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ソフトバンク、ニトリホールディングスの事例から考える
激化する新卒採用競争を勝ち抜くための「採用力」

<協賛:株式会社グローアップ>
  • 源田 泰之氏(ソフトバンク株式会社 人事本部 副本部長 兼 採用・人材開発統括部 統括部長 兼 未来人材推進室 室長)
  • 永島 寛之氏(株式会社ニトリホールディングス 組織開発室 室長)
  • 服部 泰宏氏(神戸大学大学院 経営学研究科 准教授)
東京パネルセッション [I]2020.07.03 掲載
株式会社グローアップ講演写真

多くの企業がさまざまな課題を抱えながら、新卒採用に臨んでいる。特に今年はオンラインによる採用という大きなテーマが加わった。社会環境が激しく変化し、採用手法が多様化する中、人事はどのように採用活動を進めるべきなのか。既存の枠組みに捉われない新卒採用活動を行うソフトバンクの源田泰之氏、ニトリホールディングスの永島寛之氏がそれぞれの取り組みを紹介。「採用学」で知られる神戸大学大学院の服部泰宏氏がモデレーターを務め、ポイントとなる視点や考え方を探った。

プロフィール
源田 泰之氏( ソフトバンク株式会社 人事本部 副本部長 兼 採用・人材開発統括部 統括部長 兼 未来人材推進室 室長)
源田 泰之 プロフィール写真

(げんだ やすゆき)1998年入社。営業を経験後、2008年より現職。ソフトバンクグループ社員向けの研修機関であるソフトバンクユニバーシティおよび後継者育成機関のソフトバンクアカデミア、新規事業提案制度(ソフトバンクイノベンチャー)の責任者。SBイノベンチャー・取締役を務める。孫正義が私財を投じ設立した、公益財団法人 孫正義育英財団の事務局長。孫正義育英財団では、高い志と異能を持つ若者が才能を開花できる環境を提供、未来を創る人材を支援。教育機関でのキャリア講義や人材育成の講演実績など多数。日本の人事部「HRアワード2019」企業人事部門 個人の部 最優秀賞 受賞。


永島 寛之氏( 株式会社ニトリホールディングス 組織開発室 室長)
永島 寛之 プロフィール写真

(ながしま ひろゆき)東レ勤務を経て2007年ソニー入社。米国マイアミに赴任時にダイバーシティ組織の運営を通じてグローバル組織構築に興味を持ち、2013年に米国出店を果たしたばかりのニトリに入社。その後、店長、人材採用部長、採用教育部長を務め、2019年3月から現職。テクノロジーによる社員と会社の成長をマッチングする教育システム構築に全力投入中。「個の成長が企業の成長。そして、社会を変えていく力になる」という考えのもと、従業員のやる気・能力を高める施策を次々と打ち出す。


服部 泰宏氏( 神戸大学大学院 経営学研究科 准教授)
服部 泰宏 プロフィール写真

(はっとり やすひろ)1980年神奈川県生まれ。2009年神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了、博士(経営学)取得。滋賀大学経済学部情報管理学科専任講師、同准教授、横浜国立大学大学院国際社会科学研究院准教授を経て、現職。日本企業における組織と個人の関わりあい(組織コミットメントや心理的契約)、経営学的な知識の普及の研究、シニア人材のマネジメント等、多数の研究活動に従事。著書『日本企業の心理的契約: 組織と従業員の見えざる約束』(白桃書房)は、第26回組織学会高宮賞を受賞した。2013年以降は人材の「採用」に関する科学的アプローチである「採用学」の確立に向けた「採用学プロジェクト」に従事、同プロジェクトのリーダーを務める。著書『採用学』(新潮社)は、「HRアワード2016」書籍部門最優秀賞を受賞。近著に『日本企業の採用革新』(中央経済社)がある。


ソフトバンク:母集団を増やすことにこだわらずに学生ファーストで採用活動

まずソフトバンクの源田氏が採用戦略について語った。同社は、事業ドメインを変えながら成長してきた特徴を持つ。現在は通信サービスを中心としたコア事業に加え、最新テクノロジーを持つ国内外の企業とアライアンスを組み、AI、IoT、ロボティクスといった新領域の事業成長を推進。そのため求める人物像として、変化を楽しみながらチャレンジできる人を掲げている。

「年間で新卒550名、中途400名、販売スタッフを含めると1500名超を採用しています。新卒採用では“学生ファースト”をさまざまな判断基準に置いています。例えば通年採用は、学生が自由な時期に自己の意思で就職活動をできるようにしたいと考えて導入しました。

