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進化し続ける「戦略人事」〜人事が企業の成長エンジンになるためのWhatとHow

  • 土井 哲氏(株式会社インヴィニオ 代表取締役/エデューサー)
東京特別講演 [C-6]2020.07.03 掲載
株式会社インヴィニオ講演写真

グローバル市場における存在感が薄れつつある日本企業。競争優位性の再構築に向けた変革が問われている。人事部門が挑むべきハードルも高い。最大の資産である人材が持つ潜在能力をどこまで引き出せるかに成否がかかっているからだ。先行き不透明なVUCAの時代を勝ち抜いていくことさえ難題であったが、さらに追い打ちをかけたのがコロナショックといえる。働き方がすっかり様変わりしてしまったが、今後、人事部門が戦略人事へと転換しどのような役割・機能を果たすべきなのか、また戦略人事の担い手であるHRBP (ヒューマン・リソース・ビジネス・パートナー)の機能という視点から、具体的なアプローチが提示された。

プロフィール
土井 哲氏( 株式会社インヴィニオ 代表取締役/エデューサー)
土井 哲 プロフィール写真

(どい さとし)1984年、東京大学経済学部卒業後東京銀行に入行。在職中に米国MITスローン経営大学院にてMSを取得。92年McKinsey & Co.に入社、通信業界、IT業界のコンサルティングに従事。97年にインヴィニオの前身である(株)プロアクティアを設立。以来、人材開発・組織開発分野のコンサルティングに従事。


人事部が事業変革と成長へ貢献するために

土井氏が代表取締役を務める株式会社インヴィニオはもともと、プロフェッショナル人財の育成をテーマにスクール事業からスタートした。その後、次世代経営者を中心とした人財研修に着手し、いまではすっかりリーダー育成の手法として普及したアクション・ラーニングの手法を先駆けて日本で展開し、事業と事業リーダーの同時開発の実績を挙げてきた。2000年代には、リーダー育成と組織文化変革を両輪に、そして近年は戦略・組織・人財をいかに結び付け整合的に開発していくかに取り組んでいる。

冒頭で土井氏は、講演の趣旨をこう語った。

「人事部門が企業の成長エンジンとなるために、何をしなければならないのか。特に、最近注目を浴びているHRBPの役割、あるいはそのHRBPの重要な仕事の一つである組織デザインの具体的な方法論を説明していきます」

これまで四半世紀近くにわたって人事の担当者と接してきたなかで、土井氏は感じていることがあるという。それは、人事と経営がうまくかみ合っていないことだ。社員のエンゲージメント低下や若手社員の離職などの課題に対して、人事なりに施策を打っているが、経営からは「そんなことをやって本当に勝てるのか」「それで会社のパフォーマンスは上がったのか」と責め立てられる。

土井氏は、経営から真に求められているものと人事施策には断絶があると語った。

「戦略や結果と人財・組織との間には高い壁が存在しています。経営としては、戦略を実現して結果を出したいと思っています。それに対して、人事部門が人財や組織の面でどう答えを出していけばいいのでしょうか」

今後は、新型コロナウイルス後に向けて人事がどんな方針を打ち出していくのかも経営者は聞いてくるに違いない。そうした場面で曖昧な返答をしてしまうと、「何が重要なのかを本当に分かっているのか」と経営から叱責されてしまうかもしれない。

かつてGE(ゼネラル・エレクトリック)の再生と急成長を支え、「リーダー輩出企業」と呼ばれるまでに育てた元CEOのジャック・ウェルチ氏は「『人事部は貢献度ナンバーワンの部署でなければならない。勝つための方法を知っているのは人事ディレクター』だと述べています。しかも、今や人事部門が経営に積極的に関わっていくことが求められている時代です。そのため、多くの企業はHRBP部門を新設しています」

AOSという手法とHRBPという役割

そんな矢先に、土井氏が出会ったのが、『DIFFERENTIATION BY DESIGN』をスローガンに掲げる米国のAlignOrg Solutions(以下、AOS)であった。組織デザインによる差異化の実現、差異化した組織になるための変革を推し進めている、ユニークな会社だ。
「同社と出会うことで戦略と人財・組織を隔てる大きな壁をぶち破るための方法論が見つかりました。HRBPの役割と使うツールを皆さんに紹介することで、人事部が戦略人事へと変っていく道筋を考えてみたいと思います」

