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『ビジネスガイド』提携

教育、労働条件、労働時間、セクハラ、配置転換、労使トラブル「解決失敗」事例(前編)

1.幹部研修を冒涜した社員へ社長が"喝"

1.「研修っていっても、仕事とは違うんじゃないの?」

中堅建設会社のA社は、社員数100名前後の地元では少し知られた会社です。

A社では毎年6月に、次期幹部候補生を対象として、近くの神社で2泊3日の泊り込み研修を実施していますが、これがまた強行軍で、朝5時から夜8時までスケジュールがびっしりという代物です。どちらかというと、業務研修というよりは、精神修養が目的で、社長曰く、「A社魂の成長を促す」内容となっていました。当然、このような研修ですから、研修の前に逃げ出す、研修の途中で逃げ出す、といったこともありましたが、これまでは、そのことが問題となったことはありませんでした。

「根性のないやつは、わが社に必要ない!」という社長の言葉が妙に説得力をもっているA社でした。

2.異端児登場!

営業社員のBは28歳、入社2年目で次期幹部候補生と期待されています。元来、人当たりの良いBは、顧客にも上司にもそつなく対応できる能力があり、さりとて媚びるわけでもなく、本当は何を考えているのか良くわからないところがありました。このBがA社の幹部候補生研修への参加を指示されたときから、A社が大混乱に陥ってしまったのです。

Bの上司が「B君やったな、いよいよ君もわが社の幹部候補生と認められたぞ、推薦した俺も鼻が高いよ」というと、「あんな研修に行って何になるのですかねぇ、しかも定休日を使ってですからね…。逆にやる気がなくなりますよ、営業マンは"売ってナンボ"でしょう。昔のやり方じゃ最近の若者はついてこないですよ」とBが返します。上司は思いも寄らぬ反応に言葉を失ってしまいました。

次の日、Bが社長室に呼ばれました。「せっかく幹部候補生に推薦されたのに、なんという反抗だ! 少し売上があるからといっていい気になるんじゃない!」

「解雇」までは言及されませんでしたが、「この会社にいてもいいことはないな」とBが確証するくらいの社長の言葉でした。

3. 労働組合結成の動き

どうもA社を辞める覚悟をした様子のBは、営業の途中に労働基準監督へ立ち寄り、いろいろと情報を仕入れたようです。

「営業マンにも残業手当の支払いを要求する」「研修も労働時間だ。休日に実施する場合は休日勤務手当の支払いが必要だ」「業務と直接的に関係のない研修に参加しないことを理由に処遇に差をつけることは、労働基準法違反だ」

Bは、このように書かれた紙を一般社員たちに配付し始めました。慌てた幹部社員たちが止めに入ろうとすると、「監督署の○○監督官に相談してある。ヘタに手を出すと不当労働行為で訴えるし、危害を加えたら警察にいいますよ」と言って、労働組合加入案内のビラもまき始めました。

4.「頼むから辞めてくれ…」

Bの取扱いに困った社長は、「給与を3カ月分出すから辞めてくれないか?」とBに頼み込みました。しかし、Bは「給与の半年分で妥協します」と強気です。

社長が私の事務所に相談に来たのは次の日でした。

ここまで問題が詰まっているとどうしようもありません。A社が立ち直るまでBは黙っていないでしょうし、ここはBの要求通りの金額を支払って、退職してもらったほうがよさそうです。残念ながら、後は段階的にA社が立ち直る方法を検討するしかありません。

こと"人"の問題については、先に対策を講じること、つまりリスク管理が重要であり、後手に回ると問題を収拾する手立てしか立てられないのです。

5.労使トラブルの芽は何か?

「Bが幹部候補生対象の研修になぜ参加しないのか」という理由について考える時間とBに対する弾力的な対応策の検討が必要な事件でした。会社が「良かれ」と思ってやっていることが、案外社員の不満の種になっていることも珍しくありません。

いずれにしても、最初から社長が飛び出してしまっては、トラブルシューティングがかなり困難になります。「部長がそんなことを言ったのか」などと言えるくらいの社長の余裕、いわば最終結論が先に出ないような労務管理体制が欲しいものです。

2.会社の苦境に同情した優しい社員が逆上

 1. 信頼が不信感に、そして裏切りと思うまで

「今が一番苦しいんだよ…」ビルメンテナンスを請け負うC社の社長が頭を抱えています。確かに顧客は減少し、取引単価も値下げ傾向です。以前は20名程度いた社員も、今はD社員1人で後はアルバイトが5人という状態です。Dは、C社創業以来15年の勤続で、総務経理業務を一手に引き受けており、現在の月給は25万円です。