約1年半前に採用ホームページもオウンドメディア化して刷新。積極的な情報発信により、社内のさまざまなプロジェクトや仕事の内容などを学生にリアルに伝えるようにしました。その結果、PVは約2.5倍、直帰率は約半分に減少。学生からのポジティブなコメントも増えました」

採用活動では、母集団形成には注力せず、同社の求める人物像へのアプローチを強めるようにシフトした。メインとなるのは「JOB-MATCHインターン」。2週間または4週間、学生が社員と一緒に働く就労体験型だ。昨年度は約460名を受け入れた。インターン後、学生・部門が互いに希望し、その後の選考の結果内定に至った場合、 配属を確約する。「地方創生インターン」は、ICTを活用して地方の課題を解決する機会を学生に提供。「1Day選考会」は、地方の学生の情報格差や就職活動のために東京へ移動する不便を解消することを目的としたもので、各地で一連の選考を行い当日に合否も出している。

「選考プロセスでは、面接前にエントリーシートや技術アセスメント、動画面接などを入れています。エントリーシートと動画面接の評価にはAIを導入して効率化しており、それにより生まれた時間を学生と向き合う時間に充てています。ただし、AIで不合格になった人は採用担当が必ず再確認するプロセスを設けています。

動画面接はスマホかPCがあれば世界中から学生がエントリーでき、面接官がいつでも評価できる仕組みです。その後の面接に臨む面接官のトレーニングにも AI を活用しており、面接官のスキルの可視化も行っています。アイスブレイクは適切な内容か、ヒアリングはきちんとできていたか、学生のタイプに合わせて接していたか。面接を通じて動機づけや志望度がどうなったかなどをAIが判定し、面接官にフィードバックしています」

講演写真

ニトリホールディングス:業界への学生の意識を変えるアプローチに注力

ニトリホールディングスでは、マーケティング視点によって、未来から逆算した採用戦略を推進。採用とは、従業員としてのジャーニーマップ(入社後の社内での旅や冒険=活躍)を、学生と一緒にデザインしていくことだと永島氏は捉えている。

「求職者の価値観、好奇心、何をやりたい人なのか」を探り、「何のために働くのか、解決したい社会課題は何か」と問いを投げ、マッチングしていくことが重要になるという。つまり、求職者が将来どんなことを解決していきたいのかを一緒に考え、そのステージとして同社を選んだ人に入社してもらうことを目指している。

「新卒採用で特に意識しているのは、次の三点です。一点目は、外部環境に影響されない自社のスキームです。労働人口減少や働き方改革などの外部環境の影響を受けすぎると、学生が見えなくなってしまいます。学生のニーズを徹底的に掘り下げていくスタンスに立ち、外部環境と採用目標などの内部環境は2割、残り8割を学生というパワー配分にしています。

そこで最も注力しているのがインターンです。ウェブ上でも情報を提供していますが、製造、物流、小売、広報など、さまざまな仕事が当社にあることを知ってもらい、自分の興味ややりたいことを探してみる場にしています。毎年約8000人のインターン参加者がいますが、同期や後輩にイベントを紹介するなど、翌年や翌々年のエントリーに影響力を持つ点も重要です。内定者の約75%がインターンに何らかのつながりがあります」

二点目は、テクノロジーの活用だ。数年前からマス媒体よりも、ダイレクトリクルーティングや学内小型セミナーなど、対象者を絞り込んだ採用活動にシフトさせた。内定者がどんな経路をたどり入社したのかといった効果検証は、個人データにひもづかないデータを分析して翌年の活動に生かしている。一方で、専任リクルーター40人の人力を重視。海外を含めてエリア別に配置し、データや広報も任せる。対象者は入社3~5年目とし、期間は2年に限定。この活動は幹部候補生の教育の一環にもなっている。

「三点目は、採用広報の打ち方です。当社は2032年に売上3兆円を目指しています。そのためには、非連続的な飛躍・成長ができる学生の採用が不可欠。新卒採用は毎年550人ですが、流通業は比較的、学生に不人気です。そこで業界の既存イメージや常識を揺さぶるような広報を展開しています。例えば、商品開発の合宿に学生300名にも参加してもらい、自分の興味を仕事にマッチングしていける仕組みを取り入れました。流通業に興味のなかった学生の意識も変わり、文系の就職人気ランキングで上位に入るようになりました」

講演写真

これからの新卒採用を示す「四つの新キーワード」

両社の話を受け、服部氏は新卒採用の四つのキーワードをまとめた。一つ目は、求職者のリアルを捉えようとする動きだ。入社後に面接時との違和感が生じているため、従来通りの面接では求職者の本音が見えていないのではないかと疑問を持ち始めている企業も多い。心理学によると、人間は弱い環境下では自分の持っているパーソナリティーが行動に表れるが、強い環境下ではそれが引っ込み、環境に合わせた行動が表れる。面接は強い環境下にあたるため、求職者が自然体で動けるような面接やインターンを設計する動きがある。