そもそも、HRBPとはどんな役割を持っているのであろうか。土井氏は、「ビジネスと人事をつなぐプロフェッショナル」と定義する。

「いわゆるCOEと呼ばれる人たちと連携し、経営・事業部トップが考える戦略を理解しながら、人事や組織の面からサポートしていく役割を担っています。重要なことは二つあります。一つは、事業と戦略を正しく理解すること。もう一つは、COEと連携しながら戦略実行を人と組織の観点から支援していくことです」

講演写真

聴講者はHRBPについてどれくらい知っているのであろうか。土井氏がアンケートを行った。その結果として、「今日初めて聞いた」が予想外に多く、HRBPについては熟知している方々はわずか3%に過ぎなかった。

実際、土井氏も企業から「事業部人事がある日突然HRBPを名乗ることになったが、特に仕事に変化はなく、具体的に何をする仕事なのかイメージを持てない」「事業部門の御用聞きで聞きに留まっていて、戦略まで踏み込めていない」といった話を良く耳にするという。

「いかに事業と戦略を理解するか、どうやって戦略実行を人と組織の観点から支援するかは、『正直分からない』という話があります。AOSは、まさにそこを手掛けています」

具体的に、AOSはどんなアプローチを持っているのであろうか。
「HRBPはまず、経営や事業部門が何をしたいのか、その方向性と戦略を理解するところからスタートし、その戦略を実現するためには、具体的にどのような組織能力を持たないといけないのか、さらにその組織能力は日々どのような活動から成り立つのかを特定できないといけません。逆に言うと、組織能力と活動が特定できると組織の六つの要素をデザインできるわけです」

つまり、戦略の理解から始まり、組織能力と活動を特定し、それを人事の専門家として組織の6要素に落とし込んでいくことが、AOSの考えるHRBPの役割となってくる。

「戦略を理解するにあたっては、なぜその戦略を実行していくのか、さらにはその前提となる経営環境についても理解しなければなりません。組織を設計し、実際に動かし始めて狙っていたような結果が出ているかを検証していくと、場合によっては再設計も起こり得ます。この検証・改善もしていかなければなりません」

それらを進めるために、AOSでは環境分析、戦略の理解、マクロデザイン、ミクロデザイン、検証と改善というようにステップ・バイ・ステップで進むことのできる体系立てられたプロセスと実践経験から磨かれた多数のツールを用意している。AOSは、これらを通じて確実に戦略を実行していくアプローチを採っていると土井氏は説明した。

「大事なことは、解くべき課題と必要になるアウトプットに合わせてツールを選び、効果的・効率的に前進すること。戦略を作るのは、事業部門の責任ですが、その戦略がどういう狙いでできていて、何を実現しようとしていかは、HRBPとして理解しておく必要があります」

AOSが提供するツールのなかでも、土井氏は戦略を理解するためのANCHORと組織能力、活動を設計する活動システムマッピングの二つを取り上げて解説した。

「ANCHORは、ビジネスモデルを理解するためのツールです。Audience(ターゲット顧客)、Need(提供価値)、Channel(提供チャネル)、Omit(トレードオフ)、Revenue(利益の稼ぎ方)の頭文字を採っています。特に重要なのは、Needです。ターゲットとする顧客が、皆さんの会社を選ぶ理由、言い換えれば、皆さんの会社がお客さまに提供している価値は何か、その価値は十分に差異化されていて、競争優位性を持つのかをまずは問いかけてみることが大切です。提供価値が明確になったら、次は組織能力と活動を設計します。これを活動システムマッピングと呼んでいます」

実際に組織能力と活動を特定してみようということで、モノの製造販売からソリューション販売への戦略転換を図っているメーカーを例に考え方が説明された。

「戦略は未来を創るものですが、現在の組織は過去に築かれたものと言えます。今までと違うことを戦略として実行していこうとなると、新たな組織能力を築く必要があります。ここで注意しなければいけないのは、個々人が何をできるかだけではなく、設備などの資産を持つことで何ができるかも含まれることです。例えば自動化された生産設備で、ローコストで生産できることも組織能力の一つになってきます」

