職場のモヤモヤ解決図鑑【第31回】
どんな研修を受けるべきか悩む部下に、上司ができる研修選びのサポート
自分のことだけ集中したくても、そうはいかないのが社会人。昔思い描いていた理想の社会人像より、ずいぶんあくせくしてない? 働き方や人間関係に悩む皆さまに、問題解決のヒントをお送りします!
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山下 健悟(やました けんご)
関東圏のメーカー課長職45歳。20人ほど部下がいる。部下がもっと働きやすく、活躍できるチームを目指し、試行錯誤の日々。
社員が講座を選べるカフェテリア式研修の案内を受けて、大林さんはどんな講座を受けたらいいのか頭をひねっています。カフェテリア式研修は、個々人のニーズに合わせて選択できる自由度がメリットですが、その分悩んでしまう社員も出てきます。大林さんは、研修よりも業務を優先したいようです。管理職の山下さんと一緒に、研修を受ける意味と、仕事やキャリアに即した研修内容を選ぶポイントを考えてみましょう
忙しいのに研修は必要?
現場と研修で学べることはどう違うの?
「研修を受ける時間がもったいない」
「研修よりも、目の前の仕事を優先したい」
研修に向かう部下が、こんな不満を発していると感じたことのある管理職は少なくないでしょう。しかし、研修は今の仕事に必要なスキルを体系的に身に着けられるだけでなく、新たな分野について学び、成長するきっかけとなるもの。実務から学ぶOJTと、座学であるOFF-JTを組み合わせた学びが重要です。
実践的に即したスキルが身に着くOJT
OJTとは、実務を通じた研修を指します。配属後、先輩から直接指導を受ける機会がこれにあたります。現場ですぐに必要となるスキルを身につけられる一方で、指導員によって教え方に差が出たり、習得できる知識やスキルが偏ったりするデメリットがあります。
体系的な学びや実務に直接関連しない知識を学べるOFF-JT
OFF-JTは、職場を離れて行う研修を指します。集合研修やeラーニングがこれにあたります。OFF-JTの良いところは、専門性の高い内容を体系的に学べること。また、教え方や知識レベルが一定に担保されています。
しかし、受講する本人が実務との関連性を見出せなかったり、現場でうまく生かせなかったりすると、「研修が無駄だった」と感じてしまうこともあるので、注意が必要です。
- 【参考】
- OJT|日本の人事部
研修は成長するきっかけをつくってくれる
研修とは、実務だけでは習得できない知識に触れ、個人の成長を促すきっかけとなるものです。たとえばトヨタ自動車では、過去には熟練工がOJTで技術を指導する形式が一般的でした。しかし自動車業界にAIやIoTといった新しい流れが生まれ、社内にプロフェッショナルがいない領域での知見が必要になったことから、「教え、教えられる」から「自ら学び、教える」に研修方針を転換。従業員の学びを促すプラットフォームを用意し、年次や部署に関わらず自由に学べる機会を提供しています。
「研修が意味ない」と思われているのはなぜ?
「研修が役立った」と部下が実感するには、学びを活用する機会が欠かせません。研修で学んだ内容を現場で活用する機会がない、研修に参加しても報告書を提出して終わりといった「形だけの研修」になっているなら、部下は研修にメリットを感じないでしょう。
研修選びで部下に示したい二つの視点
では、研修選びに悩んでいる部下には、どのような視点でアドバイスをすればいいのでしょうか。
【視点①】
実務でのスキルアップ
―弱みや課題と、研修を組み合わせる
一つは、「実務でのスキルアップ」。担当している業務の課題や、自身の弱みを克服できる内容を選ぶ方法です。
目標設定面談や評価面談などの機会は、部下の抱える課題と今後の期待をすり合わせる絶好のチャンスです。「今後はこういった仕事をするから、新たに〇〇のスキルが必要」と、期待感や今後の役割と合わせて研修を案内することも、部下のやる気を引き出すきっかけとなります。
【視点②】
キャリア開発
―部下が将来やりたいことと、研修を組み合わせる
もう一つは「キャリア開発」という視点です。将来的なキャリアの展望に合わせた研修も、部下が意欲的に学びたいと思うきっかけとなります。たとえ今の実務に必要のないスキルだったとしても、3年後、5年後の部下のキャリアに役立つかもしれません。
キャリアのロールモデルを伝えることも、マネジメントの一つです。キャリア面談などを利用し、部下が作成したキャリアプランに合わせて、「その仕事をするには、どんなスキルが必要でしょうか」などと深掘りしてみるといいでしょう。
- 【参考】
- キャリア開発|日本の人事部
多様なコンテンツのeラーニングを実施しているニトリホールディングスでは、動画や社内広報誌を活用した会社側からの情報発信も行っています。こうした情報発信は、日々の仕事に追われていると見過ごしてしまうもの。社内イントラやチームへの一斉メールなどで、上司から小まめにリマインドするのも、一定の効果があります。
部下のなりたい理想像に導く
かつては全社員に同じ内容の研修をする企業が多かったのですが、近年は、研修の自由度が増しています。ライオンでは所属する部署や実務で必要とされる分野以外の知見を組み合わせて、自由に学べるスタイルが登場しています。
こうした研修スタイルは、もとから意欲的な従業員には好意的に受け止められる一方で、「何を選んだらいいかわからない」と迷ってしまう人も一定数います。「なりたい姿」をヒアリングしたり、評価面談で上がった課題に対して適切な研修を案内したりするなど、広い視野を持って助け舟を出すことが上司には求められます。
【まとめ】
- OJTは実務では得られない学びで成長するきっかけになる
- 部下の課題や今後の期待をすり合わせ、研修選びにつなげる
- 部下のやりたいことやなりたいものなど、キャリアの視点も研修へのモチベーションにつながる
後編では、研修内容を実務に生かせるよう、上司のフォローについて紹介します。
自分のことだけ集中したくても、そうはいかないのが社会人。働き方や人間関係に悩む皆さまに、問題解決のヒントをお送りします!