「私にできることがあれば…」とDが社長に声をかけました。「今は総務経理もそんなに仕事がないし、できれば必要な仕事だけしてもらって、毎日来なくてもいいし、早く帰ってもいいから、当分の間は時間給で働いてもらえないだろうか。会社が良くなればすぐに月給に戻すから…」社長の言葉に、Dはついつい「いいですよ」と言ってしまいました。

2.月給25万円から時間給1,000円へ

電話の応対もあるし、次の日の仕事の段取りもある。社長が言っていたように休むこともできないし、早く帰ることもできない。次第にDはいらいらするようになりました。というのも、当分は時給1,000円の約束を社長としたものですから、以前と同じように働いていても、17万円程度の収入にしかならないからです。

ある日、Dが書類を整理していると、社長の源泉徴収簿を見つけました。Dはあっと驚きました。社長は毎月80万円、仕事をしていない社長の奥さんが毎月30万円も給料をとっていたからです。

3.「経営者は大変なんだよ」

完全に逆上したDは社長に談判しました。「また月給に戻してください。そして今までの差額分もください」社長は「君も自分の能力を認識した上で『時給1,000円でいい』と言ったんだろう。今さら前の給与をよこせと言っても無理だよ。経営者は大変なんだよ。報酬を勝手に下げることもできないから金額は前のままだけど、会社のお金が未払いになっているんだよ。だから払えない」と冷たいものです。

Dは納得しません。「それでは社長と奥様の預金通帳を見せてください」

4.ついに労働基準監督署へ

怒りの収まらないDは労働基準監督署へ出向き、泣きながらC社で受けた屈辱を話しました。監督官も困ったようですが、なんとかDを鎮め、近日中にC社社長に事情を聞くことにしました。数日後、社長が監督官からお叱りを受けたことは言うまでもありません。また、過去の時間外労働分の割増賃金の支払まで言い渡されました。

社長は「お金を払ったら、Dに辞めてもらえますか?」と監督官に尋ねたそうです。無論、相手にされませんでした。

5.今後の時間管理・社員評価

監督署への是正報告がある関係で、社長が私の事務所へ訪ねてきました。Dには払うものは払うこと(ざっと計算しただけでも80万円位になりそうでした)、そして、過去は過去として教訓とし、これからの時間管理や社員評価をどうするのかという点に絞って話を進めました。

Dは勤続年数が長いこともあって、自分勝手に居残ったり、休みに出勤してきたりということがあったようです。今回の是正勧告により、今後もこのようなことを認めてしまうと、割増賃金を支払わなければならなくなります。「冗談じゃないですよ、そんなに仕事なんかないですよ。確かに任せていることは任せていますけど…」

6.小さな会社ほど労務管理が重要

「小さな会社だから…」と逃げ口上のように言われる経営者の方がいらっしゃいますが、労務管理は会社の規模にかかわりなく同じように考え、重要な経営問題として取り組む必要があると思います。逆に小規模の会社ほど、賃金の決定や働かせ方に義理人情が浸透する割合が大きいので、注意しなければなりません。「会社が社員に対して良くしてあげていること」は、最初は感謝されても、そのうち当たり前になります。

労働契約が対等の立場で締結されるという前提を再認識し、労働の価値に応じた賃金の設定と公正な評価を行うようにしなければなりません。なぜDに25万円の給与を支払うようになったのでしょうか。勤続15年の積み重ねでしょうか。過去を否定することはできませんが、将来に向かっての改善は可能です。

3.アルバイトも変形労働時間制?

1.「変形労働時間制」とは

「わが社の場合は、1週間40時間として1カ月の所定労働時間を決定し、その時間を超えたものを時間外労働としている。要するに、1カ月単位の変形労働時間制なんだよ」E社でアルバイトをすることになったF君は、最初にこのような説明を受けました。

E社は運送業で、F君は引越しサービス部の配属です。日によっては早朝から深夜まで1日3回も引越しをする場合がありますが、残業手当はまったく支払われません。なぜなら、F君は学校の関係で土日に勤務することがほとんどであるため、どう働いても、1カ月の総労働時間が170時間を超えることがないからです。「こんなに働いているのにどの時間帯も同じ給料なのかなぁ…」という疑問がたまに湧いてきますが、それほど気にすることはありませんでした。

