職場のモヤモヤ解決図鑑
【第18回】シニア社員のモチベーション低下は、どうしたら解決できる?[前編を読む]
自分のことだけ集中したくても、そうはいかないのが社会人。昔思い描いていた理想の社会人像より、ずいぶんあくせくしてない? 働き方や人間関係に悩む皆さまに、問題解決のヒントをお送りします!
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吉田 りな(よしだ りな)
食品系の会社に勤める人事2年目の24才。主に経理・労務を担当。最近は担当を越えて人事の色々な仕事に興味が出てきた。仲間思いでたまに熱血!
定年後の就業制度を準備する吉田さん。社員との会話から、定年後に働くモチベーションを維持することに課題があると気づきます。働く理由も状況も人それぞれ。シニア世代にパフォーマンスを発揮してもらうために、人事はどんな取り組みを行えばいいのでしょうか。
シニア世代の「躍進」に必要な五つの行動特性
シニア世代は、若手社員とは異なる「モチベーション低下」に直面します。役職定年や定年再雇用の後は、自らの強みを生かせるポストにつけるとは限りません。また、今以上の昇進・昇給も、簡単にはできないでしょう。このような状況から、仕事のやりがいや意義を見つけられず、気持ちが停滞していきます。
立教大学 経営学部 助教の田中聡さんは、ミドル・シニア世代がいきいきと働き続けるには、次の五つの行動特性が必要だとしています。
ミドル・シニア世代がいきいきと働き続けるための五つの行動特性
1. 仕事を意味づける | 自分にとってのやりがいや社会的意義という観点から仕事の意味を捉え直すこと |
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2. まずやってみる | 失敗を恐れずに、新しい仕事や役割に積極的にチャレンジしようとすること |
3. 学びを活かす | 仕事経験を振り返り、そこで得た教訓を自論化して次の場面でも適応しようとすること。行動しっぱなしにせず、経験からの学びを振り返る |
4. 自ら人と関わる | 関わる人の範囲を限定せず、積極的に多様な人と関わり、異なる主張や意見を引き出す役割を果たすこと |
5. 年下とうまくやる | 年下の仕事相手とも年齢差を気にすることなく、対等なパートナーとして仕事を進めようとすること |
参照:労働力不足を乗り越え、人材の活性化を実現「ミドル・シニアの躍進」を実現するために人事が行うべきこととは
シニア世代は経験があるからこそ、若手のような怖いもの知らずのチャレンジが難しくなります。しなやかにキャリアを続けるには、経験から得た学びを抽象化・持論化して現場に適用する応用力や、環境に合わせて変化する対応力が求められるのです。
立教大学 経営学部 助教の田中聡さんのインタビューはこちら
労働力不足を乗り越え、人材の活性化を実現
「ミドル・シニアの躍進」を実現するために人事が行うべきこととは
人事ができるシニア世代活性化の施策
シニア世代を活性化させるために人事ができる取り組みとして、社員に自身のキャリアを考えてもらうための機会づくりや、彼らを部下に持つ「年下上司」へのマネジャー教育などが挙げられます。
シニア社員とのキャリア面談の実施
「モチベーションが低下している」と言われがちなシニア社員に向き合い、改善行動を促す施策に、キャリア面談があります。たとえば、NTTコミュニケーションズでは、人事が3年間でのべ1000人もの社員と「キャリア面談」を行い、50代社員のモチベーション向上にチャレンジしました。
面談の対象となる社員は、まずキャリアデザイン研修を受講。これをきっかけに「今後のキャリアビジョン」を真剣に考えてもらいます。面談では本人の理想のキャリアを聞き、実現するための短期目標を決めます。人事は、面談後も社員をフォロー。一緒に決めた目標に向けて行動しているかどうかを見守ります。また、本人の直属上司にも面談内容を共有し、「どのように接するといいか」をアドバイス。現場をきちんと巻き込んで、シニア社員の活性化に取り組んでいます。
NTTコミュニケーションズのインタビューはこちら
きっかけを与え、フォローし続ける。
ベテラン社員の活性化に近道はない
一人で1000人と面談した人事マネジャーの挑戦
年上の部下をマネジメントするためのマネジャー教育の整備
