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これから日本の「働き方」「雇用」はどのように変化し、
人事はどう対応していけばいいのか(前編)

日本大学総合科学研究所 准教授

安藤 至大さん

安藤至大さん 日本大学総合科学研究所 准教授 Photo

日本人の働き方、日本企業の雇用管理のあり方に、いま大きな変化が起きています。国会でも「労働者派遣法」や「高度プロフェッショナル労働制」などについて議論されていますが、問題は、その方向性や活用のあり方が明確に見えてこないことです。さらに、長時間労働が社会問題化し、今年12月には「ストレスチェック」が企業に義務化されるなど、人事部にとって働き方と雇用の問題は、今後さらに重要なテーマになると考えられます。果たして人事は、これらの問題にどう対応していけばいいのでしょうか。労働経済学を専門とし、雇用労働問題に詳しい日本大学総合科学研究所准教授の安藤至大さんに、詳しいお話を伺いました。

Profile

あんどう・むねとも● 1976年東京生まれ。1998年法政大学経済学部卒業。2004年東京大学博士(経済学)。政策研究大学院大学助教授などを経て、現在は日本大学総合科学研究所准教授。専門は、契約理論、労働経済学、法と経済学。規制改革会議(2007~2010年)の専門委員、雇用仲介事業等の在り方に関する検討会(2015年~)の委員などを務める。新聞・雑誌への寄稿(日本経済新聞「経済教室」欄など)のほか、著書には『ミクロ経済学の第一歩』(有斐閣・2013年)『働き方の教科書』(ちくま新書・2015年)がある。また、NHK(Eテレ)の経済学番組「オイコノミア」やBSジャパン「日経みんなの経済教室」の講師として活躍するなど、雇用問題に関する分かりやすい解説には定評がある。

非正規雇用に関する真の課題とは

「正規雇用と非正規雇用」「日本的雇用」「長時間労働」など、日本の働き方や雇用の現状に関する、安藤先生のお考えをお聞かせください。

まず「正規雇用と非正規雇用」の問題ですが、「非正規雇用」について正しく理解できているかどうかが大変重要です。一般的に「非正規雇用=かわいそうな働き方」といった認識が強いようですが、決してそうではありません。「無期雇用」「直接雇用」「フルタイム雇用」の三つの要件を満たすと正規雇用になり、一つでも満たさない場合に非正規雇用になるのです。

直近の数字では、非正規雇用労働者のうちの17.4%が「正規の職員・従業員の仕事がないから」という不本意な理由で、非正規になっています(総務省「労働力調査」)。このように正社員になりたいけれど、仕方なく非正規雇用になったという人がいるのは事実ですが、自ら非正規雇用を選んでいる人もいます。重要なのは、自ら望んで非正規雇用になった人と不本意でなった人とを、分けて考えなくてはならないということです。

そのためには、非正規雇用にどのような問題があるのかを知る必要があります。例えば、派遣労働の問題は、間接雇用であることです。雇い主と指揮命令を行う人が違うため、安全や衛生の面で問題が起こりやすい。しかし、派遣労働だから不安定だというのはおかしな議論です。有期雇用の契約社員やアルバイトなど、直接雇用であっても同じような問題は生じるでしょう。派遣労働特有の問題とは何なのか、アルバイトの何が問題なのかといったように、具体的に切り出して議論していかなければなりません。何となく雰囲気で物語るのは議論を混乱させるだけでなく、不誠実な対応だと思います。

衆議院を通過した「改正労働者派遣法案」を報道する際、マスメディアは派遣社員が泣き崩れている映像を使いたがります。しかし、それは派遣労働のメリット・デメリットを正しく理解した上でのことでしょうか。正しい状況を知った上で報道しなければ、生産的な議論はできません。私はこれからの日本の働き方として、派遣労働は大変重要になると考えています。それなのに派遣労働を悪者扱いし、そのような働き方を無くしてしまおうというのは、おかしな話ですね。

