営業報酬制度の規程改定について
いつも拝見させて頂いています。
当社営業職員の成果給の改定についてのご相談です。
当社はこれまで営業成果給は営業職が獲ってきた契約の粗利額に対して会社規定の成果給としておりました。社員給与は成果給の他に固定給があります。
会社黎明期はいわゆるバリバリ営業、業界内でも破格の成果給率が当社の魅力でもありましたが、社員も増えてきて組織が多くなるにつれて現行の営業報酬制度が破綻し始めています。
会社として以下を大きな課題として成果給の規定改定を検討しています。
①人が増えるにつれて契約が獲れない営業や契約さえ獲れれば他のことは事務に丸投げをするような営業も増加してきており、個人別で見るといわゆる固定給以上の利益も生み出せない赤字社員や不良因子が増えてきている。貢献度の高い営業と低い営業の評価を報酬に落とし込む必要がある。
②マネージャー職がいるが報酬体系が個人営業職もマネージャー職も同様のままになっている。ある程度組織も大きくなってきた今、マネージャー職による所属員のマネジメントは重要だが、上記の通りマネージャーも報酬体系が個人の営業実績に寄与する為、マネジメントそっちのけで個人実績を追いかけてしまっている。
全員一律の歩合率ではなく、役職毎の適性な評価項目と報酬、貢献度に応じた報酬の分配率に見直す制度に変更します。
問題は赤字営業のメンバーたちにとって、こちらの制度改定が不利益変更に該当してしまうことです。
労務の観点で言えば、長い時間を掛けて丁寧に説明した上で理解を得て合意書を全従業員から取得し、歩合が下がる社員に対して調整給等で対応等するべきなのは重々承知ですが、経営層としてはある程度の痛み(反発や納得のいかない一部社員の離脱)は覚悟の上で短期で制度改革を進めたいという意向です。
黎明期からの報酬体系を見直してこなかったことにそもそも問題がありますが、昨今の労働分配率の低さの是正の為、会社経営の観点でも、すぐにメスを入れたいという状況です。
「労務・法務のリスクテイク」と「改革の早期着手」を天秤にかけてどういった対応をすべきか苦慮しております。
有識者の方々に経営の視点でアドバイスを頂きたくご相談をしました。
どうぞよろしくお願い致します。
投稿日:2025/09/26 17:41 ID:QA-0158753
- アースーアーさん
- 東京都/建設・設備・プラント(企業規模 11~30人)
プロフェッショナル・人事会員からの回答
プロフェッショナルからの回答
ご回答申し上げます。
ご質問いただきまして、ありがとうございます。
次の通り、ご回答申し上げます。
1. 法的・労務上の基本的視点
不利益変更のリスク
成果給率を下げる、報酬分配を変更するなどは 「不利益変更」 に該当する可能性が高いです。
不利益変更は労働契約法第9条・第10条が問題となり、合理性と社員への周知・説明が重要になります。
特に、既存の成果給を前提に入社した社員にとっては「期待権の侵害」として争いになりやすい論点です。
合意形成の必要性
法的には「労働者の合意」がベストですが、経営上「短期導入」を望む場合、合理性の確保と周知・説明プロセスをどこまで担保できるかが勝負です。
経営判断として強行しても「裁判で有効性が否定されるリスク」が残る点はご理解いただく必要があります。
2. 改定の合理性を高める工夫
「不利益変更」を有効とするには、変更の必要性と内容の相当性が重要です。以下の観点を押さえておくと、短期導入でもリスクをある程度抑えられます。
経営上の必要性を明文化
労働分配率の是正
赤字営業の増加による持続可能性への影響
マネジメント不在による組織崩壊リスク
→ 客観的数値やシミュレーションを提示
社員への説明資料を丁寧に用意
改定前後の報酬イメージ(シミュレーション)
「成果に応じた公平性」「マネジメント評価の導入」など理念を伝える
社員のキャリアパス・成長機会に直結する点を強調
ソフトランディング措置
経過措置(例:2年間は調整給を設ける)
下がる社員に対して最低保障や一時的手当を設定
新制度に移行しやすいように教育・支援を並行実施