シニア世代のモチベーションには、研修・面談や、評価制度の整備といった人事からの働きかけだけではなく、直接の上司からのマネジメントがパフォーマンスを左右します。
シニア世代の上司の多くは、彼らより年下です。上司の中には、年上の社員のマネジメントに戸惑う人も少なくありません。年下上司が他の世代と同じようにシニア世代に接し、適切なマネジメントを行えるよう支援するのは、人事が取り組める施策の一つです。
20代・30代の若手層へのキャリア研修の提供
キャリア自律を促すという観点では、シニア世代だけでなく、20代・30代の若手層への働きかけも必要です。彼らがシニア世代になったとき、どのような現実に直面するかを伝えることで、キャリアを会社任せにせず、「自分がどう働きたいか」を考えるキャリアのオーナーシップの意識を育みます。
シニア世代を活かす企業の取り組み事例
ここからは、実際に企業が行っている、シニア世代の活性化施策事例を紹介します。
サトーホールディングス「あなたと決める定年制」
サトーホールディングスは、役職定年をきっかけにした社員のモチベーション低下に悩まされていました。役職定年後によって、仕事内容は変わらないまま賃金が下がり、社員が「引退モード」になってしまったのです。そこで、「年齢に関係なく、やる気があればいつまででも働ける」ことを最終目標に制度を見直しました。65歳以降の雇用更新制度として「あなたと決める定年制」を導入し、役職定年を56歳から60歳へと引き上げました。
これにより、社員の意識が「まずは60歳まで走り切ろう」という方向に変わりました。60歳以降は役割を大きく変えて給与を減額する、または役職を継続して減額もしないという新たな選択肢を設けました。
ソニー「キャリア・カンバス・プログラム」
ソニーでは、「自律」をキーワードにしたキャリア支援施策「キャリア・カンバス・プログラム」を展開しています。社員が主体的に自分のキャリアを広げ、100年の人生を楽しく生きるライフプランを構築することが狙いです。
「キャリア・カンバス・プログラム」には、「新しい分野への挑戦を促す」「キャリア形成を支援する」を軸に、複数の施策が盛り込まれています。例えば、新たな分野への挑戦をサポートする「キャリアプラス」では、業務時間の2~3割を利用して、他部署の仕事を兼務できます。シニア社員が、若手社員のアイディアを具現化するサポートをしたり、全社プロジェクトの運営に手を挙げたりするなど、得意分野を生かし、挑戦したい人とプロジェクトをマッチングさせるために機能しており、シニア世代が新しい一歩を踏み出すきっかけとなっています。
サントリー「お節介おじさん・おばさん」
定年をいち早く60歳から65歳に引き上げ、2020年4⽉には70歳までの再雇用制度を導入したサントリーでは、「隣のおせっかいおじさん・おばさん(TOO)」がシニア世代の多様なキャリアを構築する有力候補となっています。
TOOは、会社公認の「職場の相談相手」。人望厚く人助けが好きなシニア社員から人事部が指名。TOOになった社員は、若手社員や異動者と定期的に面談を行い、仕事や人間関係の悩みを聞きます。コロナ禍での在宅勤務では、若手社員だけでなくテレワークで孤独を感じる中高年にも電話やオンラインで元気づけるなど、職場のコミュニケーションの課題に対応。もともと愛社精神が強く離職率が低い同社での、シニア世代が活躍できる受け皿となっています。
参考:
2021年2月15日 日本経済新聞 電子版
サントリー「お節介おじさん・おばさん」、職場救う
【まとめ】
- シニア社員が活躍するには、学習能力や適応力を身に着けることが求められる
- キャリア研修や面談で、シニア社員が自らキャリアを考えるきっかけをつくる
- 年下上司や若手社員への働きかけも、シニア世代の活性化につながる
社労士監修のもと、2025年の高齢者雇用にまつわる法改正の内容と実務対応をわかりやすく解説。加えて、高年齢者雇用では欠かせないシニアのキャリア支援について、法政大学教授の田中研之輔氏に聞きました。
【2025年問題】 高年齢雇用に関連する法改正を解説! 人事・労務担当が準備すべきことは?│無料ダウンロード - 『日本の人事部』
自分のことだけ集中したくても、そうはいかないのが社会人。働き方や人間関係に悩む皆さまに、問題解決のヒントをお送りします!