現在、派遣で働いている人は全労働者の約2%ほどですね。

安藤至大さん Photo

今後、一気に増えることはないと思いますが、時と場合によっては、派遣という働き方を増やした方がいいと考えています。例えば同じ零細企業で働いていたとして、直接雇用の人と大手派遣会社から派遣されている人とでは、もし理不尽な扱いをされた時、どちらが企業と交渉しやすいでしょうか。派遣社員のほうが派遣元企業との力関係を使って、うまく交渉できるかもしれません。また、その零細企業が倒産したとしても、大手派遣会社を通すことで、派遣社員のほうが次の仕事を見つけやすいとも考えられます。派遣労働の問題は、そのメリットとデメリットや、どこに問題があるのかなどを冷静に議論していく必要があります。

また正規雇用だから幸せなのかというと、必ずしもそうではありません。例えば、今の仕事を続けていきたいと二人とも考えている夫婦がいたとします。正社員の場合は転勤がありますから、実際に転勤を命じられると、単身赴任の生活を送るのか、どちらかが自分の仕事をあきらめるのか、といった悩ましい問題が出てきます。正社員だから幸せだとは限らないのが、今の日本の働き方の大きな問題です。

J.アベグレンが1958年に著した『日本の経営』では、「日本的雇用」として「定年までの長期雇用慣行」「年功序列制度(年功賃金)」「企業別組合」の三つの要素を挙げていますが、日本の正社員は、それ以外の面でも世界的に見て珍しい働き方をしているといえます。JILPTの濱口桂一郎さんは、人に仕事を張り付ける「メンバーシップ型雇用」といった表現をされていますが、「契約で仕事内容や勤務地、勤務時間などを特定して雇われる」という世界的な標準とは異なり、「雇用を保障される代わりに、働き方は会社に全て任せる」という雇用のスタイルになっています。この日本的雇用は歴史的にはメリットがありましたが、現在はうまくいかなくなっています。

なぜ、そのような日本独自の雇用慣行ができたのでしょうか。

高度経済成長期の大変な人手不足に起因しています。当時、地方から「金の卵」と呼ばれた中学卒・高校卒の人たちが、仕事が多くある大都市圏に大勢移動しました。まっさらの状態のままで連れてきますから、企業は採用後、社内でいろいろな教育・訓練を行わなくてはなりません。その後、配置転換・異動を行っていく中で、内部労働市場を通じた適材適所の実現が一つのルートとして完成しました。

また、せっかく採用した人材を同業他社に引き抜かれたり、辞められたりすると、大きな損失になります。そのため、年功賃金などによる人材の引き止め策を行う必要がありました。さらに、長期的な雇用関係になると、労働者と企業の利害が近くなり、産業別組合ではなく、企業別組合が労働条件決定の際に重要になっていきました。このような経緯によって、長期的な雇用慣行、年功賃金、企業別労働組合という日本的雇用の三つの要素が誕生したのです。

この日本的雇用には、前提条件があります。一つは前述した長期的な経済成長の下、人手不足が問題となっていたこと。もう一つは、技術進歩が労働者にとって対応できる程度のものだったことです。雇ったばかりの若い人材より、高齢者の方が熟練労働者として尊重されたので、一度雇った労働者には長期間働いて欲しいと考えたのです。

しかし、こうした前提条件が現状では満たされにくくなりました。現在、働き方の改革が議論されていますが、なかなか進まないのは、これまでの日本的雇用が一時期あまりにうまく行き過ぎたからです。成功体験があると、そこから離れるのは大変難しい。正規社員はいい働き方で、非正規社員はそうではないという議論に安易に行きがちなのも、これまでの成功体験が大きかったからです。しかし、今後は以前のような高度成長を期待できませんし、人口が減少していくので、当然、日本的雇用も変わっていきます。

■図:日本的雇用の相互依存関係

日本的雇用の相互依存関係

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