株式会社クレディセゾン:
がんとともに生きていく時代
社員が治療と仕事を両立するために人事ができることとは(後編)[前編を読む]
株式会社クレディセゾン 取締役 営業推進事業部長 兼 戦略人事部 キャリア開発室長 武田 雅子さん
36歳の時に乳がんと診断され、手術を受けた後、職場に復帰した経験の持ち主である、株式会社クレディセゾン取締役の武田雅子さん。前編では、ご自身の経験から、がんと診断された社員の心理や、それを受け入れる上司や同僚、人事の役割についてうかがいました。後編では、「お互いさま」の精神で支え合うクレディセゾンの風土がどのように作られてきたのか、また、「がんがダイバーシティを教えてくれた」という武田さんの真意について、詳しいお話をうかがいました。
武田 雅子さん
株式会社クレディセゾン 取締役 営業推進事業部長 兼 戦略人事部 キャリア開発室長
たけだ・まさこ●1989年クレディセゾン入社。セゾンカウンターに配属後、全国5拠点にてショップマスターを経験。2002年営業推進部業務統括課、2003年営業計画部トレーニング課と人事部人材開発課にて課長職。2008年女性初の人事部長を経て2014年より現職。また、「一般社団法人CSRプロジェクト」の理事として、講演やカウンセリングなどにも取り組んでいる。
復職した社員といかにコミュニケーションをとるのか
がん患者となった社員を受け入れる側は、どのようなサポート体制を築いていくべきなのでしょうか。
私が廊下を歩いているときに、社員から「話したいことがあるんです」と呼び止められることがあると、たいていは「実はがんにかかってしまって……」という話なんです。そういうときはできればオフィスを出て、カフェなどで話を聞くようにしているんですが、社内に話せる人がいるのはとてもいいことだと思います。がんにかかった人の上司から「ちょっと話を聞いてやってくれないか」と頼まれることもあります。
私自身、社外でもがんサバイバーの就労を支援する「CSRプロジェクト」の理事として相談を受けることがあるのですが、何かしら気持ちや不安を打ち明けられるような場があるといいと思います。ただ、職場でどれくらいの人に打ち明けるのかは、本人の意思や業務上の配慮が欲しいかどうかによります。必要以上に伝えたところで、無駄にかわいそうだと思われる可能性もあるので、無理に知らしめることはありません。配慮してもらうのであれば、がんと言わずに、「婦人科の病気で……」などとぼやかすこともできますし。
結局、普段から気軽になんでも相談できる関係性を築いておくことが大事なんですね。人事制度がどうこうというより、最後は職場のローカルな運用や配慮が重要です。どんなに手厚くルールを作るよりも、同僚のちょっとした気遣いや、「隣の席の〇〇さん」の気持ちひとつだったりする。制度の実績があることと日常の思いやり、その両軸がきちんと回っていることが大切です。実は人事ができることは少ないんですよ。毎日顔を合わせている人がどう配慮しているか、お互いに言いたいことが言えているかどうかが重要です。
普段からの関係性が、イレギュラーな状況を克服する糧になるんですね。
はい。また、がんを治療した社員側でいうと、職場に戻った後は、あせらずにしっかりファクトを積み上げていくことが重要です。周囲に理解してもらうには時間がかかるからです。
私も職場に戻ってきたとき、周囲となんとなく距離を感じました。「あぁ、武田さん、がんから復帰したんだ……」となんとなくあわれみの目で見られているようで。「まるで私、転勤してきた人みたいだな」と思いましたね。もう一度実績を積み重ねて、一から関係性を築いていくことが必要だと感じました。「これくらいできるから、大丈夫」と言葉で示すのではなく、着実に仕事で見せていく。いくらアピールしても周りは不安でしょうから、自分でも割り切って、無理しないようにできることから始めました。すると、不思議に同僚もわかってくれるんですよね。何も言わなくても「武田さん今、頭痛いでしょう? 無理しないでくださいね」と声をかけてくれたりしました。それだけで少し気持ちが楽になるんです。みんながそれぞれ少しずつ、きちんと見てくれていて、心配りしてくれるような雰囲気が大事です。