土井氏は未来の活動を描写するためにも現在の活動を棚卸する有効性についても語った。前提として、人事部門が行っている仕事は以下の四つに分類できるという。

  1. 差異化を生み出し、競争優位性を高める活動
  2. 1を支援する活動
  3. “必要な”活動
  4. コンプライアンス上やらなければならない活動

「1と2が少なくて3が多い気がします。3が『本当に必要なのか』としつこく聞いていくと、ほとんどが『止めても問題ない』という話になります。止められるものは止めて、新しい活動に時間を使っていくようにするとHRBPの価値をより発揮していけます」

これに類することは、生産性の向上においても当てはまると土井氏はいう。生産性をアウトプット÷インプットと定義すれば、競争優位性への影響が少ない業務をなるべく減らして、より重要な業務に労働力を振り向けた方が、競争優位性の実現に直結する成果を導きやすくなるので、自ずと生産性も向上する。

講演写真

現在の活動を棚卸する有効性は他にもある。具体的には、以下の三点が提示された。

  1. 何をマネジメントすべきかという指針が確立できる
  2. 何を成果目標にすべきかパフォーマンス指標も明確になる。そのため、評価指標が戦略と連携した形で確立できる
  3. 獲得・育成すべき人財モデルを確立できるとともに、効果的なタレントマネジメント、サクセッションマネジメントを展開できる

戦略と組織の6要素をつなぐ組織能力と活動に関する話の次は、組織の6要素の設計について。ミクロデザインの領域だ。

「戦略は細部に宿る」ということで、パフォーマンスを上げる組織開発(ミクロデザイン)は人事にとって最重要かつ最難関の課題でもある。AOSの考えは、六つの要素を組み立てる順番が重要であること。その要とは、A.業務プロセス、B.構造とガバナンス、C.情報と測定基準、D.人財と報酬、E.継続的改善、F.リーダーシップと企業文化だ。

「AOSでは、組織開発は業績を上げるものでなければ意味がなく、業績に直結するのは、その企業の優位性であると考えています。だからこそ、ANCHORというフレームワークを使って徹底的に提供価値が競争優位性を持つのかを検討するとともに、これから行われる活動が何なのかということを組織能力とともにしっかり定義していくことを説いています。競争優位性の実現には、差異化を生み出す戦略があるかないかも重要ですが、それを支える組織の六つの要素の全体構造で決まるということで、6要素を戦略と整合させることが不可欠となってきます。その鍵が組織構造の順番(A⇒F)です。

これから行うべき活動を活動システムマップで明確化すると、競争優位性をもたらす新たな業務プロセスを創ることができます。これが決まると効果的・効率的な業務範囲や組織構造、権限や意思決定の範囲が決まります。そうした構造とガバナンスが決まると次は情報の流れや測定基準が議論できるようになるなど、順番を追って決めていくことで各要素の整合性が取りやすくなってくるわけです」

ただ、こうした業務プロセスの設計は、人事部門にとってかなりハードルが高い。土井氏は「人事がすべてをやる必要はない」と言い切る。「むしろ、ファシリテーターとしての役割を担いながら、事業部門と一緒に作っていくべきです」と呼びかけた。

こうしたAOSの考えに対する日本企業の反応はどうなのだろうか。「組織図を書き換えるなんて無理」「評価制度の変更には労働組合との折衝が必要」など、いくつかの意見がピックアップされた。ただ、実際には、「組織再編をしなくても業務プロセスをうまく流せる仕組みがある」「必ずしも制度変更をする必要性はない」など、導入に向けた障害はないと土井氏は説明した。

最後に、土井氏は講演の総括としてこう述べた。

「6要素の設計はルービックキューブを解くようなもの。解き方を知っていれば簡単です。鍵を握るのは『組織能力』と『活動』。組織能力を高める活動を人事の諸施策に具体的に落とし込んでいけば良いのです。本日はありがとうございました」

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