2. 深夜勤務手当

「今月は夜勤を頑張ったから、結構稼いだよ」ガソリンスタンドで働くF君の友人が得意そうに話します。「夜10時以降は、2割5分増し。それまでに8時間以上働いていると、5割増の時給になるんだよ」F君は「ホントか? うちの運送屋は変形なんとかと言って、時間給は変わらないよ、うらやましいなぁ」友人は「でも、同じアルバイトなのに変だね。明日教授に相談してみようか」ということになりました。

3.変形労働時間制の目的

「本来、変形労働時間制は労働時間短縮を目的とした制度であって、フルタイム働かない労働者に適用されるものではない」というのが大学の教授から得た答えでした。

その週の勤務日の休憩時間に同僚や先輩にその話をすると、「そうなのか、そう言われると確かにおかしいよね」という意見がほとんどでした。しかし、問題は誰がそのことを会社に言うのか、ということです。いろいろと検討した結果、労働基準監督署に匿名の電話を入れることにしました。

4. 労働基準監督署の調査

「労働時間に関する調査」という通知がE社に届いたのは、それから1カ月以上経過した日のことでした。E社の社長をはじめ、幹部たちは「どういった内容の調査だろうか」「なぜ、当社が当たったのか」などと言って落ち着きがなくなりました。どちらかというと、(1)正社員に対する時間外労働に対して単価を基本給だけにしている、(2)振替休日制をとっているが振替休日が累積している、という点が気になっていました。驚くことに、アルバイトに対する変形労働時間制は合法的と思っていたようです。

調査当日は、様々な言い訳を駆使しましたが、恐れていた通り単価の算出不適正、休日勤務手当の不払い、さらにアルバイト等に対する時間外手当、深夜労働手当の不払い、過重労働に対する配慮義務不履行など、是正勧告、指導事項がなんと6枚の書類にも及ぶ始末となってしまいました。

5.犯人探しの結果…

「監督官は言わなかったけど誰かが密告したんじゃないか?」という疑いが幹部たちをいらいらさせました。犯人探しを行った結果、アルバイトが9名、社員が5名退職するという事態になりました。

「犯人は辞めないで金をもらうのを待っているかも…」という疑いまで幹部が持つようになったことを見かねた社長が、「もう、これだけの人が辞めてしまったのだから、余計なことはするな」と言い、少なくない金額の賃金支払と今後の対応について専門家を探すように指示しました。

6.コンプライアンスに近づく

直ちに法適正とはいかないまでも、現状から徐々に法に近づく方法はあります。「何もしない、何もできない」ではなく、「目標はここまで、今はこの段階まで進めている」といった企業姿勢には、監督官も好印象を受けるものです。もっとも法律違反は事実ですが、是正勧告を指導事項のレベルに下げてもらうことは可能かもしれません。

調査が終わった後では身動きできないことでも、調査の前段階であれば、今後の方向性を探って、その対策を立てておくことができます。E社が調査前に相談してくれれば、これほどの痛手は受けていなかったでしょう。

4.多くの社員にとっては「潤滑油」なのに…

1. 円満な職場こそ仲間同士の配慮が必要

どんな世界でも人気者はいるでしょう。他の人なら"カチン"とくることでも、他の人なら"いやらしい"と思うことでも、この人ならなんとなく許容してしまう…。しかし、これが職場だったらどうでしょうか。今まで全員に許容されていた人が、1人の新人には容れられなかったとき、それはその職場の悲劇の始まりです。

「仲の良い職場こそ普段から注意すべきだった」という嫌な事件です。仲の良い職場の同僚であっても、職場だからこそ一定の距離感を持つことが必要なのかもしれません。

2. いつも明るい人気者

婦人服の卸問屋であるG社は、社員10名(男性3名 女性7名)、契約社員5名(女性5名)の会社です。社長は42歳、社員の平均年齢も28歳と若く、クラブ活動的なノリで仕事をしています。中でも昨年入社した24歳のHは、顔は二枚目、行動は三枚目でいつも明るく、冗談を言ってはみんなを笑わせています。ときどき仕事上の失敗がありますが、そんな性格なので、失敗しても必ず誰かがカバーしてくれるという状況でした。

「おやっ、今日のスカートはほどよく短くて決まってますね!」「あれっ、昨日はデートでした?」など、どこかの部長さんが発すると"セクハラ"的な発言も、周囲には普通の会話だと思われていました。

3.新入社員登場

そんなG社に、関連会社からの紹介で、I社員が入社することになりました。Iは女子大を卒業後、大手の服飾関係会社に2年間勤務、その後G社の関連会社に勤めることになったのですが、その会社の上司と折り合いが悪く、G社に移籍することになったという経緯がありました。

