―― まず、貴社が50代社員のモチベーション向上に取り組まれた背景からお聞かせください。
一般的に、「ベテラン社員はモチベーションが低下しがちだ」というイメージがあります。しかし以前から私は、本当にそうなのか、疑問を感じていました。当社ではES調査を実施していますが、ベテラン社員のモチベーションが下がっているのかどうかまではわからない。しかし、実際に下がっているのなら、経営課題として取り組まなくてはいけません。それを確かめるために、直接50代社員の声を聞いてみる必要性を、個人的に強く感じていました。
そんなときに後押しをしてくれたのが、当時の副社長でした。「自社のベテラン社員のモチベーションは、きっと下がっていないはずだ」と考えていたのです。そんな風に社員を育ててきたつもりはない、という自負もあったのでしょう。「世間で言われているように、わが社のベテラン社員もモチベーションが下がっているのかどうか、調べて教えてほしい」という副社長の言葉を受け、実際に面談を行うことになりました。
実施にあたって、副社長から一つの条件が提示されました。「社員のモチベーションの状況を見極めるには、ある一定の物差しが必要だ。複数の人間が面談を行うと、その物差しがぶれてしまう。面談は、浅井一人で行ってほしい」と。こうして私は、ベテラン社員たちとの面談に取り組むようになったのです。
―― 面談を実施する前に、キャリアデザイン研修を行うそうですね。まずは、キャリアデザイン研修の概要からお聞かせいただけますか。
キャリアデザイン研修は、あくまでも面談を補完するためのものです。面談では、将来自分がこうなりたいというビジョンを聞き、それを実現するために必要で短期的な目標を設定します。しかし、それらをいきなり面談の場で聞いても、社員はなかなか答えられません。そこで、面談の前に考える時間を設けられるよう、キャリアデザイン研修を丸一日かけて受けてもらうことにしています。
研修は、大きく四つのプログラムに分かれます。まず、モチベーションの高い主人公と低い主人公が登場する、オリジナルのドラマを視聴してもらいます。自分を主人公たちに当てはめることで、自身を客観視する機会をつくってもらうことが目的です。次に、HR部長が登場し、社員たちにメッセージを送ります。当社の経営状況や人事課題をふまえた上で、人事のトップ自らが50歳以上の社員の必要性や重要性を語るのです。ベテラン社員たちへの期待を伝えることが目的です。
続いて、自分自身のキャリアを振り返ってもらいます。参加者はまず、10年ごとのベストジョブを考えます。それをもとにして、ほかの参加者と一緒に自己の強みや弱みを話し合います。その上で、会社としての将来ビジョンや社会の動向もふまえながら、自分たちの仕事が今後どうなるかを予想します。
そして研修の最後に、社員に向けて「今後のキャリアビジョンをどうしていくのか」という問いを投げかけます。面談までにしっかりと考えてもらえるように、最後に宿題を出すのです。
―― では、面談はどのように行われているのでしょうか。
面談は、一人30分から、長い場合は5時間におよぶこともあります。もちろん、一度に5時間かけるわけではなく、「この社員にはもっと面談が必要だ」と感じた場合や、本人が「もう一度面談してほしい」と希望した場合に、再度、機会を設けるようにしています。モチベーションが高く、目標もしっかり定まっている社員であれば、10分程度で面談を終えることもあります。面談時間は一応決めていますが、ゴールはその人が変わるきっかけをつかめたかどうか。人によって、時間が異なるのも当然です。
終了後は、面談の所感をまとめ、対象者の上司と所属部門の人事担当に渡しています。「その社員にどう接すればいいのか」といったアドバイスが多いですね。
また、面談後のフォローも重要です。面談で決めた目標を実現するために行動しているかどうかを、確認するのです。例えば「来週から英会話学習を始める」と言っていた社員が実際に始めているのかどうか、電話やメールで確認しています。
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