すべての働く人々が活躍できる職場を実現するために
女性活躍推進を支援するサービスの傾向と選び方
――現状と課題、推進法の目的、代表的な支援サービスをわかりやすく
女性活躍推進法による企業の義務化が進む中、多くの企業が本格的に女性活躍推進への取り組みを始めています。すでに積極的に推進してきた企業では多くのメリットを得ているケースが目立つ一方で、難しさに戸惑う企業や、成果が見えないという声があがる実情もあります。
そこで『日本の人事部』では、女性活躍推進における現状と課題を整理するとともに、企業が取り組むべきことをまとめました。女性活躍推進を支援する外部サービスの種類と特長、サービスの比較や選び方のポイントについても紹介します。
女性活躍推進とは
女性活躍推進とは、「女性が働きやすい環境を整える」「女性管理職の割合を増やす」といった取り組みを通じて女性の労働力を確保するとともに、ダイバーシティ推進により企業の成長につなげることを目指すものです。
働き方改革の一環として女性活躍推進法が施行され、女性が活躍できる職場づくりの重要性は、すでに周知のものとなっています。まずは、女性活躍推進が求められる背景と現状、推進における課題を見ていきます。
女性活躍推進に注目が集まる背景
女性活躍推進の重要性を理解するうえでは、労働力確保という観点と、女性が活躍することで企業が得られるメリットの二つの側面を知る必要があります。
労働力人口の減少が続いている日本では、働き手の確保や労働生産性の向上が喫緊の課題となっています。
経済産業省の「成長戦略としての女性活躍の推進(2014年11月)」によると、結婚・出産期に離職したが就業意欲のある女性は342万人に上り、全労働力人口の約5%にあたります。この潜在労働力を活用できた場合、GDPが約1.5%増加するという試算も出されています。
企業が得られるメリットを見ると、女性活躍推進が進んでいる企業は株式市場での評価が高いことや、ワーク・ライフ・バランスへの取り組みによって生産性が上昇することが明らかになっています。また、男女格差が小さい企業や復職制度がある企業、女性管理職比率が高い企業ほど利益率が高い傾向も示されています。
この調査からわかるように、女性活躍推進の取り組みは単に法令への対応という位置づけではなく、企業の成長戦略に欠かせない要素となっていることを注視しなくてはならないでしょう。
女性活躍推進の現状と課題
内閣府 男女共同参画局の2020年版「男女共同参画白書」を参考に、女性活躍推進の現状を見ていきましょう。女性の労働力は、結婚・出産期にいったん減少し、育児が落ち着いたころに増加する「M字カーブ」を描くことが知られています。
男女共同参画白書を見ると、1999年にはM字のくぼみ部分となる年齢は30~34歳でしたが、2019年には35~39歳へと変化。さらに、くぼみ部分にあたる結婚・出産期の女性の労働力率(労働力人口の割合)は、1999年で56.7%だったのが、2019年には76.7%まで上昇しています。M字カーブの曲線が全体に緩やかになり、女性のライフステージによる変化にかかわらず、就業を継続する割合が上昇していることがうかがえます。
次に女性管理職の登用を見ると数値は年々上昇していますが、欧米と比較すると、その割合は依然として低い状況です。米国40.7%、スウェーデン40.2%と上位国が40%前後となっているのに対し、日本は14.8%にとどまっています。
女性活躍推進法が施行され、企業における取り組みは加速しているものの、依然として多くの課題が残っていることがうかがえます。このため、企業には女性が働きやすい環境を整備することに加えて、多様な働き方を可能にする教育やキャリア形成の支援、仕事と家庭の両立支援といった取り組みが一層求められているといえます。
女性活躍推進法とは
女性活躍推進法は、女性が活躍しやすい社会の実現を目指し、雇用主である企業が取り組むべき内容を定めた法律です。2016年4月に施行され、2019年5月には義務化の対象範囲を広げる改正法が成立し、段階的に促進が強化されています。
女性活躍推進法の目的と期待される効果
女性活躍推進法が定められた背景には、労働力人口の減少が課題となっている中で、特に子育て世代の女性労働力率の低さが顕著だったことが挙げられます。また、欧米諸国と比べて女性管理職の割合が低い点も、日本企業の就労環境における課題となっていました。
女性活躍推進法は、ライフステージが変化する女性にとって働きやすい環境を整備するとともに、能力を十分に発揮できる仕組みを雇用主である企業が主体となって取り組んでいくことを目指したものです。具体的には、以下に挙げる指針が示されています。
- 採用や昇進が平等に行われること
- 仕事と家庭が両立できる環境をつくること
- 女性が仕事と家庭の両立を選べること
企業が女性活躍推進に積極的に取り組むことで得られるメリットは多く、以下のような効果が期待されています
- 多様な人材の雇用によるイノベーションの創出
- ワーク・ライフ・バランスの実現による生産性向上
- 優秀人材の採用や定着率の上昇
- 企業イメージの向上
女性活躍推進法で企業に義務付けられていること
女性活躍推進法により企業に義務付けられているのは、以下の内容です。
<常時雇用する労働者数が301人以上の企業>
(1)自社の女性の活躍に関する状況把握・課題分析
(2)課題解決にふさわしい行動計画の策定および労働者への周知、外部への公表、都道府県労働局への届出
(3)自社の女性の活躍に関する情報の公表
