丸紅株式会社:
仕事と介護の両立にマネジメントスキルを活かす
総合商社ならではの“先進的”介護支援とは
丸紅株式会社(人事部 ダイバーシティ・マネジメントチーム チーム長補佐)
許斐理恵さん
ビジネスパーソンにとっての介護は仕事との両立が前提
WLB関連施策として、育児支援と介護支援はよくひとくくりにされますが、実際に取り組むとなると、かなり勝手が違うのではありませんか。
そうなんです。第一に出産・育児は、人によってパターンがそんなに違うわけではありません。基本的に子どもとは同居しているはずですし、先の展開もほぼ予測できますので、経験からアドバイスできる部分がたくさんあります。ところが介護の場合は、被介護者と同居しているとは限らず、人によって何年続くかもわからない。育児と比べるとあまりに多様で、人事部としてできる支援にも限界があります。
また、介護に関する基礎知識の有無が両立のカギになりますが、介護保険や介護サービスの仕組みはとにかく複雑でわかりにくい。多忙なビジネスパーソンが個人で情報を取捨選択し、理解するのは至難でしょう。育児でできたことがあてはまらない介護支援の難しさは、パターンの多様さと制度面の複雑さ、大きくこの二つに起因すると考えました。そこで私たちは「情報提供」と「個別相談・支援体制の強化」を支援の柱として打ち出し、社員自身の介護への備えや仕事と介護の両立体制の整備に資する施策を講じることにしたんです。
「情報提供」の取り組みとしては、御社が社員に提供されている“ハンドブック”が注目を集めています。
12年に作成した「介護支援ハンドブック」ですね。株式会社ワーク・ライフバランスの監修のもと、弊社の制度・施策に加え、介護保険制度のしくみや各種介護サービスの紹介など、関連情報をまとめました。基本的な内容だけでなく、「遠距離介護の実態」「介護にはいくらかかるの?」といった実践的なケーススタディーも盛り込み、コンパクトな介護入門書を目指しました。社員には希望者全員に配布する一方、イントラネットにも掲載し、周知を図っています。
介護支援ハンドブック
また、情報提供の取り組みとしては、10年から始めた「介護セミナー」も大変盛況で、東京本社で年2回、大阪支社で年1回実施し、これまでに延べ600名近い社員の参加を得ました。
どのような内容で構成されているのですか。
介護保険の入門編や介護施設の話など、テーマは毎回変わるのですが、セミナー自体のメッセージとして一貫しているのは、ビジネスパーソンにとっての介護とは、あくまでも「仕事との両立が前提」だということです。例えば親の介護はすべて子供がやるべきだ、という社会通念がありますが、まずはそういう思い込みを取り払いましょうと教えられるわけです。
介護セミナーといっても、体の起こし方を習ったりするわけではないんですね。
「ヘルパー2級の資格取得支援をします」といったセミナーではありません(笑)。仕事との両立を目指すのなら、プロに任せられることは任せたほうがいい。つまり「介護をマネジメントする」という発想が大切なんです。考えてみれば、それはビジネスパーソンが最も得意とするスキルでしょう。セミナーでも「何かのときは1日休みを取って関係各所のアレンジメントをしましょう、まさに『あなたの出番』ですよ」といった趣旨の話がありました。