「二つ目は“優秀さ”の問い直しです。採用要件を調査すると、似たような言葉が挙がってきます。例えば“コミュニケーション能力”。大事なことに間違いありませんが、イメージがぼんやりしています。“うちの会社でいうコミュニケーション能力とはどういうことか”といった独自の言葉や定義への落とし込み、咀嚼が進められるようになってきました」

三つ目は“求職者経験の発想”。採用の打ち手を考える際に、エントリー、選抜、内定といったポイントで考えるのではなく、時間軸でつないで、求職者は出会った日から内定の日までどういう経験を経るかと考えて設計するトレンドが見られる。すると、会社側がキャッチできているポイントの間、インターバルで求職者が何を経験しているかも重要なテーマになる。例えば、次の選抜までの間の学生の気持ちを考えた対応や連絡方法をどうデザインするか、ということだ。

「四つ目は“求職者のモヤモヤや課題に寄り添う”です。採用に成功している企業の多くは、求職者が抱えがちな気持ちに寄り添っていると感じます。例えば就活で必要な交通費などは、第一志望の企業であれば学生は気になりませんが、志望度の低い企業に対しては高いと感じてしまう。ハードルがあるがゆえに出会えない学生も多いという課題をどう解決していくのか。そういう点に着目して解消させることが大切です」

講演写真

ディスカッション:オンライン化がもたらす採用の変化とは

次に、服部氏が両氏に質問する形で議論が進められた。まずは、新型コロナウイルスの影響による採用活動の変化について。

源田:オンライン面接の仕組みが既にあったため、スムーズに学生へ案内ができ、選考上は大きな影響はなかったと思っています。ただ最近、「面接の待合室で学生同士が情報交換や雑談ができなくなった」という声を耳にしましたので、そこについてはオンラインでもそういった場を設けたいと考えています。

永島:オンライン面接をあまり行っていなかったため、当初は技術的な課題がかなりありました。それが解決されると、一気に面接が進みました。リアルな面接では教科書通りのことを語る学生も多いのですが、オンラインでは意外と本音が出やすく、いい意味でパーソナリティーが表れてくるように感じます。

服部:オンライン面接に切り替わったことで、リクルーターに求めるものは変わりましたか。

源田:優秀なリクルーターは、学生が今どういうことを考えているのか、何に不満を持っているのかを察知し、それに対してしっかりと話すことができます。これをオンラインでもできる人と、難しい人が出てくるとでしょう。完全オンライン化してまだ1ヵ月半なので、今後、各リクルーターのスキルが把握できるようになると思います。

永島:リアルに学生さんに会う場合でも、対面に強い人、電話が上手な人など、いろいろなタイプのリクルーターがいます。ICTを使うようになり技術的な差は出ましたが、1、2ヵ月も経てば、リアルのときの力の差に戻ると思います。

服部:「一括採用」や「一人一社一キャリア」といった既存の形は、これからどう変化していくと思いますか。

永島:「従業員のジャーニー」を、どこまで会社が認めていけるかがポイントになると思います。社会課題はどこの会社でも変わりませんから、その解決のために従業員自身がやりたいことがやれると感じられるうちは、自分の意志で会社に所属して頑張ってもらえればいい。人事としては、従業員一人ひとりが一生をかけて会社というステージに向き合ってもらえるようにデザインしていくだけです。あくまで、個人の体験にフォーカスし、今後もそれに沿って採用を進めていきます。

源田:私も、個人のキャリアを大切にしなければならないと思っています。会社に囲い込むというような発想は捨てて、会社の中でさまざまな経験ができる、いろいろな成長の場があると実感してもらえる会社にしていくことが、結果的にいい社員に長くいてもらうことになると考えています。

服部:今までの採用には、雑談の中で会社の魅力を知ったり、説明会で面白い担当者に出会って「この人と一緒に働きたい」と思ったり、アナログならではの冗長さやムダな合間がありました。良くも悪くも、そういうものに頼ってきた面もあります。ところが、オンラインでの接触やつながりに慣れると、そういうものは削ぎ落とされるのではないでしょうか。すると、本質的な採用コンセプトをしっかり据えておく必要がでてくる。一方、オンラインのツールやアプリケーションを活用して学生を上手にひき付ける企業も出てきます。新たな冗長さやムダな合間も見つかるはずです。採用にもパラダイムシフトが起こりつつあることを念頭に、本質を見失わずに新卒採用に取り組んでほしいと思います。

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