300人以下の企業については上記が努力義務となっていますが、2022年4月からは101人以上の企業へと対象が拡大されます。
また、2020年6月からは「女性の活躍に関する情報の公表」が強化され、301人以上の企業に対し、以下に該当する項目をそれぞれ一つ以上公表することが義務付けられました。
・女性労働者の職業生活に関する機会の提供実績
・職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備の実績
女性の活躍を推進する企業を認定する制度とは
女性の活躍を推進している企業を認定する制度として、「えるぼし」と「くるみん」があります。概要と取得するメリットを以下に簡単にまとめました。
制度 | 概要 | メリット |
---|---|---|
「えるぼし」 「プラチナえるぼし」 |
|
※プラチナえるぼし認定企業は、一般事業主行動計画の策定・届出が免除される |
「くるみん」 「プラチナくるみん」 |
|
このほか、経済産業省と東京証券取引所が行っている取り組みとして、女性活躍推進に優れている上場企業を選定する「なでしこ銘柄」があります。中長期の企業価値が高い優良銘柄として公表されるため、投資家へのアピール力を高められるというメリットがあります。
女性の活躍を推進するために企業ができること
女性の活躍を推進するために、企業はどのようなことに取り組むべきなのでしょうか。ここでは重要となる二つの観点を見ていきます。
人事制度の見直しと整備
日本における従来型の人事制度では、昇格や異動、評価といったさまざまな場面で、男性の正社員をモデルとしているケースが多いのが現状です。
ライフステージが変化する女性にとって、男性を主軸とした人事制度では不利・不都合が生じる場合があり、女性の活躍を阻害する要因になっていることがあります。女性が活躍できる環境を整えるには、まず現状の人事制度を見直す必要があります。
女性活躍推進のための人事制度では、大きく「採用」「就業継続」「キャリア形成」「管理職登用」の四つの段階で自社の課題を把握し、整備を進める必要があります。
たとえば、出産・育児により就業継続が難しくなる場合には、時短勤務や休職制度、職域への配慮といった取り組みが必要になります。自社の課題を明らかにしたうえで、人事制度との整合性をとっていくことが重要です。
社内環境の整備とダイバーシティの取り組み
女性が働きやすくなる制度を充実させたにもかかわらず、うまく活用されていないケースは少なくありません。その場合、たとえば周囲の目が気になって制度を利用しにくいなど、職場環境に課題が残っている場合があります。また、女性管理職の登用においてアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)が作用し、女性の活躍が阻害されているケースや、逆に女性自身が昇進にためらっている場合もあります。
これらの問題を解消するには、組織全体での意識改革が必要です。多様な働き方や価値観への理解をうながすダイバーシティの取り組みも、女性活躍推進における重要なポイントとなります。
女性の活躍を実現するための支援とは
女性が活躍できる職場となるために、企業をどのような支援を行うべきなのでしょうか。ワーク面とライフ面とに分けて見ていきましょう。
ワーク面:キャリアやスキルアップの支援
女性の活躍を推進するうえで、キャリアの課題として以下のようなものが挙げられます。
- 自律的にキャリア形成する意識が薄い女性社員が多い
- 仕事と育児とを両立できず、キャリアを中断してしまう
- 女性管理職のロールモデルがなく、将来像を描けない
- 女性社員をどのように育成すべきかわからない
これらを踏まえて、ワーク面では以下のような支援が必要になります。
- 主体的にキャリアを形成する自律の意識を高めるための支援
- キャリアと育児とを両立するためのスキル習得を支援
- 女性管理職として必要なスキルを習得できるよう支援
- 管理職に向け、女性のキャリアを助けるためのスキル習得を支援 など
ライフ面:福利厚生面の支援
女性社員の能力を十分に発揮させるうえでは、ワーク・ライフ・バランスを実現する福利厚生面の支援も大切な要素です。例として、以下のようなサポートが挙げられます。
- 時短勤務や在宅勤務
- 休暇制度の充実(妊活・産前産後の休暇、子供のイベント時の休暇など)
- 健康管理の推進(社員食堂などを利用した栄養管理、人間ドックの補助など)
- 職場に託児施設を設置
- 保育サービス利用時の補助 など
女性活躍推進を支援するサービスとは~選び方のポイント
現在、企業の女性活躍推進をサポートする数多くのサービスやソリューションが提供されています。ここでは、サービス内容を整理したうえで、比較検討をする際に確認しておきたいポイントを紹介します。
女性活躍推進を支援するサービスの分類と特長
女性活躍推進を支援するサービスは、大枠として以下のように整理できます。
分類 | 提供内容 | 特徴 |
---|---|---|
研修 | 女性のキャリア形成支援 |
|
女性管理職育成 |
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ワーキングマザー向け両立支援 |
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ダイバーシティ・マネジメント |
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リサーチ | 現状把握・課題の特定 |