Iはアシスタントデザイナーですので、営業のHとの連携が必要です。ある日「ゴメン、うっかりしてた。○○社への納品が来週だったよ。Iちゃん美人だからできるよね。いざとなればその笑顔で○○部長もイチコロだよ」とやってしまいました。

Iは「ふざけないでよ! あなたの発言はセクハラよ!」と返したものですから、職場が凍りついたようになってしまいました。Iは社長に「Hさんを注意してください。この会社はセクハラを放置するのですか?」と掛け合いました。周りの女性社員がIをなだめ、その場はなんとか収拾しました。

4. 困った社長

社長は「困ったなぁ…」を連発しています。Hも元気がありません。社長の「ここはみんなで飲みに行くか」という提案までは良かったのですが、HがまたまたIを怒らせてしまいました。詳細は聞いていないのですが、他の社員も「気にするようなことではない」という程度だったようです。

飲み会の翌日、Iが会社を休み、労働局の男女雇用機会均等室に相談に行ったようです。すぐさま社長宛に電話があり、事情聴取となりました。

5.セクハラに対する使用者の責任

セクハラの定義やセクハラを防止する責任、セクハラ発生後の処置等について、1時間以上均等室で説明を受けた社長はかなり疲れていました。さらにHに対する処置を含めた是正報告書を提出しなければならなくなり、気が重くなる一方です。本心としては、Iに辞めてもらいたいという気持ちでした。まさに、会社全体が見えない力で押さえつけられているような感じだったそうです。

これまでHは、G社の中で潤滑油のような役割を果たしていました。仕事が厳しいときもHがいるとその場が和み、ムードメーカーとしての存在感は絶大でした。そんなHを処罰して、協調性のないと思われるIにHに対する処罰を(均等室を通じて)報告するなど、考えたくもない、社長自身の考えもまったくまとまらないところまで追い詰められてしまいました。

6.人を育て、活かす

G社の社長と私は個人的に親しいこともあって、酒を飲みながらの相談となりました。

人がその環境の中で自然に育てば、経営者に苦労はありません。人を活かすことを考えるならば、その人の持ち味に最もあった仕事をさせることが最良でしょう。その職場のすべての人が、それぞれの感性のみで永遠に仲良くいられることは、可能性としては少ないと思います。そうであるならば、一定のルールをみんなが守ることで、職場の秩序を守ることのほうが確実です。

人によって受け止め方の大きく異なるセクハラの問題はルールの策定ひとつにかかっています。ルールがあることで、個々の社員の持ち味を壊すことにはなりません。社長を含め、会社全員で「職場に不要な言動」を考えてみましょう。

5.「パソコンが得意」なはずなのに…

1.パソコンできる?できない?

先月J社に入社した45歳のK社員は、「パソコンが得意」という触れ込みで総務部門への採用が決定しました。ところが、仕事をやらせてみると、他の社員よりも能率が悪く、ソフトウェアの機能もあまり使ったことがないようです。「この程度じゃ総務の仕事が停滞するな」と上司の部長が言うと「家でも練習していますので、もう少し時間をください、一生懸命やりますから…」という返答の繰り返しで、一向に上達の兆しがみえません。

次第にパソコンだけでなく、他の問題も発生してきました。時折何かを考え込むようなときがあったり、仕事を教えても次の日には、最初から説明を求めたりすることがありました。「性格的にも暗いし、辞めさせるか」と社長が言うと、「ヘタに辞めさせると、何か問題を起こしそうですし、素直に辞めるとも思えません」と部長が苦虫を噛み潰したような顔で返します。

2.解雇は最後の手段

まずは教育訓練から段階的に始めることを考えた部長は、社員用の訓練プログラムを作成しました。30分単位で月間、週間、1日の予定を入れたものです。

「私だけがこのプログラム通りにやるのですか。いじめですか?」とKに質問されると、「君の能力向上を図るためだよ」と苦し紛れの答えを返します。Kがプログラム通りに仕事ができれば、正社員として雇用することを伝えると、「できなければ解雇ですか?」と嫌な返事を返すKでした。

採用から1カ月半が過ぎましたが、Kはなかなかプログラム通りに仕事が進みません。次第に残業も多くなってきました。「のろのろやって残業するやつに給料払っていたら会社がつぶれるよ」という部長を恨めしく見ながら、その後もKはそれなりに頑張っていました。

