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ミドル再生のために人事部はいま何をすべきか 

明治大学大学院グローバルビジネス研究科教授
株式会社ジェイフィール 代表取締役

野田 稔さん

「中堅層が育っていない」「ミドルマネジメントが機能していない」――近年、ミドルの弱体化がしきりにいわれますが、野田稔さんは「悪いのはミドルではない」と断言します。彼らは、バブル崩壊後の長期不況とビジネス環境の激変の中で、「多重責務者」になりました。疲弊は必然であり、人事部にも責任の一端があるといいます。その認識と反省にもとづいたミドル再生の方策を、野田さんに語っていただきました。

Profile

のだ・みのる●1981年一橋大学商学部卒業後、株式会社野村総合研究所入社。組織人事分野を中心に多数のプロジェクト・マネジャーを勤め、経営コンサルティング一部長を最後に2001年3月退社。多摩大学経営情報学部助教授、株式会社リクルートフェロー等を経て、現在に至る。株式会社ジェイフィールは職場の感情再生を支援するコンサルティング会社で、07年11月に設立。明治大学大学院教授には08年4月に就任。08年3月に上梓した『中堅崩壊』(ダイヤモンド社)では精力的な取材とユニークな視点でミドル問題に新たな知見を示し、注目を集めた。他に『燃え立つ組織』(ゴマブックス)、『企業危機の法則』(角川書店)など著書多数。

必要なのは「大切にしていますよ」というメッセージ

『中堅崩壊』(ダイヤモンド社)

大学卒業後、野村総合研究所に入社されたのが1981年。『中堅崩壊』の中で、若手社員にとって当時のミドルは、個室に陣取り、布張りのひじ掛けいすに座る「憧れの課長さん」であったと振り返っていらっしゃいます。いまのミドルとはステータスも違えば、会社の扱いも違ったわけですか。

すごく大切にされていたという記憶がありますね。個室やいすだけじゃありません。課長以上になれば、出張時の新幹線はグリーン車、飛行機ならビジネスクラス、ホテルのランクも違いました。そういう扱いを通じて「あなたを大切にしています」という会社のメッセージが出ていたんですよ。ところがバブル崩壊後の長期不況の中で、企業はコストダウンに走った。コストダウンそのものは間違いじゃありません。しかし3000円のグリーン券をけちって10万円分のやる気を失ってしまったら、9万7000円分の損失でしょう。ましてグリーン車やビジネスクラスにかかる費用なんて、人件費全体から見たら実は大した額じゃないんですよ。もちろんお金をかけてチヤホヤすれば、仕事へのコミットメントが高まるわけではありませんが、尊重されること、大切にされること、もっといえば自分をまともな人間として認めてもらえることで、社員は「もっと頑張ろう」という前向きな気持ちになれる。動機付け理論でいうところの「認知」と「賞賛」ですね。

しかし、大したコストダウンにもならないのにグリーン券をけちったり、ホテルのランクを落としたり、ミドルに対する扱いを変えてしまった。

野田 稔さん Photo

その時までは彼らも、自分たちは大切にされる存在だと思っていたでしょう。なぜなら先輩のミドルは大切にされているように見えたから。ところが実際はちっとも大切にされているように感じられない。問題はここなんです。大したコスト削減にもならない自分たちへの投資を惜しむのは大切に思われていないから――ミドルがそう感じたとしても不思議ではありません。たぶん昔から、本当は大切にされていなかったんでしょうね。それでもまだいすだのグリーン車だの、形式的には大切にされていたから問題は起きなかったけれど、野田稔さん会社の扱いが変わってそういう形式すらなくなったとき、ミドルのプライドはずたずたになってしまった。自分が尽くしてきた会社の“本性”が見えたんですね。

ミドルを尊重せず、彼らを傷つけてきた最大の責任はもちろん経営トップにありますが、人事部もその一翼を担ってしまったといえます。社員は人事部が行うことを、良くも悪くも会社からのメッセージとして受けとめてきたのですから。人事部にその認識があったかどうか、まずもってそこから振り返り、反省すべきでしょう。

人事部もミドルの現場を知ろう

ミドル弱体化を招いた責任が人事部にもあるとすれば、逆にミドル再生のために人事部はいま何をすべきでしょうか。

私は人事部の果たすべきミッションを、次の3つに集約して考えています。

第一は、同じ人件費原資を使って社員から最大のやる気を引き出すために、制度や仕組み、文化、風土を構築して、現場での運用を支援すること。第二に、現場が必要とする能力、マインドセットを持った人材を必要なときに、必要なだけ当該現場に供給すること。一番目はソフトアプローチ、二番目はハードアプローチと呼ばれるものですが、両方とも企業の経営戦略に合致していることが前提となります。そして三番目はHRM(ヒューマン・リソース・マネジメント)のプロとして、全社の戦略策定にアドバイスを与えること。

このうちミドル再生のために最も重要なのは一番目です。人事部はまず、彼らの意欲を真剣に引き出そうとしているか、振り返ることが必要です。そして相手の存在を認めて尊重するために、ミドルマネジメントがどれだけ大変で、大切な役割かということを、ちゃんと腹に落として理解しなければならないのです。人事部がミドルを大切にするきっかけとして、彼らが現場でどれだけの仕事をしているか、実際にぜひその目で見てほしい。見るだけでなく、できれば体験してほしいと思いますね。メーカーの人事担当者なら、一度自分でモノを作ってみる。売ってみる。そうすれば現場がどれだけ大変かがわかるでしょう。そしてそれを管理することの責任の重さもわかるでしょう。ビジネスの現場を知ってこそ初めて、ミドルのやる気を引き出すことができるのです。

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この記事ジャンル 管理職育成

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