|
コンサルティング | 制度構築・体制づくり |
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サービスを選ぶときのポイント
女性活躍推進における課題は企業によって異なり、取り組むべき内容も組織の意識改革からキャリア形成のためのスキル習得、制度・体制の構築など広範囲にわたります。そのため、サービスを選ぶときは自社の課題を特定し、サービス導入によって期待する効果を得られるかを十分に検討する必要があります。
選ぶ際に押さえておきたい観点は、以下を参考にしてください。
- 自社の課題に適したサービス内容か
- 自社の状況や組織目標に適した形にカスタマイズできるか
- 求めるサポートを受けられるか
- 専門性・実績において信頼感があるか
課題が明確になっていない、あるいは表面化されていないという場合は、リサーチによって課題を特定するのが有効です。また、自社にノウハウが不足している場合は、コンサルティングを活用するのも一案です。
それでは、実際にどのような支援サービスがあるのか、紹介していきます。
EDGE株式会社の「エアリーダイバーシティクラウド」は、育児や介護休職中の従業員への事務・連絡作業を効率化し、必要な情報を提供することができるHRテクノロジーです。休業者との連絡や復職に向けた状況も一元管理することが可能です。
株式会社エムズカンパニーの「多様な部下のマネジメント【イクボス養成】」は、イクボスとはどのような管理職のことなのか、その役割や意義について知ることができるセミナーです。講義に加えて、参加者同士の意見交換を通じて、マネジメントスタイルの変化をうながします。
株式会社サクセスボードの「女性社員向けキャリアデザイン~“ポールスター研修”」は、結婚や出産といったライフイベントを踏まえた女性向けのセミナーです。ライフイベントを乗り越え、キャリアを前向きに捉える考え方を身につけることができます。
株式会社JTBコミュニケーションデザインの「ダイバーシティワークショップ」は、社員にダイバーシティの重要性を理解させたい企業向けのワークショップです。ダイバーシティの重要性とともに、自主におけるダイバーシティの考え方の浸透などを行います。
株式会社パソナ 育児・介護支援プロジェクト事務局(厚生労働省委託事業)の「育児プランナー無料訪問支援」は、従業員が安心して育休を取得し、復職できる環境づくりを無料で支援する事業です。育休復帰・経営支援のノウハウを有する専門家が「育児プランナー」として、支援方法をアドバイスします。
株式会社ライフ・ポートフォリオの「育休復帰者向けライフタイム・キャリアセミナー」は、長期的な視点でキャリアイメージを明確にし、育休復帰者のモチベーションアップにつなげるセミナーです。ディスカッションなどを通じて他社のワーキングマザーと情報交換することもできます。
株式会社リノパートナーズの「技術系企業の女性社員の意識改革と自律的キャリア形成をサポート」は、技術職出身の女性講師による体験談から、参加者自身のキャリア形成について考えていくセミナーです。新入社員から管理職まで幅広い層に対応しています。
女性活躍推進を支援するサービスを提供する企業名およびサービス名一覧
- 株式会社アタックス・ヒューマン・コンサルティング
- 株式会社インソース
- 株式会社wiwiw
- 一般社団法人WOMAN TO WORK協会
- ANAビジネスソリューション株式会社
- SMBCコンサルティング株式会社
- EDGE株式会社
- 株式会社エムズカンパニー
- 株式会社パソナHRソリューション
- 株式会社キャムテック
- 株式会社キャリアネットワーク
- 株式会社QOOLキャリア
- 株式会社 クオリア
- グリーンサン企画株式会社
- クレイア・コンサルティング株式会社
- 株式会社 グロービス
- 株式会社サクセスボード
- 株式会社JTBコミュニケーションデザイン
- 株式会社新経営サービス 人事戦略研究所
- 株式会社シンスター
- スリール株式会社
- 公益財団法人21世紀職業財団
- 株式会社日経BPマーケティング
- 株式会社日本マンパワー
- 日本能率協会マネジメントセンター
- 日本プロジェクトソリューションズ株式会社
- 株式会社パーソル総合研究所
- 株式会社ハーモニーワークス
- 株式会社パソナ 育児・介護支援プロジェクト事務局(厚生労働省委託事業)
- 服部賃金労務サポートオフィス
- 株式会社ビジネスコンサルタント
- 株式会社ビジネスプラスサポート
- 株式会社保健同人フロンティア
- 株式会社ライフ・ポートフォリオ
- 株式会社ライフワークス
- 株式会社リクルートマネジメントソリューションズ
- 株式会社リスキル
- 株式会社リノパートナーズ
女性活躍推進を次のステージへと導くには
女性活躍推進というと、女性社員だけの問題と受け止められがちです。しかし、女性が活躍できる職場づくりにはダイバーシティの考え方が必要であり、男性社員を含め、人事制度やマネジメントの整合性が求められます。
したがって、女性活躍推進への取り組みは全社員にとって働きやすい環境づくりをうながすものであり、すべての社員が活躍できる土壌をつくるものと捉えることができるのです。全社的な人事マネジメントという高い視座で考えることが、女性活躍推進を次のステージへと導くうえで重要になるといえるでしょう。
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