3. 経営判断としてのシナリオ
経営層が「痛みを覚悟してでも早期改革」との意向であれば、以下の2案を比較して検討するのが現実的です。
A案:スピード優先(短期導入)
リスク:不利益変更の法的争い/離職増加
メリット:経営改革を即時に実現でき、コスト構造を早期に健全化
対応策:合理性資料の整備+調整給などの緩和措置で最低限の防御
B案:リスク回避(段階的導入)
リスク:経営改善が遅れ、分配率是正が進まない
メリット:合意ベースで導入でき、訴訟リスクやモラル低下を抑制
対応策:数年かけて成果給率を段階的に見直し、マネジメント評価を先行導入
4. 提言
制度改定は 「組織の持続可能性」「公平性」を前面に掲げ、単なるコストカットではないことを明確に打ち出す必要があります。
経営層の意向を尊重するなら「短期導入+緩和措置」が現実的ですが、後々の紛争リスクを織り込み、顧問弁護士や社労士と連携して 資料整備(合理性・必要性)と説明記録を残すことが不可欠です。
特に マネジメント層の評価制度導入は「組織運営上の必要性」として合理性が認められやすいため、最初の突破口にできます。
5.まとめ
改定は不利益変更リスクが高いが、経営上の合理性を明確にすれば短期導入も不可能ではない。
ただし「説明・記録・緩和措置」の3点を外すと、訴訟リスクが跳ね上がる。
経営層の意向を踏まえるなら 「短期導入+調整給・経過措置」を軸に進めつつ、リスクヘッジを強固にするのが現実的。
以上です。よろしくお願いいたします。
投稿日:2025/09/26 19:33 ID:QA-0158768
相談者より
大変詳細なアドバイスありがとうございました。まずは当社の制度改定の合意性を洗い出して説明資料の作成に着手します。
一時的手当等の設定も検討をします。
投稿日:2025/09/29 11:34 ID:QA-0158823大変参考になった
プロフェッショナルからの回答
ご質問の件
まずは、具体的に会社として何が問題点なのかを再度、洗い出す必要があります。
例えば、
1ですが、人が増えるにつれて契約が獲れない営業や契約さえ獲れれば他のことは事務に丸投げをするような営業も増加してきており、個人別で見るといわゆる固定給以上の利益も生み出せない赤字社員や不良因子が増えてきている。
とありますが、
契約が撮れない営業が問題なのか、
契約さえ獲れれば他のことは事務に丸投げをするような営業が問題なのか、
をはっきりさせる必要があります。
それとも
会社としては、契約も獲り、事務処理も自分で行うことを求めるのかです。
2についてもしかりです。
マネージャー職に会社として何を求めるのかによります。
投稿日:2025/09/26 19:35 ID:QA-0158769
相談者より
社内で要点整理を進めます。ご回答ありがおうございました。
投稿日:2025/09/29 11:38 ID:QA-0158824参考になった
プロフェッショナルからの回答
お答えいたします
ご利用頂き有難うございます。
ご相談の件ですが、根本的な人事制度の見直しになりますので、基本的にはコンサルティングにて対応を図られる事をお勧めいたします。
その上でお尋ねの点に関しまして申し上げるとすれば、労働条件の不利益変更への慎重な対応は重要ですが、労働契約法第10条にも示されている通り、変更内容に合理性が有れば有効となる可能性も高くなります。
つまり、評価制度を実情に沿って公正公平な形に改める事によって生じる一部の不利益変更につきましては、経営事情を踏まえますと現実問題として避けられない事もあるでしょうし、そこはまさに合理性を深める事で対応されるべきといえるでしょう。
加えまして、早期退職の募集等も併用される事で、労務リスクを最小限に留めつつスピード感を持って対応する事も不可能ではないはずというのが私共の見解になります
投稿日:2025/09/26 21:42 ID:QA-0158776
相談者より
ありがとうございます。
まずは今回の制度改定の趣旨を改めて整理し合理性を高めていきます。
ありがとうございました!
