互いに相手に対する期待のズレが見られています」(武信氏)
![講演写真](images/202005-D5-img02.jpg)
川口氏は、若手育成の効果が得られにくい原因として「若手と育成側で『成長』や『一人前』に対する理解に差がある状態で育成が進むことに起因するのではないか」と推測する。
「企業の育成側は社員が業務遂行できるようになることを育成の目的としますが、若手側は自分の目指す姿に成長することを目的としています。ここに差があります。企業は、時間と労力をかけて具体的な指示指導で業務力を高める育成を行い、細かすぎる業務指導や正解の付与をしてしまう。その結果、若手の仕事に対する自主性の発揮や動機発見の機会が失われていきます。このため、若手は成長実感が得られないことから息切れしてしまい、成長のゴールが不明瞭になり、自分成長と仕事が重なるような働く意義を見つけられなくなっています」
武信氏と村山氏は、育成側が若手に関わり過ぎることで起こる弊害について以下のように語った。
「若い人は自分から考えを発信するよりも、目の前にある問題の答えばかりを考えがちです。働く意義は入社5、6年目でも見つけることが難しく、普段から継続的に話をしないと深まりません。そこで当社のトレーニングでは『常に自分はどうか』と自分ごととして考えることを徹底させています。これによって、自分のなりたい姿が言葉になる。そして、入社2年目のフォローアップ研修では、直接的に働く意義にスポットを当てたトレーニングを行います。同時に上司には普段から積極的に対話することを求めています。育成の初期段階で広い視野を持たせられるかどうかは、その後の成長に大きく影響すると考えています」(武信氏)
「仕事での知識やスキルの教育の場だけではなく、業務処理の仕方などに細かく口を出してしまっているのではないでしょうか。それはある程度のレベルにとどめ、仕事観や職業人としてのあり方など、もっと根っこの部分について若手と対話を増やす必要があります」(村山氏)
では、今、若手育成において目指すべきあり方とは何か。川口氏は「業務遂行力」と「仕事への意義付け力」を開発し、若手自身がキャリアを築き上げ、育つようにしていくことが重要だと語る。
![講演写真](images/202005-D5-img03.jpg)
「当社の調査によれば、20代の社会人のうち働く意義を持っている人は約1割でした。また、将来のキャリアイメージを持っている人も約1割しかいません。だからこそ、仕事やキャリア・担当事業はどうあるべきかという考え方、自分はいかにあるべきかという部分にアプローチし、若手の行動特性を変えていくことが重要です」
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