3.配置転換

Kの試用期間満了日が近づいてきました。部長が「事務職としての適性がないから、来月からは営業で頑張ってみろ」とKに言うと「私は総務で採用されたのですよ。営業なんて話は聞いていません。これは退職勧奨ですか?」と噛み付いてきます。部長は、(1)この3カ月間で事務職の適性がないこと、(2)プログラムの進捗状況、(3)就業規則に配置転換の規定があることを細かく説明しました。

Kはしぶしぶ承諾しましたが、「絶対に会社は辞めません」と言って帰宅しました。残された部長は、これからどうするか、と考えはじめました。

4. 教育する社員のモチベーション

営業部に配転されたKは、先輩社員のLについて仕事を覚えることになりました。Lは先輩といっても1年前に入社したばかりで、営業成績もさほど良くありません。

実は、このような体制をとったのは、部長の画策でした。「できないやつは、できないやつ同士で仲良くやればいいよ。そして2人とも辞めてしまえばいいんだ」

確かに、人にものを教えることは、気も遣いますし、時間もとられます。ヘタをすると自分の仕事が進まないこともあり得ます。「仕事ができる社員に新人の教育担当を命じたら辞められた」という話もよく聞きます。大事なことは、教育される側よりも、教育する社員のモチベーションが低下しないような配慮が必要だということです。

(1)教育を命じられた社員が余裕をもって自己の業務も遂行できること、(2)教育していることが評価に結びつくこと、(3)教育中に随時相談できる窓口があることなどがそのポイントとなるでしょう。部長もこのようなことを考えていたようです。

さて、部長の思惑が的中したように、K・L両社員は精彩を欠いています。外出することがほとんどですが、社内にいるときも2人でこそこそ話をしています。

5. 私はこうして辞めさせられる

ある日のミーティングでとんでもない事件が発生しました。

Lの手が挙がり、指名されると、「自分とKさんが陰湿な方法で退職に追い込まれている」という内容の話をとつとつと話し始めました。話を聞いていた社員たちは、ニヤニヤ笑う者、眉をひそめる者、社長や部長を観察する者、同情するような顔をする者など反応が様々でした。

「被害妄想は誰にでもある。L君が話したことはこのような会議で話すことではなく、相談があれば私や社長に直接話しなさい。全員の時間が無駄になる。仕事を教えているのに辞めさせられるなんてとんでもない話だ」と部長がまとめ、その日のミーティングは終了しました。 

6.事態の収拾に向けて

社長と専務から私に相談があったのはそれから2日後のことです。Lの発言後、会社内の雰囲気が変わったということでした。部長の気持ちを理解しながらも、今回のK・Lへの処置は、行き過ぎた感があることを説明し、間違った労務管理手法だと説明しました。

人間ですから、特定の個人に対してイライラすることもあるでしょうし、時に排除したくなる気持ちが発生することもわかります。しかし、この感情をそのまま個人にぶつけることは、問題を引き起こすために自らが引き金を引いていることと同じです。その人だけにではなく、誰にでも同じ課題を設け、その課題について公平に評価することが労務管理の大原則です。

試用期間中の目標、レビュー項目・期間の設定と人事考課の見直しを含めて再検討する。そして、これらのことを社員に説明できることが、本件で発生した会社に対する不信感を払拭することになるだろうと思います。

K・Lについては、他の社員と同じように接し、労務管理を行うことが必要です。その結果、評価が客観的なものであり、度重なる指導にも効果が得られないのであれば、解雇もやむなしということになろうかと思います。

日本法令発行の『ビジネスガイド』は、1965年5月創刊の人事・労務を中心とした実務雑誌です。労働・社会保険、労働法などの法改正情報をいち早く提供、また人事・賃金制度、最新労働裁判例やADR、公的年金・企業年金、税務、登記などの潮流や実務上の問題点についても最新かつ正確な情報をもとに解説しています。ここでは、同誌の許可を得て、同誌2005年8月号の記事(全2回)「労使トラブル『解決失敗』事例」(前編)を掲載します。『ビジネスガイド』の詳細は[[日本法令ホームページ http://www.horei.co.jp/へ。

【執筆者略歴】
●岩城 猪一郎(いわき・いいちろう)
熊本県生まれ。専修大学商経学部卒業。社会保険労務士法人岩城労務管理事務所代表社員。全国SRアップ21理事長。全国社会保険労務士会連合会前常任理事他、多くの役職を歴任。執筆、講師を精力的に行い、昨年開発した「社内インディ制度(ビジネスモデル特許出願済)」の普及推進にも取り組んでいる。著書に『労災保険の話と実務』『届出書類から労務管理が見える!(共著)』(以上、日本法令刊)などがある。


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