投稿日:2025/09/29 11:40 ID:QA-0158825大変参考になった
プロフェッショナルからの回答
賃金の原資総額が減少しない場合
以下、回答いたします。
(1)労働契約法では、労働者と合意することなく、就業規則変更による「労働条件の不利益変更」については原則不可とされています(第九条)。但し、一定の要件を満たす場合には許容されています(第十条)。
(就業規則による労働契約の内容の変更)
第九条 使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。
第十条 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。
(2)新しい賃金制度を導入する場合には、上記「第十条」の「労働者の受ける不利益の程度」及び、「変更後の就業規則の内容の相当性」に関連して、一般に、「経過措置」が求められています。
(3)しかし、「歩合が下がる社員に対して調整給等で対応等するべきなのは重々承知ですが、経営層としてはある程度の痛み(反発や納得のいかない一部社員の離脱)は覚悟の上で短期で制度改革を進めたいという意向です。」とのことです。この場合、法的リスクを軽減するための手掛かりとして、「経過措置」について言及していない「次の裁判例」が有益ではないかと推察されます。
(4)トライグループ事件(2018年2月22日 東京地裁判決)
※ 就業規則により、年功序列的な賃金制度を人事評価に基づく成果主義・能力主義型の賃金制度に変更する場合において、当該制度変更の際に、賃金の原資総額が減少する場合と、原資総額は減少せず、労働者全体でみれば、従前と比較して不利益となるわけではなく、個々の労働者の賃金の増額と減額が人事評価の結果として生ずる場合とでは、就業規則変更の合理性の判断枠組みを異にするというべきである。
※ すなわち、賃金原資総額が減少する場合は別として、それが減少しない場合には、個々の労働者の賃金を直接的、現実的に減少させるのは、賃金制度変更の結果そのものというよりも、当該労働者についての人事評価の結果であるから、前記の労働者の不利益の程度及び変更後の就業規則の内容の合理性を判断するに当たっては、給与等級や業務内容等が共通する従業員の間で人事評価の基準や評価の結果に基づく昇給、昇格、降給及び降格の結果についての平等性が確保されているか否か、評価の主体、評価の方法及び評価の基準、評価の開示等について、人事評価における使用者の裁量の逸脱、濫用を防止する一定の制度的な担保がされているか否かなどの事情を総合的に考慮し、就業規則変更の必要性や変更に係る事情等も併せ考慮して判断すべきである。
※ 諸事実を総合すると、本件就業規則変更は、経営上の必要性に合致する成果主義・能力主義型の賃金制度を導入するものであり、賃金の原資総額を減少させるものではなく、濫用、逸脱を防止する一定の制度的担保がある人事評価制度に基づいて昇給、降給等が平等に行われるなど、合理性のある新たな制度に変更するものであるから、有効であるというべきである。
(5)上記裁判例を踏まえれば、以下の点について検討を深め関係者の理解を得ていくことが肝要であると考えられます。
新しい賃金制度は、
1)経営上の必要性に基づくものであること。
2)賃金の原資総額は減少しない(むしろ増加させる)ものであり、労働者全体でみれば不利益となるものではないこと(利益となるものであること)。
3)濫用、逸脱を防止する一定の制度的担保がある人事評価制度に基づいて昇給、降給等が平等に行われるものであること。
投稿日:2025/09/26 23:08 ID:QA-0158779
相談者より
詳細な判例まで上げていただき最後に纏めていただき大変わかりやすかったです。
ありがとうございました!
まずは合意理解を得るための要点整理を進めていきます。
投稿日:2025/09/29 11:46 ID:QA-0158827大変参考になった
プロフェッショナルからの回答
回答いたします
ご質問について、回答いたします。
|経営層としてはある程度の痛み(反発や納得のいかない一部社員の離脱)は
|覚悟の上で短期で制度改革を進めたいという意向
上について、リスク範囲は退職リスクだけでなく、会社のPLに大きく
影響する金銭的リスクもがあることを理解した上での経営判断が必要です。
以下のリスクを考えれば、リスク軽減の為、一定の経過措置期間、
目安として半年程度は置いた方が宜しいかと思案いたします。
・未払い賃金の発生
不利益変更が無効となった場合、新制度で減額された期間の成果給は、
旧制度の基準で計算し直されます。この差額が未払い賃金として従業員に
請求されます。対象者が多ければ多額になる可能性があります。
・遅延損害金の加算
未払い賃金には、最大、年率14.6%の遅延損害金が加算されます。
この金利負担は、訴訟が長期化するほど膨らみます。
・訴訟費用・弁護士費用
従業員が労働審判や訴訟を起こした場合、対応のための弁護士費用、裁判費用、
担当者の工数など、多大なコストが発生します。
投稿日:2025/09/27 08:47 ID:QA-0158784
相談者より
ありがとうございます。
強い反発があった際のリスクとして頂いたアドバイスを念頭に入れて検討を進めます。
大変参考になりました。
投稿日:2025/09/29 11:48 ID:QA-0158829大変参考になった
プロフェッショナルからの回答
対応
本質的な人事制度の課題なので、しっかりしたコンサルティングを導入されるような大きな課題だと思います。
その中で、改革のスピードと、それに伴う訴訟など抵抗リスクですが、これまた貴社でないと見積もるのは難しい問題です。
成果が達成できない人材が、会社のいうことをそれなりに素直に聞いてくれるのか、少しでも不利な条件にはハードな反応をしがちなのかといった、貴社の社員の状況次第という意味です。
裁判などの多大な負荷をリスクととらえれば、現実的にはやはり多少の時間をかけて、移行期間を設定することで、人事制度変更による減給の合理性を裏付けることでしょう。
投稿日:2025/09/29 13:56 ID:QA-0158848
回答に記載されている情報は、念のため、各専門機関などでご確認の上、実践してください。
回答通りに実践して損害などを受けた場合も、『日本の人事部』事務局では一切の責任を負いません。
ご自身の責任により判断し、情報をご利用いただけますようお願いいたします。
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